欲を食らわば墓まで
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
十月某日。オレ達一年生は鎌倉に遠足へやってきた。
「まさか本当に隆也と同じ班になれるなんて。幸運だよ」
鶴岡八幡宮に向かって歩きながら、名前は柔らかな表情でオレに話しかけてくる。あれからくじ引きで名前と同じ班になり、オレ達は一緒の時間を過ごすことになった。もっと正確に言えば、オレと花井と水谷、名前とその他の女子二人だが。
「オレも名前と一緒で良かった」
「えっ」
大きく頷いていると、隣を歩く花井と水谷が大きな声を上げた。どうかしたんだろうか。オレと名前で首を傾げていると、水谷は珍しい物を見るような目を向けてきた。
「阿部と苗字さんって、名前で呼び合う程仲が良かったの?」
「まあな。こいつとオレは友達だから」
「そう。私の唯一の友だちだよ」
オレは名前の唯一の友達。その揺るぎない事実が独占欲を心地よく満たしていく。
「そうなんだ……意外な組み合わせだからびっくりした」
「そういえば二人は席が隣同士なんだっけか?」
「おう」
そんなことを話していると、同じ班になった女子の一人が名前の元に駆け寄ってきた。
「ねえ、苗字さん。良かったら連絡先の交換しない?」
「そうだね。はぐれた時のためにも……はいトークアプリのQRコード」
女子三人が立ち止まり、歩いている男子と綺麗に分かれた。ここからは女子が何を話しているかは分からない。それを確認したオレは、小声で花井と水谷にある話をすることにした。
「あのさ。自由時間になったら、名前と二人きりにさせてくれねえか?」
「え、いいけど……」
「なあ、阿部ってもしかして、さ」
「ああ。オレ、あいつのことが好きなんだ」
オレが堂々と宣言すると、二人は顏を赤くして口をあんぐりと開けた。
「ウソ、あの阿部が?」
「いや、え?苗字さんだよ?勝算あるの?」
「アホ。あんま見てると感付かれるだろ」
名前の方を気にしている水谷を肘で小突くと、慌ててオレの方を向いて眉を下げた。確かに傍から見たら、あいつは堅物に映るだろう。実際、恋愛感情については全く分からないと言っていたし。
「今はまだ告白しようなんて気はねえよ。それでも出来るだけ、名前と一緒に居たいんだ」
率直な思いを伝えると、花井と水谷は顏を見合わせてから大きく頷いた。
「分かった。二人きりにさせるよ」
「この石段は六十一段あるんだけど、今何段目を歩いているかは分かる?」
「うわっ!?びっくりした……苗字さんか」
「ンなこと知らねえよ」
「正解は四十八段目だよ」
「数えてたの?」
「ウソだな」
「うん。適当だよ」
クスクスと笑いながら歩く名前に、花井と水谷は呆気に取られている。オレもこいつのこういう所には未だに驚かされるが、最近は慣れてきて可愛いとさえ思えるようになってきた。あばたもえくぼ、というやつかもしれない。
「苗字さんって冗談とか言うんだな」
「花井君には私がどう映ってるのか気になるよ」
「いや、真面目なイメージだったから意外で」
「こいつ、文化祭サボってたぞ」
「え?そうなの!?」
「そういう隆也も一緒にサボってたじゃない」
「お前に唆されてな」
「お前らホントに仲良いのな」
「まあな」
「友達だもんね」
二人で笑い合っているうちに石段を上りきって、極彩色の彫刻が施された朱塗りの本宮が出迎えた。
「八幡宮の八の文字はよく見ると二羽の鳩になってるんだよ」
「あ、本当だ。よく見たら口ばしと目が付いてる」
「何で鳩なんだ?」
「なんでも八幡宮を全国へ移動させる時に、鳩が道案内したらしい」
名前はオレ達の会話に交ざりながらにこにこと笑っている。女子と話せば良いのにとも思うが、どうやらあまり仲が良い訳でも無いらしいし、オレと一緒に居られる方が楽しいのかもしれない。
「ほら見て隆也、鳩が沢山とまってるよ」
「本宮よりも鳩が気になるのかよ」
「可愛いからね。あ、あの二人も追いついてきたんだ」
他愛もない話をしている間に女子の二人も追いついてきたらしく、いつの間にか本宮を背景に写真を撮り始めていた。
「私も隆也と写真を撮りたいな」
「は?」
「こんな機会もうないかも知れないから、思い出に残しておきたいんだ」
そう言う名前は、ポケットからスマホを取り出してオレをじっと見つめてくる。確かにこいつとこうやってどこかに出かけることなんて、この先無いことかもしれない。それなら思い出に残しておくべきか。
「撮るか」
「決まりだね」
オレ達は本宮をバックにして二人で並んだ。名前はスマホを内カメにして、上手く自撮りをしている。パシャッというシャッター音が鳴った後、撮れた写真を確認した名前はスマホを胸に抱き寄せて微笑んだ。
「まさか本当に隆也と同じ班になれるなんて。幸運だよ」
鶴岡八幡宮に向かって歩きながら、名前は柔らかな表情でオレに話しかけてくる。あれからくじ引きで名前と同じ班になり、オレ達は一緒の時間を過ごすことになった。もっと正確に言えば、オレと花井と水谷、名前とその他の女子二人だが。
「オレも名前と一緒で良かった」
「えっ」
大きく頷いていると、隣を歩く花井と水谷が大きな声を上げた。どうかしたんだろうか。オレと名前で首を傾げていると、水谷は珍しい物を見るような目を向けてきた。
「阿部と苗字さんって、名前で呼び合う程仲が良かったの?」
「まあな。こいつとオレは友達だから」
「そう。私の唯一の友だちだよ」
オレは名前の唯一の友達。その揺るぎない事実が独占欲を心地よく満たしていく。
「そうなんだ……意外な組み合わせだからびっくりした」
「そういえば二人は席が隣同士なんだっけか?」
「おう」
そんなことを話していると、同じ班になった女子の一人が名前の元に駆け寄ってきた。
「ねえ、苗字さん。良かったら連絡先の交換しない?」
「そうだね。はぐれた時のためにも……はいトークアプリのQRコード」
女子三人が立ち止まり、歩いている男子と綺麗に分かれた。ここからは女子が何を話しているかは分からない。それを確認したオレは、小声で花井と水谷にある話をすることにした。
「あのさ。自由時間になったら、名前と二人きりにさせてくれねえか?」
「え、いいけど……」
「なあ、阿部ってもしかして、さ」
「ああ。オレ、あいつのことが好きなんだ」
オレが堂々と宣言すると、二人は顏を赤くして口をあんぐりと開けた。
「ウソ、あの阿部が?」
「いや、え?苗字さんだよ?勝算あるの?」
「アホ。あんま見てると感付かれるだろ」
名前の方を気にしている水谷を肘で小突くと、慌ててオレの方を向いて眉を下げた。確かに傍から見たら、あいつは堅物に映るだろう。実際、恋愛感情については全く分からないと言っていたし。
「今はまだ告白しようなんて気はねえよ。それでも出来るだけ、名前と一緒に居たいんだ」
率直な思いを伝えると、花井と水谷は顏を見合わせてから大きく頷いた。
「分かった。二人きりにさせるよ」
「この石段は六十一段あるんだけど、今何段目を歩いているかは分かる?」
「うわっ!?びっくりした……苗字さんか」
「ンなこと知らねえよ」
「正解は四十八段目だよ」
「数えてたの?」
「ウソだな」
「うん。適当だよ」
クスクスと笑いながら歩く名前に、花井と水谷は呆気に取られている。オレもこいつのこういう所には未だに驚かされるが、最近は慣れてきて可愛いとさえ思えるようになってきた。あばたもえくぼ、というやつかもしれない。
「苗字さんって冗談とか言うんだな」
「花井君には私がどう映ってるのか気になるよ」
「いや、真面目なイメージだったから意外で」
「こいつ、文化祭サボってたぞ」
「え?そうなの!?」
「そういう隆也も一緒にサボってたじゃない」
「お前に唆されてな」
「お前らホントに仲良いのな」
「まあな」
「友達だもんね」
二人で笑い合っているうちに石段を上りきって、極彩色の彫刻が施された朱塗りの本宮が出迎えた。
「八幡宮の八の文字はよく見ると二羽の鳩になってるんだよ」
「あ、本当だ。よく見たら口ばしと目が付いてる」
「何で鳩なんだ?」
「なんでも八幡宮を全国へ移動させる時に、鳩が道案内したらしい」
名前はオレ達の会話に交ざりながらにこにこと笑っている。女子と話せば良いのにとも思うが、どうやらあまり仲が良い訳でも無いらしいし、オレと一緒に居られる方が楽しいのかもしれない。
「ほら見て隆也、鳩が沢山とまってるよ」
「本宮よりも鳩が気になるのかよ」
「可愛いからね。あ、あの二人も追いついてきたんだ」
他愛もない話をしている間に女子の二人も追いついてきたらしく、いつの間にか本宮を背景に写真を撮り始めていた。
「私も隆也と写真を撮りたいな」
「は?」
「こんな機会もうないかも知れないから、思い出に残しておきたいんだ」
そう言う名前は、ポケットからスマホを取り出してオレをじっと見つめてくる。確かにこいつとこうやってどこかに出かけることなんて、この先無いことかもしれない。それなら思い出に残しておくべきか。
「撮るか」
「決まりだね」
オレ達は本宮をバックにして二人で並んだ。名前はスマホを内カメにして、上手く自撮りをしている。パシャッというシャッター音が鳴った後、撮れた写真を確認した名前はスマホを胸に抱き寄せて微笑んだ。