欲を食らわば墓まで
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名前のことを好きだと自覚してから一週間程が経った。あいつに対する思いは強くなっていくばかりだが、野球を疎かにするわけにはいかない。仮に告白してオッケーされたとしても、恋人らしい時間を過ごす暇はないだろう。その辺はオレも不器用だから――というか経験が全く無いので、上手いこと両立させる自信は無い。
「なあ、名前って好きな奴とか居ねェの?」
「唐突だね」
昼休みに名前を誘って食堂でご飯を食べる中、どうしても気になったことを思い切って尋ねてみた。
「いや、なんとなく……」
上手く誤魔化すこともできずに言い淀んでいると、名前は焼うどんを口に入れて咀嚼しながら静かに箸を置いた。
「居るように見える?」
「見えねえ」
「正直私には恋愛感情というものがよく分からないよ。未知の物だから知りたいんだけど……そういう隆也は好きな人でも居るの?」
「……居る」
お前だよ。心の中で答えて視線を逸らすと、名前は物珍しいものを見るような目でオレをまじまじと見つめてきた。
「意外だね。どんな人?」
「普段は何考えてんのかよく分かんねえけど、オレと話してる時は楽しそうなところが可愛いと思う」
「へぇ。隆也が私以外の女子と話してるところ見ないけど、ちゃんと話し相手が居たんだね」
名前は揶揄うように笑った。こいつと一緒に昼ご飯を食べるのは今日が初めてだが、こうして話をしながら食べるのは悪くない。
「いや、オレが話す女子はお前ぐらいだよ」
「え?それじゃあ好きな人、丸分かりだけど良いの?」
「え、いや、なんつーか」
しまったと口を押さえても、時すでに遅し。名前はきょとんと目を丸くしてから、すぐににんまりと口角を上げて楽しそうに笑った。
「まあ隆也の気持ちも分かるなあ。可愛くて気遣いのできるマネージャーが近くに居たら、そりゃあ好きになっちゃうよね」
「は?」
「え?」
どうやら名前は、オレが篠岡に好意を抱いていると勘違いしているようだ。何をどう考えたらそうなるのか分からないが、この誤解は早めに解いておくべきだろう。
「違ェよ」
「そうなんだ。まあ誰が相手でも私は応援するよ」
オレのことを友達だとしか思っていないのは分かっていたことだが、こうもあっさり応援されると少しヘコむ。そんなオレを気にすることなく名前はご飯を食べ始めた。
「そういえばもうすぐ鎌倉遠足だね」
「ああ、修学旅行の予行演習ってウワサのやつな」
十月に一年生全員で東京駅に現地集合して、鎌倉遠足へ行くことになっている。三人一組で班を作ることになったのだが、オレはいつも通り花井と水谷と組むことにした。
「鎌倉に行くのが楽しみだよ」
「お前旅行好きなの?」
「旅行には良い思い出はないけど、鎌倉には思い入れがあるんだ。埼玉には海がないけど鎌倉には海があるしね」
「へぇ」
こいつもオレと同じで学校行事には興味が無いと思っていたから意外だ。
「海好きなの?」
「泳ぐのは好きじゃないけど、海辺を歩くのは気持ちが良くて好きだよ。隆也は?」
「オレは泳ぐ方が好きだな」
「それなら水着持って泳ぐ?」
「まさか。十月の遠足中にンなことしねぇよ」
「あはは。そうだよね」
名前はおかしそうに笑って、それから少し間を置いて再び話始めた。
「男女の組み合わせがくじ引きなのは憂鬱だなあ」
「なんで?」
「知らない人と一日中一緒に観光するのって気を遣うでしょう?」
「そうか?誰が一緒でも変わんねえだろ」
「隆也らしいね。まあそういう私も仲の良い人が居ないから結果は同じなんだけどさ」
名前は寂しそうに目を伏せた。確かに、名前と仲の良い男子は居ないようだし、オレも名前ぐらいしか親しい女子はいない。
「隆也と組めたら楽しいんだろうなあ」
「そーだな。オレもお前と組めたらって思うよ」
「もし組めたら一緒に海へ行こうよ」
「良いけど一緒になる確率ってスゲー低いぞ」
「あはは、それもそうだね」
楽しそうに笑う名前を見て、この笑顔をオレだけの物にしたいという独占欲が顔を出し始める。もっと色々な表情を見てみたいし、色んな顔をオレに向けて欲しい。そう思いながらオレは弁当を頬張った。
「なあ、名前って好きな奴とか居ねェの?」
「唐突だね」
昼休みに名前を誘って食堂でご飯を食べる中、どうしても気になったことを思い切って尋ねてみた。
「いや、なんとなく……」
上手く誤魔化すこともできずに言い淀んでいると、名前は焼うどんを口に入れて咀嚼しながら静かに箸を置いた。
「居るように見える?」
「見えねえ」
「正直私には恋愛感情というものがよく分からないよ。未知の物だから知りたいんだけど……そういう隆也は好きな人でも居るの?」
「……居る」
お前だよ。心の中で答えて視線を逸らすと、名前は物珍しいものを見るような目でオレをまじまじと見つめてきた。
「意外だね。どんな人?」
「普段は何考えてんのかよく分かんねえけど、オレと話してる時は楽しそうなところが可愛いと思う」
「へぇ。隆也が私以外の女子と話してるところ見ないけど、ちゃんと話し相手が居たんだね」
名前は揶揄うように笑った。こいつと一緒に昼ご飯を食べるのは今日が初めてだが、こうして話をしながら食べるのは悪くない。
「いや、オレが話す女子はお前ぐらいだよ」
「え?それじゃあ好きな人、丸分かりだけど良いの?」
「え、いや、なんつーか」
しまったと口を押さえても、時すでに遅し。名前はきょとんと目を丸くしてから、すぐににんまりと口角を上げて楽しそうに笑った。
「まあ隆也の気持ちも分かるなあ。可愛くて気遣いのできるマネージャーが近くに居たら、そりゃあ好きになっちゃうよね」
「は?」
「え?」
どうやら名前は、オレが篠岡に好意を抱いていると勘違いしているようだ。何をどう考えたらそうなるのか分からないが、この誤解は早めに解いておくべきだろう。
「違ェよ」
「そうなんだ。まあ誰が相手でも私は応援するよ」
オレのことを友達だとしか思っていないのは分かっていたことだが、こうもあっさり応援されると少しヘコむ。そんなオレを気にすることなく名前はご飯を食べ始めた。
「そういえばもうすぐ鎌倉遠足だね」
「ああ、修学旅行の予行演習ってウワサのやつな」
十月に一年生全員で東京駅に現地集合して、鎌倉遠足へ行くことになっている。三人一組で班を作ることになったのだが、オレはいつも通り花井と水谷と組むことにした。
「鎌倉に行くのが楽しみだよ」
「お前旅行好きなの?」
「旅行には良い思い出はないけど、鎌倉には思い入れがあるんだ。埼玉には海がないけど鎌倉には海があるしね」
「へぇ」
こいつもオレと同じで学校行事には興味が無いと思っていたから意外だ。
「海好きなの?」
「泳ぐのは好きじゃないけど、海辺を歩くのは気持ちが良くて好きだよ。隆也は?」
「オレは泳ぐ方が好きだな」
「それなら水着持って泳ぐ?」
「まさか。十月の遠足中にンなことしねぇよ」
「あはは。そうだよね」
名前はおかしそうに笑って、それから少し間を置いて再び話始めた。
「男女の組み合わせがくじ引きなのは憂鬱だなあ」
「なんで?」
「知らない人と一日中一緒に観光するのって気を遣うでしょう?」
「そうか?誰が一緒でも変わんねえだろ」
「隆也らしいね。まあそういう私も仲の良い人が居ないから結果は同じなんだけどさ」
名前は寂しそうに目を伏せた。確かに、名前と仲の良い男子は居ないようだし、オレも名前ぐらいしか親しい女子はいない。
「隆也と組めたら楽しいんだろうなあ」
「そーだな。オレもお前と組めたらって思うよ」
「もし組めたら一緒に海へ行こうよ」
「良いけど一緒になる確率ってスゲー低いぞ」
「あはは、それもそうだね」
楽しそうに笑う名前を見て、この笑顔をオレだけの物にしたいという独占欲が顔を出し始める。もっと色々な表情を見てみたいし、色んな顔をオレに向けて欲しい。そう思いながらオレは弁当を頬張った。