欲を食らわば墓まで
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名前と友達になった文化祭から一週間が経ったある日、部活のミーティングを終えて駐輪場に向かっていると、ポケットに突っ込んであるスマホが振動した。どうやら名前からのメッセージのようだ。トークアプリを開いて確認すると〝友達らしいことをしてみたい〟という文章が目に入ってきた。
「友達らしいことってなんだよ……」
「一緒にバッティングセンターへ行ったりとか」
「は?」
急に後ろから声が聞こえて振り向くと、そこには名前が立っていた。どうやらこれから帰るところらしく、サッチェルバッグを背負っている。
「お前はホント急に話しかけてくるよな」
「今日は部活無いの?」
「週一でミーティングだけの日があンだよ」
「そうなんだ。てっきり休みなしで部活しているんだと思っていたよ」
特に驚いた様子もなく、淡々と話す名前にため息を吐く。
「それで、お前バッティングセンター行きたいの?」
「うん。友達らしく一緒に遊んでみたいと思って」
確かにオレ達は友達らしいことをしたことがない。学校では今まで通りに過ごしているし、お互いに連絡をマメ取り合う性格ではなく、必要最低限の連絡しかしていない。
「それなら今からでもバッセン行くか?」
「良いの?是非とも行きたい」
名前はキラキラと目を輝かせながら体を乗り出してくる。いつもは澄まして大人ぶっているのに、今は無邪気な子供のようだ。
「決まりだな」
そう言いながら駐輪場に向かうと、名前も隣を歩きながら口角を上げた。
***
バッティングセンターへと辿り着いたオレ達は受付を済ませて、両替機に向かった。オレがお金を崩していると、名前がソワソワと落ち着かない様子で辺りを見回し始めた。
「なに、便所?」
「バッティングセンター初めてだから緊張してるの」
「お前野球に興味ありそうだったから、来たことあんのかと思った」
前に野球部へ入りたいと言っていたこともあったし、てっきりバッティングセンターに来たことがあると思っていたが、どうやら違うらしい。名前は鞄から財布を取り出して、お札を小銭に崩しながら口を開いた。
「私は野球よりも隆也に興味があるんだよ」
「は?」
突拍子もない言葉に思わず間抜けな声が出た。名前はそんなオレを気にすることもなく、小銭を財布に収めながら話を続ける。
「私のつまらない話を、なんだかんだ言いながら真剣に聞いてくれるのは隆也くらいだからね。考え方が全く違う所も刺激的で面白い」
「はあ……」
「それで隆也は私のことをどう思っているのかな?」
くるりとこちらを向いて名前は首を傾げた。
「どうって……」
「こんな偏屈な人間は嫌い?」
「嫌いじゃねえよ。っつーか……」
好きだ。心の中で出た一言が、今まで感じていた引っかかりを全て解決させた。そうか、オレはこいつのことが好きなんだ。そう自覚した途端、頬がかっと熱くなる。
「どうしたの?」
「い、いや。お前と話すの、楽しいって思うよ」
吃りながら答えると、名前はパッと顏を明るくした。
「そう言って貰えて嬉しいよ。ところで、これからどこに向かえばいいの?」
「あ?んじゃまずは80kmから行くか」
「はちじゅっきろ」
「ついて来いよ。説明してやっから」
バットを持たせて80kmのレーンに入ると、名前はぐるりと辺りを見回してからバッターボックスに入った。
「バットの持ち方が違ェ。逆手になってンぞ」
「え、ど、どう?」
「こう持つんだ」
名前の手を上から掴んで握り方を変えると、彼女は顔を少し赤らめて俯いた。そこでようやく距離の近さに気が付いて、心臓がどくりと音を立てる。
「それじゃあオレは後ろで見てるから。ここに金入れたら、すぐにバッターボックスに入って構えろよ」
「分かった」
名前は戸惑いながらもお金を機械に入れてバッターボックスに入った。オレはその後ろに立って、フェンス越しに第一球を見守る。
「え、待って、怖い」
びくびくしながらバットを構えた名前に、オレは思わず吹き出す。今まで初心者の奴とバッセンに来ることなんて一度も無かったから、新鮮で面白い。
「どこから球来るの?」
そんなことを言っているうちに、ボールがマシンから放たれる。名前は腰を引いたまま、バットを振るどころか逃げるようにして避けた。
「振ンねえと当たらねェぞ」
「うう……」
名前は情けない声を上げながら、今度はバットを振ったが空振りに終わった。それからしばらくバッティングを続けたが、ヒットどころかボールに掠りもしない。すべて打ち終えて――というよりも空振りをしてバッターボックスから出てきた名前は、肩を落として項垂れた。
「お前、スゲーよ」
「何が」
「スゲー運動音痴」
「酷い……!」
「ここまで空振りするヤツ初めて見た。ちょっとストラックアウトもやってみろよ」
「ストラックアウトって、的に投げるゲームだよね」
「そう。お前の運動音痴っぷりが見たい」
名前を連れてストラックアウトに向かい、準備運動をさせてから小銭を入れる。一体どんなノーコンっぷりを見せてくれるんだろうか。期待していると、名前はトスマシンから出てきたボールすらキャッチできずに慌て始めて、腹が引き攣るほどの笑いが込み上げてきた。
「ぶはっ、はっはっはっ!お前、マジかよ!」
「もう、笑いすぎだよ」
「悪ィ」
じとりと睨みつける名前に、笑い過ぎて出た涙を拭いながら謝る。しかし、彼女は納得がいかないようで不満そうに唇を尖らせていた。
「友達らしいことってなんだよ……」
「一緒にバッティングセンターへ行ったりとか」
「は?」
急に後ろから声が聞こえて振り向くと、そこには名前が立っていた。どうやらこれから帰るところらしく、サッチェルバッグを背負っている。
「お前はホント急に話しかけてくるよな」
「今日は部活無いの?」
「週一でミーティングだけの日があンだよ」
「そうなんだ。てっきり休みなしで部活しているんだと思っていたよ」
特に驚いた様子もなく、淡々と話す名前にため息を吐く。
「それで、お前バッティングセンター行きたいの?」
「うん。友達らしく一緒に遊んでみたいと思って」
確かにオレ達は友達らしいことをしたことがない。学校では今まで通りに過ごしているし、お互いに連絡をマメ取り合う性格ではなく、必要最低限の連絡しかしていない。
「それなら今からでもバッセン行くか?」
「良いの?是非とも行きたい」
名前はキラキラと目を輝かせながら体を乗り出してくる。いつもは澄まして大人ぶっているのに、今は無邪気な子供のようだ。
「決まりだな」
そう言いながら駐輪場に向かうと、名前も隣を歩きながら口角を上げた。
***
バッティングセンターへと辿り着いたオレ達は受付を済ませて、両替機に向かった。オレがお金を崩していると、名前がソワソワと落ち着かない様子で辺りを見回し始めた。
「なに、便所?」
「バッティングセンター初めてだから緊張してるの」
「お前野球に興味ありそうだったから、来たことあんのかと思った」
前に野球部へ入りたいと言っていたこともあったし、てっきりバッティングセンターに来たことがあると思っていたが、どうやら違うらしい。名前は鞄から財布を取り出して、お札を小銭に崩しながら口を開いた。
「私は野球よりも隆也に興味があるんだよ」
「は?」
突拍子もない言葉に思わず間抜けな声が出た。名前はそんなオレを気にすることもなく、小銭を財布に収めながら話を続ける。
「私のつまらない話を、なんだかんだ言いながら真剣に聞いてくれるのは隆也くらいだからね。考え方が全く違う所も刺激的で面白い」
「はあ……」
「それで隆也は私のことをどう思っているのかな?」
くるりとこちらを向いて名前は首を傾げた。
「どうって……」
「こんな偏屈な人間は嫌い?」
「嫌いじゃねえよ。っつーか……」
好きだ。心の中で出た一言が、今まで感じていた引っかかりを全て解決させた。そうか、オレはこいつのことが好きなんだ。そう自覚した途端、頬がかっと熱くなる。
「どうしたの?」
「い、いや。お前と話すの、楽しいって思うよ」
吃りながら答えると、名前はパッと顏を明るくした。
「そう言って貰えて嬉しいよ。ところで、これからどこに向かえばいいの?」
「あ?んじゃまずは80kmから行くか」
「はちじゅっきろ」
「ついて来いよ。説明してやっから」
バットを持たせて80kmのレーンに入ると、名前はぐるりと辺りを見回してからバッターボックスに入った。
「バットの持ち方が違ェ。逆手になってンぞ」
「え、ど、どう?」
「こう持つんだ」
名前の手を上から掴んで握り方を変えると、彼女は顔を少し赤らめて俯いた。そこでようやく距離の近さに気が付いて、心臓がどくりと音を立てる。
「それじゃあオレは後ろで見てるから。ここに金入れたら、すぐにバッターボックスに入って構えろよ」
「分かった」
名前は戸惑いながらもお金を機械に入れてバッターボックスに入った。オレはその後ろに立って、フェンス越しに第一球を見守る。
「え、待って、怖い」
びくびくしながらバットを構えた名前に、オレは思わず吹き出す。今まで初心者の奴とバッセンに来ることなんて一度も無かったから、新鮮で面白い。
「どこから球来るの?」
そんなことを言っているうちに、ボールがマシンから放たれる。名前は腰を引いたまま、バットを振るどころか逃げるようにして避けた。
「振ンねえと当たらねェぞ」
「うう……」
名前は情けない声を上げながら、今度はバットを振ったが空振りに終わった。それからしばらくバッティングを続けたが、ヒットどころかボールに掠りもしない。すべて打ち終えて――というよりも空振りをしてバッターボックスから出てきた名前は、肩を落として項垂れた。
「お前、スゲーよ」
「何が」
「スゲー運動音痴」
「酷い……!」
「ここまで空振りするヤツ初めて見た。ちょっとストラックアウトもやってみろよ」
「ストラックアウトって、的に投げるゲームだよね」
「そう。お前の運動音痴っぷりが見たい」
名前を連れてストラックアウトに向かい、準備運動をさせてから小銭を入れる。一体どんなノーコンっぷりを見せてくれるんだろうか。期待していると、名前はトスマシンから出てきたボールすらキャッチできずに慌て始めて、腹が引き攣るほどの笑いが込み上げてきた。
「ぶはっ、はっはっはっ!お前、マジかよ!」
「もう、笑いすぎだよ」
「悪ィ」
じとりと睨みつける名前に、笑い過ぎて出た涙を拭いながら謝る。しかし、彼女は納得がいかないようで不満そうに唇を尖らせていた。