「……まだオレには自分の気持ちがはっきりと分かんねぇ。でもそれを一緒に探していけるんだったら、オレも名前と付き合いたいと思う」

　その言葉を聞いた瞬間、私の心が一気に明るくなった。タカちゃんが私の告白に対して正直な気持ちを示してくれたこと、そして一緒に探していこうと言ってくれたことが、何よりも嬉しくて仕方がない。言葉では表せないくらいの幸せが込み上げてきて、目の奥がじんわりと熱くなっていく。

「うん……！ありがとう、タカちゃん」

　彼の胸に頭をぐりぐりと押し付けて、この気持ちが伝わるようにぎゅっと力を込めて抱きしめる。タカちゃんの顔にはまだ少し不安そうな表情が残っていたけど、私を優しく抱き返してくれた。しばらくしてから抱きしめていた腕を下ろして離れると、タカちゃんが照れくさそうに頭を掻いた。

「つってもオレ、付き合うとか初めてだし、なにすれば良いのか分かんねェぞ」

「私も初めてだから一緒に色々経験してみようよ」

「色々経験って……」

　タカちゃんの顔が赤くなっていって、恥ずかしさを隠すように私から顔を逸らす。その様子がなんだか可愛く感じられて、私がクスクス笑っていると彼はジト目でこちらを見てきた。
　
「そうだね……まずは恋人らしくデートしてみたいな。一緒に公園でキャッチボールとか」

「今までと変わんねェな」

　タカちゃんは呆れたようにため息を吐く。それから二人で家に向かって歩きながら、これからのことについて話を続けた。

「バッティングセンターとかも今まで通りだしね」

「名前は行ってみたい所とか無ェのか？」

「うーん……海はこの時期やってないから……そうだ！明日暇だったら公園でお花見しようよ。春休みが終わる前に思い出作っておきたいし」

「そうするか」

　私の提案にタカちゃんは頷く。タカちゃんとデートだ。嬉しくて緩む頬を両手で抑えながら、隣を見るとタカちゃんも笑っていた。

「私、お弁当作って持ってくるね！おかずのリクエストある？」

「卵焼きと唐揚げ」

「分かった！楽しみに待ってね」

「おう」

　これからの未来がどうなるのかは分からないけれど、こうして過ごしているうちに、タカちゃんの恋心がハッキリしたものに変わっていくかもしれない。そのためにはもっと恋人らしいことをして、タカちゃんにアピールしていく必要があるだろう。

「……ねえタカちゃん、手繋いで帰りたいな……ダメ？」

　勇気を振り絞って言ってみると、タカちゃんは一瞬驚いた表情を浮かべて、少し照れくさそうにしながらも、私の手を優しく繋いでくれた。彼の大きな手が私の手を包み込む感触に、心がじんわりと暖かくなるのが分かる。

「マメとタコだらけの手だな」

　タカちゃんは笑いながら、私の指の間に自分の指を絡めてきた。いわゆる恋人繋ぎだ。タカちゃんは無意識でやっているんだろうか。ドキドキと胸が早鐘を打つのを感じながら、気になって彼の顔を盗み見ると頬が少し赤くなっていた。
　
「可愛くない手だよね」

「ンなこと言ってねェだろ。お前はイロイロ努力してるからスゲーなって思ったんだよ。爪の手入れとか誰よりも拘ってるし」

「爪？ああ、爪割れ防止のネイルね。そういえば昔、私が体育の先生にネイルやめろって注意された時、タカちゃんが先生に怒ったことがあったよね」

「それはフツーに怒るだろ。爪割れ防止でやってるって何回説明してもファッションでやってるって聞かねえし」
　
　タカちゃんはムスッとしながら、繋いでいる手に力を込めた。確かにあの体育の先生は嫌だったけど、タカちゃんがあんなに怒るとは思わなかった。タカちゃんが私のことを庇ってくれて、嬉しかったのを今でも覚えている。

「タカちゃんが庇ってくれて凄く嬉しかったよ。ありがとう」

「どーも」

　タカちゃんはそっけなく返事をするけど、それが照れ隠しだということは分かっていた。

「タカちゃんは昔から優しくて、お節介なくらい世話焼きで、でもそんな所が大好きだよ」

「……知ってる」

　 タカちゃんは私の顔を見ずに前を向いた。このままずっとこうやって二人で手を繋いでいられたらそれでいい。この温もりを手離したくないと思いながら、私もタカちゃんと同じ様に前を向いて歩くことにした。