欲を食らわば墓まで
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放課後の教室で文化祭の準備が進められる中、鞄に教科書を詰め込んで部活に向かう用意をしていると、隣の苗字がこちらに体を向けた。なにか言いたいことでもあるんだろうか。
「なに?」
「私も野球部に入りたいな」
「また急だな。なんで入りたいの?」
「単純な興味が一番かな。だけど今は文化祭をサボりたいのが大きいよ」
「不純な動機は置いといて、お前がマネージャーになるってのも悪くねえな。データを上手く活用してくれそうだし、篠岡一人だと色々大変そうだし」
篠岡は頼りになるマネージャーだけど、一人でマネージャー業をこなしてデータを集めまでするのは大変だろう。苗字が入部すれば、篠岡の負担も減るはずだ。
「入部はしないよ。バイトがあるから入れないと言った方が良いかな」
「そういえばそうだったな。今日もバイトか?」
「今日は休みだから、文化祭の手伝いをするよ。サボりの阿部の分まで頑張らないとね」
「オレは部活があるからサボりじゃねえっつーの」
実際のオレは手伝いに参加することなく毎日のように部活に励んでいる。野球部と言う大義名分を振りかざして堂々とサボっているわけだ。しかしこれを言うと、いろんな方面から反感を買ってしまうので黙っておいた方がいいだろう。
「でも阿部はこういう行事ごとに興味がないように見える。クラスで何の出し物するのか、ちゃんと知ってるのかな?」
「は?アレだろ、お茶出すっていう話」
なんの店だったかまでは覚えてないが、オレはお茶係だったはず。苗字はオレの答えを聞いて、呆れたように溜息を吐いた。
「和装喫茶だよ。グリーンティーカフェ。接客の女子は浴衣にエプロン付けるらしいよ。残念ながら接客が苦手な私は裏方だけどね」
「残念ながらってなんだよ。オレはお前の浴衣姿なんて期待してねえぞ」
そう話をしている途中で、こいつの浴衣姿が頭に過る。……まあ、悪くはないと思う。
「それはそうと、大雑把なところがある阿部にお茶係が務まるか不安だね」
「お茶くらい淹れられるわ」
確かにこいつの言う通り、細かい作業は苦手だ。でもお茶を淹れるくらいのことはできる。ムッとして言い返すと、苗字は口元に手を当ててくすくすと笑った。
「阿部は面白くて良いね。一緒にいて楽しいよ」
そう言って苗字は目を細めて笑った。その笑顔は今までに見たことがないほど柔らかくて、思わず息を呑む。
「どうかした?」
「……いや、そんなふうに笑うのが意外で」
見惚れていたなんて口が裂けても言えず、ぶっきらぼうに答えると苗字はきょとんと眼を丸くした。こいつって思ったよりも表情が豊かかもしれない。そんなことを考えていると、クラスメイトの高橋がメモ帳を片手にこちらへやってきた。
「なあ、阿部と苗字って明日の休みヒマ?」
「いや、オレは朝から部活がある」
「私はバイトがあるよ。どうして?」
「いや、グリーンティーカフェの参考に喫茶店へ行くって話になって。クラスのやつら全員に聞いてまわってたんだよ」
不思議そうに首を傾げる苗字に、高橋はメモを取りながら答える。それから高橋は顏を上げて、オレの方を向いた。
「野球部は部活ってことは、花井と水谷も不参加になるか」
「おう」
「オッケー。んじゃ二人とも部活とバイト頑張ってな!」
そう言い残して、高橋は他のクラスメイトの所に行ってしまった。オレと苗字は顔を見合わせる。
「野球部って本当に忙しいんだね」
「文化祭の二日目にも他校で練習試合があるくらいだしな。オレとしてはその方が嬉しいんだけど」
「文化祭中にも?それはすごい。でもそれだけ練習しているから強豪の桐青高校にも勝てたんだろうね。野球部の応援に行ったけど、皆すごく格好良かったよ」
「え、お前応援来てたの?」
「そうだけど。ああ、声が枯れるまで応援したのに。阿部には届いていなかったなんてショックだ」
「いや、そういうわけじゃ……その、応援してくれてありがとな」
素直に感謝したはいいものの、気恥ずかしさが勝ってしまって顔を背ける。そんなオレを見た苗字はククッと喉を鳴らした。
「それよりも阿部、そろそろ部活に行った方が良いんじゃないかな?」
「え?」
時計をみるとホームルームが終わってから十分以上経っていた。
「ヤベ。んじゃ、また月曜な」
「またね」
野球部のグラウンドに向かって走り出しながら、苗字について考える。あいつは応援に来ていたから、オレが夏休み中に松葉杖を突いてるのを見た時も驚かなかったのか。そんで、オレが思ってるよりも野球に興味があるのかもしれない。
「なに?」
「私も野球部に入りたいな」
「また急だな。なんで入りたいの?」
「単純な興味が一番かな。だけど今は文化祭をサボりたいのが大きいよ」
「不純な動機は置いといて、お前がマネージャーになるってのも悪くねえな。データを上手く活用してくれそうだし、篠岡一人だと色々大変そうだし」
篠岡は頼りになるマネージャーだけど、一人でマネージャー業をこなしてデータを集めまでするのは大変だろう。苗字が入部すれば、篠岡の負担も減るはずだ。
「入部はしないよ。バイトがあるから入れないと言った方が良いかな」
「そういえばそうだったな。今日もバイトか?」
「今日は休みだから、文化祭の手伝いをするよ。サボりの阿部の分まで頑張らないとね」
「オレは部活があるからサボりじゃねえっつーの」
実際のオレは手伝いに参加することなく毎日のように部活に励んでいる。野球部と言う大義名分を振りかざして堂々とサボっているわけだ。しかしこれを言うと、いろんな方面から反感を買ってしまうので黙っておいた方がいいだろう。
「でも阿部はこういう行事ごとに興味がないように見える。クラスで何の出し物するのか、ちゃんと知ってるのかな?」
「は?アレだろ、お茶出すっていう話」
なんの店だったかまでは覚えてないが、オレはお茶係だったはず。苗字はオレの答えを聞いて、呆れたように溜息を吐いた。
「和装喫茶だよ。グリーンティーカフェ。接客の女子は浴衣にエプロン付けるらしいよ。残念ながら接客が苦手な私は裏方だけどね」
「残念ながらってなんだよ。オレはお前の浴衣姿なんて期待してねえぞ」
そう話をしている途中で、こいつの浴衣姿が頭に過る。……まあ、悪くはないと思う。
「それはそうと、大雑把なところがある阿部にお茶係が務まるか不安だね」
「お茶くらい淹れられるわ」
確かにこいつの言う通り、細かい作業は苦手だ。でもお茶を淹れるくらいのことはできる。ムッとして言い返すと、苗字は口元に手を当ててくすくすと笑った。
「阿部は面白くて良いね。一緒にいて楽しいよ」
そう言って苗字は目を細めて笑った。その笑顔は今までに見たことがないほど柔らかくて、思わず息を呑む。
「どうかした?」
「……いや、そんなふうに笑うのが意外で」
見惚れていたなんて口が裂けても言えず、ぶっきらぼうに答えると苗字はきょとんと眼を丸くした。こいつって思ったよりも表情が豊かかもしれない。そんなことを考えていると、クラスメイトの高橋がメモ帳を片手にこちらへやってきた。
「なあ、阿部と苗字って明日の休みヒマ?」
「いや、オレは朝から部活がある」
「私はバイトがあるよ。どうして?」
「いや、グリーンティーカフェの参考に喫茶店へ行くって話になって。クラスのやつら全員に聞いてまわってたんだよ」
不思議そうに首を傾げる苗字に、高橋はメモを取りながら答える。それから高橋は顏を上げて、オレの方を向いた。
「野球部は部活ってことは、花井と水谷も不参加になるか」
「おう」
「オッケー。んじゃ二人とも部活とバイト頑張ってな!」
そう言い残して、高橋は他のクラスメイトの所に行ってしまった。オレと苗字は顔を見合わせる。
「野球部って本当に忙しいんだね」
「文化祭の二日目にも他校で練習試合があるくらいだしな。オレとしてはその方が嬉しいんだけど」
「文化祭中にも?それはすごい。でもそれだけ練習しているから強豪の桐青高校にも勝てたんだろうね。野球部の応援に行ったけど、皆すごく格好良かったよ」
「え、お前応援来てたの?」
「そうだけど。ああ、声が枯れるまで応援したのに。阿部には届いていなかったなんてショックだ」
「いや、そういうわけじゃ……その、応援してくれてありがとな」
素直に感謝したはいいものの、気恥ずかしさが勝ってしまって顔を背ける。そんなオレを見た苗字はククッと喉を鳴らした。
「それよりも阿部、そろそろ部活に行った方が良いんじゃないかな?」
「え?」
時計をみるとホームルームが終わってから十分以上経っていた。
「ヤベ。んじゃ、また月曜な」
「またね」
野球部のグラウンドに向かって走り出しながら、苗字について考える。あいつは応援に来ていたから、オレが夏休み中に松葉杖を突いてるのを見た時も驚かなかったのか。そんで、オレが思ってるよりも野球に興味があるのかもしれない。