事案が発生
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「奇遇ですね!!!」
「やめろおお!!!!!」
仁王立ちする大男の横は流石に通り抜けられなかったらしい、ナマエはあっという間に腰を抱え上げられた。この人物は言わずもがなメフィスト・フェレス卿、祓魔塾の管理を務める大悪魔である。
逃れようと暴れ回るナマエを余所に、勝呂はたった今弾けそうなほど活発に動き始めた己の心臓をそのままに固まった。これはまずい。かなりまずい。なにせ鍵の不正使用が、バレてはいけない立場の者に露呈しようとしている。
フェレス卿は勝呂の姿を認めた一瞬真顔になったが、すぐに美しい笑顔を浮かべた。口は笑っているが、瞳が静けさを湛えたままなのでゾッとするほど冷たい雰囲気だ。
「私の猫が粗相をしでかし申し訳ありません。お昼休みももう終わりですし、学園へ戻られた方が良いかと」
「……猫?」
「ええ。わたくしの。ネコです」
単語ひとつひとつを、噛みしめるように区切る理事長の顔は絶えず笑顔だ。ナマエの足で強打されている腕は微動だにしていない。怒られるなど何らかの処置をとられると思っていた勝呂は、しかしホッと息をつくでもなく理事長の笑顔に震えた。
お仕置き……趣向……脚力……。
勝呂は真っ当な青年男子である。話題こそ幼馴染が息をするように喋っているので耐性はついているが、理事長の道徳的に冒涜的なお仕置きとやらを目の当たりにするのは自分にはまだ早い気がする。あらぬ事を想像して全身が粟立った。
やはり、冷房が効きすぎているのかもしれない。
「じゃ、じゃあ俺はこれで……」
半ば修羅場と化した現状で、細い足手をばたつかせる塾生は助けを求めていた。勝呂は理事長から発せられる笑顔の圧力に耐えきれず、速足で教室を後にする。後ろで「勝呂クン聞いて!! 私は愛玩動物じゃないから!」と叫ぶ声がしたが、問題はそこではないし、気にするところも間違っているし、具体的に言うとここに五分も留まれば何の前触れもなく首がパックリ両断されてしまう予感がしたので勝呂は疾風の如く祓魔塾から走り去った。
◆
午後の授業が終わる直前、ナマエは相変わらずの調子で学園に帰ってきた。学園でも問題児とされるナマエを担任は諭しもしない、クラスメイトの視線が痛い。少しはだけた制服の裾が視線を引く。
誰かがこそりと「飽きないよね」と呟いた。ナマエは声がした方へ一瞥もくれず、はだけていた裾を片手で直した。かなり慣れた所作だった。
「やれやれ」
無表情ながら戦々恐々とした足取りに、彼女の隣の席である奥村燐は首をかしげる。そんな燐と目が合うと、ナマエは安心したように息をついた。
「スコティッシュテリアから逃げてきたの」
「……ピンク色のね」
短編・事案が発生《了》
「やめろおお!!!!!」
仁王立ちする大男の横は流石に通り抜けられなかったらしい、ナマエはあっという間に腰を抱え上げられた。この人物は言わずもがなメフィスト・フェレス卿、祓魔塾の管理を務める大悪魔である。
逃れようと暴れ回るナマエを余所に、勝呂はたった今弾けそうなほど活発に動き始めた己の心臓をそのままに固まった。これはまずい。かなりまずい。なにせ鍵の不正使用が、バレてはいけない立場の者に露呈しようとしている。
フェレス卿は勝呂の姿を認めた一瞬真顔になったが、すぐに美しい笑顔を浮かべた。口は笑っているが、瞳が静けさを湛えたままなのでゾッとするほど冷たい雰囲気だ。
「私の猫が粗相をしでかし申し訳ありません。お昼休みももう終わりですし、学園へ戻られた方が良いかと」
「……猫?」
「ええ。わたくしの。ネコです」
単語ひとつひとつを、噛みしめるように区切る理事長の顔は絶えず笑顔だ。ナマエの足で強打されている腕は微動だにしていない。怒られるなど何らかの処置をとられると思っていた勝呂は、しかしホッと息をつくでもなく理事長の笑顔に震えた。
お仕置き……趣向……脚力……。
勝呂は真っ当な青年男子である。話題こそ幼馴染が息をするように喋っているので耐性はついているが、理事長の道徳的に冒涜的なお仕置きとやらを目の当たりにするのは自分にはまだ早い気がする。あらぬ事を想像して全身が粟立った。
やはり、冷房が効きすぎているのかもしれない。
「じゃ、じゃあ俺はこれで……」
半ば修羅場と化した現状で、細い足手をばたつかせる塾生は助けを求めていた。勝呂は理事長から発せられる笑顔の圧力に耐えきれず、速足で教室を後にする。後ろで「勝呂クン聞いて!! 私は愛玩動物じゃないから!」と叫ぶ声がしたが、問題はそこではないし、気にするところも間違っているし、具体的に言うとここに五分も留まれば何の前触れもなく首がパックリ両断されてしまう予感がしたので勝呂は疾風の如く祓魔塾から走り去った。
◆
午後の授業が終わる直前、ナマエは相変わらずの調子で学園に帰ってきた。学園でも問題児とされるナマエを担任は諭しもしない、クラスメイトの視線が痛い。少しはだけた制服の裾が視線を引く。
誰かがこそりと「飽きないよね」と呟いた。ナマエは声がした方へ一瞥もくれず、はだけていた裾を片手で直した。かなり慣れた所作だった。
「やれやれ」
無表情ながら戦々恐々とした足取りに、彼女の隣の席である奥村燐は首をかしげる。そんな燐と目が合うと、ナマエは安心したように息をついた。
「スコティッシュテリアから逃げてきたの」
「……ピンク色のね」
短編・事案が発生《了》
3/3ページ