メフィスト・フェレス
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時刻表にない時刻だった。待合所の外灯だけが明るい雨の中、粉をふいたベンチに一人留まっていた。
激務続きで寝る時間も取れていなければ、三食揃ってレーションだった。疲労も眠気も相当で、そのくせ味の濃いものを食べたくて眠れない。
古めかしい木造の待合所は密室のように、杉と、草木の青い甘い匂いが籠っていた。雨足が強く、湿気が肌に膜を張っているようだ。控えめに言っても、睡眠に適さない劣悪な環境だ。そこへひょっこり現れたのが、のっぽの白い悪魔だった。
「今晩は」
ピンクのコウモリ傘片手に、メフィスト・フェレス卿が庇の向こうに立っている。いつ現れたのか分からなかった。雨中を歩いてきたにしては、小綺麗な佇まいだ。魔法でやってきたのだろうか。
「もうとっくにおやつの時間ですよ」
フェレス卿の冗談に、私は座面に寝転がりながら「深夜ですけど」と返した。それに「三時には違いないでしょう」と丁寧な声。次いで、傘を屋内に傾ける仕草。
「チョコとメッフィと快適な寝床をご用意しておりますが、如何でしょう」
まるで読心したかのような好条件に、けれど怪しい単語を聞きつけ私は片手をひらりと振った。
「雨が止むのを待っているんです」
「来週いっぱい雨ですよ。梅雨明けまで待つおつもりで?」
「そうしよ」
言いつつ指を鳴らそうとしたが、鳴らない。眼前に手を持ってきて再度試みるが、出たのは湿気た音だった。
会話が途切れ、惰性で指を擦り続けていると、その手の背後に、傘を降ろしてやってくる白い影がぼんやりと見えた。
「雨宿りさき間違えてますよ」
静かな声に顔を上げると、お手本ですと言わんばかりに手指の形を示してきた。
「アインス、ツヴァイ、」
「ドライ」
ショートショート・三時の雨宿り《了》
激務続きで寝る時間も取れていなければ、三食揃ってレーションだった。疲労も眠気も相当で、そのくせ味の濃いものを食べたくて眠れない。
古めかしい木造の待合所は密室のように、杉と、草木の青い甘い匂いが籠っていた。雨足が強く、湿気が肌に膜を張っているようだ。控えめに言っても、睡眠に適さない劣悪な環境だ。そこへひょっこり現れたのが、のっぽの白い悪魔だった。
「今晩は」
ピンクのコウモリ傘片手に、メフィスト・フェレス卿が庇の向こうに立っている。いつ現れたのか分からなかった。雨中を歩いてきたにしては、小綺麗な佇まいだ。魔法でやってきたのだろうか。
「もうとっくにおやつの時間ですよ」
フェレス卿の冗談に、私は座面に寝転がりながら「深夜ですけど」と返した。それに「三時には違いないでしょう」と丁寧な声。次いで、傘を屋内に傾ける仕草。
「チョコとメッフィと快適な寝床をご用意しておりますが、如何でしょう」
まるで読心したかのような好条件に、けれど怪しい単語を聞きつけ私は片手をひらりと振った。
「雨が止むのを待っているんです」
「来週いっぱい雨ですよ。梅雨明けまで待つおつもりで?」
「そうしよ」
言いつつ指を鳴らそうとしたが、鳴らない。眼前に手を持ってきて再度試みるが、出たのは湿気た音だった。
会話が途切れ、惰性で指を擦り続けていると、その手の背後に、傘を降ろしてやってくる白い影がぼんやりと見えた。
「雨宿りさき間違えてますよ」
静かな声に顔を上げると、お手本ですと言わんばかりに手指の形を示してきた。
「アインス、ツヴァイ、」
「ドライ」
ショートショート・三時の雨宿り《了》