メフィスト・フェレス
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グラスの破片を握り込み、掌を切った。ただの日永の気まぐれに、あの人が遺した記念の品を壊した。
亀裂を増やし、原形を見失った破片が、血混じりの皮膚に刺さって抜けない。念入りに握ったせいだろう、手の惨状は踏み荒らした水溜まりに似た。きっともう元に戻せない、破片の数が合わない。血など乾けば汚れと同じ。
破片は、もともと私が割ったグラスだった。
我が身としては不出来を晒される思いだったが、あの日あの人は嬉しそうにそれを飾った。日の当たる、目に見える場所に、皿に盛って。
「ふふ」
出血の割に痛みはなく、心も不思議と凪いでいた。
もともと私が割って価値のついたグラスだ。それに今、私が追い討ちをかけたところで、何が変わるというのだろう。
血濡れた手に手を重ねて挽いた。ざりざりと擦れる音がするだけで、香りもない。擦り合わす度、砂が落ちる度、あなたの姿が目前に浮かぶ。
「記念って、何がです」
思い起こしては消えていく。ひりつく痛み。
こんなに惨い思い出ばかり、遺していってあなたはずるい。
「うふふ」
こんな思い出に絆される。
笑ってしまう。
ショートショート・幸せにするよ《了》
亀裂を増やし、原形を見失った破片が、血混じりの皮膚に刺さって抜けない。念入りに握ったせいだろう、手の惨状は踏み荒らした水溜まりに似た。きっともう元に戻せない、破片の数が合わない。血など乾けば汚れと同じ。
破片は、もともと私が割ったグラスだった。
我が身としては不出来を晒される思いだったが、あの日あの人は嬉しそうにそれを飾った。日の当たる、目に見える場所に、皿に盛って。
「ふふ」
出血の割に痛みはなく、心も不思議と凪いでいた。
もともと私が割って価値のついたグラスだ。それに今、私が追い討ちをかけたところで、何が変わるというのだろう。
血濡れた手に手を重ねて挽いた。ざりざりと擦れる音がするだけで、香りもない。擦り合わす度、砂が落ちる度、あなたの姿が目前に浮かぶ。
「記念って、何がです」
思い起こしては消えていく。ひりつく痛み。
こんなに惨い思い出ばかり、遺していってあなたはずるい。
「うふふ」
こんな思い出に絆される。
笑ってしまう。
ショートショート・幸せにするよ《了》