メフィスト・フェレス
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温泉街ってあるじゃないですか。ほら、熱海とか草津の……硫黄の香りが湯気と一緒に立ち昇っているところ。
ああいう、景色がぼんやりとした場所でね、旅館が貸出してくれるやわらかい浴衣を着て、湯畑や外湯巡りをするんです。歩きながら、丁度よく疲れて、温もりながら。
あなたといると、いつもそんな感じ。
きっと魔障なんでしょうね……祓魔塾の初日に習うでしょう。悪魔から受ける傷や病。と言うと、切傷や火傷、貧血や心気症なんかを想像してしまうけど。実際そういう苦しい魔障の方が多いんだけど。
あなたのは、ほんのりとね、熱に当てられる感じがする。まるで湯気の中を歩いているみたいに、物の輪郭が開く感じがする。
もちろん四六時中そうってわけじゃない。銃火器や刀剣を扱う祓魔師の職業柄、戦闘中にぼうっとしていたら自分も仲間の命をも危険に晒してしまう。あなたはそれを分かっている。だからあなたは、ふたりきりになったとき、もう用事が無いって時間になってから、私に魔法をかける。
目の端で、何か、チラッと光るんです。その光を合図に考えが纏まらなくなってきて、鳩尾のあたりから、どんどん、身体に力が入らなくなってくる。
かすむ世界で、あなたが優しくしてくれると、やけに幸福な気持ちになる。
そうなる私に、あなたは嬉しそうな顔をして……。
あのね。
私が言いたいのは、だいぶ惚気ちゃいましたけど、惚気なのかな、ともかくその魔障を受ける頻度が最近多いってことですよ。さっきは魔法なんて言っちゃいましたけど、結局のところあれは魔障で、つまり人体に害があるわけじゃないですか。頭では『いい香り』でも体は『死にそう』。リラックス効果は温泉巡りの比じゃないですし、ていうかあれ、神経毒ですよね。
あの、知らないふりやめてくれますか。
私の魔障液の点滴量が日毎に増えていることは、あなた自身が手配を買ってでていますからご存じだと思います。……んー昨日の検診結果はご覧になりましたか。血中魔力濃度の値が平均の二十倍あったんですけど、心当たり、おありですよね。
あそう。初耳ですか。
"怒ってます?" うーん。いや。
神経毒とか二十倍とか言った手前、何ですけど、危機感はあまりなくて。銃の射撃精度は以前と変わりませんし、あなたと離れて禁断症状が出るわけでもないので。でもこの間、戦闘前に高濃度の聖水を浴びたときに頬がピリピリしたんですよね。あれはちょっと、感覚が鈍るから困るかな。
それに普通、悪魔と血縁関係にない一般の方で血中魔力濃度が高いといったら、まず悪魔堕ちを疑われますから、私が心配しているのはむしろそっちです。
昨日の検診もその前も、担当医工騎士があなたの息がかかった人たちばかりだったから静穏に済んだだけで、これが別所……本部の医工騎士だったら即座に拘束でしょう。謂れのない拷問や尋問、挙句の果てに殺されたりなんか、されたくない。単純に困ります。私とあなたの関係を公にしていないのは、そういった面倒を避けるためじゃないですか。これじゃそのうちバレますし、怒る以前に殺されるというか。
……はい。は?
アハハ!
ああごめんなさい笑うところじゃありませんね。
そこは心配していませんよ。
例えば私が、あなたではない悪魔から致命的な魔障を受けて、ゲル状の何かに成り果てたとして。その状態の私と意思疎通ができれば、あなたはきっと今と同じように接してくれるでしょう。歓談しながら瓶にでも詰めて、リボンや花で飾って……私が私でいる限り、あなたは私を放っておかない。この状況が何よりの証拠じゃないですか。
興味関心が無ければ、好きでもなければ、一緒に居たりなんかしませんよ。
あなたも私も。
……"しかし確かに、私は貴方がゲル化したら瓶詰めに"……アッハイ……すみませんそこに食いつくとは思わなくて。あの、はい、経口摂取ですか。いずれは食べるおつもりなんですね。
ところで、そのう、目が据わってますけど、何日眠っていないんですか?
ショートショート・魔障を学する《了》
ああいう、景色がぼんやりとした場所でね、旅館が貸出してくれるやわらかい浴衣を着て、湯畑や外湯巡りをするんです。歩きながら、丁度よく疲れて、温もりながら。
あなたといると、いつもそんな感じ。
きっと魔障なんでしょうね……祓魔塾の初日に習うでしょう。悪魔から受ける傷や病。と言うと、切傷や火傷、貧血や心気症なんかを想像してしまうけど。実際そういう苦しい魔障の方が多いんだけど。
あなたのは、ほんのりとね、熱に当てられる感じがする。まるで湯気の中を歩いているみたいに、物の輪郭が開く感じがする。
もちろん四六時中そうってわけじゃない。銃火器や刀剣を扱う祓魔師の職業柄、戦闘中にぼうっとしていたら自分も仲間の命をも危険に晒してしまう。あなたはそれを分かっている。だからあなたは、ふたりきりになったとき、もう用事が無いって時間になってから、私に魔法をかける。
目の端で、何か、チラッと光るんです。その光を合図に考えが纏まらなくなってきて、鳩尾のあたりから、どんどん、身体に力が入らなくなってくる。
かすむ世界で、あなたが優しくしてくれると、やけに幸福な気持ちになる。
そうなる私に、あなたは嬉しそうな顔をして……。
あのね。
私が言いたいのは、だいぶ惚気ちゃいましたけど、惚気なのかな、ともかくその魔障を受ける頻度が最近多いってことですよ。さっきは魔法なんて言っちゃいましたけど、結局のところあれは魔障で、つまり人体に害があるわけじゃないですか。頭では『いい香り』でも体は『死にそう』。リラックス効果は温泉巡りの比じゃないですし、ていうかあれ、神経毒ですよね。
あの、知らないふりやめてくれますか。
私の魔障液の点滴量が日毎に増えていることは、あなた自身が手配を買ってでていますからご存じだと思います。……んー昨日の検診結果はご覧になりましたか。血中魔力濃度の値が平均の二十倍あったんですけど、心当たり、おありですよね。
あそう。初耳ですか。
"怒ってます?" うーん。いや。
神経毒とか二十倍とか言った手前、何ですけど、危機感はあまりなくて。銃の射撃精度は以前と変わりませんし、あなたと離れて禁断症状が出るわけでもないので。でもこの間、戦闘前に高濃度の聖水を浴びたときに頬がピリピリしたんですよね。あれはちょっと、感覚が鈍るから困るかな。
それに普通、悪魔と血縁関係にない一般の方で血中魔力濃度が高いといったら、まず悪魔堕ちを疑われますから、私が心配しているのはむしろそっちです。
昨日の検診もその前も、担当医工騎士があなたの息がかかった人たちばかりだったから静穏に済んだだけで、これが別所……本部の医工騎士だったら即座に拘束でしょう。謂れのない拷問や尋問、挙句の果てに殺されたりなんか、されたくない。単純に困ります。私とあなたの関係を公にしていないのは、そういった面倒を避けるためじゃないですか。これじゃそのうちバレますし、怒る以前に殺されるというか。
……はい。は?
アハハ!
ああごめんなさい笑うところじゃありませんね。
そこは心配していませんよ。
例えば私が、あなたではない悪魔から致命的な魔障を受けて、ゲル状の何かに成り果てたとして。その状態の私と意思疎通ができれば、あなたはきっと今と同じように接してくれるでしょう。歓談しながら瓶にでも詰めて、リボンや花で飾って……私が私でいる限り、あなたは私を放っておかない。この状況が何よりの証拠じゃないですか。
興味関心が無ければ、好きでもなければ、一緒に居たりなんかしませんよ。
あなたも私も。
……"しかし確かに、私は貴方がゲル化したら瓶詰めに"……アッハイ……すみませんそこに食いつくとは思わなくて。あの、はい、経口摂取ですか。いずれは食べるおつもりなんですね。
ところで、そのう、目が据わってますけど、何日眠っていないんですか?
ショートショート・魔障を学する《了》