申し子達に安らぎを
「ヴィル〜頼まれてたの持ってきたよ」
「ありがとう。わざわざ城に来てもらってごめんね」
平日の午後。執務室で絶賛仕事中のヴィルヘルムは、レイの姿に一息つく。
「ついでにちょっと見てもらえる? ここの文なんだけど……」
「ふむふむ」
二人並んでスマパッドと睨めっこしている様子を、同じく仕事中だったエレナは凝視する。
「ありがとうレイ。これで提出するよ」
「どういたしまして! ……ところで、エレナちゃんどうしたの? ずっとこっち見てるけど……」
「ああ、すみません。……今日は一段と荷物が多いですね、レイさん」
レイは肩から提げている鞄の他に、何やら厚みがある紙袋を抱えていた。
「さっき本屋さんに寄って、雑誌を買ってきたんだ。この世界の雑誌も面白くて参考になるからね」
「……随分沢山買ったんだね」
苦笑するヴィルヘルムの隣で、レイは購入した雑誌をテーブルに並べる。
「わあ、ジャンルバラバラですね」
「どれが話のタネになるか分からないしね」
「ファッション雑誌も読まれるのですか?」
「必読だね! トレンドとか押さえておくと、初対面の人でもお話しやすくなるから毎月読むよ」
(手慣れていらっしゃる……)
「これ全部同じ店? よくレジに持っていけるよね、流石だよ」
「褒めてる⁇」
エレナがファッション雑誌をぺらぺら捲っているのに対し、ヴィルヘルムは旅行雑誌を手に取る。
たまたま開いたページを見つめていると、横からレイに覗き込まれた。
「ヴィル『温泉』に興味あるの?」
それは王都から離れた位置にある旅館の紹介ページだった。ヴィルヘルムは目線を雑誌に向けたまま、「まあ」と曖昧に返す。
「僕も行きたいな〜。一緒に行こうよヴィル」
「でも城を離れるわけには……」
「何も丸々一日って言ってるわけじゃないよ。夕方ぐらいに行って一泊するでもいいじゃん。ねっ?」
と、レイが視線を向けたのはエレナ。
「エレナちゃんだって行きたいよね?」
「ぜひご一緒させてください!」
「ほら、部下がこう言ってるんだから叶えてあげなよ〜」
レイとエレナの『眼差し』にめっぽう弱いヴィルヘルムも唸るほかない。
「……じゃあ行こうか」
「いえーい! 行こ行こ!」
「楽しみですっ!」
勤務中だというのも忘れてはしゃぐ二人に呆れつつも、密かに笑みを浮かべるヴィルヘルム――だったが。
遠出当日。人目を避けるように城を出発。待ち合わせ場所でレイと落ち合った二人は、互いに目を丸くする。
待ち合わせ場所にいたのは、レイだけではなかったのだ。
「良かったら一緒にと誘われた……のだが」
国の宰相、マスターにヴィルヘルムは笑みで返すも。レイの左右に立つ人物らには警戒心を剥き出しに。
「ンな無言で睨むなって。ちゃんと誘われて来てンだからなァ」
「まあクレイジーさんは僕とマスターさんの会話に割り込んできた感じだったけど」
「ほれみろ。勝手に勘違いした挙句のこのこついて来た馬鹿、レイに触るな、離れろ、あっち行けシッシッ」
クレイジーの肘置きにされているレイは、ヴィルヘルムの――相変わらずなクレイジー嫌いに苦笑をこぼす。
そこに、もう、と眉を逆立てたエレナが注意する。
「駄目ですよクレイジーさん。幾ら高身長だといえ、肘置きにするのは嫌がられますよ」
「……今余計な傷を負った気がする」
「低身長」
「一般的な身長です」
嘲笑うクレイジーを前に、溢れんばかりの殺意を宿すヴィルヘルム。
もう一度エレナから注意を受けると、「へいへい」と肘を離す。
「……ねえ、いつまでくだらないことしてるの?」
一連のやり取りを終始真顔で傍観していたラフェルトが、ようやく口を挟んだ。同じく見守っていたマスターも時刻を確認。
「色々思うことはあると思うが、そろそろ出発しないと」
「……そうですね」
そう嗜められればヴィルヘルムも落ち着きを取り戻し、一同は旅館へと向かう。