閉架書庫入り口
凛と輝く光が美しい月夜の晩。
マリオとカービィの二人は、揃ってヴィルヘルムの自室を訪れた。
「おーい、ヴィルー」
「あそぼうよ〜」
扉をノックするも返事はなし。耳を充てがい中の様子を伺ったマリオは、ははんと顎に指を添える。
「こりゃあ、執務室でまだ仕事してるな」
「むっ、それはいけないね。呼びに行こ!」
ヴィルヘルムがマネージャー業務を行う執務室は、彼の自室とは異なる階にある。
階段を伝って執務室に向かう途中、二人は宰相マスターに遭遇する。
「あ、マスター!」
――どうやらマスターは一般兵と話している最中だったらしい。
こちらに気づいたマスターは早々に兵士と別れ、二人のもとへ。
「私に何か用か?」
「用って訳じゃねぇんだけど……ヴィルを知らないか?」
ヴィルヘルムの名に、マスターは「ああ……」と眉を曲げる。
「すまない。ヴィルは今仕事中でね。今夜は会えそうにないんだ」
「仕事? 珍しいな、マスターが止めないなんて」
普段なら実親よりも手厳しく、ヴィルヘルムが残業するのを止めるマスター(だが結局マスターが折れてしまうが)。
マリオも時折お願いされては強制的に仕事を終わらせる身であるからか、まるで見過ごしているような彼の行動は意外だった。
「ヴィルにしかできない仕事だから、止めるにも止められないんだ」
「そっか〜……じゃあまた明日かな」
悲しむカービィにすまないねと返し、マスターは二人のもとから離れる。
「それなら仕方ない、か……」
一縷の希望さえ与えない、堅牢な鉄の柱が並ぶ――城の地下牢。
何重もの扉を潜り抜けた最奥に位置するのは、捕えた罪人の『口を割らせる』道具が揃う【拷問部屋】。
そこに今宵招かれた咎人と、
それでも口を割らないゆえ、ヴィルヘルムは呼ばれた。
まずは普通に問いかける。――男は嗤うだけ。
ならば仕方ない。
『いつも通り』やろう。
四肢を重く冷たい枷で繋がれた男の体に蹴りを入れ、床に叩きつける。
そして振り上げた《ルミナスクロス》を振り翳せば――赤黒い血飛沫が宙を舞う。
返り血を浴びても微動だにせず、咎人の耳を劈くような悲鳴が虚しく響き渡る。
数秒、はたまた数分か。ヴィルヘルムの
安堵した直後――再演する『
そしてまた回復の、繰り返し。
男はのたうち回ることも、身を守ることも、はたまた死ぬことすら許されず。ループする幸せと痛み。
幾度も――彼岸花のような毒々しい花をその身に浴び、ヴィルヘルムの体も紅く色づく。
鉄の匂いが、むせ返るほど部屋に充満する頃。
聞きたいことだけ尋ねたヴィルヘルムは、惨状をそのままに部屋を立ち去る。後処理は彼の仕事ではない。
明日もまた、望まぬ光を浴びるために。