ヴィル・クロニクル


 君の語り部はかく語りき、

 絶望は巡る。希望とともに。
 『真の絶望』とは、絶望と希望が織り成す螺旋を永遠に断ち切られることなのだ。
 さあ、絶望(きみ)に口付けを。
 絶望(きみ)に手向けの花を。
 歩き続ける絶望(きみ)の想いが。いつの日か、報われんことを。心から願う。

 ──クロステイル、著者の語り出しから引用。



【Once Upon A Time】



 男の主(あるじ)は今。ぶつり、ぶつりと糸が引きちぎられる音を鳴らして、男の双眸にぼとり、と胴体が真っ二つにちぎられ、落下してきた。
 渾々と涙を流す男に、心の臓に剣を突き立てられたままの少年(あるじ)が僅かに唇を震わせる。

 ──ごめんなさい。

 糸の切れた人形のように、ぴくりともしなかった体に力が漲る。
 視界を朱色に染め上げたまま、男は剣を支えに立ち上がる。
 発狂じみた高笑をあげる仇に、自決覚悟の突進を敢行した。
 自分の片目と片腕は潰され、上体の至る箇所は穴だらけ。まともに動かせるのは聞き手の右手と脚のみ。
 ならば、この命に変えてでも。あの者に一矢向いなければ。
 部下の命も、民の命も。そして、護らなければならなかった主君の命のためにも。
 男は……、私は……。


 男の名は、『アダム・アトリーズ』。
 世界の中心で最も栄える『クロイツ王国』に所属する騎士。
 これは、そんな彼が仕えた王子との日々を綴ったモノガタリ。
 王子の誕生から王国滅亡までの──序章(プロローグ)である。

1/1ページ