ここではただの…


 数ヶ月前──。
 ヴィルヘルムが手配してくれた真新しい事務所兼自室での暮らしにも慣れた頃。

「ま〜た今日もシチュー希望⁇ フェル君、どんだけシチュー好きなの?」
「君には関係ないじゃん」

 嘆息を交えながらシチューに使用する材料を準備しているところに、チャイム音が鳴り響く。夕飯時に誰だろうかと不思議に思いつつ、レイが「はーいっ」と扉を開ければ、そこには仕事を終えたヴィルヘルムが佇んでいた。

「あれ、ヴィル君じゃん。こんな時間にどうしたの?」
「連絡もしないで来てごめんね。これ、レイ君に渡したくて」

 と、差し出されたのは少しお高めの菓子折り。貰いものなのだが自分では無駄にしてしまうと思い、レイへ渡しに訪れたという。

「えー! ありがとうね!」
「ううん、いつもお世話になってるし……」
「あっ! 良かったらこのまま上がってく? お菓子の感想聞いておいたほうがいいでしょ⁇」

 贈ってきた相手に感謝を伝えるためにも味の感想は必要。ヴィルヘルムは遠慮がちに、中へと足を踏み入れた。

「あれ……もしかして今、ご飯作っていたところだった?」

 キッチンを一瞥した彼にレイは「そうだよー」と返す。

「だからお菓子いただくのはご飯食べてからでもいいかな?」
「もちろん大丈夫だよ」
「ありがとう」
「もしだったら僕も手伝うよ」

 ヴィルヘルムの申し出にレイは数秒間戸惑う。彼の紅茶を淹れるスキルは他者よりずば抜けていると知っているが、料理はまた別。

(でも皮剥きぐらいなら出来るよね)

 と、考えたレイはヴィルヘルムの申し出を承諾。今し方洗った野菜の皮を剥いてほしいと頼んだのだが──。

「あ。」
「ぎゃーーーー‼︎‼︎ 何してるの⁉︎⁉︎」

 開始早々指を切るハプニングが発生。その後も、皮の厚さが野菜より多かったりするなど、明らかに“不向き”だと発覚。
 あの頃より絆が深まった今では、レイはヴィルに食材を洗うもしくは食器洗いを頼むだけとなったのだ。

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