ここではただの…


(もう、私の馬鹿馬鹿〜‼︎ 今頃になって今日中に提出の書類を出し忘れたことに気付くなんてー‼︎)

 冒頭から慌ただしく思考するエレナは、上司であるヴィルヘルムの姿を求めて『アルス王城』の廊下を駆け上がっていた。向かうは、ヴィルヘルムの自室。本日珍しく早上がりした彼には申し訳ないが、この書類だけは急ぎ確認してもらわなければならない。肩で息をしながら上層階へ辿り着いたエレナを、「おや?」と見つけたのは宰相のマスター。

「エレナ、どうかしたのか? もう終業時間の筈だが……」
「あ、マスター様……。ええと、その、ヴィル様に提出するはずの資料を渡し忘れてしまって……」

 素直に事情を打ち明ければ、マスターは握り拳を顎に添えつつ「そうか」と眉根を寄せる。

「だが、ヴィルは今日城には居ないぞ」
「え……ええっ⁉︎」
「彼のスケジュールを確認するといい」

 マスターの言葉に急ぎ《エレパッド》でヴィルヘルムのスケジュールを確認したエレナから、「あっ……」と声がもれる。画面に映し出されていたのは“外泊”という二文字。

「急ぎであればヴィルの元へ向かうといい。そのほうが、あの子も助かるだろう」
「で、ですが、旅行中に仕事を持ち込むのは……それに何処にいらっしゃるか不明ですし……」
「……ああ、そうか。君は知らなかったのだな」

 小さく笑みをこぼすマスターは、小首を傾げたエレナに告げる。

「あの子は、何処かに外泊するときは必ず行き先を記載しておく。万が一が発生したときに、即時対応出来るようにな。だが、書いてない時は城の近くにいるということだ」
「えっと……つまり?」

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