閉架書庫入り口


 つまらなかった俺の人生だが、たった一度だけ刺激があった。
 ……アイツ。今どうしてるんだかなぁ。



「……そろそろ売りどきか」

 薄暗い自室の棚を前に、そう月海は息を吐く。
 仕事が忙しい親がせめてもの償いに買っていくゲームは溜まりに溜まり、棚から溢れ出てしまうほどだった。
 お金に困ってはいないが、どうせ手放すなら。そう考えた月海はいくつかのゲームを見繕い、近くの電化製品店へと赴く。

「鑑定終了まで店内でお待ちください」

 売りに出した月海は鑑定が終わるまで、店内を歩き回ることになった。そうなれば必然的に足を向けるのはゲームコーナー。何か良さげなゲームでもないかとパッケージを見ていたところ、同じ年齢ぐらいの少年がじっくりとゲームを選別していることに気づいた。
 何気なく少年の動きを観察していると、ゲームを手にしては値段を見て肩を落とすのを繰り返している。月海は沸々と怒りが湧いてくる感覚に見舞われた。

「おい、あんた」
「え?」

 つい話しかけてしまったことに自分でも驚きながら、月海は少年にゲーマーとしての在り方を伝えた。

「ゲームに値段は関係ない。高い値段でも悪かったりするし、安い値段でも良いゲームだったりする。そう値段を見て判断するな」

 月海の言葉に少年はぽかーんと口を開けてしまう。
 熱くなっていた月海も途端に恥ずかしくなり、ごめんと謝った。

「い、いや、大丈夫だよ。そのとおりだと思うし……」
「本当に悪い」
「いいって。……あ、じゃあせっかくならオススメのゲーム教えてくれよ! 出来ればこの予算内で……」

 その“予算”は月海にとって少ない額ではあったが、大事に使おうとしているのは伺え、益々罪悪感が増す。
 ならばと月海は少年の要望に応じ、予算内で自身がプレイして良かったと思ったゲームを勧めた。
 少年の会計が終わるも、未だ月海の鑑定には時間がかかっていた。その場の雰囲気とやらで少年と話し始める月海。

「そーいやお前、名前は?」
「俺? 俺は“翔太”。そっちは?」
「月海だ」
「るう? 聞き慣れない名前だな……」
「よく言われるよ」

 翔太と名乗った少年は月海の鑑定が終わるまで話し相手になってくれた。

「へえ〜、翔太は隣町から来たのか」
「ああ。こっちのほうが安くゲームが買えるって聞いてな」
「ふぅん。なんか大変なんだな」
「1円の為なら隣町に行くぐらい安いってもんよ」

 話の流れで何となく察していたが、翔太の家庭はどうやら恵まれていないらしい。それでも、当の本人は心から楽しんでいて……月海にはそれが眩しかった。

「お待たせしましたー、買取札17番の方〜」
「あ、俺だ。ちょっと行ってくる」
「おう」

 無事に買取を済ませた月海は翔太とともに店を後にし、自転車に跨る少年を見送る。

「付き合ってくれてありがとな、月海」
「それはこっちの台詞だ。……また会えるといいな」
「ああ! んじゃあな〜」

 ペダルを踏み隣町へと帰ってゆく翔太の背を名残惜しそうに見守る。

「……帰るか」

 また会えることを願うも。その願いは果たされることなく、月海は異世界へと転生した。
 しかしながら月海は知らなかった。
 この七年後。翔太もまた、別人として異世界に転生したことを──。

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