閉架書庫入り口
桜咲く麗らかな春の陽気に包まれ、久方ぶりの制服に袖を通す。
「行ってきまーす」
「いってらっしゃい、翔太」
母より先に家を出た佐藤翔太は、今日から高校最後の年を迎えることとなる。
慣れた道を歩くこと数分。多くの生徒で賑わう校舎近くに貼られているクラス表を確認し、昇降口へ。
「おーっす、翔太」
「はよ〜」
「おはよう。また同じクラスだったな」
付き合いの長い友人らと談笑しながら時間を潰し、いよいよ新学期恒例の集会が始まる。
眠気を抑えつつ話を聞き終え教室へ帰れば、もう解散の時間。
「じゃ、気をつけて帰れよー」
三年生となれば帰りのHRもサクッと終わり、皆が一斉に席を立つ。
がやがやと話し声が聞こえる中、自分も帰ろうとした翔太は担任に引き留められた。
「佐藤、今日この後時間あるか?」
「? あ、はい。あります」
自分の知らぬところで悪さをしたのかと思わず疑ってしまったが、担任は封筒を翔太に手渡す。
「××病院にいる『――』に、これを渡してほしいんだ。……頼めるか?」
控えめに尋ねた担任の意図を、翔太は何となく察した。
なぜならその病院は、翔太の父が搬送され――亡くなった場所。通っていたとはいえ、良い思い出はないが。
「はい、分かりました。ナースの方に渡せばいいですか?」
封筒を受け取った翔太に、担任はホッとしながら「助かる」と頷く。
「悪いな」
「いえ。それじゃあ、さようなら先生」
封筒を鞄に収めた翔太は、
(『――』さんって確か、クラス名簿に載ってたよな。……病院に入院でもしたのか)
バスに揺られながら数分。病院に到着した翔太は、迷いなく階を上がってナースステーションへ。
「あの、すみません」
「はいはい」
ナースのひとりに事情を話せばすぐに理解を示し、「わざわざありがとう」と謝辞を述べられる。
「じゃあこれを……」
「もし良かったら、直接渡してあげてくれないかな。部屋まで案内するから」
と、お願いするナースの表情は憂いを帯びており、翔太は目を丸くしながらも承諾。
ナースに案内された病室の扉を開けば――ふわりと舞う桜の花びら。
「『――』ちゃん、同じクラスの子が荷物を届けに来てくれたよ」
開けた窓枠に手を置き、咲き誇る桜を眺めていた少女がこちらへと振り向く。
「ありがとうございますっ。佐藤くん」
「あれ、なんで知ってるの?」
「一年の時同じクラスだった方の顔は覚えていますよ。……あっ、挨拶が遅れました」
黒に近い茶髪を翻した少女は笑みを浮かべて。
「改めまして、私の名前は――」
「――ッ⁉︎」
「あ、起きた」
酷い胸騒ぎとともに飛び起きたクロヴィスは、未だ止まぬ動悸に目を白黒させつつ、ベッド傍に座るラフェルトを見遣る。
「どうだった? “昔”の夢は」
目を細めるラフェルトを睥睨し、吐き捨てるように答えた。
「最悪に決まってるだろ」