閉架書庫入り口
『誰か助ッ……あああああああああッッッ⁉︎⁉︎』
城内に轟く絶叫に、付近を通りかかったエリライアはうるさいと言いたげに目を細める。
次には、ブシャッ! と果物を握りつぶしたかのような音とともに。僅かに開いた扉の隙間から鮮血がもれた。
『エリライア』
「はーい」
部屋の主たる男に呼ばれ、扉を開ける。
「いかがされましたか、陛下」
と、主たるクレイジーに会釈するも。内心では呼び止められた理由を理解していたが為に、密かに嘆息していた。
「私は少し部屋を留守にする。それまで、『アレ』を処理しておきたまえ。君の自由にするといい」
そうクレイジーは血どろみを踏み歩き、鼻が曲がるほどの異臭漂う自室から颯爽と退室する。
「承りました。クレイジー陛下」
にこりと微笑んで見送ったエリライアだったが、足音が充分に離れるとふっと笑みを消した。
(食材は食材でも、誰が他人に犯された食材を好みますか)
ベッドに放置された胴体のみの女性に、エリライアは蔑んだ眼差しを送る。自由にしろ=好きに調理しろ、という意味合いであろうが。エリライアにとって、事後直後の肉体の調理は不愉快も不愉快だった。
(ベッドを綺麗にしておかないとうるさいですし、そこら辺のモンスターにでも喰わせておきましょう)
ぱちんっと指を鳴らした直後、女性の死体がその場から消え、残った血はみるみるうちに消滅していく。
魔術師の力であっという間に部屋を元通りにしたエリライアは、さっさと部屋から立ち去る。
今度は自分が、獲物を捕まえる番だ。