閉架書庫入り口
時刻は夜半少し前――の、『もみじ荘』。
一日の汚れを熱めのシャワーで洗い流し部屋着のスウェットに着替えたクロヴィスは、ぼちぼち寝ようかとベッドに向かう。
部屋の電気を落とせば、室内の闇を月明かりが照らして――響くは下からの叫び声。
「……はぁ」
就寝時間は延長。ベッドから玄関へと方向を変え、サンダルに履き替える。
「レイ、まだ起きてんのか」
「あっクロ君!」
下の階に降りたクロヴィスは叫び声の出所である、レイの部屋の玄関を覗く。
返事があったので中へと入れば、飛び込んできた光景――ベッドのフレーム部分にしがみつくエルを引き剥がそうとしているレイ――に目を細める。
「……何、してんだ」
一時的に諦めたレイの手が離れた隙に、エルは布団を捲り中に籠る。
「それがね……」
レイは苦笑をこぼしつつ、クロヴィスに訳を説明。
「エルちゃん、お風呂に入りたがらないんだよ。汚れないとはいってもその……あるじゃん?」
「あー、コイツも水苦手なんだっけ。ラフェルトと一緒で」
「うるさいわよちんちくりん」
布団から顔だけ覗かせるエルに肩をすくめる。
「……猫のほうがまだ可愛げがあるな」
「なんですって?」
「な、なにも湯船とシャワーどっちもしろって言ってるんじゃないんだよー。片方だけでもいいから入ってみて! さっぱりするし、ね?」
エルは唇を尖らせていたが、やがて渋々といった具合に布団を抜け出す。
「溺れるかもしれないから、ちゃんと見てなさい」
「僕んちの湯船溺れるほど広くないよ⁉︎」
(三角座りでやっと入れるぐらいだしな)
何はともあれ問題は解決した。これなら安眠できるはず。
静かに退室したクロヴィスが玄関の扉を閉めた。次の瞬間。
『ぎゃーーーーーッッ‼︎』
中から再び轟く悲鳴に。クロヴィスは両手で顔を覆った。