申し子達に安らぎを
部屋に戻るとお布団が敷き詰められており、レイとエレナは揃って目を輝かせる。
「うわー! 凄い凄い! まるで修学旅行の夜みたい(未経験)‼︎」
「恋バナとかしましょうよ〜」
「地獄の空気にしかならンだろ」
あからさまに顔を歪めたクレイジーを華麗にスルーし、「そう言えば」と窓からの景色を見つめていたラフェルトの背に問う。
「フェルって、好きな異性のタイプとかいるの?」
「いせいのたいぷ」
振り向いたラフェルトは、初めて耳にしたと言わんばかりに眉を顰める。
「……女も男も
咄嗟にエレナの耳を塞いであげたのは正解だったようだ。
そんな彼らのやり取りを、ヴィルヘルムとマスターは遠目から見つめていた。
「数時間前まで普通に仕事をしていたとは思えん元気の良さだな」
「あの二人はいつもあんな感じですよ」
と、答えるヴィルヘルムの横顔はいつになく柔らかい。ひっそりと楽しみにしていたことが伺える。
マスターは目尻を下げ、部屋の隅に置かれていた『あるもの』を見せた。
「ヴィル、せっかくの機会だ。ひとつ勝負をしよう」
それは将棋を遊ぶための一式だった。あまり触れ合う機会はないといえ、それなりに自信はある。
「お手柔らかにお願いします」
――ヴィルヘルムは思う。
人間のそれなりと、神様のそれなりは、大きく異なるものであったことを。
頬を膨らませるヴィルヘルムと、それを宥めるマスター。彼らに、「はい」と枕を渡したのはレイだ。
「……何これ?」
「一人一個枕持ったねー? じゃあ、第一回枕投げはっじめるよ〜!」
「枕投げってな――」
言い切る前に。ヴィルヘルムの顔面を枕が直撃。
隣のマスターは唖然と見つめ、投げた犯人のクレイジーはヒュウっと口笛を鳴らす。
「はい俺一点〜、お前マイナスな」
緩慢とした動きで、足元に落ちた枕を拾う。
ヴィルヘルムは暫く俯いていたが、やがてあからさまにプルプルと体を震わせ――鬼の形相で枕を光速一球。
「遅ぇ遅ぇ! その程度で俺の首を取れると思ってんじゃねぇよな⁉︎」
「当たり前でしょこの雑巾ッ! ここからが本番! 今のは練習‼︎」
前髪を掻き上げる破壊神の挑発に対し、王子は子供の如く躍起になっては枕を投げつける。
「あーッ! 障子がーッ‼︎」
「あとで私が直すからいいさ。さあ、続けよう。行くよ」
創造神は悪戯っ子のように歯を見せれば、剣の子は枕を盾に笑い声を上げる。
「皆さん凄いですね! 私も負けていられませんっ。加勢いたします!」
「……変なの」
少女が投げた枕は放物線を描きあらぬ方向へ飛び、隣の大罪人は小さな笑みを浮かべる。
男か女か。人間か人間じゃないか。
なんて問題は矮小なこと。
今、この瞬間だけは――全てを忘れて遊ぼうよ。
それこそ、彼らが選び掴んだ、ひとつの『結末』なのだから。
あれから数日――。
自身が部長を務める部室が賑わっていることを不思議に思いながら、ヴィルヘルムは扉を開けた。
「あっ、お帰りヴィル」
「お帰りなさいませ!」
「ただいま。……何を騒いでたの?」
中ではレイとエレナが、ホワイトボードの前でにこやかに談笑していた。
よく見れば、ホワイトボードには何やら沢山の写真が貼られている。
「この写真……この前行った温泉の?」
「そう! 現像してきたんだ」
「いつの間に……」
この際隠し撮り云々は置いといて。ヴィルヘルムも、レイが撮影したであろう写真を眺める。
「幾つか頂いてもいいですか?」
「もちろん! ヴィルも欲しいのあったらもってっていいからね」
「……せっかくだし、一枚貰おうかな」
そう手に取ったのは、あの枕投げの写真。
奇跡的に全員が写った一枚だ。
永遠なんてないけれど。
少なくとも
「また遊びに行きましょうね」
「……うん。そうだね」