申し子達に安らぎを
(気持ちいい……)
悠々と手足を伸ばしてはその心地よさにほっと息をつく。
エレナは一人、もはや貸切状態の女湯を堪能していた。板を挟んだ向こう側――男湯から漏れ出る騒ぎ声に、時折くすくすと笑みをこぼす。
(いつかザクロさんとテルルさんとも来てみたいなぁ……)
『この世界』に来てから出来た友人の姿を思い浮かべ、エレナは大きな岩に背を凭れた。
しかし、次の瞬間。
『きゃあああああああああ‼︎‼︎』
「うるさ」
「エレナ⁉︎」
女湯より飛来した絹を切り裂くような悲鳴にラフェルトは耳を塞ぎ、ヴィルヘルムは水飛沫を立てて立ち上がる。
「なになに? 湯煙殺人事件でも勃発した?」
「なら副業探偵本業記者とやらの出番じゃねーか」
「本日の営業は終了いたしました」
「……人を呼んだほうがいいか?」
マスターの声掛けに『大丈夫です!』とは返ってくるも、僅かに上擦っている。
『この程度で人を呼ぶのは――いやああああこないでえええええ‼︎‼︎』
「え、なに、本当に何が起きてるの⁇」
エレナの絶叫と共に激しく打ち上がる水飛沫の音に、ヴィルヘルムは困惑。
「えーヴィル分かんないの? きっと虫が出たんだよ、多分ゴ」
『やああああああああ‼︎‼︎ ……はあっ、ふう〜』
「あ。退治したっぽい」
「……なにで?」
『すみませんお騒がせしました。ではお先に上がらせていただきます』
切り替えの速さに――顔を見合わせては沈黙する男性陣。
恐らく彼女は、怒らせたらヤバいタイプだ。
「あっエレナちゃん」
一足先に館内着(浴衣)へと着替え、湯冷しに牛乳瓶を飲んでいたエレナのところに、レイとクレイジーが合流した。
「他の皆さんは?」
「まだ髪の毛乾かしてるよ。マスターさんの髪長いから乾きにくいみたい」
「なるほど……クレイジーさんも同じぐらいの長さですよね?」
「俺は熱風で乾かすなンて面倒なマネはしねぇ」
「凄いんだよ! クレイジーさん、破壊の力を使って一瞬で髪の毛乾かしてくれたんだ」
「便利ですね」
「下手したら首無しになってただろうがな」
温度差の落差が酷い。
三人揃って牛乳瓶を煽っている同時刻。男湯の脱衣所では、ごうごうとドライヤーの音が響く。
「あーヴィル、ちょっと熱いのだが……」
「我慢してください」
鏡台の前に座るマスターの髪を、ヴィルヘルムがドライヤーで乾かしていた。
ラフェルトは竹網のベンチに足を揺らしながら座っている。
「もう一つ使えばいいのに」
「発火する」