"王"の名を継ぐ者
※このお話は『登場人物紹介』を一読の上での閲覧をお勧めいたします。
※時系列としては『名前変換小説』のちょっと前ぐらいになるかも…?
「ヴィル」
「はい。マスター様」
夜の帳も下り切った時間帯の、マスターの自室。
部屋の主たるマスターは、こちらの声掛けに応じ読み耽っていた書物から顔を上げるヴィルヘルムに告げる。
「一つ、君に提案がある。王国のこれからについてだ」
「……!」
机に肘を立て顎に手を添えるマスターの眼差しを受け、ヴィルヘルムは書物を机に。真剣な面持ちで耳を傾ける。
「君と出会った『あの日』から約六百年。私達は『具現化計画』という一つの段階を踏んだにすぎない。これから先、ここ『アルスハイツ王国』をどう未来へ繋ぐべきか……それを、私なりに考えてみたのだよ」
「……マスター様は、どのようにお考えなのでしょう」
言い淀むように一瞬視線を逸らすも――いっそ攻撃的なまでに目付きを鋭くさせ、答えた。
「元『クロイツ王国』王子、ヴィルヘルム・クロイツ。――君が"王"となり、皆を導くことだ」
言葉を失った。
まさしく天地がひっくり返っても耳にしない言葉を言われたが為に。ヴィルヘルムの頭は『虚空の霧』のような濃霧に包まれる。
「お待ちくださいマスター様! 僕は……」
「ヴィル。君だって、薄々気づいているはずだ。この国……いや『この世界』に今必要なのは、明確な統治者であることを」
『アルスハイツ王国』外――かつて『虚空の霧』に侵食されていた地は、『具現化計画』によって生み出されたファイター達の世界 の一部が投影されている。
それらのエリアで暮らす人々は皆、マスターの技術を以って記憶を改竄。『アルスハイツ王国』の指揮下におかれていることになっている。
が、世界が違えばそこで暮らす人々の価値観も異なる。いずれは至る所で、多種族との交戦が勃発するであろう。
「だからこそ仮初の王ではなく、『本物の王』が必要となってくる」
「であれば、マスター様のほうが相応しい」
「私では駄目だ」
ヴィルヘルムは努めて平然を取り繕うも、動揺が透けて見える。
彼は知っているのだ。
元王子だからこそ、"王"という存在がいかに重要で、世界に多大な影響を与えることを。
元王子だからこそ、王子 を含めた『王族』が、いかに無力なのかを。
"王"という肩書きだけで皆の命を救えるなら、喜んで引き受けたのだろうか。
「"王"とは、民を導く絶対的な光……僕の『光』は、そんな高尚なものではありません。絶望と復讐心に塗れる穢れた光が導くのは破滅です」
「……」
「僕にはお受けできません」
マスターは少しして、「分かった」と瞑目。
「ただ、今ここで出した結論を聞くつもりはない。……ゆっくり考えてみてほしい」
「……分かりました」
※時系列としては『名前変換小説』のちょっと前ぐらいになるかも…?
「ヴィル」
「はい。マスター様」
夜の帳も下り切った時間帯の、マスターの自室。
部屋の主たるマスターは、こちらの声掛けに応じ読み耽っていた書物から顔を上げるヴィルヘルムに告げる。
「一つ、君に提案がある。王国のこれからについてだ」
「……!」
机に肘を立て顎に手を添えるマスターの眼差しを受け、ヴィルヘルムは書物を机に。真剣な面持ちで耳を傾ける。
「君と出会った『あの日』から約六百年。私達は『具現化計画』という一つの段階を踏んだにすぎない。これから先、ここ『アルスハイツ王国』をどう未来へ繋ぐべきか……それを、私なりに考えてみたのだよ」
「……マスター様は、どのようにお考えなのでしょう」
言い淀むように一瞬視線を逸らすも――いっそ攻撃的なまでに目付きを鋭くさせ、答えた。
「元『クロイツ王国』王子、ヴィルヘルム・クロイツ。――君が"王"となり、皆を導くことだ」
言葉を失った。
まさしく天地がひっくり返っても耳にしない言葉を言われたが為に。ヴィルヘルムの頭は『虚空の霧』のような濃霧に包まれる。
「お待ちくださいマスター様! 僕は……」
「ヴィル。君だって、薄々気づいているはずだ。この国……いや『この世界』に今必要なのは、明確な統治者であることを」
『アルスハイツ王国』外――かつて『虚空の霧』に侵食されていた地は、『具現化計画』によって生み出されたファイター達の
それらのエリアで暮らす人々は皆、マスターの技術を以って記憶を改竄。『アルスハイツ王国』の指揮下におかれていることになっている。
が、世界が違えばそこで暮らす人々の価値観も異なる。いずれは至る所で、多種族との交戦が勃発するであろう。
「だからこそ仮初の王ではなく、『本物の王』が必要となってくる」
「であれば、マスター様のほうが相応しい」
「私では駄目だ」
ヴィルヘルムは努めて平然を取り繕うも、動揺が透けて見える。
彼は知っているのだ。
元王子だからこそ、"王"という存在がいかに重要で、世界に多大な影響を与えることを。
元王子だからこそ、
"王"という肩書きだけで皆の命を救えるなら、喜んで引き受けたのだろうか。
「"王"とは、民を導く絶対的な光……僕の『光』は、そんな高尚なものではありません。絶望と復讐心に塗れる穢れた光が導くのは破滅です」
「……」
「僕にはお受けできません」
マスターは少しして、「分かった」と瞑目。
「ただ、今ここで出した結論を聞くつもりはない。……ゆっくり考えてみてほしい」
「……分かりました」