2:お仕事開始
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「朝礼は『大乱闘』休止日以外、毎日朝食前に行う」
執務室からどこかへと移動するヴィルヘルムを追従する。
「朝食時間は全員が食堂に集まるから、そこで説明しておくのが一番いいんだ」
「では、今向かっているのは……」
「うん、食堂だよ。ちょっと早いけどね」
「おーいっ、ヴィル〜」
片手をひらひらと揺らしながらこちらに向かってくる人物らに、エレナは瞬く間に思考停止。
「おはようマリオ、カービィ」
「おはよー!」
「今日は珍しく目が覚めてるようだね」
「なんだかステキな日になりそうって思ったんだー」
「そんなことより、そちらは?」
マリオとカービィの視線が自身へと向き、エレナははっと意識を取り戻す。
「彼女はエレナ。これから第二マネージャーとしてみんなの補佐に入ってもらうことになった」
「よろしくお願いします……!」
辿々しく会釈するも、二人――内のマリオは、はち切れんばかりに目を見開く。
「あんだけマスターから言われても頑なに部下を取ろうとしなかったお前が⁉︎」
「……それ、昨日マスター様にも言われた」
「何で突然取る気になったんだ?」
それはエレナ自身も気になっていたことだ。何せ面接の際、『自分は絶対に落ちた』と思ったほど自信はなかったから。
ヴィルヘルムはエレナを一瞥すると、小さな嘆息を溢して語る。
「……前々から部下のことは考えていたけど、『大乱闘』が国を揺るがすほど人気になった今。部下に志願する人物は慎重に選出する必要があった。……みんなのこと、余計な部分で困らせたくないし」
マリオとカービィは嬉しそうに笑えば、ヴィルヘルムもまた笑みを返す。
「エレナのことを採用したのは、面接の時にみんなのことが好きなのか嫌いなのか、判断出来なかったからなんだ」
「面接……? あ。」
――完結にお答えください。……『大乱闘』は好きですか?
(あの質問って、そういう意味だったんだ)
突然なんだと思ったが、ヴィルヘルムなりに狙いがあったらしい。エレナは一人納得する。
「そういった先入観がない人物を僕は採用したかった。……ちょっと揉めたけどね」
最後にそう苦笑する上司を不思議に思う。
話を聞いたマリオは腕を組んだまま頷いた。
「なにはともあれ、お前の負担が少しでも軽くなれば嬉しいぞ」
「昔よりは仕事量も少ないし、負担じゃないよ?」
「あーもー、その言い草は聞き飽きた。とにかく、頑張ってくれよな」
そう優しく肩を叩く手のひらに、胸中がじんわりと温かくなる。
「ボクもリーダーとして手を貸すから」
「ぼくは?」
「お前は百年早い」
「えー!」
ヴィルヘルムの腕の中、カービィは不服気に頬を膨らませる。
(かわいい……)
「んじゃ、食堂に行こうぜ」
手を招き歩き出す彼らを追えば、食堂はすぐそこに。
「おっ、早いな」
食堂は深夜の静けさが嘘のように――すでに着席しているファイターらの笑顔と明るい声で賑わっていた。
「おはようマリオ。カービィにヴィルもね」
「おう。おはよう」
「おはよ〜」
「おはようございます。プリンセス・ピーチ」
マリオ、カービィ、ヴィルヘルムが順に挨拶を交わしたのは、今し方まで女性陣と語らっていたピーチ姫。
「マリオ。今日の『チーム戦』頑張りましょうね」
「もちろん! ドンと任せとけ」
「むう、勝つのはぼくとリンクだもんねー!」
「二人とも気合い充分ね。……あら?」
ピーチと目が合ったエレナは思わず動揺してしまうが、彼女は穏やかに微笑む。
「初めまして、の方かしら。ピーチよ、よろしくね」
今なら簡単に卒倒出来そうだ――。
なんてくだらないことで脳内が支配される中、エレナはほぼ無意識のうちに挨拶を交わす。……正直、マリオとカービィと会った瞬間から記憶が飛んでいる。
「詳細は後ほど全体連絡いたしますが、主に女性の皆様方のサポートに入ってもらう予定です」
「それは楽しみね! エレナちゃんのお話、たくさん聞きたいわ」
「あと個人的に、プリンセス・ピーチにご相談がありまして」
「相談?」
ヴィルヘルムはエレナに手のひらを差し向ける。
「彼女の衣食住を整えるお手伝いをしていただきたいのです」
「わ、私ですか⁉︎」
「……他に誰がいるの?」
その通りです、と押し黙るエレナにピーチは小さく笑みをこぼす。
「つまりはお洋服の買い出しね」
「はい。僕が同行したところで、ですし。いかがでしょう?」
「答えは『イエス』よ。マリオと三人でショッピングだなんてステキ!」
「……ん? ボクも?」
当たり前じゃないと片目を瞑るピーチに、やれやれと肩をすくめる。
「あの……ご迷惑をおかけしま」
「そんなことないわ。エレナちゃんと仲良くなれる機会ですもの。迷惑だなんて、悲しいこと言わないでね」
「っ……ありがとうございます」
「よろしい。それでヴィル、いつならいいのかしら」
「本日の午後にお願いいたします」
予想よりも早いタイミングに目を丸くする。それに。
「今日の午後ってお仕事は……?」
「それも仕事のうちだよ」
「確かに衣食住は大事だよな」
(いいのかな……)
不安が募るも、上司にそう言われてしまえば反論のしようがない。
(午前中のお仕事を頑張るぞ!)
気合いを入れ直したエレナは、彼らの会話を片耳に――集結しつつあるファイター達の姿に見惚れていた。
あれだけ広く、多くの椅子が埋め尽くされる頃。食堂の出入口付近で待機していたヴィルヘルムは時刻を確認。
「じゃあ、始めるね」
隣に立つエレナを見遣ると、ヴィルヘルムはインカムを耳に装着。
「『皆様、おはようございます』」
食堂内に設置されたスピーカーから声が流れる。
「『本日の『大乱闘』についてのご連絡です。一部目は、午前10時45分より開始されます。試合形態は『チーム戦』。マリオ・ピーチペアとカービィ・リンクペアとなります』
『二部目は、午後15時半より開始。試合形態は『個人戦』。フォックス、ファルコ、ウルフの三名。各試合の出場者は、30分前には控え室へお集まりください』」
手元の《スマパッド》に目を落としつつ、ヴィルヘルムは丁寧に説明を行う。
「『また本日より【乱闘部署】に一名、名を連ねることとなりました』」
ヴィルヘルムは外したインカムのマイク部分を、エレナの口元に寄せた。
「『エレナと申します。よろしくお願いします……!』」
頭を下げれば、至る場所から拍手が鳴り響く。
もう少し長いほうが良かったかなと後悔もあるが、下手を踏んで恥をかくよりかはずっといい。
「『僕のほうからも宜しくお願い致します。……では、朝礼を終わります』」
ヴィルヘルムの言葉が終わると同時に、ファイターらは一斉に食堂のカウンターへと向かう。
鼓動が落ち着きそうにない最中、インカムの電源を落としたヴィルヘルムがそっと背中に手を添える。
「ひとまずお疲れ様。ご飯にしよう」
「ヴィル〜ごはんとってきた〜」
と、カービィがヴィルヘルムの分と自分の席を(体いっぱいを駆使して)確保しながら声を掛けてきた。
「早っ。ちょっと待っててカービィ」
「行っていいわよ、ヴィル。エレナちゃん一緒にいただきましょう?」
返答もなしに引き寄せられたエレナは、食事が喉を通るか不安になったのだった。