1:『意味』なく迷い込む
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「……なんでそれを」
か細い声のエレナに、クレイジーと名乗る男はほくそ笑む。
「いンや? カマかけただけだけど」
「……!」
「さァて、どうすっかなー。アイツらに差し出したらどうなっかなー。ヴィルの野郎は『拷問』とか得意だしなァ……ハハ」
(拷問⁉︎)
いよいよエレナの目端から涙が零れ落ちる。
怖い。でもどうにもできない。
クレイジーは少し顎を抑えていた手の力を緩めると、「まあ聞けよ」と話を持ちかけた。
「俺の言う事聞くってンなら、黙っといてやるよ」
持ちかけた『取引』に不安を覚えながら、縋るほかないエレナは小さく頷く。
「な、何をすれば……?」
「オメー、ここにいるってことは城の関係者だろ?」
「はい……そうなりました」
「なら話は早い。『俺がこの城を出入りし易いようにしろ』」
理解が追いつかないエレナ――の腹がまた空腹を知らせる。
虚を突かれたクレイジーに、エレナは紅潮させて。
「……なるほどなァ」
「すいません……」
「ちょうどいいか。早速やってもらうぞ。……今から言うことをアイツらの前でやれ」
と、声を顰めたクレイジーから告げられた言葉に。エレナは眉間に皺を寄せつつも承諾。
そのまま連れ出される形で、再び部屋の前に立たせられた。
「……?」
扉をノックすると、警戒心マックスのヴィルヘルムと顔を合わせる。彼もまさかこんな時間に尋ねられるとは思っていなかったのだろう。
「なんだ、エレナさん。どうし――ッ」
ヴィルヘルムも、背後に控えるマスターも。クレイジーの姿に動きを止める。
中でもヴィルヘルムはくってかかりそうな勢いであったが――エレナの姿にぐっと拳を握りしめ、笑顔を繕う。
「……どうしたの?」
「夜分遅くにすみません。実はその……お腹が空いてしまいまして……」
正直に伝えれば、『なんだそんなことか』とヴィルヘルムは――僅かに苦笑する。
「食堂に何かあるかもしれないから一緒に行こう」
「すみません。ありがとうございます」
「すぐ戻ります」とヴィルヘルムが彼女を連れ出す前に、エレナはクレイジーに向き直って。
「『案内』していただき、ありがとうございました。とても助かりました」
「どういたしまして」
一礼し、ヴィルヘルムとその場を去る。
(……これでいいんだよね)
満足げなクレイジーの視線をその背に――エレナは密かに嘆息する。
クレイジーから告げられたのは、拍子抜けしてしまうほど至って簡単な事。
『
本当に良い人なのかも、分からぬまま。エレナは罪悪感が募る。
こうして始まった異世界での生活――。
バレないように振る舞えるか。
五体満足で元の世界に帰れるのか。
不安だらけな日々の先にあるのは、一体。