1:『意味』なく迷い込む
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「おいおい、大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます……」
「そこの椅子に座ってちょっと待っててな。お水もらってくるから」
完全に蒼白顔となったエレナを待合室の席に誘導し、男は『ご自由にどうぞ』と書かれたエリアからペットボトルの水を戴く。
「……落ち着いた?」
「はい。……すみません」
「全然! ほら、汗も拭いて」
男のハンカチで冷や汗を拭ったエレナは、改めて「ありがとうございます」と謝辞を述べる。
「うん。ちょっとは顔色良くなったな! 緊張してるのか?」
「そ……うですね」
エレナの脳裏に『マスターハンド』『異世界トリップ』が過ぎるも――ぐっと堪えた。変人だと思われる。
(間違えて来ちゃったけど、万一の可能性もあるし……このまま受けてみよう)
「だよなぁ、緊張するよなぁ。分かる分かる」
同調していた男はそこで、あっ、と思い出したように。
「名前言ってなかったな。俺はリオン。そっちは?」
「エレナです」
握手を求められたエレナは応えるも、ごつごつとした手のひらに目を見開いた。
「あぁ、悪い。マメが凄いんだ、俺。餓鬼の頃から剣握ってたからさ」
「子供の頃からですか?」
「そ。だから狙いの部署は『城兵部署』だな」
……部署?
きょとんとするエレナに、リオンは軽く瞠目すると。
「ほら、さっき貰った紙に書いてあるだろ? そこに希望する部署を書くんだ」
エレナはエントリーシートへ目を向ける。
『希望する部署に◯を』の一文の下には、五つの部署が並んでいた。中でも目を引いたのが――。
「『乱闘部署』……」
「おー、やっぱりそこだよなぁ。花形の中の花形だしな」
「あの、ここの部署について詳しく聞いてもいいですか?」
と聞いた後に、エレナははっと発言を恥じる。
これでは『何も知らないまま来たのかよ』と思われてしまう……事実そうではあるが。
だがリオンは嘲笑することなく――若干たじろいではいたが――快く答えてくれた。
「『乱闘部署』は世界誰もが知ってる『大乱闘』の運営を指揮する部署だ。詳しい内容は俺も知らないが、まあファイターと仲良く出来るかもしれないってことで皆狙ってるな」
『ファイター』という単語に、やはりここはと確信を得る。
画面の向こうでしか会えなかった彼らと、同じ世界、同じ目線に立てる――そう考えると鼓動が速くなった。
「ただなぁ、『乱闘部署』は光の賢主様が一人で回してて、人手を取るつもりはないってもっぱらの噂だしな。……希望するなら、それなりの覚悟はしといた方がいいな」
もう少し話を聞いておきたいところだが、リオンの番号が呼ばれてしまった。
「んじゃ、次は同期として会えたらいいな」
軽く手を振り面接会場へ移動していくリオンを見送り、エレナは小さく嘆息する。
(よく分からないけど、会えない可能性もあるってことだよね……ま、まだ諦める時じゃない! うん、きっと!)
自分自身に喝を入れたエレナは、まずはエントリーシートを記入することにした。
住所といった戸籍に関わる項目がないことや、会場で直接書くといった点から、何となく事情を察してしまうが――無一文の自分にとっては有り難い。
迷いながらもどうにか完成し、提出。おおよそ十分後に、数名の面接希望者達と共に番号が呼ばれた。
人生で初めての経験。
震える手を片手で抑えながら、エレナは緊迫した雰囲気の面接会場に入室する。