2:お仕事開始
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マスターに連れられ、エレナは『スタジアム』の観客席――中でも一際高い位置にある関係者用の
見渡す限りに広がる観客席は見事満席。多種多様な容姿の観客らは皆、試合開始を今か今かと待ち侘びているかのように興奮している。
マスターと二人、絢爛な席に隣同士で座る。彼らの席は上空からでないと確認できない特別仕様。会話を聞かれることは、まずない。
エレナは考えた。
(今なら聞けるかな……? 元の世界に帰る方法)
大変危険な賭けであることは理解している。
ヴィルヘルムが口にした「処理」を、マスターが行わないという証拠はない。バレたらやばい人物であるか否かは、一般人のエレナには判別できない。
しかしながら、エレナが口を開くよりも先に――マスター側が話題を振ったことで思考は一時中断される。
「『大乱闘』を観るのは初めてかな。あ、生でね」
組んだ手を膝の上に乗せ、前屈みとなってエレナの顔を下から覗き込む。
端正な顔立ちの瞳は白く、まるで吸い込まれそうな恐怖感もある。
「はじ、めて、です……」
変な返し方をしてしまった己を恥じるも、マスターは優しく片笑む。
「なら良かった。強引に連れ出した甲斐があるというものだ。ぜひ一度、間近で観てもらいたい」
マスターは背を凭れ、ステージに目を向ける。
「今回はヴィルに代わって、私が説明しよう」
と、時刻を確認。試合開始、10分前。
「そろそろか」
不思議に思っていると、突然『スタジアム』全体が一変。
「あ、あれっ⁉︎ 地面が無い……! でも椅子はある……⁇」
360度全ての景色が、全く別の景色へと変わっていた。足元に広がる海は遥か下に位置し、自分達が浮いているようにも見える。例えるなら、遊園地の屋内アトラクションによくある臨場感満載なスリル映像が流れているような。
「これも『大乱闘システム』の一つ。今は今回のステージ『ドルピックタウン』のスタート位置の景色が、観客席全体に映し出されている。ファイター達と同じ景色を楽しんでもらう為にね」
「凄いですねこのシステム!」
目を爛々と輝かせてみせるエレナに、マスターも嬉々として語り出す。
「ありがとう、とても嬉しいよ。このシステムは後付けで考えたものなのだが、中々思い通りの動きにならなくてね。さらに観客の安全も確保する必要があるから全部を景色と同一化にするわけにもいかなくて、どうすれば没入出来るか研究を重ねてうんぬんかんぬん……」
饒舌になる宰相の姿はとても楽しげで。エレナは目を丸くする。
てっきり不思議な力や何やらで、瞬きする間にパパッと作ったのだと思っていたのが。様々な試行錯誤を経て完成したことに驚く。
「ああ、すまない。話が逸れてしまった。仕事の話に戻るとしよう」
話し足りないといった雰囲気だったが、試合開始まで残り僅か。惜しくも切り上げたマスターは、ステージを示した。
「あのステージに今からファイターが登場する訳だが、こことは別空間の場所にいる。だが、観客の視線からは彼らが実際にここで戦っているように見えるという絡繰だ。まあこれは実際に観てもらうとして、試合中マネージャーはとある事をする」
「とある事ですか?」
「ああ。それは『切り抜き』だ」
言葉の意味を汲みきれず、エレナは眉根を寄せる。
「試合終了後、マネージャーは【システム部署】部員から試合のリプレイ映像を貰う。その映像から幾つかのシーンを『切り抜いて』、ハイライトとして広報活動に使用する。その切り抜くシーンの候補を、試合中に幾つか出しておくんだ」
……予想はしていたが、試合後にもお仕事があるなんて流石だ。
「今回は純粋に楽しんで貰いたいから、気にしなくていい」
「ヴィルがやっているだろうしね」と付け加えたマスターは、おっと目を細める。
「ファイターの登場だ」
観客席の熱気が――異常なまでに上昇。湧き上がる歓声で会場全体が微動だに揺れていた。
そして各々が配置につき、カウントダウン開始――。
3
2
1
GO!
試合が開始された。