1:『意味』なく迷い込む
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『意味』が欲しかった。
私が生まれた『意味』。
私が生きる『意味』。
大人になるにつれて分からなくなる『意味』。
命を賭けて、「これだ!」って言える。
そんな特別な『意味』があったなら。
平凡で、平穏な毎日が。
少しは鮮やかに見えたのかな……。
「あれ?」
賑わう人通りの片隅で、ひとりの少女が目をぱちくりさせる。
雑踏の合間を縫い交わされる笑い声が、果てしない蒼穹に吸い込まれていく。
目の前を通過する彼らは、少女を不審にすら思わない。
やがて――少女は走り出す。
その顔を焦りと不安いっぱいにして、眼前に佇む巨大な王城を目指して走る、走る。
そうして辿り着いた先で少女は知る。
『この世界』が、何なのかを。
「スマッシュブラザーズ……?」
彼女の名前はエレナ。現代世界で暮らす
息を切らしながら王城を見上げたエレナは、自分自身に何が起きたのかを整理することに。
(……何もしてない)
思い出しただけ無駄だった。
何の前触れも、きっかけもなく、エレナは『スマッシュブラザーズ』という単語が存在する異世界へトリップしてしまったらしい。
(『スマッシュブラザーズ』ってゲームのやつだよね……? 本物なのかな……?)
未だ混乱の渦中にあるエレナの視界には、『スマッシュブラザーズ』と書かれたチラシがあるのみ。
ここがゲームの世界と確定したわけではないが……。
(でもキノピオとかワドルディとかいるし……本物なのかもしれない)
ここまで思案を巡らせたエレナは次に、スマブラの知識が眠る引き出しを開けた。
(もしも『マスターハンド』がいれば、元の世界に帰してくれるかもしれない!)
一縷の希望。――が、ここは見知らぬ地。目的を設定したところでRPGのようにナビをしてくれる相棒はいない。
詰んでいる。
(どうしよう……そもそも今日中に会えるかすら……)
「そこの人〜!」
「あっはい!」
肩を震わせたエレナが振り向くと、腕章をつけた職員らしき人物が『あっち』と指を指す。
「会場はそこじゃなくて向こうになります!」
「分かりました……?」
職員に言われるがまま歩き、長蛇の列の最後尾に並ぶ。
(会場って言っていたから、もしかしたら本物の『大乱闘』が見られる……? あっ! そうしたらマスターハンドもいるかもしれない!)
そう考えると、動悸が治りつつあった。
一歩、また一歩と前へ進み。先頭に立った瞬間のこと。
「こちら記入してお待ちください」
番号札に用紙、ペンを受け取ったエレナは、内容に瞠目する。
(『アルス王城』職員採用面接……⁉︎)
それは、あの大きな城に務める職員を採用するエントリーシート。
勘違いで面接会場に足を踏み入れたエレナは、戸惑いで冷や汗が止まらない。
「――おいおい、大丈夫か?」
そこにハンカチを差し出してくれたのは、精悍な顔付きの男だった。
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