SSまとめ
「……!?」
「ブレイド、その子……」
宿舎の一階で寛いでいた四人に衝撃が走る。
一同の視線の先──宿舎の入り口では、いつになく神妙な趣のブレイドが、小さな少女を抱えていた。少女の意識はなく、深い眠りについているようだ。
「実は……」
ブレイドは手早く、完結に、事の始まりを口にする。
それは、ブレイドが依頼帰りに“森林の地”と“水凍の地”との境目を通ったときだった。微かにモンスターの戦闘音が聞こえ、誰か戦っているのか? と疑問を抱いた直後、戦闘音が途絶えた。それもモンスターの方ではなく、相手の方が。不味いと本能的に向かうと、そこには自身より一回り大きなモンスターが。こちらに気づいて動く前に、ブレイドは持ち前の素早さでモンスターを撃破。消滅したモンスターに隠れていたのは……意識を失った幼き少女であった。
「さっき病院で医者に診せたが、特に外傷はなかった。少し休めれば大丈夫だと」
「預かるわね」
「頼む」
前に進み出たレベッカに少女を預けると、ブレイドは踵を返して外へ。
「待て! どこに行くんだブレイド!」
「気になることがあるから戻る」
「あっ、オイ!」
ブレイドは究極姿のまま、急ぐように“森林の地”に行ってしまった。風を使うブレイドには追いつけないと、アランは伸ばした手で頭をくしゃり。
「ハァ……」
「アラン。ブレイドを追おう」
「そのつもりだ。ヴァニラは支度して待っててくれ、ペガサス達を呼ぶ。ベルタは彼女の傍に付いててほしい。レベッカが戻って来たら、外に来るように」
アランも続けて外に向かい、少しして二階からレベッカが駆け降りてきた。
「レベッカ。アランが、ブレイドを追うから一緒に来てって」
「わかったわ。ベルタは留守番?」
「ああ、私に“森林の地”は分が悪いからな。彼女の様子を見ていよう。二人とも気をつけて」
「ありがとう。あの子は私達の部屋で寝かせているから」
「いってきます」
「っは……はあ……」
──エレメンタル大陸、森林の地。
ものの十数分でこの地へと足を踏み入れたブレイドだったが、度重なるエレメントの行使により、枯渇寸前。それでも、此処に居る限りは少しずつ回復するため、息を乱しながらも森の奥へ。
「何処に居るんだ……?」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
“はじまりの地”上空を、並行して飛翔する三体のペガサス。透明化しているため、誰にも咎められる事はなく。ペガサスに乗り込んだ三人は、ブレイドを追って“森林の地”へと急ぐ。
「急にどうしたんだアイツは……碌に説明もしないで飛び出すなんて……」
「そうよね。少し待ってくれたら一緒に行けたのに。エレメント枯渇起こしてないかしら」
ありそうだな、と苦笑いにも似た表情を浮かべる。その隣から、それまで口を閉ざしていたヴァニラが話しかけた。
「もしかしたらだけど……わたしとブレイドと、同じなのかもしれない」
「それはつまり……」
レベッカはそこから先を紡ぐ前に口を閉ざした。本人がいる前で無神経だと思ったからだ。アランも同様に口を結んでおり、二人の様子から察したヴァニラは大丈夫と続けて。
「さっきブレイドは“森林の地”で見つけたって言ってた。たぶん、あの子は水属性だから、居るのはおかしいと思って。ブレイドも、それに気づいたから慌てて出て行ったんだと思う」
「……そうだな。なら尚更、早く見つけてやらないと」
「うん」
話しているうちにも空を進み。目の前にまで近づいた。
「よし、三手に分かれて探すぞ。モンスターが居ない、広い場所で降りてからは徒歩でな」
「ええ」
空中で三手に分かれ、暫く上空を飛行したのち。安全な場所でペガサスと別れ、地上から徒歩で捜索を開始。
一方──。宿舎にて待機中のベルタに、とある変化が訪れていた。
「うう……」
「……目が覚めたか」
ベッドで休ませていた少女の意識が戻ったのだ。傍らで見守っていたベルタはホッとして呟くと、少女の意識が完全に目覚めるまで待つ。
「……大丈夫か?」
「……ここは……?」
「ここは“はじまりの地”にある宿舎だ」
「しん……りん……“森林の地”じゃない……」
うわ言のように少女は呟き、何を思ったのかベッドから脚を下ろし、一歩二歩とフラつきながらも扉へ。流石に止めなければとベルタが引き止める前に、少女の体は限界を迎え崩れ落ちた。
「待って。まだ本調子ではないのだから動いては駄目だ」
「でも……でもっ……! ジーラが……!」
「ジーラ?」
ベルタに抱えられながらも、少女は「ジーラ」の名を呼びながら、小さな手を一生懸命伸ばして。
「いかなきゃ……妹なの……大事な妹っ……!」
「っ……」
「ジーラっ……じー、ら……ひぐっ」
自身の腕の中で嗚咽する少女に、ベルタの脳内にはとある兄妹の姿が過ぎる。
「……貴女、その……ジーラって子の特徴を教えてくれる?」
「ひうっ……ジーラの……?」
「そう。今、私の仲間達が“森林の地”に向かってるの。皆なら絶対に見つけてくれるから」
少女の瞳と、ベルタの瞳が交わる。
「……うんっ」
グイッと裾で涙を拭うと、少女は身振り手振りも交えながら伝える。
「えっと……ジーラは、このぐらいの大きな緑色のさんかく帽子を被っているの。同じ色のマントも付けているわ」
「分かった。今から連絡してみるから、一緒に居てくれるか?」
先程の様子とは打って変わり、力強く頷く少女。ベルタは少女をベッドに運ぶと、襟に常備している通信機に手をかける。
「全員聞こえるか? ベルタだ。聞こえたら返事をしてくれ」
「レベッカ」『聞こえてるわ』
「アラン」『聞こえてるぞ』
「ヴァニラ」『うん』
「ブレイド」『ああ、聞こえてる』
よし、と小さく頷いた後、ベルタは少女「ジーラ」の捜索内容を伝えた。
『特徴は?』
「大きめの三角帽子を頭に被っている。色は緑だ」
『了解。』
『その子の名前は?』
「名前はジーラだ」
『わかったわ。名前を呼びかけた方がいいかな?』
その言葉に、ベルタではなくブレイドが返す。
『いや、それだと森に住むモンスターを刺激してしまうからな。やめておけ』
『それじゃあ、その子らしい姿を見つけたら名前を呼んで確認しよう。連絡も忘れずにな』
了解、とアランを除く四人の声が重なり、通信が一時的にストップ。ベルタも襟から手を離すと、不安げに此方を見上げる少女に微笑む。
「心配するな。ジーラは必ず見つかる。……そういえば、名前を聞いてもいいか?」
「私はジール。ベルタさん……だよね。ありがとう」
「ああ。すぐに見つけてくれるはずだから、大丈夫だ」
決して口からでまかせを言っている訳ではないが、それでもジールの不安は拭えない。ジーラが見つかるまで、その不安を払拭することは出来ないが、和らげることは出来るとジールの手を取った。
「……私の仲間にも、君達のように大人に引き離された兄妹がいる」
今も必死に、森の中を駆け抜けている仲間の姿を思い浮かべながら。
「それでも二人は再会して、お互いに助け合いながら生きている。私は……いや、私達はそんな二人が大好きだ。大切な仲間だから、力になりたい。二人の苦悩を、少しだけでも知っているから、二人のような子達を出したくないんだ。……ただの……自己満足でしかないかもしれないが……」
ベルタは不器用ながらもジールの頭を優しく撫でる。その暖かさに、再びジールの瞳から涙が溢れ始めたとき。
『見つけた!』
慌てて通信機を手に取ると、声の主を呼ぶ。
「ブレイドか!?」
『ああ。気を失っているようだが、怪我はないみたいだ。でかい三角帽子を二つ持ってる』
「二つ? ……ああ、この子の分か」
ジールはその言葉に小さく頷いている。
次に、アランの声が通信機から響いた。
『ブレイド。空に目印になりそうなものを打ち上げてくれ、すぐに向かう』
『わかっ『まだ連れていっちゃだめよ。生気を吸い取れていないのだから』
直後、ブレイドの通信が途切れた。
最後に聞こえた謎の声が関わっているのは明白。何があったのかとアランが叫ぶ。
『オイ! どうしたブレイド! 返事しろ!』
ブレイドからの返答は無く、悔しがるアランの声が洩れる。
「空からブレイドの場所を特定出来ないか!?」
『魔物が出たら危ないと思って降りてるの。空からは特定出来ない』
ヴァニラに言われ、どうしたらと焦る一同。
『……そうよ! ベルタ、近くにエレパッドはない!? エレパッドから通信機の反応が見れるはずよ!』
すぐにベルタは辺りを見渡し、エレパッドを発見。飛びつくように手に取ると、画面を操作。
「ええと……こ、これか……?」
ピッと電子音が鳴り、画面に映し出されたのは五つに分割された映像。内一つの映像は砂嵐、もう一つの映像にはエレパッドを持つ自身の手、後の三つには森の様子が。どうやらこれは、小型通信機に搭載されたカメラ映像のようだ。だがこれでは不十分。他に何かないかと弄っていくと。
「これは……」
画面が切り替わり、二分割に。左はさらに三分割され、先と同じように森の様子が。右には通信機の反応が簡単に示されており、それぞれカメラの向いている方向が分かるようになっていた。
「これなら……! 全員、その場に留まれ! 指示を出す!」
『レベッカ、アラン、ヴァニラ! 目標地点到達まで約30秒!』
ベルタの指示に従うこと数秒。三人は各々別の方角から、ブレイドが持つ通信機の反応があるエリアに走っていた。到着まで残り僅か、自身の獲物を手に取ると、草叢を抜けた瞬間に構える。
「……!」
其処に広がっていたのは、うつ伏せに倒れ込むブレイドの姿。そして、「ジーラ」の特徴と一致する少女を抱えた黒髪の女。辺りは昼間とは思えないほど薄暗く、紫色の胞子が充満している。
「……」
黒髪の女は三人を一瞥すると、背中を向け、少女を連れて森の奥に。
「待っ……、ッ……!?」
行かせるかと足を踏み出すも、力が入らなくなってしまい膝をついてしまう。胞子が原因だと口元を抑えるが、既にかなりの量を吸ってしまったらしく動けない。
その間にも黒髪の女の姿は消えつつあり、このままでは逃してしまうと歯を食いしばる最中。
「待って! その子を連れていかないで!!」
悲痛な叫び声に、黒髪の女の足が止まる。
ヴァニラは必死に意識を繋ぎ止めながら訴えた。
「その子には大切な人が……その子の帰りを待つ子がいるの……。会わせてあげたい……だからっ、連れていかないで……!」
より一層濃くなる胞子。アランとレベッカの視界が遮られるも、ヴァニラの周辺だけは薄れていき。
「あ……」
目の前に現れた黒髪の女は、ヴァニラにジーラを預けると、悲しそうな微笑みを残して消え去った。
『……本当に大丈夫なのか? ライフポーションで』
「オレ達はそれで回復出来たからブレイドも……」
「ホラ貸してアラン。逆に助からなくなるわ」
「そうだ……多い多い多い多い」
黒髪の女が去った後。森は、普段の静けさを取り戻していた。
アラン、レベッカ、ヴァニラ(とベルタ)が見守る中、ライフポーションを強制的に飲まされたブレイドはハッと意識を取り戻して──盛大に咳き込んだ。
「な、げほっ、こ、殺す気か阿保!」
「あ、アホってなによ!」
「どっちもどっちだけどな……」
「よかった……」
通信機越しに聞こえた元気そうな声に、ベルタはホッと息を吐く。
『ジーラは大丈夫か?』
「見た感じはな。一応医者に診てもらおう」
「そうだね。もう少しだけ待ってて」
うんっと嬉しそうな声に、ヴァニラの頬が緩んだ。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
──その夜。ヴァニラとブレイドの姿は“森林の地”にあった。二人は暗く危険な森の中を難なく進み、黒髪の女と出会った場所に足を踏み入れた。その目的は……。
「おーい、居るんだろ? 出て来いよー」
ブレイドが呼びかけると、昼間と同じ紫色の胞子が辺りを包み込む。今度は害がないようだ。
「……なに?」
少しして、黒髪の女が二人の前に現れた。不機嫌とも警戒しているとも取れる表情で見つめる女に、ヴァニラが一歩前へ。
「お願いしたいことがあって来たの」
「お願い? ……わたしに?」
「ええ」
女は目を細めると。
「いやよ。魔女であるわたしが、あなたのお願いを聞くと思ったの?」
「じゃあ、話だけでも。クッキー持ってきたから」
「焼き菓子如きでわたしを釣れると……」
ずいとヴァニラが女に差し出したクッキー。その形はキノコを象ったもの。女はキノコ型クッキー(アラン作)を受け取ると、二人に背を向けて。
「……はやく話して」
パァッと明るくなるヴァニラに対し、ブレイドはまじかと顔を歪めた。
「……ここから先は二人だけで行ける?」
一夜明けた“森林の地”にて。
レベッカはジールとジーラと視線を合わせながら訊ねると、二人は互いに手を握り締めながら頷き、笑顔を浮かべる。
「大丈夫! ジーラと二人なら怖くないから」
「うん! 助けてくれてありがとう!」
「本当にありがとう! また会おうね!」
二人は元気いっぱいに手を振ると、森の奥へ。そこで待っているだろう魔女の元へと、見習い魔女の姉妹は走って行った。
「……無事に行けたかな」
「ああ。きっと大事に育ててくれるだろう。……アッシュみたいにな」
ヴァニラはフフッと小さく笑い、ブレイドは照れくさそうにはにかんだ。
「そうだねっ」
〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜
今回はブレイドとヴァニラと似た境遇のキャラを五人が助けるお話でした(内容が飛ばし飛ばしなのは許して)。
姉妹キャラとしてジールとジーラの二人を登場させました。口調とかはよく分かりませんでしたが、二人の容姿はイラストより幼めのイメージです。黒髪の女はあの人です、あの人。
またいつかこの三人組は出したいなという願望はあります。