SSまとめ
──それは、いつもと変わらぬ日常の一コマ。……だったはず。
「……よし。だいぶ綺麗になったな」
ふぅ、と息を吐き、目の前に出来た落ち葉の山を満足げに見つめる。箒をくるりと肩に乗せながら、アランは宿舎に一度戻ろうとした。
「アラン!」
「へ? ……うわああああっ!?」
声が上空から聞こえた直後、アランの目の前に何かが落ちてきた。
大量の落ち葉を舞い上がらせながら、“その人”はアランを見据え、にやりと口角を上げる。
「元気にしていたか、アラン」
「し、師匠」
飛行していた竜の背から飛び降りたエステラは、痛みをもろともせず、アランに歩み寄る。
「ど、どうしましたか?」
「いやなに、弟子の様子でも見ようと思ってな」
「はぁ」
困惑するアランに、エステラは背中をバシバシと叩きながら笑う。
「痛っ痛いですっ」
「ハハッ、相変わらず真面目だな。様子を見たかったのは本当だが、もう一つ。アランに依頼が来ている」
「オレに……?」
「そうだ。……と言っても、学校からだが」
これだ、と手渡される資料。表紙に書かれていたのは、『卒業生による特別講話』との文字。
「在校生相手に講話をしてほしいそうだ。こういうの好きだろ?」
「好きじゃないです。でもどうしてオレに……」
「アタシが推薦したからな」
「……」
そうだろうな、と乾いた笑みを浮かべる。
「アタシが推薦しただけでは、このような大役には選ばれない。アランが選ばれたのは、近年稀に見る優等生だったからだろう。……性格を除けばな」
「最後の一言要りますか?」
「前に比べてツッコミが激しくなってきたな」
「
そうかそうかと頷いた後、エステラは「どうするんだ?」と訊ねた。
「……師匠の推薦とあらば……」
受けますよ、と溜め息混じりに了承。
「そう言ってくれると思っていたさ。前日までには台本を作ってアタシに送ってくれ」
そう言うとエステラは、タイミングを見計らって地上に降りてきた光聖竜クオラシエルの背に跨る。
「アランらしい講話を期待しているぞ」
ではなと片手を挙げたと同時、クオラシエルは翼をはためかせて飛翔。何処へと飛び去った。
アランはその姿を見つめていたが、やがて見えなくなると視線を渡された資料へと移した。
「特別講話か……」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
時は過ぎ。アランからの連絡を受け取ったエステラは、添付されていた台本に目を通していた。
「なんだ? 帰ってきてからも仕事かよ」
『闇黒騎士隊』の談話室にて、依頼から帰ってきたエステラはコーヒーを啜りながら、台本のチェックをしていた。そこに、首にタオルをかけた薄着のアイザックが絡んでくる。どうやらシャワーを浴びたばかりらしい、髪がまだ濡れている。エステラは特に触れることなく、エレパッドに目線を向けたまま、口を開く。
「そうだ。明日、学校でアランが特別講話をすることになっててな。講話で使う台本の確認だ」
「明日? えらく急な話だな……。つか、台本ってあの坊主が考えたのか?」
「アランに任せた。ただ……」
口籠るエステラに、珍しくアイザックは狼狽えた。その台本になにか不備があったのではないかと、エレパッドを覗き見る。
「げっ。んだよ、この量! おかしくねーか!?」
「いや普通だ」
「普通!?」
「量も普通だし、内容は超完璧だし、思わず溜め息が……ハァ」
「心配して損したわ」
大した悩みじゃないなとアイザックは思い、立ち去ろうとしたが、エステラの表情が晴れないのに気付き、その場に留まる。
「……なにが気に入らねーんだよ」
「おお? なんだ、心配してくれるのか?」
「うるせーな!」
そっぽ向くアイザックに、エステラは悪い悪いと軽く謝った後、台本を見つめながら話し始めた。
「……今回の話、アランを推薦したのはもちろんこのアタシだが、初めは反対されると思っていた。だが、案外すんなりと通ってな」
「なんでだよ」
「簡単な話だ。アランなら間違いなく規律を守るとか、授業を真面目に取り組むだとか、学校側からしたらプラスになるような話をすると思ったからだろう。予想通り、アランが考えた内容は堅苦しい話だったがな」
そこまで話すと、コーヒーを一口。飲み込むと、話を続けた。
「アタシがアランを推薦したのはそうじゃない。アラン自身の言葉で、経験して学んだことを伝えて欲しかった。本人にも『アランらしい講話を期待している』とは言ったのだがな」
「今の言葉を本人に言ってやればいいじゃねーか」
「それだとつまらないだろ? アタシは気に入っている奴には意地悪したくなるのさ」
「だったらぐちぐち言うなよ。くだらねーな」
「くだらないとは失礼な。世の中には弟子を愛さない師匠もいるかもしれないが、少なくともアタシはアンタ達を愛しているぞ」
そのときのエステラの表情は慈悲に満ち、子の成長を願う親のような眼差しをしていた。エステラらしくない言動にアイザックの体に衝撃が走る。
「しかし、どうしたものか……。アイザックはなにかあるか?」
意見を求められ、アイザックは虚無の世界から現実に帰ってきた。
「そうだな……いっその事、講話中に怒らせてみたらどうだ?」
「なにも思いつかなかったんだな」
「聞いてきたのはそっちだろうが!」
怒りを露わにするアイザックをよそに、エステラは思考を巡らせる。
「……あ、そうか」
「あ? なんかいい案浮かんだのかよ」
「ああ! 早速交渉してくるとしよう。ありがとな、アイザック!」
光の速さで談話室を後にしたエステラ。急な展開にポカーンとしていたアイザックだったが、寒気を感じ、くしゃみを一つ。
「ぶえっくしょん! あー……、さみぃ。早く部屋に戻るか。これで風邪引いたらババアのせいにしよ」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
──そして迎えた当日。
「……」
久方ぶりの母校を訪れたアランを待っていたのは、制服を着用した見慣れた顔ぶれだった。
「これ着てると賢そうに見えるな」
「その発想が馬鹿だな」
「そういうお前だってソワソワしまくってるじゃねぇか!」
「なっ……これは武者震いだ!」
「その言い訳は苦しいわよ」
「……は?」
母校の制服を着てアランを出迎えたのは仲間達。初めての制服に盛り上がる四人の近くには、恐らく元凶であろうエステラがアランの反応にニヤニヤ。
「アラン」
「……ヴァニラ……」
「制服似合う?」
「に、似合ってる……」
そう答えれば、ヴァニラは無表情のまま両手を空に突き上げながら、気の抜けた声で「やったー」と喜んだ(?)。
「全員に『似合ってる』って言われた」
「良かったな、ヴァニラ」
「うん」
「悪い。そろそろ突っ込んでいいか??」
四人は互いに顔を見合わせると、アランの前に一列で並んだ(それを見たエステラも混ざって来た)。
「単刀直入に聞くが、なんでここにいる? オレは言ってないはずだが」
腕を組みながら眉間に皺を寄せる。そうは訊いても、誰から聞いたのかは想像ついているが。
「まずはアタシから説明しよう。昨夜、アタシはバラバスを通じてベルタに『アランの講話を聞きにいかないか?』と誘った」
「それを聞いて私は他の三人に伝え、行くことに決めたというわけだ」
「嘘つけ。あれは脅しだっただろ」
「貴様こそ、学校と聞いてソワソワしてただろ」
「それを言うならレベッカだって」
「い、いきなりワタシを巻き込まないで!」
「頼むから言い争わないでくれ。……頭痛くなる」
まるで頭を鈍器で殴られたような頭痛に襲われるアランに、三人はごめんと素直に口を閉ざした。
「学校が気になるから来たって言うのはわかった。けど、制服を着る必要はないだろ」
「なにを言う。私服では目立つだろう。学校ではアタシ以外、教師も制服の着用を決められているのだからな」
「そうだった……」
思わず顔を両手で覆う様子に、忘れていたんだなと一部の心の声が一致したところで。
「そろそろ時間だ、アラン。台本は印刷しておいたからな。特に修正箇所は無かったぞ」
「ありがとうございま」
「分厚ッ!? え、これ全部読むのか!?」
「……そうだが?」
「そうだが!?」
二人のやりとりを前にエステラは背中を向け、静かに肩を震わせた。
「ば、場所は覚えているか……?」
「覚えてます。裏に行けばいいですよね。じゃあ、行ってきます」
「頑張ってね!」
「ちゃんと聞いといてやるからな」
「……期待はしないでおくな」
分厚い台本と仲間達からの声援を背に、アランは懐かしい校舎の廊下を進んだ。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
卒業生による特別講話は、始めに司会を務める教師によるアランの紹介。その後、ステージに立ったアランが台本に沿って講話し、最後に軽く質問を受けるという流れで話は進んでいた。アラン自身も、エステラの思惑に気づくことなくステージ脇で待機。指示を受け、ステージに上がった。
拍手で迎えられながら演台まで進み、一同を見渡すと、生徒達が座る席の奥にエステラと四人の姿を見つけ、恥ずかしくなり少しだけ視線を逸らす。
「本日はこのような場にお招きいただき──」
定番とも言える挨拶を挟み、本題へ。正面を見据えて時折台本に視線を落としつつ、スラスラと話をしていく。堅苦しい話にうとうとと船を漕ぎ始めている仲間達に、内心呆れながらも続ける。
「勉学に励みながら訓練にも精を……、……」
その途中。アランは、どうしてか口を閉ざしてしまった。
「どうしたんだ? あいつ」
「さあ……」
一体どうしたのか、と生徒や教師陣、ブレイド達四人もざわつき始める中。アランは台本をパタンと閉じた。
「……ここからは、“オレ”の話をさせてください」
そう前置きを置き、アランは台本に書かれていない“自身”の話を語り始めた。学生時代の自分のこと、卒業してから今日まで共に在る仲間達との話、見てきたこと感じたこと、全てをぶつけるかのように話した。それは、眠気を一気に吹き飛ばすほど興味深い話であり、かつ当時の様子を知る教師陣にとっては衝撃的な行動だった。
「──以上で話を終わります。ありがとうございました」
誰にも止められることなく、アランの話は終わった。清々しい表情で一礼する彼の姿に、講堂にいた全員が盛大な拍手を贈り、一人また一人と椅子から立ち上がっては響かせ続けた。予想外の行動に質疑応答は見送られたが、アランを責め立てる者は誰も出なかった。
「お疲れ様、アラン」
講堂から帰って来たアランを出迎えたのは、一足先に講堂から出ていた仲間達とエステラ。ニヤニヤと生温かい視線を向けられ、顔を背けたいのを必死に抑える。
「良い講話だったと思うぞ」
「あの堅い話より何十倍も聞きやすかったな」
「アランがああいう行動に出るとは思わなかったけど……良かったわよ」
「おつかれさま」
四方から体をポンポンと叩かれ、やめろやめろと照れながらも引き離す。
「良かったぞ、アラン!」
そこにエステラが肩に腕を回し、アランを絶賛。師匠を無理矢理引き離すわけにはいかず、羞恥心からプルプルと体が震える。
「さすがだな。期待通りだったぞ」
──アランらしい講話を期待しているぞ──
脳裏に横切るエステラの言葉。その真意に気づき、アランは目を丸くした。
「ん? どうした、アラン。アタシの顔になにか付いてるか?」
「あ、いやなんでも……」
……ありがとうございます。師匠。
疑問符を浮かべるエステラに、アランは心の中で礼を言う。そんなアランに、ブレイドがなあと話しかけてくる。
「話は良かったけどよ、いきなりどうしたんだ? お前らしくなかったじゃねぇか」
その問いかけに、アランはニッと笑いながら。
「目の前で眠そうな奴が居たんだ。ソイツらを見ていたら、オレが真面目に話しているのがバカみたいに思えてきたからな。思いっきり眠気を覚ましてやろうと考えたからだ」
「……」
生徒達の授業が終わるまでの間。今なら人目を気にせず見学出来るだろう、とエステラの提案に乗り、計六人はありとあらゆる場所を巡った。途中途中で、ブレイド達四人が学校あるある(入手先は不明)をやり始めたりと足止めを食らったが、アランも交えてわいわいと盛り上がる光景に、エステラは一歩離れた場所から嬉しそうに見つめていた。
「エステラさん」
そこに、凛とした佇まいの男が声をかけた。男の顔は大きめの帽子に隠れてしまい見えないが、エステラは男を警戒することなく、挨拶を交わして。
「彼らは今何をしているのですか?」
「あー、学校あるあるを実践しているようだ」
そうですか、と男はエステラの隣に並ぶと、楽しそうに話すアランに視線を送る。
「彼、随分と明るくなりましたね。講堂から戻って来た先生達も、とても驚いていました」
その様子が安易に想像でき、エステラは小さく笑った。
「フフッ、その場に居れば良かったな。見てみたかったものだ」
「……もしも、彼らの姿がこの学校でも見れたらと……そんな考えを抱いてしまいました」
では先生方の元に戻ります、と男は去っていく。その後ろ姿は、何処か寂しげだった。
「購買って略奪戦争よね」
「それはドラマの見過ぎだ。実際はあんな風じゃないぞ」
「チョークは? 教室で居眠りしてたらチョークが飛んでくるのだろう?」
「ないな。飛ばしたら飛ばしたで回避されるだろうし」
「寮生活は? 楽しかった?」
「うーん……あまりパッとしないな……一人部屋だったのもあるが……」
「なんで廊下に身長測るやつあるんだ?」
「それは知らん。あと“身長計”な」
「アンタ達」
エステラに呼ばれ、視線を向ける五人。その手にはエレフォンが。
──パシャッ。
レンズ越しに映るのは、互いに肩を寄せ合う五人の若者だった。
〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜
ssじゃないss第二弾。前回はヴァニラ中心でしたが、今回はアラン中心にしてみました。
アランが通っていた士官学校の初お披露目ですね。肝心のアランが昔どのような人物だったかという話は避けてます。また本編とは別で載せたいと考えているからね。
ちなみにエステラは最後の写真を本人達には勿論。『闇黒騎士隊』のメンバーや、アランの追っかけ(⁇)に無承諾で渡しましたとさ。
(バラバスがベルタの連絡先をなぜ知っているかは不明です)