SSまとめ
「今度ピクニックに行きたい」
みんなさえ良ければと付け加えて、ヴァニラは朝食後に言った。
「……ピクニック?」
勿論、他の四人は疑問符を浮かべる。ブレイドが聞き返すと、ヴァニラは小さく頷いた。
「このまえ、テレビでピクニック特集やってて」
テレビに影響されてか……、と四人はなんとも言えない表情を浮かべて。
「そこで、“お弁当交換”を友達としてたって言ってたから気になって」
「……“お弁当交換”?」
「“お弁当交換”」
初めて聞く単語に、四人は視線交えて、集合。ヴァニラに聞こえないよう、こそこそと。
「“お弁当交換”って何だ、アラン」
「オレも知らないぞ」
「おかずとか、お菓子とかなら分かるけどな」
「もう一回聞いてみましょ」
それがいい、と頷き、解散。
「ねぇ、ヴァニラ。おかず交換とか、お菓子交換とかじゃなくて、本当に“お弁当交換”?」
念を押すように聞かれたので、ヴァニラはもう一度テレビの内容を思い返す。
『小さい頃の思い出かぁ……遠足の時に、弁当のおかずとか交換し合ったよな』
『懐かしい! 交換するときにおかず落としちゃって、二人して泣いたよね』
『そうそう。こうしてピクニックしてると思い出すよなぁ』
(……おかず? でもお弁当の中身っておかずだけよね。なら、“お弁当交換”って言ったほうがいいと思う)
※ヴァニラが自分なりにテレビの言葉(しかもドラマ)を解釈して生まれたのが、“お弁当交換”。
「……“お弁当交換”」
「やっぱりそうなのね……」
「つか、ニュースでやってるんだな。そんな特集」
「やってるんじゃないか?」
間違った知識を受け止め、吸収する。
「その“お弁当交換”って具体的には?」
ベルタに訊かれ、ヴァニラは再び先程の内容を思い返す。
「……お弁当を、交換する」
「……それだけ?」
「それ以外に何があるんだよ」
兎に角、ヴァニラは“お弁当交換”のために、ピクニックを皆としたいのは理解した。
何となく楽しそうなので、今度の休日に決行することとなった。
「場所はどうする? はじまりの地以外だと行きずらいわよね」
「移動手段ならオレに任せてくれ。せっかくだし、はじまりの地以外にしないか?」
「なら、森林の地はどうだ? ピクニックにはうってつけだろ」
「奥の方なら人もいない……はず」
「いいわね。でも行けるの?」
「大丈夫だ。問題ない」
「決まりだな。当日までに準備しようぜ」
「お弁当は……交換するなら分からない方がいいわよね。当日に交代で作りましょ」
わいわいと盛り上がる一同。
「……」
その中でベルタは一人、顔を顰めていた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
──数日後。
(……拠点に戻るのも久しぶりだな)
愛竜ヴリージオンの背に跨り、黄昏時の空を駆ける。
心地よい風を受けながら、バラバスは久方ぶりに『闇黒騎士隊』の拠点へと向かっていた。
(最後に戻ったのは……いつだったか?)
※野宿し過ぎて帰還がもはや、久しぶりのお出掛けと化している。
降下するヴリージオン。拠点の訓練場に着地、ヴリージオンの背から降りる。軽く体を叩くと、ヴリージオンは何処へと飛び去った。
その姿を見送ると、バラバスは拠点に向かう。
「……」
「……」
目の前に立つのはバラバスの妹ベルタ。
拠点に戻るや否や、エステラに「お客さん」と言われて、待機している部屋に向かってみれば……なんと、冷たく突き放した妹が一人でいるじゃないか。
完全に姿を見られてしまったので、引くにも引けず。無言の状態が続いている。
兄として気の利いた言葉でも言うべきだろうが、そもそも兄として振る舞ってよいものか、まず会いにきたのは私なのか? 違う可能性も……。
「あ、あの、兄さん」
バラバスがぐるぐると思考を巡らせていると、ベルタが緊張でカチコチになりながらも話しかけてきた。
「い、いきなりですいません。実は……」
ベルタはバラバスに、明日ピクニックに行くこと、“お弁当交換”のために弁当を作らなければいけないことを伝え、
「それで、兄さんがよく作ってくれたパイの作り方を、教えていただきたくて」
バラバスにしては珍しく、“言葉が出ない”状態だった。
辛うじて顔に出るのを抑えると、バラバスは明後日の方向に視線を向け。
「……それだけなら、私のところに来なくとも良いだろう」
うっわっ、うっっわっ!!
我ながらなんて大人気ない回答!!
※バラバスの脳内で激しく殴り合うミニバラバス達。
「そう……ですよね……」
※バラバスの脳内でミニバラバス達相手に無双するミニバラバス(罪悪感の化身)。
空気に耐え切れなくなり、バラバスは踵を返して歩き出す。嫌われるのは当然じゃないか。寧ろ、今まで嫌われていない方がおかしいんだ。
「待って下さい! 兄さん!」
部屋全体に響き渡る声量で呼び止められ、バラバスは驚き、振り向く。
ベルタは自身の胸に手を当て、深呼吸。気持ちを落ち着かせ、バラバスを見つめる。
「ご迷惑なのは承知してます。今回だって、兄さんに頼る必要は必ずしもありません。ですがその……せっかくの場ですから、いつもとは違うものに挑戦したかったのです。兄さんが作るパイ、とても美味しいから」
ダメかなぁ、と俯くベルタ。バラバスは溜め息を洩らすと、再びベルタに背を向けて。
「……この部屋を出て左、二つ目の曲がり角を曲がった先、突き当たりに食堂がある。先に行って待っていろ」
「は、はい!」
先に部屋を出たバラバスは、歩きながら兜を取る。とりあえず、甲冑やら何やらを置かないことには動きずらいと、バラバスは一度自室へ寄ることにした。
「……」
その様子を見ていたベルタは、甲冑を置きに行ったのだと理解。嬉しそうに頬を緩めると、バラバスの言われた通り、食堂に向かう。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
そして迎えた当日──……
「忘れものはない?」
天気は快晴。絶好のピクニック日和。
リュックサックを背に、ヴァニラは一列に並ぶ四人に問いかける。
「お弁当は?」
「抜かりなし!」
「その他備品は?」
「抜かりありません!」
「うん。じゃあ、アラン隊員。あとはよろしく」
「え、あ、……ハイ」
実は、アランが言っていた“移動手段”については、誰も知らなかった。
どんな方法なのか、四人の視線はアランに向けられた。
「久しぶりだな……」
ポツリと洩らし、荷物の中からオカリナを取り出し、メロディを奏で始める。
「……いやいや何して、んぐっ」
「黙って聞いてろ」
口の中にパンを突っ込まれ、もぐもぐと咀嚼。
「……なにか来た」
少しして。ヴァニラが上空に何かを見つけたようだ。
釣られて三人も視線を向けると、空を軽やかに駆ける羽が生えた馬……。
「ペガサス……?」
アランはオカリナを片手に、五体のペガサスに手を振る。
「あ、アラン? 移動手段ってまさか……」
「ペガサスに乗って行くつもりだが?」
わあお。超ファンタジー。
戸惑っている間にも、地面に脚を下ろすペガサス達。
一体のペガサスがアランに歩み寄り、頭を下げる。アランも頭を撫でるあたり、仲がいいようだ。
「ペガサスなんて初めて見たわ」
「実在してたんだな」
レベッカとブレイドが口々に。この世界では、ユニコーンは居ても、ペガサスは伝説上の生き物として扱われるほど、お目にかかれない生き物なのだ。
アランは羽部分に手を添えながら。
「この子達は“セイクリッドペガサス”と呼ばれる種族で、ペガサスの中でも高貴な分類に入るんだ。だから人一倍狙われやすく、敵の目を欺くために進化していった。その末端が、この子達なんだ」
お前は何者だよ。
ヴァニラを除く三人の心の声が一致した。伝説上の生き物を操るアランとは……。
「この子達は透明化出来るから、はじまりの地を越えるならもってこいかなって思って」
「ありがとう。アラン隊員」
「あっまだそのノリ続くのか……」
よろしく、と話しかけてヴァニラはペガサスの背に跨った。
「よろしく頼むな」
「ちょっと背中乗るな」
続いてアラン、ブレイドも背に乗る。
「……レベッカ? ベルタ?」
未だ動かない二人に、怪訝そうに訊ねる。
「どうかしたの?」
「あっ、いや、その……」
「ええっと、なんて言えば……」
「……こわいの?」
図星。レベッカとベルタは冷や汗を流して。
「鐙とかがあるならともかく、何もなしに空を飛ぶのは……」
「うーん……そこまで揺れないし、大丈夫だとは思うが……」
それでも怖いものは怖い。けれど、陸路で向かうにはあまりにも遠すぎる……。
駄々をこねている場合ではないと分かっているのだが、なかなか動けずにいた。
「……なら、一緒に乗るか?」
え?
「たしかに。安心だしな」
ゑ??
ブレイドの提案に、アランは手を叩いて賛同。
「レベッカにベルタ、オレかブレイドと一緒に乗ってくれ」
羞恥心と安心感が天秤にかけられる。
言われてみれば、いきなり乗れっていうのは無茶振りだったよな……次からは気をつけよう(byアランの心)。
時間もったいないから早くしてほしい(byブレイドの心)。
と、一切気にしてない二人の様子に、羞恥心が勝った。
「一人で頑張って乗ります!!」
「そ、そうか……」
「まあ頑張れ」
声を揃え、ほぼ伏せの状態で背に乗る二人。
なんとか出発の準備は出来たので、ヴァニラは片手を突き上げると。
「しゅっぱーつ」
前方を指差す。それを合図に、ペガサス達は一斉に羽を広げ、空へと飛びあがった。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
──エレメンタル大陸、森林の地。
「おおっ〜」
ペガサスの背から降りた五人は、目の前に広がる素晴らしい光景に感嘆した。
「綺麗な泉……」
「空から見なきゃ分からなかったな」
五人がピクニックに選んだこの場所は、周りの木々に深く覆い隠されていた。上空から見下ろすことで、初めて気づける秘密の場所であったのだ。
澄み渡る泉に差し込む陽光。水面に反射し、あたりの木々を優しく照らす。まるで、絵画のワンシーンのような幻想的な景色だ。
見惚れるのもほどほどに。本来の目的(ピクニックと“お弁当交換”)を思い出すと、シートを引いて荷解き。
「今何時だ?」
「お昼にしては少し早いわね」
「腹もそこまで空いてないし……何かしようぜ」
すっ、と静かに手が挙がる。
四人の視線が、ヴァニラに集まった。
「だるまさんがころんだ」
「……は?」
「だるまさんがころんだ」
「……」
「だーるーまー」
「タッチ」
「【幻影】使うなッ!!」
「アレ便利だな……」
「チートだけど」
※だるまさんがころんだ終了。
「次は?」
今日はヴァニラに任せることにし、次の指示を仰ぐ。
「……押し相撲」
「……ん?」
「押し相撲」
「……」
「おうおうアランさんよぉ、無理して俺の速さに合わせなくていいんだぜぇ? おう?」
「ようようブレイドさんよ、そんなか弱い力で無理しなくていいんだぜ? よう?」
「目笑ってないぞあの二人」
「しかも本気でやってるから長引くわね」
※押し相撲強制終了。
「次はもう少し穏やかなのにしましょ」
お互いに本気出しすぎて腕が痺れた二名(厨二病みたくなってる)を横目に、レベッカが促す。
「じゃあ……花冠作り」
「え? 腕使う?」
「花冠作り」
「イイわね」
「ちょっとパスする……」
「できた」
「早ッ!? し、しかも完璧だと……」
「上手いわね、ヴァニラ。ワタシももう少しで完成だけど……大丈夫? ベルタ」
「だだだだだだ大丈夫だだだだだだ」
「大丈夫じゃなさそうね」
※(女子だけの)花冠作り終了。
「そろそろいいんじゃね?」
何とか回復したブレイド(アランも同様)が、エレフォンで時間を確認する。
「“お弁当交換”しよう」
「どうやって交換する? 音楽流す?」
「……ちょっとそれは雰囲気的にアウト」
「交換の方法なら決めてある」
ヴァニラは鞄に手を入れてゴソゴソ。
「はい。一人一本ね」
取り出したのは抽選箱。中には五本の棒が入れられている。
「準備いいな」
「同じ色同士がペアになってる。……せーのっ」
1,ブレイド⇄レベッカ
2,ベルタ⇄ヴァニラ
3,アラン
「……」
「……すっかり抜けていたけれど、一人余るわよね」
何色にも塗られていない棒を見つめるアランは、何処となく残念そうだ。
ブレイドとヴァニラは視線を合わせ、ヴァニラは再び鞄を探る。
「はい、アラン」
と、ヴァニラはアランに弁当を渡した。
「え?」
「交換用は別にある」
「それは俺とヴァニラが作った弁当……つってもおかずだけだが、用意したやつだ。余った奴にあげようって二人で作った」
「そうだったのか……」
アランは受け取った弁当を見つめ、ぽつり。交換というよりは一方的だが、少なくとも一人では無くなった。
「そういえば、アナタって料理できたの?」
「ほどほどには」
紅色の弁当箱と緑色の弁当箱を互いに交換。蓋を開ける。
「見た目は普通……」
「……ケチャップだらけじゃねぇか」
ブレイドの弁当が極々普通のに対し、レベッカはこれほどまでにかと突っ込みたくなるほど、ケチャップが使用されていた。
「あっ、オムライスとか天津丼の方が良かった?」
「どっちもケチャップ使う料理かよ。そんなに好きなのか……?」
「いいえ? ワタシは普通だけど、ケチャップって誰でも好きかなって思ったから」
味はまあ……まあ、普通。食べ進めていくうちに飽きそうだが、不味くはない。
レベッカもブレイドの弁当を食べながら、不味くはないけど普通だと感じていた。
「ブレイドのは……普通に美味しいわね」
「お前のも普通に……美味いな」
レベッカとブレイドの間に、神妙な空気が流れ始める。
一方で──
「はい、ベルタ」
「ありがとう」
紫色の弁当箱と水色の弁当箱を互いに交換。蓋を開ける。
「……パイ?」
ベルタの弁当箱に入っていたのは、食べやすいよう小さく切られたパイ。断面から、中身は肉や野菜など詰められているのが分かる。
小首を傾げるヴァニラに、ベルタは少し照れながら。
「ああ。昔、兄がよく作ってくれたものだ。定番のおかずを作っても良かったのだが、せっかくだし違うのを作ってみようかと……」
「すごいね。ベルタが作ったのでしょう?」
「い、いや、兄さんにも手伝ってもらったんだ。無理やり押しかけてしまったが……」
「……」
ヴァニラは、ベルタからパイに視線を移す。ベルタとその兄については少しだけ聞いていたので、自分のためにそこまでしてくれたのだと思うと、嬉しくなった。
「ベルタは食べたの?」
「え? ああ……味見はちゃんと……」
「そうじゃなくて。お兄さんと一緒に作ったのでしょう? 二人で食べたの?」
ベルタは目を丸くした後、視線をパイに移す。
自分が不器用ゆえに何回も失敗。味見したのは、朝日が登り始めた頃だった。申し訳ない気持ちでいっぱいいっぱいのベルタには聞こえていなかった。
「まぁ……こうして過ごすのも、悪くないな」
当時は申し訳ない気持ちでかき消されたが、今思えば、あれは兄なりに楽しんだのではなかったのだろうか。
「……ありがとう」
「……?」
気付かせてくれたヴァニラは不思議そうにベルタを見つめていた。
「食べていい?」
「もちろん。私もいただくな」
「うん。ブレイドに見てもらったから、ちゃんとできてると思う」
「そうか。それじゃあ」
「「いただきます」」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「ご馳走様でした♪」
「お腹いっぱい……」
「弁当ありがとな。ヴァニラにブレイド」
「おいしかったならよかった」
「あの量を完食かよ……」
“お弁当交換”も終わり、したい事はやり切った。が、帰るにはまだ早い時間だ。
「……なぁ、一つ言っていい?」
ここで、彼らに最大の危機(?)が訪れる。
髪を撫でる優しい風、絶妙に調節された陽光、とても過ごしやすい気温に、極めつけに満たされた空腹。
「すげぇ眠い」
「わかる。」
お昼後の睡魔が襲って来たのだ。
ブレイドの言葉に他の四人も同意。深く頷くも、脳内は半分ほど睡魔にやられていて。
「次はおひるねにけってい。はい、枕と毛布。一人一セットずつね」
「ヴァニラの鞄は異次元にでも繋がってるのか??」
しかも、寝心地良さそうな枕と毛布。
五人はシートの上で輪になり、枕を並べて横になる。
(あっ……)
(ダメだこれ……)
(すぐに寝ちゃ……)
「Zzz……」
抗えようのない睡魔。ものの数秒で夢の中へ。
子供のように楽しくはしゃぎ、遊び疲れた後のお昼寝はとても気持ちよく。
自分達以外に知らない秘密の場所には、静かな寝息と、小鳥達の声だけが響いた。
「また……みんなで……むにゃむにゃ……」
〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜
もはやSSじゃないですね、短編ですね。でも本編とは何ら関わりないのでSSまとめに入れました。
唐突に思いついたわりには長い文だった。書きながら入れたいネタが増えたからだけど…バラバスの部分どうした??(アレは何を見てそうなったんだ?)
多分…エレストにペガサスはいない…はず。結構調べたけど武器ぐらいしか分からなかったし…まあ、いいか(何が?)。
“お弁当交換”のペアはあみだで決めました。一回目でベルタ⇄ヴァニラのペアが出て来たので、そのまま採用しました(アランごめん)。