外伝まとめ



「ここで何をしている」

 ベルタが身を隠している岩に向けて斧を構えるのは“過去のバラバス”。その後ろでは、幼いベルタが不安げに縮こまっていた。兄は少女を庇うように腕を伸ばしながら、鋭い眼光で岩陰を睨み。

「今から三つ数える。それまでに出て来ないなら、容赦なく攻撃する」


 1。
 ベルタは“アブソリュートグレイシス”をその手に。

 2。
 究極進化。

 3。
 意識を集中させ──解き放つ。


「【アイスバーグクラッシュ】」

 言葉通り容赦なく放たれる攻撃。ベルタは地を蹴り、襲いくる攻撃から離れるように走り出すと回転。

「【ブリリアントグレイシア】!」

 己の氷を、兄の氷にぶつける。

 二つの氷塊は互いに相殺され、轟音と共に砕け散る。

「くっ……」

 兄の行手を、砕けた氷塊が道を塞ぐように遮る。悔しげに奥歯を噛み締める兄を、少女は泣きそうな顔で見上げていた。

「兄さんっ……」
「……怖い想いをさせたな。ベルタ」
「ううん。これぐらい平気っ」
「……そうか」


 “……さようなら、過去の私”


 ベルタは“水凍の地”を一心に駆け抜ける。過去の自分がこれから背負うであろう悲しみを、全て知らないフリをするかのようにただただ走る。

 私が“帰りたい”と思う場所に──……。





「レベッカ。頭の中で想像しながら聞いてくれよ」

 そうテラは、幼いレベッカに優しく語りかける。

 うららかな陽の光に当てられ、少女はすでにウトウトとしながらも話片耳に。

「自分は今、ある地に立っている。そこは辺り一面を厚い氷が覆い尽くし、冷たい吹雪が永遠に吹き荒れる場所」

 はっとして息を呑むレベッカ。寒いと聞いたからか、小さく身震いする少女に布団を掛けてあげながら続けて。

「次に自分は、木漏れ日が差す森の中に立っている。耳をすませば、小鳥達の歌と草木が揺れる音が聞こえ、心地よい風が流れる場所」

 微笑む少女の頭を撫でながら。

「次に自分は、何処までも続く砂漠の上に立っている。燦々と照りつける太陽の光の下で、砂に埋まっている機械の影で身を休める」

「次に自分は、枯れ果てた森の中に立っている。光が無い暗闇を、ランプ片手に歩き続け辿り着くのは……」

 すうすうと寝息が聞こえ、テラは口を閉ざした。

「寝たか……」

 一連の出来事を見つめていたレベッカは、テラが語っていた話の内容を頭の中で繰り返して噛み締める。


 “『水凍の地』『森林の地』『光明の地』『夕闇の地』……テラ兄は自分が見てきたものを、ワタシにも知ってほしかったのね。……ありがとう、テラ兄”


 この時代と現代の彼に改めて感謝する。

 さてと、とレベッカは慎重に荷物から降り、駆け足でその場を……“火炎の地”の外へ向かう。


「……大丈夫だ。きっとレベッカのことを、ちゃんと理解してくれる仲間が出来るから」





「もう大丈夫だ。安心するといい」

 そう差し伸ばされた手を、幼い“アラン”は助かったと涙を浮かべるも拭って、手を。

 アランは何だかよく分からない機械の影に隠れつつ、様子を窺う。


 “今日だったのか……アルタリア様と出会ったのは……”


 “閃光”の五戦神──アルタリア・モルス。

 後にその正体を知ることになる彼女との出会いが、アランの人生を決めたと言っても過言ではない。アランはちらりと白馬を見遣ると。


 “それにしてもなんなんだあの馬は……オレのこと知ってるみたいだし……問いかけたところで分からないよな……”


 思わず口から溜め息が洩れるも、移動し始めた二人に気付き後をつける。

「……ありがとうございます! アルタリア様!」

 尾行すること数分。遂にアルタリアから羽の髪飾りを贈られる所まで見届けたアラン。これ以上は必要ないと判断し、来た道を戻って行く。

「待たせたな」

 遺跡近くまで戻れば、白馬は言いつけを守り待っていた。行きと同じように後脚を此方に向けて“乗れ”と合図。アランは指で頬を掻きながら苦笑し、歩み寄ったその時。

「ん?」

 その白馬の後脚に目がいく。よく見れば前脚を含めた全ての脚に、トゲが付いた金属の足輪が付けられている。明らかに白馬が付けられる物ではない。

「……」

 もしかして。アランは一つの仮説を立てる。『この白馬は誰かの所有馬だったのではないか』と。そうでなければ可笑しいのだが。

「……なあ。お礼と言ってはなんだが、脚の外してやるよ」

 幾ら前の主人がパンク好きだったにしろ、これでは白馬が可哀想だ。そう思い、アランは屈んで足輪に触れるも。


「どおおっ!?」


 ──後ろ蹴り。

 間一髪体を逸らし、白馬の蹴りを回避。あと少し遅ければトゲが顔に刺さり……R指定不可避となっていた。

 ドサッと尻餅をつき、疑問符を浮かべるアラン。白馬はフンと言いたげに鼻息を荒くした。

「は、外されたくないんだな……? わ、分かった。もうしない」

 分かればよろしいと通常モードに入る白馬。本日何度目かとなる『何なんだ?』を繰り返し、その背中に跨った。

「じゃあ、“はじまりの地”までよろしくな」





 “過去が……変わってる……!?”

 暗く、冷たい“森林の地”にある地下牢の中で、幼い自分に話しかけられたブレイドは酷く狼狽えた。何しろ、自分が知る過去にこのような出来事は無い。つまりブレイドは……過去を変えてしまったことになる。


 “し、しまったーー! やべぇ、どうしたらいいんだこれ! このままこいつを連れ出してヴァニラと引き合わせるか!? い、いや、駄目だ! それだけはしたくない!!”


 ぶんぶんと頭を振り、思考を掻き消す。しかしどうしたら良いのやら。思考が糸のように絡まっていると、ぽんっと背後から肩を叩かれる。

「っ!?」

 声こそ出さなかったが、盛大にビクつき振り返ると。しーっと立てた指を唇に添える現代の“ヴァニラ”が。『どうしてここに』と口元を動かすと、ヴァニラは懐からある物を──。

「……」

 文明の利器エレフォン

 電波はなくとも充電さえあればメモ機能は使えるので、ヴァニラは文字を打ち込んだ画面をブレイドに。

『わたしの方は見送ったからこっち見にきたの』

 そうかと口元を動かし、自身もまたエレフォンを取り出して文字を打つ。

『大変なんだ。何か俺が知ってる過去じゃないっつうか』
『なにがちがうの?』
『自分で言うのも何だが、もっと反抗してた気がする』
『たしかに大人しいね』

 このままではヴァニラを迎えに行くために強くなるという意思が消えてしまう。腕を組み悩む二人だったが、片割れのヴァニラが何かを閃いて。

『ブレイド励ましてあげて』
『流石にバレるだろ!』
『大丈夫。オフラインでも使えるボイスチェンジアプリ入ってるから』
『何で入れてんだよ』

 ブレイドは長考後、仕方ないと言いたげな表情で覚悟を決めた。

 貸してくれと差し出された掌に、ヴァニラはアプリを起動させたエレフォンを託す。深く深呼吸をし、口元にマイクを近づける。

「……聞こえるか」

 己の声よりも遥かに低い声音が地下牢に響く。

 少年は返事をしなかったが、流石に聞こえてるよなと気にせず話しかける。

「いつまでぐずぐず嘆いているつもりか、餓鬼」

 自分相手だからか、いつもより棘がある言葉。その眼差しも、何処か呆れているようにも見える。

「待っていてもヴァニラは帰ってこない」
「──そんなの分かってるッ!」

 まるで獣のような叫び。しんと静まり返る中、ブレイドは息を吐いて。

「分かってるなら何でぐずぐずしてる」
「それは……」

 口籠る少年の気持ちを、彼は理解していた。

 だが敢えて教えるつもりは無い。少年が歩む未来が、冒険者になった今の自分とは違うかもしれないから。

「このままでいいのか、そうじゃないのか。ハッキリさせろ」

 少年の嗚咽する声が聞こえて来た。

 ブレイドは深く息を吸うと。

「なら考えろ。もうお前は“一人”なんだ。自分で考えて行動しなくちゃいけない。……本当に失いたくないなら、抗え。」

 ゆっくりとエレフォンを口元から離し、ヴァニラに返す。行くぞと踵を返すブレイドに、ヴァニラは深く頷いた。



「うっ……」

 地下牢から地上へ。差し込む眩い光に目が眩むも、徐々に視界が明らかになって……。

「って、やばいだろこれ」

 目の前に広がるのは大人達が皆地に伏している光景。よくもまあバレずに気絶させられたなとジト目。

「分身で一気に片付けた」
「そうか……。はぁ、それにしても大きく変えちまったなー」

 腕を頭の後ろで組み、歩くブレイド。隣に並ぶヴァニラはどうして? と首を傾げる。

「ばれてなかったよ?」
「そうだけどよ、俺冒険者にならないんじゃないかって。そうしたらあいつらとも……」

 二回目の溜め息。

「……」

 ヴァニラはブレイドの一歩前に出て向き合うと。

「なら確かめに行こっ。本当にみんなと会えないのかを。あの場所で」
「あの場所って……あっ」
「そう。あの場所に」

 ふふっと微笑むヴァニラに、ブレイドは元気を取り戻してにっと笑った。


「行くぞ! 俺達の拠点に!」


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


 エレメンタル大陸、中央。

 “はじまりの地”と呼ばれる地で栄える街。そこから数分歩いた先……ぽつんと淋しげに立てられた建物がある。


 彼ら『第14小隊』が使用する拠点。その拠点の10年前は──。


「ちょっと新しいな」

 見てくれは今よりも綺麗だった。ブレイドの言葉に、他の四人も同意して。

「それにしても……みんな揃ってよかったわ」
「ああ。オレもホッとしてる」
「やはりこのメンバーでなくてはな」
「うん。離れるのはさびしい」

 今は使われていない拠点の前で、五人は円になってお互いに微笑み合う。束の間の別れからの再会を楽しんだ後、本題に入る。

「それで……どう帰ればいいんだ?」
「……。」

 どう帰れば良いのでしょう。

 五人集まっても出ない知恵とはこのことか。

「アランの無駄にある知」
「オレがなんでも知ってると思うなよ?? さすがに想定外だ」
「こういうときは『英知の書庫』で調べるにかぎるけど……」
「ああ。目に付く場所には置いてないだろうな。それにこの時代はリベリアさんも居ないだろうし」
「居たら居たで納得しそうだけどな」

 振り出しのマスから一マスも前に進めない。ああだこうだと思い付く限り意見を出し合うも、必ず何かが引っかかってしまう。

「もういっそのこと、時の神様のところに行くのは?」
「殴り込みにか?」
「天性の阿保だな」
「誰が阿保だ」

 近くでヴァニラがジャブしているのを横目に、アランは痛む頭を押さえるように眉間に指を。

「ホントにこれで良かったのか……?」
「ワタシ達の運の尽きよ」
「オイオイ」
「で、行くのか行かな」


 ドオォォォン!!


 ──刹那。ブレイドの台詞を遮るように轟音が五人のすぐ側で響き渡る。

「……何のお」
「危ねぇ!!」

 湧き上がる黒煙の中から放たれる緑の閃光。軌道に居たベルタにブレイドがタックル。事なきを得た。

「す、すまない」
「いやいいけど、当たってたら不味かったな。毒だぞこれ」

 ブレイドの視線の先、緑の閃光が抉った地面は毒によって変色していた。思わず息を呑み込む。

「大丈夫ベルタ!?」
「……ああ。平気だ」
「というかいきなり現れて攻撃とか……何なんだあいつ等」

 黒煙が風に流されて晴れてゆく……。

 現れたのは、悍ましい姿形をした五体のモンスター。現代でも見覚えのないモンスターに、緊張感が走る。

「なんのつもり? わたし達と戦おうってつもりなら容赦しない」
「あ、ヴァニラは煽っていくスタイルですかそうですか」
「何言ってんだお前」

 彼女にしては珍しく頭にきているようで、“瞬影刃”片手に鋭い眼孔を向ける。

『……』

 しかしながら、モンスターは口を閉ざしたまま。暫しの睨み合いが続いていたが……さあっと強く吹き荒れる風が、モンスター達を動かした。


『我が名はアウレク、断罪の堕翼』
『我が名はマラグス、厄災の猛毒爪』
『我が名はリグソール、業火の邪神』
『我が名はエレイア、魅惑の悪魔』
『我が名はヴァレア、邪神の大鎌』

『……の、影』
「……の、影ぇ!?」


 先程までの緊張感は旅に出てしまったらしい。声を揃える四人(ヴァニラ以外)に、悪魔達は頷きもせず。

「か、影だから機械的……なのかしら」
「いずれにせよ、戦わなくちゃいけないらしいな」

 そう武器を呼び寄せ各々構える。なぜ自分達を狙うのかは不明だが、ここで負けるわけにはいかない。


「光よ! 集え!」
「燃えよ! 炎よ!」
「凍よ! 水よ!」
「風よ! 力となれ!」
「闇よ。わたしに力を」


 戦いの火蓋が──切られた。


『【アシッドストーム】』

 先手を打ったのはアウレク。剣を天に掲げ、光の光線を撃つ。

「一体何を……」
「来るぞッ!」
「俺が行く!」

 究極進化を遂げた一同に突っ込んでくるエレイアを、真っ先にブレイドが応戦。他の四人も自身が持つ属性が有利になる相手の元に向かう。


 ガキィンッ──!

 刀と刀剣がぶつかり合い火花が散る。ギリギリと押し込まれる刀剣を、刃を横にしてぐっと耐えていたが、キラッと上からの光に気付き刀剣を押し返して後退。刹那、エレイアとの間に落ちる光の隕石とも表現出来る物体。

「さっきのか……!」

 続けて降り注ぐ隕石をひらりひらりと躱しながら、なお悪魔の笑みを浮かべて刀剣を振るうエレイアも打ち合い。少しして隕石は収まったが、元となる核は空に打ち上がったまま。レベッカが“バーストキャノン”の銃口を向けて撃ち落とそうとするも、アランが制止。

「やめろレベッカ!! もし飛散したら広範囲に被害が出る!」

 ハッとしてレベッカは攻撃を中断。アランは大きく振りかぶられた鎌を、“閃光剣”の刃と添わせた自身の体で受け止めると。

「【閃光剣】!」

 零距離発射。

 不利属性とスキル・アビリティの効果で倍増となった一撃に、ヴァレアは蹌踉めいた。

「もう一度……」
「アラン避けて!!」

 響くヴァニラの声。反射的に横へ飛び退くと、光線が目の前を通り過ぎ……蹌踉めくヴァレアに直撃。それがトドメとなり、ヴァレアの影は完全消滅。アウレクと戦うヴァニラの方を見遣ると、上手くいったと微笑んでいるようだった。どうやら仕組んだらしい。

「アラン、手をかして」

 またもや降り注ぐ隕石の合間を縫いながらヴァニラと合流すると、真っ直ぐな瞳でそう告げられる。この鬱陶しい隕石をどうにかするためにも、早々に抑え込むべきだろう判断。

「わかった。援護は任せろ」
「うん」

 簡単に言えばアランはパワー型、ヴァニラはスピード型だ。アランが援護に回る方が効率が良い。

 隕石の嵐を抜けると、アウレクは四翼の翼を大きく広げ飛翔。空中で上から下に反転し、地面スレスレを飛行しながら大剣を構え。

『【アシッドブラスト】』

 左下から右斜め上に、大剣を振るうと共に放たれる光線を左右に飛んで回避。アウレクは一度二人の合間を抜けると急停止。振り向き様に大剣で空を斬る。

「【光連斬】!」

 アランが片手を突き伸ばすと、二振りの光の剣が生成され、アウレクの両肩を貫く。

「……まあそうだよな」

 光の剣はアウレクの肩鎧を吹き飛ばして消滅してしまう。アウレクは大剣を高く掲げ、今一度【アシッドブラスト】を。

「【奇襲鋭刃】」

 その隙にアウレクの死角から飛び込んだヴァニラは、鎧が外れた肩を足場にして“瞬影刃”を露わとなった部分に一閃。着地と同時に、アウレクの影も消滅した。

「……なに?」
「い、いや……マジで首狙ったんだなって……」
「おかしい?」
「……いや」
「そう」

 敵に回しちゃいけないやつだ。



 ──一方。一同に不意打ち攻撃を仕掛けたマラグスを相手にするレベッカ。彼女が足を踏みしめる地面の至る箇所が、毒によって変色していた。あと少しで青チームの勝利……とは何ら関係ないのであしからず。

「【メガヒートブラスト】!」

 “バーストキャノン”から放たれる熱線がマラグスの周囲で大きな爆発を引き起こす。追い討ちをかけるように魔弾を発射するも、煙を掻き分けるように爪痕のような衝波に掻き消される。

 小さく舌打ちを洩らした直後、煙を引きながらマラグスが急接近。レベッカに鉤爪を振り落とすと、武器に付いた刃で受け止める。

「ハアアッ!」

 覇気と共に火のエレメントを更に燃え上がらせ、力任せにブンッと武器を横に振るう。距離を置いたマラグスをキッと睨みつけた後。

「チャージ完了」

 不敵に笑い、照準をマラグスに。

「【バーストキャノン】!」

 反撃の隙すら与えず被弾。赤く染まる視界と暴風に吹かれながら、レベッカはフンと鼻で笑って。

「ワタシを怒らせるからよ」

 と、腰に片手を当てたまま辺りを見渡す。目に入ったのは必死に走るベルタの姿。どうしたのだとリグソールに注目すると。……体の内側から洩れる赤い光。意味を察し、レベッカもまた駆け出す。

「ブレイドっ!」
「ああ!?」

 ベルタに呼ばれたブレイドは若干キレ気味に返事をする。エレイアと鍔迫り合いになりながらも用件を。

「っ何だよ!」
「私から離れるな!」
「はあっ!?」

 意味分かんねぇよ! と叫ぶブレイドの視界、エレイアが背後からの一撃を喰らい怯む。

「投げなさいブレイドッ!」

 エレイアに【バーストキャノン】を当てたレベッカに言われ、ブレイドは即座にエレイアの鳩尾に膝蹴り。あっちだと指された方角にぶん投げた。

「って……まさかあいつ」
「【ブリリアントグレイシア】!!」

 ベルタは斧を地面に突きつけ、強固な氷塊を前方に生成する。──直後、投げられたエレイアとリグソールが衝突し、赤い光が辺り一面を照らす。

 速い話が、大規模な自爆である。

 軌道上から逸れているのはレベッカ、アラン、ヴァニラの三人。確実に巻き込まれると判断したベルタは、不利属性のブレイドのもとに走ったのだ。

「ぐううう……!」

 有利属性であるはずなのに、遅い来る熱風と衝撃に顔が歪む。エレイア(の影)を投げ込んだことにより威力は抑えられたようで、これなら何とかなると考えていたベルタ。

 ……が、不足の事態。


 ──バキッ!


「なっ」

 深くヒビ入る氷塊。その正体はエレイアが使っていた刀剣の片割れ。運悪くも此方に飛んできてしまったようだ。刀剣を中心に広がる亀裂。不味いと感じたその時、隣に並ぶ影。

「風よ、押し寄せる嵐を前に渦を巻け!──【風の障壁】!」

 ──刹那、衝撃が二人の姿を呑み込む。

「ベルタ! ブレイド!」

 広範囲に及ぶ大爆発によって焦土と化した地を駆け抜ける三人。煙の中を掻き分けながら二人の名を呼ぶ。

「っ、居た!」
「え、どこが!?」
「多分『痛っ』じゃないぞ」

 ヴァニラが向かった先……一部分だけ焼き焦げていない大地の上に、ブレイドとベルタの姿はあった。

「2人とも大丈夫?」
「お、俺は、げほっ、大丈夫」
「わ、私も大丈夫だ、けほっ」

 煙を吸ってしまい咳き込みながらも、特に外傷も見当たらない二人に胸を撫で下ろす。

「よかった……」
「二人ともここから抜けるぞ。人が集まって来たら面倒だしな。レベッカはベルタに手を」

 そうアランはブレイドの腕を掴み、レベッカも自身の肩にベルタの腕を回して走り出す。

「あと少し……!」

 長いようで短い煙の中から外に飛び出す。


「……あれ?」


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


「……あれ? 煙は?」

 五人全員で辺りを見渡す。しかし全員の視界に映るのは、何の変哲もない大地……って。

「いやいや、さっきまで真っ黒だったはずだろ!」
「煙の匂いすらしないな。……どういうことだ?」

 激しく戦った跡が、塵一つも残っていなかった。アランの手からすり抜けたブレイドがエレフォンの電源を入れる。

「……電波入ってる。さっきまで入って無かったのに」
「いつエレフォンなんて使ったのよ」
「……ん? いや待て、ということはだ」

 ベルタもまたレベッカから離れるとエレフォンを取り出し何かを確信。

「日付が……10年後に戻ってる」
「10年後ってことは……」
「ああ。現代に戻ってきたんだ」

 どうやら無事に帰れたようだ。その事実に安堵した一同は、体の力が抜けてその場に横たわる。

「あ〜〜〜まじで良かった帰ってこれて」
「飛ばされたときは夜だったのに帰りは昼なのね」
「一日経ってるみたいだな。結局……あれは何だったんだ?」
「それが謎だよな……。まあ、二度目がないことを祈るしかない」
「また戻ったとしても、みんなと一緒ならうれしい」

 円になって青い空を見上げる。


 過去でも未来でも変わらない空に、それぞれが抱く想いを馳せて。



 聞こえますか、10年前の自分達。

 10年後の自分達は──……



 RRRRR……。×5

「ん?」
「誰からかしら」

 一斉に鳴り響く五人のエレフォン。相手の名前にあっと声を洩らして。

「アルタリア様」
「アンガ様」
「ハルドラだ」
「ミラクロア様」
「ジェダル様……」

 重なる一同の声。しんと静まり返る中、五人は上半身を起こして向き合うと。

「これ全員で電話したら大変だぞ」
「じゃ、代表してアラン」
「オレ? なら出るぞ」

 ピッと押してスピーカーに。

「もしもし、アルタリア様ですか?」
『アラン!?』

 キーンと耳鳴りが五人を襲う。アランは片耳を塞ぎながら、そうですと返事を。

『無事なのか!?』
「え? あ、ハイ……」
『そうか……無事なら良かったが……』

 あのー、と横からレベッカが恐る恐るアルタリアに話しかける。

『レベッカ? ……そこに、全員居るのか?』
「ハイ。ワタシ達全員に皆様から電話が掛かってきたので……代表してアランに出てもらいました」
『そうであったか。うむ、暫し待っていてくれ』

 言葉通り待っていると、保留を解除したアルタリアが『待たせたな』と声を掛ける。

『皆に声をかけて集まってもらった』
「ありがとうございます」
『本当に無事なのじゃな?』
「はい。全員無事です」
『電話が繋がらないから驚いたぜ? 電波の届かないところって……どこに居たんだよ?』
「アハハハ……」

 これに関しては苦笑いしか出来ない。過去にタイムスリップしてましたー、なんて言えるわけが……。

『まあ、知ってるんだけどね〜? キミ達がどこに居たかは』

 衝撃の事実。

「本当に知ってるのかよ……?」
『過去か、未来かのどちらかに飛ばされていたのだろう』
「なんで知ってるのですか?」

 ヴァニラの問いにやっぱりかと納得しつつ。

『昨夜、時神クロノスから「自身が使う砂時計に亀裂が入っていた」と報告を受けた』
「砂時計?」
『ああ。の者が時空を管理する際に使用する神器の一つ。それ故、砂時計には時間を操作する力が込められている』

 ここであっと思い出す。

「では、あの時の流れ星がその力だったのか……?」
『そうあやつは言っておる。流星が堕ちたと推測される付近に……まさかそなた達が居たとは思わなかったがのう』
『呪われてるんじゃな〜い?』
「嬉しそうに言うな」
『んで、オメーらはどこに行ったんだ?』
「過去です」

 どよめくモルス達の声がエレフォン越しに洩れる。

『よ、良くぞ戻って来てくれたな……』
『ねっ、良かったらその話聞いてもいい〜?』

 五人は互いに視線を交じらせると。


「もちろんっ!」


 
10年前の自分達、10年後の自分達
Fin.





 10年後の自分達は──……

 とても、幸せです。


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