外伝まとめ


 今から10年前。

 ある者にとっては“運命の分岐点”。
 ある者にとっては“きっかけ”。

 彼らが“冒険者彼ら”になった所以。そのルーツが、10年前に存在する。


 もしも、過去に戻れたなら──……。


 一度は抱くであろう叶わぬ願い。仮に叶ったとしても、変えられるのは今の自分じゃないかもしれない。

 だがそれが、叶ってしまったとすれば?


 幸せな道を歩ませる?
 はたまた、苦難の道?


 これは、偶然にも10年前にタイムスリップしてしまった五人の物語──。


 彼らが選ぶ道の先に、在る未来とは……。


10年前の自分達、10年後の自分達


 他の大陸よりも賑わっている“はじまりの地”。繁華街から少し外れた場所に、その草原はひっそりと存在する。此方側に用が無ければ気付くことは無いだろう。人も物も何も無い草原を、歩く五人の姿。

「貴様が破壊したせいでこんな時間になってしまったぞ。どうしてくれる」
「お前だって罠に嵌りまくってじゃねぇか! ってか、破壊ならレベッカもしてただろ!」
「しっしてないわよ! ちょっとバーストキャノンが当たっただけで……! というか、ヴァニラがどこか行っちゃったのもあるでしょ」
「ごめん。でもアランも……。ううん、アランはなにもやらかしてなかった」
「それは褒め言葉か? それより落ち着いてくれ。終わったことで喧嘩するなよ」

 歩いていたのは『第14小隊』に所属する五人の男女。リーダーを務めるアランの言葉に、三人は頭が冷えたのか口々に謝る。

 本日、彼らは共同で依頼に当たっていた。内容は怪しげな遺跡の調査。調査の途中にモンスターと遭遇してしまい、やむを得なく応戦したものの遺跡は余波でボロボロ。元々持ち主が居なかった為に弁償しなくて済んだが、反省すべき点には違いない。

 天を仰げば、夜空に輝く星々が目に入る。出発したのは朝のこと。あらゆるアクシデントが重なり、夜遅くまでかかってしまった。疲労による苛つきが引き起こされるのも無理はない。

「……あっ、見えてきた」

 五人が向かう先──色々な思い出が詰まった拠点が見えて来た。ぽつんと取り残されたかのように佇む拠点。その近くまでこの草原は続いており、街から向かうよりも若干遠回りにはなるが混雑によるストレスは無い。

「明日寝坊するから宜しくな」
「断言するな。いい加減ちゃんと起きろよ」
「……すまない、アラン。私も寝坊しそうだ」
「えっ」
「ねぇ見て!」

 声を上げたレベッカを見遣ると、彼女は何やら興奮している様子だった。その視線を追うと、夜空に尾を引いて駆ける流れ星がキラリ。

「お願いごとしなくちゃ!」

 胸の前で手を組み、心の中で三回。

 他の四人も習い、それぞれお願いごとを唱えると顔を上げた。

「……」

 しかし、流れ星は“消えていなかった”。

 一直線で向かって来る流れ星。遠目からだと小さかった流れ星は、近づいて来るにつれて大きくなっていき……やがて、拠点ほどの大きさに膨らむ。

「こっちに来る……!?」
「走れ!!」

 弾かれるように走り出す。流石と言った具合か、彼らは衝突する前に流れ星の軌道から抜け出すことが出来たのだが。

「追って来てるじゃねぇか!!」

 そう。流れ星は五人が居た場所を通過すると旋回。とにかく走る彼らを追尾し、少しずつ距離を埋めていく。

「普通の流れ星じゃないわ!」
「光の球……みたいだな」
「分析してる場合か! 追いつかれ──」


 カッ!


 突如として強まる光。その光は、一瞬にして夜の闇を晴らしてしまう。

 五人は足を止め、あまりの眩しさに瞳を固く閉じた。





〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜





「……?」

 がやがやと、話し声が聞こえる。

 目を覆っていた腕を下ろし、恐る恐る瞼を開ける。そこは自分達が居た草原でも、夜でもなく──。

「街……?」

 “はじまりの地”にある繁華街だった。それだけなら転移術かと思ったが、何せ空では太陽が燦々と輝いている。……不気味だ。

「全員怪我は?」
「怪我もないし、体に異変も感じないわ。あの流れ星は一体……」
「なぁ、この街……少し可笑しくないか?」

 ブレイドの言葉に、一同は街を見渡し始める。

「……確かにそうだな。店が違う」

 ベルタが見つめる店舗、そこは雑貨屋『ハピハピギフト』が在るはずなのだが……散髪屋に変わっている。そこだけでは留まらず、他にも何件か記憶とは違う店舗になっているではないか。

「どういうことなのかしら……」
「……ちょっと待ってて」

 不安げに呟くレベッカの隣。ヴァニラはそう言い、近くにある店に駆け込んだ。

「お待たせ」
「どうしたんだよ」
「これ、見て」

 ほんの数分で戻って来たヴァニラは買って来た新聞をブレイドに渡す。意味を理解しないまま、新聞を広げるブレイドを横から三人も覗く。

「日付」
「え?」
「日付。見て」

 トントンと指された日付に注目。


「10年前になってる」


「……えええええええええええええええええええ!?!?」

 目が飛び出てしまうのではないかと表現してしまう程、驚愕する四人。大声を出してしまったがために、人々の視線が痛い。とりあえず移動しようと人気がない場所まで駆け足で向かうと。

「ど、ど、どういうことだ!?」
「わからない」
「ヴァニラ、お前意味分かってるのか!?」
「うん。驚いてる」
「そそそそれで!?」
「うん。それより状況を整理しよう」

 ある程度落ち着いた四人を含め、声を潜めながら状況の整理。

「つまり、あの流れ星によってオレ達は10年前のエレメンタル大陸に来てしまったと」
「……状況整理終わったな」

 あの不思議な流れ星も何処へやら消えてしまっている。彼らに残された手掛かりは何も無いに等しい。

「とりあえず、手掛かりを掴まないことには始まらない。街を歩いて探してみないか?」
「それがいいわね」
「……」

 皆がアランの意見に賛同する中。たった一人、ブレイドだけは首を縦に振ることはなく俯いたまま。

「ブレイド?」
「……頼みがある」

 顔を上げ、真っ直ぐと前を見据えるブレイドに、誰もが口を閉ざす。少しして、ブレイドは真剣な表情で告げた。


「この時代の俺を見に行きたい」


 彼らが迷い込んでしまった10年前。その時代での彼らは、謂わゆる幼少期と呼ばれる頃を過ごしていたはず。何となく察してしまった四人は困惑しつつも互いに視線を交えて。

「少しでいい。すぐに戻るから。……頼む」

 固く握りしめられる拳。どうするのと言いたげな視線がアランに集まる。

 アランは悩みに悩んだ末に結論を。

「……わかった」

 答えはイエス。ブレイドはそのままの表情でありがとうと返した。

「……アラン。ワタシも見に行きたい。この時代の、ワタシを」

 続けてレベッカもそう言い、ベルタとヴァニラも口にこそしなかったが気にしている様で。アランは小さく息を洩らすと。

「ならそれぞれで見に行こう。全員は気付かれる可能性があるからな。1人の方がいいだろ?」

 反対する者は誰も居らず。

 五人はその場で別れ、各地へと歩き出した。



 “何かが変わってしまうのではないか”。
 そんな一株の不安を、胸に抱きながら──……。



〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


 エレメンタル大陸、北西。

 “水凍の地”に到着したベルタは、辺りを警戒しながら奥へ進む。10年前の今日、自分が何をしていたかなんて覚えていない。いつ、どこで、幼き自分が現れるか予想なんてできない。鉢合わせることだけは避けたいものだ。何せ、ここは“過去”なのだから。未来を変えるようなことは──。

「あれだ……」

 ぽつりと、遠くを見つめながら呟く。ベルタが立つ場所から離れた位置には、ぽっかりと空いた洞窟が見える。その奥にあるのは、彼女と兄バラバスが暮らしていた家……。

 きょろきょろと辺りを見渡す。幼い頃は家からそう離れていない範囲で遊んでいたはず。この辺りで見つけられると思いながら、一歩二歩と前へ。


「兄さん!」


 自分より少し高めな声。

 ベルタは慌てて近くの影に身を隠すと、声が聞こえて来た方向に顔を向けた。そこに居たのは、自身が知る姿より若い兄。そして……小さな体に不釣り合いな斧を振り回す幼い“ベルタ”。

「どうどう? わたし、一人でたたかえるようになったでしょ?」

 少女は得意げに斧を振り回す。しかし斧の重さに重心を持っていかれ、その場に尻餅を付いてしまう。

「あいたた……」
「……ベルタ」

 名を呼ばれ、少女はぶかぶかな兜を被り直して兄を見上げる。兄はそっと兜を外しながら、低い声で告げた。

「……やはり、お前に戦士は向いてない」

 その言葉に、少女は頬を膨らませ、ベルタはハッとした。

「兄さんってばいつもそればかり! だれだって始めは失敗するでしょ!」

 立ち上がりそっぽを向く少女の頭に手を置きながら。

「そうだな。ベルタの言う通りだ」

 ただ。

 兄は少女の頭から手を下ろし、その手を見つめながら続ける。

「“俺”の我儘かもな。お前には、俺のようになってほしくない」


 “あれ……?”
 “こんな言葉……兄さん言ってた……?”


 呼吸するのも忘れ、兄が放つ一言一言を聞き逃さぬように意識を研ぎ澄ませていた。

「ベルタ。」


 兄は少女の背に誓う。


「俺がお前を守ろう。いつまでも、何度だって。だから……戦わなくていいんだ。痛い思いを、戦いの中にある悦楽を、見出さなくていい」


 “……そうだ”


 蘇る当時の記憶。記憶を辿るように、瞳を閉じる。


 “私はこの時、兄さんが言っている意味が分からなくて……ただただ、自分に才能がないと言われているようで……真剣に聞いていなかったんだっけ”


 少女の方を見ると、兄に背中を向けてふくれていた。やれやれと過去の自分に肩をすくめる。

「兄さん……」

 この後、兄は自分を置いていってしまう。その理由は分からないままだったが……あの言葉をもう一度聞いた今なら、少し分かる気がする。兄さんはきっと──。


「そこに居るのは誰だ」


 思わず声を上げそうになった。低い声で告げる兄の視線が、身を隠している岩越しにグサグサ刺さる。

「隠れてないで出て来い」

 足音が近付いてくる。まずい、どうしようと冷や汗が止まらない。このまま見つかってしまえば……いや、それだけは回避しなければ!

「出て来ないつもりか」

 ……でもここで、兄さんに“置いていかないで”と伝えたらどうなる? 少女に悲しい思いをさせずに済むのではないか……? そんな考えがベルタの脳内を駆け巡る。その間にも兄は近づいて来ており、己の獲物である斧を構えた。

「ここで何をしている」





 エレメンタル大陸、北。

 “火炎の地”に到着したレベッカは、迷いなくとある場所に足を進めていた。10年前の今日、自分が何処にいたかはハッキリしている。少し前まで、“竜殺しの血族”と蔑まれていた一族が暮らす集落。そこに自分は居るはず、確実に。

「この辺りね……」

 それまで人目を気にせず歩いていたレベッカだったが、とある地点から陰に身を隠しながら集落に向かう。大人の誰かが彷徨いている可能性はなきにしもあらずなのだ。

 コソコソと潜入すること数分。集落にある一際目立つ建物に辿り着くことが出来た。裏手に置かれた荷物の合間を縫い、一つの窓の下で立ち止まる。


「テラ兄! いらっしゃい!」


 窓の隙間から洩れる声。レベッカは近くに積まれた箱をよじ登り、窓越しに中の様子を窺う。

「悪いな、しばらく来れなくて……。元気にしてたか?」
「うんっ」

 子供一人が使うには広すぎる部屋の中央。敷布団を敷いて互いに向き合い座る二人の姿。片方は幼い“レベッカ”、もう片方は少し若いテラだ。


 “この頃テラ兄は……、呪いのせいで街に行けないワタシ達のために、物資を届けに来てくれてたのよね……。休憩がてらに、ワタシの話し相手になってくれて……”


「テラ兄、いっしょにおかし食べよっ」
「またおやつ貯めてたのか?」
「うん。だれかといっしょに食べたいけど……テラ兄しか、いっしょに食べてくれないの」

 少女は悲しげに呟きながら、お菓子が入った箱の蓋を取る。中身の殆どをクッキーが占めており、テラはその中でも大きめなクッキーを一枚。

 パキッ。

「はい。半分こな」

 それを半分に割り、片方を少女に差し出す。少女は太陽のように明るく笑うと、半分のクッキーを受け取る。

 その様子を、レベッカは小さく笑みを溢しながら見つめていた。

「おいしかった〜」
「そうだな」

 クッキーを食べ終わると、少女は小さな両腕を伸ばしながら欠伸を洩らす。

「眠いのか?」
「うん……」
「寝ていいんだぞ?」

 少女は目を擦りながら、フルフルと首を横に。

「こわいゆめ見ちゃうから、ねたくない」

 当時からレベッカの夢見は悪かった。夜中に怖い夢を見ては飛び起きて、布団に包みながら一人怯える日々。誰にも頼れない、孤独な日常。

 テラは優しく少女の頭を撫でながら、大丈夫と微笑んで。

「俺が傍で見ててあげるからな。一人じゃないぞ」
「ほんとう……?」

 少女は恐る恐るといったように顔を上げる。テラはああと力強く頷いた。

「そうだ。レベッカがよく眠れるように、なにか話でもするか」
「お話? でもそれじゃあ起きちゃうよ」
「いいから、な? とりあえず横になって」

 横たわる少女の頭を規律よく撫でると、テラは少女に語りかける。

「レベッカ。頭の中で想像しながら聞いてくれよ」





 エレメンタル大陸、北東。

 “光明の地”に足を踏み入れたアランだったが、何やら悩んでいる様子。

「さすがに遠すぎるんだよな……」

 ここで解説を入れさせてもらおう。

 まず、アランは他の仲間達同様。過去の自分は住んでいた屋敷の近くに居ると考えていた。しかし屋敷までは交通機関を使っても片道で五時間ほどかかってしまう。つまり、往復で十時間もの時間を消費してしまう。きっと他の仲間達も“はじまりの地”に戻ってくるはず。自分だけ遅いのは……ちょっと嫌だ。

「……まあ、別に見に行かないといけないって訳じゃないしな。ここら辺で時間を潰すのもアリか」

 と、一人納得した時。

「……ッ!?」

 靴底を引き摺りながら後退。パチパチと瞬きを数回。驚くアランの前に突如として現れたのは──。

「白い……馬?」

 白馬であった。

 アランの前にワープして現れた白馬は、青い瞳でじっと此方を見つめる。なんだなんだと困惑していると、白馬は此方に後脚を向けて顔をアランの方に。

「乗れって言ってるのか?」

 そう訊ねれば、白馬は顔をアランから正面へ。どうやらそのようだ。

「なんなんだ一体……」

 不安げに呟き、白馬の背中を軽く押して乗馬。アランが乗ったのを確認し、白馬はゆっくりと歩き出した。

 何処に向かおうとしているのかと考えていると。

「──うわっ!?」

 視界一面を覆う閃光。不意打ちだったが、目を焼かれる事も落馬する事も無く。

「……?」

 目を開けると、景色はガラリと変わっていた。

「ここは……遺跡近くか?」

 辺りに転がる古い機材の欠片。遠くの方には古びた『五戦神の遺跡』が見える。この白馬は、過去の“アラン”が居る場所に連れて来てくれたようだ。……何故かは不明だが。

「ありがとな。帰りも頼んでいいか?」

 せっかくだし見に行こうと考え、白馬から降りる。了承なのだろうか、尻尾を大きく揺らした。

「じゃあここで待っていてくれ。オレは屋敷の方に……」

「ッうあ!」

 すぐ近くから聞こえた子供の声。反射的に其方に目を向けると、二つの光弾が空から落ちてくるのが見えた。

「少年よ。怪我はないか?」





 エレメンタル大陸、南東。

 “夕闇の地”に到着したヴァニラは、枝先が捻れている不気味な木の幹に背中を預けていた。

「……」

 暗雲が立ち込める空を見上げる。近くから聞こえる少女の泣き声は止まらない。


 この日、この時。

 自分は“森林の地”から追い出された。


 もう何分経っただろうか。少女が幾ら泣いても迎えは来ず、誰一人として姿も見えない。いつしか少女は、泣くことすらやめてしまった。ただじっと、光が消えた瞳で下を向いたまま。

 死ぬときを、待っていた。


「ここで何をしているんだ」


 その言葉は幼い“ヴァニラ”に向けられていた。声を掛けた男は少女の前に膝を付くと、顔に手を添えて自分と目を合わせる。

「泣いていたのか?」

 男は少女の瞳から溢れる一粒の涙を掬う。

「一人なのか?」

 突きつけられる現実。少女は慟哭の声を上げる。自分は“独り”だという事実に。

「……」

 男は少女の後頭部に手を添え、何も言わずに抱きしめた。

 辺りに響く少女の声を、ヴァニラは静かに聞いていた。

 ある程度少女が落ち着いた頃。男は少しだけ少女を離し、穏やかな表情を浮かべる。

「……お前さえ良ければ、私と一緒に来ないか?」

 少女は目尻に涙を溜めながら顔を上げる。

「……すてたりしない?」
「ああ」

 男は言った。

「私がお前に生きる術を教えてやる。一人でも生きれるようになったら、私から離れるのも離れないのもお前次第だ。それまではお前を捨てたりしないし、最低限の生活の補償はしてやろう」

 少女の涙は引っ込んでいた。

「……うん」

 差し出された掌に、少女は小さな手を重ねた。

「名前は?」
「……ヴァニラ」
「ヴァニラか。私はアッシュだ」

 ──これが、ヴァニラの師となる“アッシュ”との出会い。

「近くに街があるんだが……そこまで歩けるか?」
「うん。歩ける」
「分かった。無理はするな、疲れたら言ってくれ」

 アッシュとヴァニラは手を取り合い、近くの街まで歩き始める。その姿が見えなくなった頃、ヴァニラは二人と反対の方向に移動し始めた。

 直後、ヴァニラと入れ替わるように黒紫のローブ姿の人物が現れて。


『誰も居ないな……の者は何処いずこに……』





 エレメンタル大陸、南西。

「お願いだから! ブレイドに会わせて!」

 “森林の地”にある村に響く声。大勢の大人達に囲まれた中心で、少女は泣きながら悲願していた。

 地下に続く入り口を塞ぐように立ち塞がる大人達は、駄目だと強く言い捨てて。

「どうして!? ブレイドは何も悪いことしてないじゃない! たった一人の妹の傍にいようとしただけよ!?」
「ミリアム!」

 気迫こもった声に、幼きミリアムは肩を大きく跳ね上がらせる。こんな大勢の大人達に囲まれているのだ。震えが止まらないのが目に映る。

「さあ、ミリアム。戻りましょう」

 女性に肩を掴まれ、半ば無理矢理にミリアムをその場から離れさせる。その光景を、ブレイドは木々の合間から見ていた。


 “くそ……流石に人が多過ぎる……。あそこから牢に入るのは不可能か……”


 あの入り口から地下に降りると、今は使われていない牢屋がある。その牢に過去の“ブレイド”が閉じ込められているのは、先のやり取りを見ても確実だろう。


 “周囲に抜け道らしき穴は無かったし、どうするか……”


 腕を組み、思考を巡らす。考えに考えた結果、ブレイドが編み出したのは──。

「うわああああああ!!」
「きゃああああああ!!」

 その名も、『吹き荒れる風に思わず目を閉じてしまう隙に侵入する作戦』。……どこから突っ込みをすれば良いのやら。

 ともかく、狙い通り視界を遮ることは出来た。ブレイドは吹き荒れる風の中を走り、地下に駆け降りる。

「ふぅ……」

 追ってが居ないことを確認し、胸を撫で下ろす。火力を出すために究極進化したものの、一回にエレメントを消費し過ぎた為か元素枯渇が引き起こされつつある。帰りは少し休んでからにしないとぶっ倒れるな。

 そんなことを考えながら、凭れていた鉄の壁から離れて奥へ。足音は立てずに、子供の啜り泣く声が聞こえる牢の近くまで歩く。足を止めると同時、子供はピタリと泣き止むと。

「……誰かいるのか?」


 “バレた……!?”


 嘘だろと混乱し、足をずる音が牢に響いてしまう。不味いと後退するも、子供は鉄格子に近づく気配すら無く。

 不思議に思ったブレイドは、その場に留まることにした。

「……誰でもいいか。ヴァニラとは会わせてくれないもんな」

 幼い“ブレイド”は絶望していた。暗く、冷たい牢の中で。



 “過去が……変わってる……!?”

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