外伝まとめ
聖なる日、クリスマス。
神様からの贈り物とも言うべきか。その日は大抵天気に恵まれるどころか、なんと雪まで降ってくることもある。恋人達にとっては最高のシチュエーションとも言えるだろう。
──だが、それは前触れもなく訪れた。
“天変地異”。
『現在、はじまりの地付近に突如として突風、落雷、豪雨が発生してガッシャーーンッ!!
「今度はどこが割れた!」
「二階の廊下!」
「【ブリリアントグレイシア】!」
「また割れた!」
「このっ……ボロ拠点ーー!」
究極済みのベルタがやけになって叫ぶ。現在、第14小隊の拠点は壊滅寸前。窓は割れ、部屋はぐちゃぐちゃ。……既に扉は何処かへと吹っ飛んだ。
「今日外出れない?」
「見れば分かるだろヴァニラ! 私達が出た瞬間崩れるぞ!」
「そう」
というわけで。
第14小隊。お休みです。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
はじまりの地に、突如として発生した“異変”。
原因不明……かと思われたが、一部の神々はその正体に気付いていたのだった。
オリンポス神族が暮らす敷地内。複数存在する館の一つに、天空神及び主神ゼウスの自室がある。
「ゼウス様! 一体どうなされたのですか!?」
その扉を叩くのは、オリンポス12神の女神アルテミス。彼女の後ろには、双子の兄アポロン、ゼウスの使者ヘルメス、息子アレスの姿も。四人は、この異常現象を引き起こしているのはゼウスだと判断し、事情を聞くために集まった。
「アルテミス、手痛めちゃうよ」
「そうね……」
一向に返事がないゼウス。アポロンに言われ、しぶしぶ扉から離れる。
「父上は何故こんなことを……」
「今日がクリスマスだからかな?」
「そんな理由で天変地異を起こすわけないさ」
この嵐を止めれるのは他ならぬゼウスのみ……。
その本人が口を結んでいてはどうにも出来ず、このままではクリスマスを楽しみにしている子供達の幸せが……。
「ん?」
うーん、と悩む一同の足元に、ゼウスの部屋から一枚の紙が。アポロンは紙を拾い上げ、書かれていた内容を読み上げた。
「えー、なになに……『あなたに付き合うのはもううんざり。出ていきます。探しに来ないで。ヘラ』……え?」
「えー!?!?」
アルテミスとアレスの叫び声が重なる。
紙には、ゼウスの妻ヘラの筆跡でそう書かれており、ゼウスの元から離れたのだと判明。
「まさか……悲しみのあまり嵐を……」
「た、確かに、今日見てないわね。ヘラ様」
ゼウスとヘラによる夫婦喧嘩は日常茶飯事ではあるが、ヘラはゼウスを見捨てたことは一度も無く、ゼウスも移ろいやすい性格ではあるが、ヘラを愛し続けていた。
だが、今回ばかりは堪忍袋の尾が切れたらしい。完全にゼウスの自業自得だが、見捨てるわけにはいかない。
「誰か協力者に来てもらって嵐だけでも止めよう」
「そうだね。誰がいるかな?」
「手当たり次第ではないか?」
「じゃあ、アルテミス。手当たり次第連絡してみてよ」
「なんで私が……」
文句を言いつつもエレフォンを取り出し、ゼウスに関係ある人物達に連絡する。
守護神アテナ──……
「もしもしアテナ? ちょっと今からゴオオオオオ……!……」
アテナ、嵐の中に居るためNG。
冥府神ハデス──……
「もしもしハデス様? ちょっと今から戻って来れますか?」
『あー、悪いがそ『ハデス! いつまで話してるの!』
「すみません。切ります」
『おいコラ!』
ハデス、ペルセポネの件でデメテルにこき使われているためNG。
海神ポセイドン──……
「もしもしポセイドン様? ちょっと今から戻って来れますか?」
『ゼウスを止めろと言う話だろう』
「そうです! お話が早くて助かり──」
『どうして止める必要があるのだ? このまま破壊し続ければ良いブチッ!
ポセイドン、話が通じないためNG。
時神クロノス──……
「もしもしクロノス様? ちょっと今から……」
(何やら楽しげな音楽が流れている)
「あ、あのー?」
(何やら楽しげな音楽が流れている)
「……」
クロノス、何やら楽しげなのでNG。
鍛治神ヘパイストス──……
「もしもしヘパイストス? ちょっ」
『チッ、アルテミスか。アフロディーブチッ!
ヘパイストス、ムカついたのでNG。
愛の女神アフロディーテ──……
「もしも」
『悪いけど、デートの約束ならお断ブチッ!
アフロディーテ、話が通じないため(2回目)NG。
炉の女神ヘスティア──……
「……もしもし?」
『アルテミスちゃん? どーしたの?』
「実はその……」
〜事情を説明中〜
『あらら、ゼウスちゃんがね〜。それは慰めに行かなくちゃ♪』
「ありがとうございます!」
『いいのよ〜。あ、キッチンってあったっけ?』
「あります。一階に」
『良かった〜。キッチンからそっちに行くから待っててね♪』
ヘスティア、弟のゼウスを慰めるためOK。
「来れるの一人っておかしくないかい?」
「アルテミスが電話切るから……」
「アーレースー?」
「いや何も」
到着を待つこと数分。
「アルテミスちゃ〜ん♪」
「ヘスティア様! お待ちしておりました」
ヘスティアが四人と合流。ヘスティアはアルテミス以外の三人を見るなり、あらあらと嬉しそうに微笑み。
「アレスちゃんにヘルメスちゃん、アポロンちゃんも! みんな大集合ね♪」
ちゃん付けされ、複雑な気分に陥る三人。精神的にダメージを喰らっているようだ。
「あっ! こんなことをしている場合じゃなかったよねっ。ゼウスちゃんはどこ?」
「お部屋に……」
「引きこもっちゃってるのね。よし……こほんっ、ゼウスちゃ〜んっ、お姉ちゃんですよ〜、お顔を見せてちょうだ〜いっ」
余計に引きこもった気がしなくもない。ベッドの上で布団の精と化していた所からクローゼットの中に移動したような……。
出てこないね〜と頬に片手を添え、小首を傾げるヘスティア。いよいよ打つ手がなくなってしまい、思考を超速で巡らす。
「仕方ない……」
ぽつりと洩らすアレスに、注目が集まる。
「母上……ヘラ様を探すしか、方法はないね」
家出したヘラを探し、戻ってきてくれるよう説得する──それしか方法はないと、不本意ながらも納得。
次の瞬間。
ドンッ!
勢いよく開かれる扉。驚愕する一同の前に現れたのは、クローゼットの中に引きこもっていたはずのゼウス。
「俺も行こう」
「私も連れてって欲しいな♪」
ゼウス、ヘスティアもヘラ様連れ戻し隊に加わり、六人は家出したヘラの行方を捜索し始めるのだった。
「……ところで父上、嵐の方止められませんか?」
「……出来ぬ。神力が制御出来ないようでな、止められないのだ」
「ではこの嵐の中を……?」
「……すまん」
「……」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
ゼウス一行が、ヘラを探して嵐の中を進んでいる時──
「帰ったか……」
銀をふんだんに使って作られた館『ヴァラスキャルヴ』。其処には、世界すべてを見通せると伝えられている聖座『フリズスキャールヴ』が置かれている。
この館の主、戦神オーディンは聖座に座り、フギンとムニンの帰りを待っていた。
フギン、ムニンはそれぞれオーディンの肩に止まると、見て来た光景を共有。共有が終わると、オーディンは「そうか……」と呟いて。
「ゼウスが来るか……」
そう溜め息を洩らした後。
「我が関することでないな」
立ち上がり、部屋に戻ると告げ、聖座の間から去る。
フギン、ムニンはお互いに顔を見合わせると、オーディンの後を追うように飛び立った。
──『アースガルズ』領。
異世界で、“北欧神話”と呼ばれる神話に登場する神様達が暮らす敷地内。オリンポス神族達に負けず劣らず、敷地内には幾つもの館が並ぶ。館のほとんどは銀や金といった高価なもので作られており、嵐による被害から免れようと結界が敷地内全域に張られていた。
「あのヘンタイジジイったら、もう救いようがないのね」
女神達が暮らす館『ヴィンゴールヴ』。
女神の一人、シギュンの自室に、ゼウスの元から離れたヘラは上がり込んでいた。
「だから、こうして出てきたわけよ」
「……」
シギュンは突然の訪問者に驚くことなく、ゼウスの一件で苛ついているヘラをお茶で落ち着かせる。はいともいいえとも答えないシギュンとお茶の効果もあり、ヘラは落ち着きを取り戻しつつあった。
そんな中、ノック無しに扉が開き。
「おい! ゼウスんとこのババア!」
「だぁれがババアですって……?」
ヘラの圧力にびくともせず、悪神ロキは鼻で笑って。
「ババアをババアだと言ってなにが悪い。っつか、そんな場合じゃないんじゃね?」
「ハァ?」
「ゼウスがこっちに来てんだよ。ババアを追ってな」
ヘラは小さく舌打ちすると、嫌そうに顔を歪めた。
「もう来たのね……。ま、いいわ。もう戻るつもりはないと思い知らせてあげるわよ」
「おーおー、こっわ」
「あなた、あのジジイと戦いたがってわよね? ぶちのめしてちょうだい。私が許す」
「いよっしゃあ! ババアも戦うんなら、フレイヤの館使わせてもらうといいぜぇ!」
じゃーなー! と上機嫌で廊下を走っていくロキ。ヘラはシギュンにご馳走様と言い、立ち上がる。
「フレイヤの館ってどこにあるの?」
「……ここから左に進んだ先よ」
「どうも。いきなり来て悪かったわね」
片手をひらひらさせながら部屋を後にする。
「……」
シギュンはヘラの後ろ姿を見つめていたが、やがてバタンと扉を閉まると、窓に手を合わせ、外の景色を見つめた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
──一方で。
「目撃情報によれば、ヘラ様は『アースガルズ』領に入っていったようですね」
「相変わらず、派手な見た目だね」
ゼウス達一行は、目撃情報を何とかかき集めて『アースガルズ』領に辿り着いていた。領全体には特殊な結界が張り巡らされているが、彼ら神族には関係ない。あっさりとお邪魔することに成功。
「どの館に行けば……」
「あら、アルテミスちゃん。髪の毛が大変よ。お姉ちゃんが直してあげるね♪」
「あね」
「姉貴、じゃないわよね? ゼウスちゃん?」
「……お姉ちゃん」
「よろしい♪」
マイ櫛を手にアルテミスの髪を整えるヘスティアに、ゼウスが咎めようとするも失敗。
「あのー、ヘスティア様? 目的をお忘れではありませんよね?」
「忘れてないよ〜。でも、女の子なんだから身嗜みは気をつけないと」
因みにヘスティアの髪は一切乱れていない(なぜだ)。
鼻歌まじりに櫛を滑らせるヘスティアに、もう好きにしてくれと匙を投げた。
「手始めに近くの館から入らないかい?」
「すっごいゴッテゴテの装飾だね」
「アポロンはさっきからダメ出しばかりしてるね」
「僕には理解出来ないからね」
アポロン先生による批判がひと段落ついたところで。
「ようやくお出ましか! 腑抜け共!」
館の天辺から一同の前に降り立ったのは、雷神トール。手にした槌“ミョルニル”に雷を流しながら、人差し指を突き出し、そう叫んだ。
「ちょっと! 腑抜けってどういう意味よ!」
「そのまんまの意味に決まってるだろ。妻に愛想つかれたダメな奴のことだ!」
「俺ダメなのかな……」
「えっ今さ……むぐっ」
「ダメじゃないです!」
膝を抱えて負のオーラを漂わせるゼウスに、すかさずアポロンの口を抑えながらアレスがフォロー。
「アーハッハッハッ! 口ほどにもないなぁ!」
嘲笑うトールに、言い返せず。ぐぬぬ、と悔しげに歯を食いしばる。
「まぁまぁまぁまぁ」
そんな中。これまで静観していたヘスティアが、笑みを浮かべながらトールに接近。
「な、何の用だ」
「まぁまぁ、お茶でも飲んで一休みしましょっ」
「え? ……え?」
「ほら、トールちゃんが好きそうな紅茶とお菓子用意したのっ。一緒に食べましょ♪」
背中をグイグイと押され、いつの間にか用意された椅子に座らされたトール。トール自身も、アルテミス達も混乱する最中。ヘスティアと二人のお茶会が始まる。
「トールちゃん。またみんなの役に立ったらしいね。いい子いい子」
「えっ、あ……」
「よし。今のうちに逃げよう」
「ラジャー」
アイコンタクトを取り、ゼウスを連れてトールの視界から外れる。
「ヘスティア様……ある意味凄いね」
「あれ素……よね?」
「おかげで無駄な戦いをしなくて済んだね」
さりげなくトールをヘスティアの犠牲にした後。
心を持ち直したゼウスも加え、本来の目的(ヘラ探し)を達成すべく、悩んでいた。
「トール神……彼は母上に言われて私達に攻撃を?」
「それはないだろう。ヘラに言われただけで来るとは思えん。ただ戦いたかっただけだろうな。そして次は──」
「ヒャハハハハーッ!」
「来たか……」
高らかに笑い声を上げ、曲がり角から登場したのはロキ。その姿を見るなり、ゼウスはうんざりとして。
「おいおーい、俺様が来てやったと言うのになんだ全員してその顔はよ?」
「いや、登場地味だなぁと」
「まだトールの方がマシだったわね」
「ううううるせぇ!」
ねー、と声を揃えるアポロンとアルテミス。
「アレス。アイツは今、何モードだ」
「聞いてみますね。……ロキ!」
「あぁん?」
怪訝な顔で見つめるロキに、アレスは一枚の絵を見せて。
「問題です。リンゴ3つを4人で分けるにはどうすればいいでしょう?」
いきなりどうした。
ロキは簡単だろと言いたげに鼻で笑うと。
「全部俺様が食べる!」
「アホモードのようです」
「そうみたいだな」
「てめぇら!」
ロキには二つのモードがあり、一つは通称トリックスターモード。もう一つは、おバカモードと呼ばれるものだ。トリックスターモードであれば厄介ではあるが、幸い今日はおバカモー
「うっせ!! バカにしてんのか!」
こっちに話しかけないで下さい。
「君……誰と話しているんだい」
「ほっときなよ、ヘルメス。呪われちゃうよ」
「てめぇから呪ってやろうか? ああ!?」
苛立ちが頂点に達したロキは、体に宿るエレメントを体外に大放出。
「この俺様をバカにしたこと後悔させてやるぜ! あのババアに会うことなく死ね!」
「ヘラに会ったのか!?」
「黙れジジイ!」
「黙るのはあなたの方よ! この甲斐性なし!」
甲斐性なし──……
「か、甲斐性なし……?」
ピタリと動きが止まるロキに、アルテミス以外の四人は疑問符を飛ばし。当のアルテミスは、ロキの異常に気づかないまま、力強くロキを指差して。
「そうよ! どうせ奥さんに構ってあげていないのでしょうけどね! まだゼウス様の方がマシよね!」
「あ、アルテミス、そんなこと言ってしまったら父上が……」
「もう遅いよ」
ゼウス、再びの三角座り。
「お、俺様は甲斐性なしなんかじゃ……」
ロキの方も大ダメージを(メンタルに)喰らい、胸元を抑えながら一歩二歩と後退。
「そんなジジイと同じにするなァーーー!!」
「あっ逃げた」
負け犬の捨て台詞を吐き捨て、その場から逃走した。
「厄介なロキは消えたわね」
「もう邪魔が入らないといいけど……」
「ゼウス様のメンタルも限界みたいだしね」
HP1で復活したゼウスの心は崩壊寸前。心なしか、嵐の勢いが強まっているような気もする。
早いところヘラ様を見つけないと……。
そんな一同に引き寄せられ、出くわしたのは豊穣神フレイ。
「フレイ神……」
「……」
彼も一同の行手を阻むために来たのだろうか?
ピリピリとした緊張感が両者の間に流れる中、フレイはゆっくりと片手を挙げて。
「あの館」
「え?」
「『フォルクヴァング』。そこにヘラは居る」
ここから少し離れた場所を指差し、そこに探しているヘラは居ると教えたのだ。
「早く連れて帰ってくれ」
その真意を問う前にフレイは一同に背中を向け、去っていってしまう。
四人は互いに顔を見合わせた後、視線をゼウスに移し、どうしますかと訊ねる。
「……行くしかなかろう」
溜め息混じりに返すと、『フォルクヴァング』に足を進めた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
──『アースガルズ』領、『フォルクヴァング』。
美の女神フレイヤが所有者であるこの館には、オーディンと分け合った戦士達を集めるため、わりと大きめの広間“セスルームニル”がある。
“セスルームニル”は館の入り口を入ってすぐの所に位置し、戦士のみならずゲストをも迎える。
「ヘラ!」
名を叫びながら“セスルームニル”に足を踏み入れたゼウス達。広間の中心には、巨大なモーニングスターを手にしたヘラが立っていた。
「やっぱり。
ご立腹のようだ。
今にもスキルを発動しそうなヘラに構えるも、ゼウスは待てと腕で遮り、一歩二歩と前へ。
「……すまなかった」
「!」
ゼウスは頭を深く下げ、続けて。
「でも、君を愛している。どうか……もう一度俺のところに戻って来てくれ……!」
「ゼウス……」
何やら良い雰囲気に安心したのも束の間。
「【メテオインパクト】!」
「うわああああああ!?!?」
闇のエレメントを纏い、振り落とされるモーニングスター。慌てて四人がゼウスを後方に引き寄せ軌道から逸らしたため、無事無傷で済んだ。
「ふざけるんじゃないわよ! なによ今さら『愛している』って!!」
「母上落ちつ……危なッ!」
「私のこと愛しているならこんなことにはなってないわよ!!」
「一理ある」
「コラッ!」
ゼウス以外の四人も巻き込み、お構いなしにモーニングスターを振り回すヘラ。アレスが避けながらも説得するが聞く耳を持たず。ヘルメスはゼウスを、アルテミスはアポロンを掴み、なんとか攻撃を避ける。
みるみるうちに綺麗だった広間は穴ぼこだらけに……。
その頃、館の主フレイヤは──……
「ふふっ、今日も可愛いね。にゃんにゃんっ」
愛猫(2匹)と自室で戯れていた。
「撤退っ……撤退しよう!」
「ええ! アレスも早く!」
「くっ……」
攻撃の合間を縫い、“セスルームニル”から命からがら脱出。ぜぇぜぇ、と呼吸を乱す。
「ヘラ……」
心を完全に砕かれたゼウスは立ち直る気配なく。
(父上……)
(ゼウス様……よほどショックなのね……)
(ハッキリと言われてしまったな……)
(自業自得……)
それぞれがゼウスに対し想いを抱く中。
「その様子ではダメだったか」
と、様子を見に来たフレイは目を細めながら話しかけた。
「早く連れて帰ってほしかったんだが」
「そうしたいのは山々だけど……肝心のヘラ様が話を聞いてくださらないから……」
「……話を聞いて貰えればいいのか」
多分、と自信なさげに頷くゼウスを除いた四人。それなら……、とフレイはとあることを考えついたようで。
「話すきっかけなら作れるかもしれない」
「本当!?」
「上手くいくかは知らないからな」
「それでもいい。もう一度ヘラが戻って来てくれるなら……なんだってしよう」
HP0.5で復活したゼウスの強い眼差しに、フレイは戸惑いながらも頷き。
「作戦はこうだ」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「女神ヘラ」
「……なによ」
場面は変わり、再び『フォルクヴァング』内、中央広間“セスルームニル”にて。
悲惨にも変わり果てた広間の中心で立ち尽くしていたヘラに、フレイは一枚の紙を手に歩み寄る。
「これが外で配られていた」
フレイから一枚のチラシを受け取り、目を通していく。初めは疑問だけだったが、読み進めるにつれてワナワナと震え始め、こめかみに青筋をビキビキ。
「ゼウスに……新しい“花嫁”ですって……!?」
なんと、チラシには『ゼウス、再婚か?』と見出しで書かれており、その下には『現在、新しい花嫁と共に空中デート』とまで書かれている。
これに怒らないわけがない。ヘラはビリビリとチラシをこれでもかと破くと、鬼のような顔つきで外へ出て行った。
「……これで丸く収まるといいが」
ゼウスによって発生した嵐も止み、満天の星々が煌めく夜空。
ヘラは空を飛び、空中デート中だというゼウスを探し回っていた。
……と、視界に空飛ぶ馬車を見つけ、目を凝らす。馬車に乗っているのは見慣れた後ろ姿と白いドレスを着た人物。見間違えるはずもない、あれはゼウスと新しい花嫁だ。
いよいよ怒りが頂点を越え、全力の一撃を馬車に喰らわせた。
「えっ……」
ヘラの一撃を受けて大破した馬車。
空中に浮かぶ能力を失い、地上に墜ちる馬車から投げ出された花嫁。その正体は──ただの人形だった。
「……ヘラ」
攻撃が当たる前に離脱したゼウスは、呆然とするヘラから一歩離れた場所で、遠慮がちに名を呼んだ。
──そして、二人の様子を地上から見守る五人の姿。
「ここまでは上手くいったね」
「偽者の花嫁をでっちあげるなんて、フレイちゃんはよく思い付いたね♪」
フレイが提案した作戦。花嫁衣装を着せた木像をゼウスの新しい嫁だとヘラに知らせ、炙り出すというものだった。ヘラが諦めて来ない可能性も考えたが、あの性格で来ないことはないだろう。
あの後、トールとお茶会をしていたヘスティアも連れて、一同は一時帰還。ヘスティアは花嫁衣装製作を、アポロンは木像製作を、ヘルメスはチラシを作り、アルテミスとアレスはゼウスの支度を手伝い、作戦を決行した。
「あとは……ゼウス様次第ね……」
「騙すような真似をしてすまない。だが、こうでもしなければ、君は話を聞いてくれないと思ったんだ」
話を聞く必要はない。そう頭の中では思いながらも、ヘラは花嫁の一件で衝撃を受け、その場から動けずにいた。
「俺は……君の、誰よりも美しくあろうと努力している姿や、完璧であろうとしているところとか、こんな俺の傍に居てくれる君の、全てが愛おしい!」
「あ……なた……」
「頼む……! もう一度、俺のところに帰って来てくれ!」
持てる勇気を振り絞り伝えたが、やはり返事を聞くのは怖く、ギュッと目を瞑ってしまう。
「……仕方ないわね」
フワッと鼻をくすぐる嗅ぎ慣れた香水の香り。驚いて目を開けると、ヘラはゼウスに抱きついていた。
「また嵐起こされちゃたまらないし、今回だけは帰ってあげるわよ」
「ヘラ……!」
良かったと嬉しそうに微笑み、ヘラの背中に手を回して固く抱きしめる。
──無事仲直りした二人を祝福するように。夜空から白い雪が舞い降りた──
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「雪……」
同時刻。『ヴィンゴールヴ』内にあるシギュンの自室。
一人、まったりとした時間を過ごしていたシギュンだったが、雪が降り出したことに気づき、窓辺に近づいた。
「シ、シギュン……」
「ロキ……?」
二回ノックした後、どこかよそよそしい態度で、ロキが扉から顔を出した。
様子がおかしい彼の姿に、疑問符が浮かぶ。
「どうしたの……?」
「あー、その。あ、あいつら、仲直りしたみたいだぜ」
「そう……」
他にもなにか言いたいことがあるようだが、ロキは口籠ってしまい。シギュンがロキにねぇ、と話しかけると、大袈裟に肩を跳ね上がらせた。
「なっ、なんだよっ」
「……もし私が遠くに行っても、迎えに来てくれる……?」
「えっ……」
初めてと言っても過言ではない“妻らしい発言”に、ロキは羞恥心を押し殺して。
「あ、……当たり前だ……!」
耳まで真っ赤に染め上げ、ハッキリと答える
「ロキ!」
「うおっ!? びっくりさせんなよトール!」
「女迎えに行くのに何分掛かってんだ」
「ロキが問題行動起こしてないか心配したぞ」
「余計なお世話だ!!」
半開きの扉を豪快に開け、現れたトールにフレイ。その後ろにはオーディンやフレイヤの姿も。
「迎え……?」
「今日はクリスマスだから、盛大にパーティーしようって話していたの」
「言い出したのはロキだ」
オーディンに言われ、ロキに視線を向ける。……露骨にも逸らされたが。
「私達も行きましょ、シギュン様」
「……ええ」
パーティー会場に移動する四人の後を、シギュンはフレイヤと共に心を高鳴らせながら、追ったのだった。
「父上! 母上!」
地上に降り立った二人を真っ先に出迎えたのはアレス。どうやら一人のようだ。
「父上、大変なことが起こってます……!」
大変なこと? と首を傾げる。
「その……嵐による被害総額が……」
「被害……総額……?」
これを、と渡された書類には0がこれでもかと並んでおり、ゼウスはポカーン。
「……ごめんなさい、あなた」
「え」
「私……もう暫くは帰らないわ……」
と、全速力で走り去るヘラ。
「ヘラーーー!!!」
これに懲りてゼウスは、ヘラを怒らせることはやめようと固く誓った。
Fin.