外伝まとめ

ハロウィンナイトのお菓子な悪夢


「「「「ハロウィンパーティー?」」」」
「そう。町の一部を会場にしたハロウィンパーティーが、今夜開かれるそうよ」

 エレメンタル大陸中央、はじまりの地。
 町外の寂れた場所に建つ宿舎、この場所こそが彼ら第14小隊が暮らす建物だ。

 レベッカが貰ってきたチラシを見て、あっと思い出したように呟く。

「だから通行止めの看板が出ていたのか」
「言われてみれば……街の雰囲気も普段と違っていたな」
「たしかに。仮装している奴もいたしな」


 その時点で気づくだろ……。


「はい」
「はいどうぞヴァニラ」
「『ハロウィン』ってなに?」
「言うと思ったわ……」

 実は以前にも、『プールってなに?』と聞かれたことがあった。ヴァニラは特殊な生い立ちのため、知らないのも無理はないのだが。

「『ハロウィン』は秋の収穫を祝うのと、悪霊を追い払うために子供達が仮装する日ね。あとお菓子を……」
「お菓子を強奪して、くれなかったら悪戯していいんだぞ」
「言い方は最悪だけど……まあ、遠からずとも当たらずね」

 ふーんと何となく理解した様子のヴァニラ。

「じゃあ、このチラシに載ってる人達はみんな、大人の姿をした子どもってことね」
「……いや違うぞ。最近では大人も仮装して楽しんでいるんだ」
「そうそう。……というわけで、ワタシ達も今夜行ってみない?」

 異論は無く。あと数時間ほどで開かれるハロウィンパーティーに向けて、女子組と男子組に分かれて買い出しに向かう。
 女子達はパーティーで着用する衣装の調達。
 男子達は子供達にあげるためのお菓子を買いに。

 二時間後に集合する約束を交わして、二組は別れた。


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「これで十分だろ」
「多くねぇか……?」

 街一番の敷地と品揃えを誇る店にてお菓子選び。
 カートいっぱいに詰め込まれたお菓子の量は、五人で持ち切れるかどうか微妙なほど多い。

「んだよ、文句あるのか」
「予算がだいぶオーバーするんだよ。こんなにあっても余るだろうが」
「余ってもいいだろ。あとで俺達が食えば。っつか、なんで食べちゃいけないんだよ」
「最初からそれが目的か……。この量は持ちきれないぞ」
「ならお前が入れたせんべいとか抜けよ。一枚一枚がデカい」
「どうしてわざわざ自分が苦手なものを持たないといけないんだよ」←アランは甘いものが苦手(自設定)。

 その後も話し合いという名の口喧嘩は続き……。双方息を切らし始めた頃、とりあえず買うかと落ち着いた。

「やっぱりこうなったよな」

 溜息混じりにそう漏らす。
 目の前に積み上げられた袋の数。いくら男だろうと全部持つには二人では手が足りない。

「どうすんだよこれ」
「三人には申し訳ないが少し手伝ってもらおう」

 店側に大量のお菓子を預かってもらい、衣装選びをしているであろう女子組の元へ。

「なにも迎えに行かなくていいんじゃねぇか?」
「連絡しても気づかないかもしれないだろ」

 普段より人が多く通う道を進むと。突然アランが呻き声と共に鼻を押さえた。

「なんだここ……甘い匂いしかしない……」
「そりゃそうだろうよ。お菓子が並んでいるからな」
「最悪だ……」

 今日に合わせて新しく開発したお菓子の試食と販売店が道の先にまで並んでいた。

「悪い……オレ別の道から行くな……」
「おいおい大丈夫か? 顔真っ青だぞ?」
「匂いさえ無くなればなんとか……ブレイドはこの道から向かってくれ。向こうで合流しよう」
「ああ……」

 そそくさと離れていくアランに不安を抱くも、これが初めてではない筈だと割り切り、ブレイドは最短ルートで店に。 




「ハァ……もうしなくなったな……」

 匂いから逃げるように移動し、閑散とした場所で足を止める。来た道を振り返り、遠くまで来てしまったな、と今更気付く。

「ここから店に向かうのは難しそうだな。道を聞けそうな人も居ないし……仕方ない。ブレイドに連絡しとくか」

 エレフォンを操作し、ブレイドに電話をかける。
 少しして聞こえてきたのは、ただいま電話に出れませんというアナウンス。
 いつかは気付くよな、と留守電を残す。

「アランだ。悪い、いつの間にか遠くまで来てしまってそっちに行けそうにない。このまま戻るから、オマエも戻っ」


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「何をしているんだ貴様らは……」

 やって来たブレイドに、ベルタは呆れたように目を細めた。

 アランより先に到着したブレイドは、待つのもめんどくさいし先に行くか、と入店。未だ衣装選びをしていた女子組を見つけると事情を話した。

「アレコレ適当にお菓子を入れた後に量が多いと口論した挙句に疲れて全部買った様子が目に浮かぶわ」
「お前はエスパーか」
「アナタ達が分かりやすいだけでしょ」

 ハイと渡される手荷物。

「荷物持ちならしないぞ」
「コレはアナタ達の分よ。先に買ってあるから、これ持って行って」

 すぐに行くからと半ば強制的に店の外に追い出される。
 何だよとムッとするも、目的は達成した。

「えーっと……ん?」

 まだ姿が見えないアランに連絡を取ろうとエレフォンを起動させる。画面に表示されたのは着信の知らせ、それもアランから。

「……出ないな」

 かけ直してみるも、出れませんとアナウンスが流れるだけ。エレフォンに残された留守電を再生する。

『アランだ。悪い、いつの間にか遠くまで来てしまってそっちに行けそうにない。このまま戻るから、オマエも戻っ』

 ガガガッ。
 プツン。ツーツー……

「アラン……?」

 不自然に途切れた声。直後に流れた謎の音。
 何回も電話を繰り返すが、一向に出る気配はない。

 何かに巻き込まれたのではないか、そう直感したブレイドは踵を返し、女子組に相談しようと足を踏み出す。

「……」

 思いとどまり、足を止める。

 もしもこれでアランが何かしらの事件に巻き込まれていたなら、ハロウィンパーティーどころじゃ無くなってしまう。パーティーが終わるまでに解決するとは限らないし、何も出来ずに今日が終わってしまうかもしれない。俺はそれでもいいがヴァニラは? ……嬉しそうに支度をしていた妹の笑顔を曇らせたくはない。

 ブレイドはエレフォンの画面を操作し、三人に急用が出来たとメッセージを残した。

 アランと最後に別れた場所に、足を向ける。


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 時は遡り──アランが音信不通になる少し前。

「アランだ。悪い、いつの間にか遠くまで来てしまってそっちに行けそうにない。このまま戻るから、オマエも戻っ──……え?」

 カツンッと地面に転がるエレフォン。
 持ち主であるアランは、急激に変化した景色に驚くあまり膠着する。

「なんで地面が近っ……えっ、え⁇ もしかしなくともオレ縮んでる⁉︎ なんでだ⁉︎」

 手乗りサイズにまで縮んだ体。
 何が起こっているのか分からないアランの体を見下ろす影。

「ギャハハハハ! イイ気味だナァ、アラン‼︎」

 影の正体、己の姿を見てケタケタと笑う生き物に……アランは心当たりが無かった。

「……誰だ」
「ナニィ⁉︎ もう忘れたとイうのカァ!」
「いや本気でないんだが……アンタがオレをこんな姿にしたのか」
「ソウダ‼︎ キサマがジョウカしたパラサイダーのカタキを取りにキタ‼︎」

 それは部隊結成からすぐのこと。初依頼から発生した大事件で、アランはパラサイダーを浄化した(詳しくは【初依頼編】にて!)。

 いや会ってねぇじゃんと心の中でツッコミを入れるアランを他所に、目の前の悪魔は頼んでもないのに語り出した。

「オチこぼれだったオレをパラサイダーハ気にかけてくレタ……」

『オイハーモン! メシ買ってこイ! マズかッタラブッ飛ばすかラナ‼︎』
『オイハーモン! メシ買ってこイ! 3秒イナイニナ!』
『オイハーモン! メシ奢れ!』

「コンナオレを気にかけてくレタパラサイダーヲ……キサマハ……!」
「ただのパシリだし飯関連しかないのかよ」

 アランの態度が気に入らなかったのか(至極真っ当なことしか言っていないのだが)。ハーモンはアランを摘み上げる。

「おわっ⁉︎ テメッ、降ろせ‼︎」
「フンッ、ソノ姿でハ手も足もだせまイ。安心シろ。コレからハオレガ、『アラン』にナルかラナァ」
「なにを言っ」

 小さな爆発音と共にハーモンの体が紫色の煙に包まれる。

『こういうことだ』
「オレ……?」

 自身と瓜二つの姿となったハーモン。
 摘んでいた指は、自分の体を握りしめるように変わっていた。



 くッ……パラサイダーアイツの方がまだ良かった! オレの姿になれるなんて……マズイな、早くどうにかして連絡を……。



『どうだ? 上出来だろ?』
「オレの体でなにをしようとっ」

 握りしめる手に力を入れられ、小さく呻き声を漏らして意識を手放してしまう。

『……この程度では終わらないぞ。まだまだ苦しんでもらわないとなぁ』

 『アラン』は悪魔の笑みを浮かべ、ハロウィンパーティーで盛り上がる人々の中に紛れた。




「くそ……あいつ何処まで行ったんだよ」

 そして現在──ブレイドがアランの行方を追い始めた頃。

 最後に別れた場所、アランが向かった方向に足を進めるも手掛かりは無く。数分置きに連絡を入れるも音すら聞こえず。

 不安より苛つきの方が上回る中。ふいに鼻をくすぐる甘い匂いにハッとする。

「ここまで匂いするのか……。もう少し先かもしれないな」

 匂いから逃れようとしていたのなら、匂いが無くなる場所で一旦足を止めたのではないか、と気づき、歩くスピードを少しだけ上げる。

「なんだかそれっぽい場所に着いてしまったぞ」

 ほどなくして辿り着いた場所、街からさほど離れていない筈なのに、華やかさは何処へやら。
 でこぼこ道を進むこと数歩。

「これは……」

 屈み、拾い上げたそれは、紛れもなくアランのエレフォン。

 さて、これからどうしたものか、とブレイド はエレフォン片手に立ち上がる。アランが何かしらの面倒ごとに巻き込まれたのは確定した。が、その後どうなったかは検討もつかない。

 どうするか、となんとなくアランが残したエレフォンをひっくり返して表に。

「あっ」

 画面に映し出されたのは自分自身の顔。それがなんだと思われるかもしれないが、この場合は録画中との文字が。……つまり、エレフォンのカメラ機能が作動していたのである。

 間違えないよう慎重に録画を止め、今までの出来事が記録されたビデオを再生。どうか映っていてくれと願うばかり。


『なんで地面が近っ……えっ、え⁇ もしかしなくともオレ縮んでる⁉︎ なんでだ⁉︎』


 ビデオは困惑するアランの声から始まった。どうやら、エレフォンを落とした際にカメラ機能が誤作動を起こしたようだ。

 映像は空を映したまま動くことは無かったが、ハーモンと名乗る悪魔との会話、偽物の『アラン』が街に潜んでいるのは分かった。緊急事態ということも。

 いつのまにかポケットに伸ばしていた手を止める。いやいや、と首を振り街に戻る。頑なに頼ろうとしないのは、男として、兄としての意地か。

 ふぅ、と一息。目指すべきは、ハロウィンパーティー特設会場。


 鳴り響く鐘の音は、ハロウィンナイトの幕開けを知らせた。


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 ハロウィンパーティー特設会場。

 はじまりの地にやって来た移動遊園地。ハロウィンらしく飾られたその場所が、今回パーティーの会場として使われ賑わいを見せている。

「ここまで護衛についてくれてありがとう。ガウェインも、ハロウィンパーティー楽しんで」

 会場入口。この日のために仮装した『円卓の騎士隊』リーダーを務める“騎士王”ことアーサーは、入口まで共に行動していたガウェインと別れ、同じく仮装したギネヴィアを連れてパーティー会場に。

 二人の背中を見送ったガウェインは、吸血鬼の仮装姿のままパーティー会場には入らず脇道へ。何処か別の場所に向かおうというわけなのだろう。迷うことなく足を進める。

「おい」

 呼び止められ、足を止める。声をかけた人物の姿が見えず、辺りをきょろきょろ。やがて、甲高い靴の音を鳴り響かせて、男が上空から着地。その姿にギョッとし、半歩後ろに下がった。

「ら、ランスロットかよ……驚かせるな……」
「ガウェイン。貴様、アーサー様とギネヴィア様を無事送り届けたのだろうな」
「無事に決まってるだろ。というか、ランスロットこそ何処行ってたんだよ! 心配なら一緒に来れば良かっただろ!」

 実の所、アーサーとギネヴィアの護衛はガウェインとランスロットの二人で行われる筈だった。決して護衛が嫌だというわけではない。

 ムッと膨れるガウェインに、ランスロットは無表情のまま。

「俺も、出来るならそうしたかった」
「ならどうしてだよ」
「その前にガウェイン、その格好はなんだ。重装歩兵かと思ったぞ」
「いやお前もだぞ。季節外れもいいとこだ」

 そう指摘したランスロットの服装は元旦に着る和服だったのだ。とんでもなくブーメラン発言……いや、それ以上かもしれない。

 指摘されても尚、ランスロットは何が問題なんだ、と腕を組む。

「持ち合わせがこれしかなかったのでな。それはいいとして」
「お、おぅ……」
「付き合え、ガウェイン。今すぐにだ」

 そう指を差され、告げられた言葉に、ガウェインは二、三回瞬きすると。

「い、いやぁ、俺にそういう趣味はないというか……」
「そっちじゃない。俺と共に行動しろと言っているんだ」
「あー、そっち……勘違いしたぞ」

 たらりと流れる冷や汗を拭うガウェインに、ランスロットはそれで、と目を細める。

「この後に用事があるわけではないだろう。ちょっと来い」
「それはちょっと」
「……何故だ」

 待った、と掌を挙げて食い気味に断るガウェイン。まさか断られるとは思っていなかったのか、ワンテンポ遅れる。

「い、言えないが、用事はある! 待たせてるんだ!」
「ほう……」

 ガウェインの慌てよう。色恋に興味があるとは思えないが……。

「じゃあな、ランスロット! 話ならまた後で聞く!」

 余計な詮索をされる前にと逃げるようにランスロットの横を通り過ぎていく。

 そんなガウェインに対してランスロットは──。


「窓側の棚、二番目、左端、」


 凛とした声が、誰もいない路地裏に響く。

 ガウェインはUターンしてランスロットの元に戻ると、肩に腕を回した。

「冗談だよ冗談☆ 一緒に行くに決まってるだろ〜」
「ふっ、貴様ならそう言うと思ったぞ。早速行くぞ、話は歩きながらだ」


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「さっきは『冗談冗談☆』とか言ったが、用事があるのは本当だからな!」
「よく似合ってたじゃないか。これからその声で過ごしてみたらどうだ?」
「断固拒否!」

 正気に戻り(?)、ブツブツと文句を漏らし続けるガウェインを連れ、ランスロットはハロウィンパーティー会場へやって来た。

「……で、俺を連れ出した理由は?」

 はぁ、と額に手を当てて溜め息。もうどうにでもなれと諦めた様子。

 ガウェインの少し前を歩いていたランスロットは前を見据えたまま。……彼に対する奇怪の目は不可避、ガウェインは苦笑いを浮かべた。

「、ランスロット」
「怪しい人物がこの会場に紛れていると報告を受けた」

 語気を強めて名を呼べば、ランスロットは淡々と答えた。

 ……意外にも事態は悪そうだ。

「怪しい人物……?」
「俺も報告を受け、すぐに探したが見つけられずにいる。全く、逃げ足が早い奴だ」

 怪しい人物と聞けば、ランスロットを叱る気も失せた。

「それで、怪しい人物っていう奴の特徴は?」
「奴は自分のことをパンプキン界の貴公子、“ノーブルパンプキン”と名乗っているらしい」
「なんだそれ」
「おまけにかぼちゃを被っている」
「……なんだそれ」

 本気で言っているのか、と訝しげな視線に目もくれず、そうだと頷く。

「とにかく、その迷惑男を捕まえればいいんだな?」
「そういうことだ。我らが忠誠を誓うあの方達のためにも──協力してくれるな? ガウェイン」


 お前なぁ……。


 やれやれと肩を竦めるガウェイン。

「その言い方は狡いだろ」

 フッと小さく笑みを溢した後、ランスロットはガウェインに一瞥をくれると。

「ガウェインなら、そう言うと思っていた」

 全くと言いたげに苦笑い。

「それ以前に、俺はお前に弱みを握られているからなぁ……」
「……あれが弱みだと言うのか」
「え? いまなんて?」
「何でもない。さっさと行くぞ」





「こっちよヴァニラ」

 手を引かれ、パーティー会場へ足を踏み入れる。

「なかなか賑わっているようだな」
「遊園地貸し切るなんてすごいわよね」

 ベルタ、レベッカが口々に。ヴァニラも同意するように頷く。

「しかし……奴らは何処に寄り道しているんだ」
「お菓子も半分以上宿舎に置いてきてしまったし」
「全く。今度ばかりはお灸を据えなければ……な、ヴァニラ」

 くるりと二人は後ろを振り返る。

『……』


 ヴァニラ失踪事件勃発。


「な、な、な、な、な……」
「ヴァニラまで……どこに行っちゃったのかしら……」

 驚くあまり魚のように口をパクパクさせるベルタ。レベッカは片手を頬に当て首を傾げる。

「ん?」

 ペシッとベルタの顔に飛んできた紙を引き剥がす。

「……『すぐに戻ります。ヴァニラ』」
「エレフォン使えばいいのに……」

 ベルタとレベッカは顔を見合わせると、互いに苦笑いを浮かべた。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


 一方。ランスロットとガウェインの二人は、パーティー会場を特に何もすることなく回っていた。

「それらしい姿は無いな……」
「警戒されたかもしれないな。奴を探しているのは俺達だけじゃない」
「ほとぼりが覚めてから現れるか……このまま姿を消したままかのどっちかだな」
「どうするか……」

 握り締めた拳を口元に当て長考。突然足を止めたガウェインに気づき、何をしているんだと目を細める。

「せっかく来たんだ。楽しまないと損だろ?」
「そんなこと言ってる場合……」

 言い切る前にガウェインは目の前の屋台へ。

「よっ、グレーテル。パンプキンケーキの売れ行きはどうだ?」

 と、屋台の売り子をしていた可愛らしい少女、グレーテルに話しかける。

「あっガウェインさん! ふふ、おかげさまで順調よ」
「なら、無くなる前に一つ貰うとするかな」
「はいはーいっ。持ち運びしやすい小さめのにしとくね」
「ありがとな。それと……ちょっと聞きたいんだが?」

 ガウェインからコインを受け取ったグレーテルは目を丸くする。

「この辺りでカボチャの仮装をした奴を見なかったか? 見てなくてもお客さんから聞いたりとか……」
「カボチャの仮装をした人?」
「その人ならさっき観覧車近くで見ましたよ」

 口を挟んだのはグレーテルと同じく仮装をしたヘンゼル。買い出しに行っていたのか、その手には紙袋が。

「一瞬、本物のカボチャかと思って取ろうとしてしまいました。あれ本物ですかね」
「取ろうとしたんか、むぎゅ」
「その話本当か?」

 ガウェインの顔を押しのけ、パンプキンケーキが並べられた机に手を置いて身を乗り出すランスロット。

「いつ見たんだ」
「つ、つい先程……」

 ランスロットの気迫に押されながら答える。

「感謝する。行くぞ、ガウェイン」
「悪いなヘンゼル。グレーテル、ケーキ頂くな!」

 首元を引きずられながらガウェインは二人に手を振った。

「よかったら宣伝してよね! 私とヘンゼルがパンプキンエナジーを使って作ったケーキはとっても美味しいんだから!」
「グレーテルのおかげだよ。いろんな人に食べて貰えたらいいね」
「そうね。そのために頑張りましょっ」
「うんっ」





「な? 寄り道してよかっただろ?」
「たまたま運が良かっただけだ。調子に乗るなよ」

 ツンとした態度のランスロットに、ガウェインはニヤニヤ。


 現在、二人は観覧車の近くへ移動中。警戒されないよう細心の注意を払って足早に。


「おっ結構美味いな」
「……何故このタイミングで食べる?」
「お腹空いて。あっ食べるか?」
「要らん。……この辺りだな」

 天高く聳える観覧車前に辿り着く。辺りを見渡すランスロット、ガウェインは観覧車を見上げながら最後の一個を咀嚼して飲み込んだ。

「そう遠くに行っていなければいいんだが」

 口元に付いたカスを取りながらガウェイン。

「そうだな。そろそろ慢心しても可笑しくはないが……」


 ドンッ


 死角から現れた人物に気付かず、肩がぶつかる。

「あっすま」

 ない、とは言えなかった。

 目をひん剥かせて驚くランスロットとガウェインの両名。そこに立っていたのは、カボチャを被っている人物──彼らが探していた“ノーブルパンプキン”の情報と合致するのだから、驚いて固まるのも無理はない。

 しかし、二人の様子から察してしまったのだろう。ノーブルパンプキンは逃げるようにその場を後にしようとする。

「っ逃すか!」

 弾かれたように意識を戻し、既に距離が空いてしまったノーブルパンプキンの姿を見失わないよう走り出す。

 人の波をかき分けながら追いかけてくる二人を一瞥。突如として足を止め、片手を前に突き出す。掌を中心に渦巻く魔力、やがて一つの塊と化し放たれる。

 軌道の先にはランスロット。その場で踏みとどまると、両腕をクロスさせて防御体勢に。

「ランスロット!!」

 ガウェインは叫びながらランスロットの前へ。何を、と問う前に身の丈以上もある棺桶を──どっから取り出して来たんだオイ。

 パシュッ、と魔力の塊はガウェインが正面に構えた棺桶にぶつかり消滅。すぐに棺桶を投げるも、そこにノーブルパンプキンの姿は無く。

「逃げられたか……」

 悔しげに呟くガウェインに、ランスロットは言葉を飲み込んで。

「探すぞ。次こそは逃さん」

 勿論と力強く頷き、ざわざわと騒ぎつつあるこの場から離脱する。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


 ──頭上。ばさばさとマントをはためかせる影。

『ヘッ、バカなヤツらめ』

 駆け抜けるランスロットとガウェインの二人を見下ろしていたのはノーブルパンプキン。僅か数秒の間で建物の壁を駆け上がり、二人がこの場から離れるのをじっと待っていた、というわけだ。

『しばらくはバレないだろうし、次は』
「見つけたぞ!!」

 ひょこっと顔を出してランスロット参上。建物の壁に付けられた階段を上って屋上へ。どうやらここにいるというのはバレていた様子。

「観念しろカボチャ男!」
『チッ、お見通しってわけか』
「そういうことだ。大人しく俺と来い、さもなくば」
『行くわけねーだろバーカ! 捕まえてみやがれバーカ!』

 悪態を吐きながら逃走。ランスロットは大人の対応だといいたげに自身の得物を呼び出すと。

「潰す。」

 こめかみに青筋をピキピキ。不敵な笑みを浮かべながら駆け出す。

「落ち着けランスロット! 正当防衛じゃないぞそれは!」

 今しがた屋上に到着したガウェインが叫ぶも届かず。

「【シアンコンビネーション】!」
『ぎゃー!?』

 青い閃光をギリギリで避ける。コンクリートの一部が抉れ、その威力を見せつけられる。

『こここここ殺す気か!』
「安心しろ。痛みは一瞬だ」
『出来るか!!』


 冗談じゃねぇ! このままやられてたまるか!


「いい加減諦めろ。逃しはしない」

 剣先を向けながら一歩二歩とノーブルパンプキンと距離を詰めるランスロット、比例して一歩二歩と後退するも端に辿り着いてしまい逃げ場がない。隙をついてランスロットの脇を潜り抜けたとしても、その先にいるガウェインに捕まるのは明白。なら地面に着地するのは? いや背後にある観覧車に邪魔され──ん? 観覧車?

 ノーブルパンプキンはカボチャの被り物の下でにやりと笑うと。

「なっ……!」

 地を蹴り天高く飛翔、一回二回転して観覧車の骨組み部分に着地。

 ノーブルパンプキンの行動にランスロットが驚いたのも一瞬。剣を構え直すとノーブルパンプキンを視界に捉えて……。

「ダメだ! あの観覧車には乗客も乗っている! 無闇矢鱈に攻撃できない!」

 ガウェインに止められ、ランスロットは攻撃を中断。悔しさに顔を歪めながらノーブルパンプキンが向かうであろう反対側へと急ぐ。

「うおっ!」

 刹那、一陣の強烈な風が吹き抜ける。

 反射的に目を瞑ったガウェインは「なんだったんだ……」とポツリ。ランスロットは観覧車を見つめたまま立ち尽くす。

「ランスロット! 急ぐぞ!」

 ガウェインに急かされ、後ろ髪を引かれながらも屋上から地上に降りる。

「……」


 人影が見えた気もするが……まさかな……。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


 疾風を力に、身を任せたまま空へ。

 もうすぐ訪れる冬の冷たさを感じながら、眼下で駆ける人物に目を細め、着地。

『あ……?』

 もう追って来たのか、と振り返るも見覚えのない姿に首を傾げる。

 ノーブルパンプキンと同じく観覧車の骨組みに立つのは──衣装チェンジしたブレイドだった。

「やっと見つけたぞ……アランもどき!」
『へぇ……もうバレてんだな』

 ノーブルパンプキンはカボチャの被り物を外し、何処へと投げる。

 露わとなった素顔は、ブレイドが知るアランそのもの。アランもどき、もといハーモンは不敵な笑みを浮かべた。

『どうだ? よく出来ているだろう?』
「確かによく出来ているがその台詞を言っている時点で減点だな」

 いつもの調子で返すも、目付きは鋭さを増し。

「アランは何処にいる」
『いきなり本題とは、よっぽど大切なんだろーな?』
「当たり前だ」

 続けて。

「五人揃わなきゃ、ハロウィンパーティーを楽しめないからな」

 その言葉をハーモンは鼻で笑い飛ばす。

『イイぜ? そんなに大事なモンなら出してやるよ』

 と、懐から取り出したのは人形サイズにまで縮んだアラン。気を失っているらしく、ぐったりとしたまま動かない。

『ホラ。取りに来いよ』

 ハーモンはアランを人差し指と親指で摘んだまま悪魔の笑みを浮かべる。

 対してブレイドはその場から動かず……いや、動けずにいた。

 二人が現在立っているのは観覧車の骨組み部分。それも頂上。風も強ければ地面も遠い、この高さからアランを落とされてみろ、まず助からない。何処にいるとは聞いたが、生身のまま手元にあるとは……誤算だった。

『ホラホラぁ? 早く来いよ』

 ブレイドの心情を知ってか知らずか、ハーモンは見せつけるようにアランの体をゆらゆらと。ここで素直に行ってみろ、間違えたと落とされるのがオチだ。かと言ってこのままではいつ落ちるか……。


 そんな最中。事件は起きた。


『は……?』

 呆然と、素っ頓狂な声を漏らすハーモン。その手にアランの姿は無く……。見る見るうちに顔が青白く変化するブレイド。

「お……まえ……」
『落としてない!! 落としてたら見えてるだろ!』

 ハーモンも一緒になって慌てる中、ブレイドの後ろからカツン、と華麗に降り立つ音。


「アランなら無事よ。怪我はないわ」


 少し高めの声、クールビューティーの雰囲気を纏うこの少女は──。

「ヴァニラ! どうして此処に」

 ブレイドが驚くのも当然。てっきりレベッカとベルタの二人と楽しんでいるものかと思い込んでいたからだ。

 ヴァニラは両手で優しく包み込む形でアランを保護すると、前を見据えながら後で、と伝える。

『クソッ! いつの間にここまで来たんだ……!』
「凄いなヴァニラ。俺達に気づかれないよう近くなんて」

 飛び移ったなら音が出ていても可笑しくはない筈。だが、ヴァニラがこの観覧車に来たとき、音や振動は無かった。

 ヴァニラは大量の疑問符を飛ばしながら。

「普通にゴンドラの上に乗って近づいたけれど」

 あー、と心の中でハモるブレイドとハーモン。その手もあったなぁ、と納得。

「わたしのことよりも、やることがあるでしょう?」


 ギクッ。


 自分の話題となり、肩を跳ね上がらせる。

『じゃ、じゃあ……オレはこの辺で……』

 そろりそろりと。帰るだけですがなにか? と、自然な流れでその場から逃げようとするハーモンに。


「忘れ物だ」


 跳び蹴り炸裂。


 ポンッ、と鳴る爆発音、紫色の煙がハーモンの体を包み込む。煙が晴れ、目を回した小さな悪魔はゴンドラの一つに不時着。そのまま流れていくハーモンの姿を見つめる二人。

「あのままでいいの?」
「いつか回収されるだろ。流石に懲りただろうし、ほっといていいと思う」

 とりあえず降りるぞ、と移動するブレイドの背中を追う。





 ──地上。観覧車近く。

「居ないな……何処に行ったんだ……?」

 きょろきょろと忙しなく辺りを見渡すガウェインの隣で、ランスロットはただじっと観覧車を見上げていた。

「まだ居るのか? ランスロット」
「……」
「ランスロット?」

 名を呼んでも反応を示さないランスロット。何かあるのか、と見上げるも頂上付近は暗くて見えない。

 さっきからどうしたんだよ、と痺れを切らしたガウェインが問いかけようと口を開く──。

「ガウェイン。」

 それより早く、ランスロットはガウェインを呼んだ。

「どうした?」
「どうやら終わったようだ」
「……は?」

 突然のクライマックス。何を言っているのかさっぱり分かりませんと困惑するガウェイン。

「俺達以外の誰かが奴を追ったらしいな」

 とあるゴンドラの上に見える小さな影に目を細める。

 未だ理解出来ていない様子のガウェインだったが、ランスロットがそう言うならと身を引いた。

「何はともあれ解決して良かったな!」
「トドメを刺せられなかったのは不服だが、まあ良いとしよう。ところで、予定とやらは平気なのか? 待たせていると言っていたが」

 ガウェインは苦笑いしながらうーんと洩らすと。

「待たせていると言えばそうだし……そうじゃないと言えばそうじゃないし……」

 ぶつぶつと呟き始めたガウェインの邪魔をしないよう、ランスロットは「付き合わせて悪かった。また今度礼をする」と一言告げ、ハロウィンパーティー会場を立ち去るべく離れ……。


「はい待った」


 がっしりと掴まれる手首。振り返ると、にっこりと笑うガウェインの顔。

「行くぞ、ランスロット。今度は俺に付き合え」
「お、おい……! どこに連れていく気だ!」

 振り払おうとも振り払うことは敵わず。ずるずると引きずられながら、ランスロットは叫ぶ。

 ガウェインは爽やかな眩しい笑顔で。

「猫カフェ」

 さあっと血の気が引いていく。

「は、離せ! 俺は行かないからな!」
「棚の中身を知ってる仲だろ? いいじゃねえか、別に嫌いってわけじゃないんだろ?」
「確かに嫌いではないが、あんな女が行くような場所に行けるか!」
「いいから来い。今日は仮装していると猫用クッキーが一袋貰えるんだよ」

 多少なりとも恨みはあったのだろう。ランスロットはガウェインに頼ったことを密かに後悔しながら、猫カフェへと連行されていった。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


 あんなことがあったんだ。次に目を覚ましたら天国か地獄か、はたまた果てしなく続く虚無か──。


「それならそうとはやく言ってほしかったわね。なにかチカラになれたかもしれないのに」
「ヴァニラまで居なくなるから心配したぞ。すぐに戻ります、とは言われたが」
「ごめんなさい。いやな予感がしたから、動かずにはいられなくって」
「その行動力に今回は助けられたな。まあ……黙っていて悪かった」


 聞き覚えのある声を耳に、薄らと目を開ける。視界に映り込んだのは、天国でも地獄でも虚無でもなく白い天井。

 鉄のように重く感じる上半身を起こすと、それまで話していた四人の男女は会話を止め、こちらに視線を向ける。

「あっ目が覚めた?」
「よぉ、寝坊助。気分はどうだ?」
「……それはワザと言っているのか」

 返しながら自身の体を見下ろして、

「戻ってる……」

 ホッ、と肩から力を抜く。あのまま過ごすなんて勘弁だ。

 オレが気を失ったあとの話はブレイドから聞いた。オレの姿でなにかやらかしたのではないかと考えていたが、被り物をしてたなら良かった。アイツもしかしたら……いや、やめておく。ブレイド達は元の姿に戻ったオレを、会場にある救護所まで連れて来てくれたらしい。

「ありがとな。助けてくれて」

 そう笑うアランに、ブレイドは何か言いたげに目を細める。他の三人も同じような反応をすれば、当然アランは目を丸くして。

「体、痛むんだろ。結構」

 ズキンズキン、と刃に斬り付けられたような痛み。いつもの癖で隠してしまっていた痛みを見破られてしまえば、アランはバツが悪そうに視線を落とす。

「い、痛いけど気にするようなことじゃ──」
「帰るか。」
「そうね」
「そうだな」
「そうだね」
「……え!?」

 直後、痛っと体を激痛が走る。あれだけ乱暴に扱われていたんだ。一つや二つ折れていても不思議じゃない。

 ……って、そうじゃなくて!

「か、帰るのか……?」

 胸に手を置いて息を整える。四人は互いの顔を見合わせると。

「もうハロウィンパーティー終わっちゃったしね」

 時間とは無情だ。

 アランは普段着に戻っていた四人と部屋に備え付けられている壁掛け時計が示す時刻を目にし、そう感じずにはいられなかった。

 ずぅん、と負のオーラを背にしながら俯くアラン。そんなアランの肩を優しく叩いて。

「パーティーならまた来年も参加できる」

 肩から手を離したヴァニラを視線で追う。

「厳密に言えばまだハロウィンは終わってないわよ?」
「そうだ。貴様らが無駄に買った菓子を消費するという作業が残っているぞ」
「無駄とは失礼な! 食費からだぞ!」
「自腹で払え」

 続けてレベッカ、ベルタ、ブレイドの三人も発言。何やら喧嘩に発展しそうな雰囲気に苦笑。

「何笑ってんだよ。早く帰るぞ」
「アラン、立てる? 手貸そうか?」
「抱っこする?」
「ヴァニラ。労りのつもりだろうがそれはトドメだ」

 ワイワイと盛り上がる四人を見つめながらポツリ。

 その言葉に、彼らは心底嬉しそうに笑った。


 ──彼らのお菓子なハロウィンナイトはこれから始まる──


 Fin.

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