外伝まとめ
──前略。
拝啓、何処かの誰かさんへ。
俺達は今、高級ホテルの最上階……ナイトプールへとやって来ました。
「……大丈夫か、ブレイド。遠い目になってるぞ」
「聞くなアラン。俺は心の中で、何処かの誰かさんに手紙を書いているんだ」
「頭大丈夫か⁇」
エレメンタル大陸にあるはじまりの地。
つい最近オープンしたばかりだと言う高級ホテルの招待券を使い、ブレイドとアラン達五人はホテルの最上階──ナイトプールへとやって来た。
更衣室でおニューの水着に着替えると、ライトアップされて幻想的な雰囲気の噴水前で彼女らが来るのを待つ。
「オメーら着替えるの速えーな?」
「女達はまだ来ていないのか」
二人の元に、五戦神モルスのアンガとジェダルも合流する。
今回、ここの高級ホテルの招待券を貰えたのも、大陸の権力者である彼らのおかげ。ブレイドとアラン達五人はモルス達に誘われ、ナイトプールへ遊びに来たのだ。
まだ来てないですよと答えるアランの隣、ブレイドの水着に目がいく。
「……何だそのスイカの柄は」
「俺もどうかとは思ったけど、一番安くて」
「だから止めたのに……」
「まあ、いいんじゃねーの? 似合ってるぜ」
と、サムズアップするアンガの視線は明後日の方向に向いていた。
「おーいっ! 男子達ー!」
やんややんやと騒いでいると、元気いっぱいの明るい声が響く。
見ると、ハルドラを始めとした女子達が水着姿で男子達の元へ。
「煩いぞハルドラ。他の客に迷惑だ」
「いいじゃん別にぃ〜。そう言うジェダル達だって声大きかったよ〜」
むっと口をへの字に曲げるジェダルと睨み合うハルドラを、まあまあとアルタリアが咎めた。
「何処に行こうか決めようではないか」
「あっ、向こうに案内板があるみたいですよ」
レベッカが見つけた案内板の前に立ち、ナイトプールで行われているプログラムに目を通す。
「ナイトプールって色々やってるのね」
「このホテルにナイトプールがあるのは、諸事情で海に行けない者達が楽しめるようにと作られたものなのじゃ」
「そうなのですね」
「あまり時間も無いし……それぞれで回る?」
ハルドラの提案にそれが良いなと賛成。何処に行こうかと悩み始める。
「ボクスイカ食べたいな〜。ブレイド、スイカ割ってよ〜」
「はいはい。分かったよ」
「ダイビング体験か……面白そうだな」
「おっ、アランも行くのか? オレと一緒に行こうぜ」
「は、はい!」
「おおっ! バーベキューも出来るのか! 我はここにするぞ!」
「アルタリア様、良かったらワタシも……」
「もちろんだ。一緒に肉を食べようぞ!」
「そのバーベキューって貝も大丈夫なのだろうか? 潮干狩り体験も出来るみたいなのだが」
「大丈夫じゃないかな? 採ったら持ってきてくれる?」
「もちろんだ。……あの、ミラクロア様も一緒にやりませんか?」
「わらわで良ければ付き合わせてほしいのじゃ」
各々行きたい場所が決まっていく中。何処へいくか口にしていないヴァニラとジェダルの二人に、何処に行くの? と訊ねる。
「わたしは夜景を見たいわ。端の方で一望出来るみたいだから」
「我はタピオカを買いに行く」
「ジェダルはホントにタピオカ好きだよなぁ?」
「余計なお世話だ」
ある程度楽しんだ後、レベッカとアルタリアが居るバーベキューエリアで集合することにし、一同は解散した。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
*ブレイドとハルドラとスイカと……?
「ハルドラー、スイカ買ってきたぞー」
ナイトプールにある売店にて購入した特大スイカを脇に抱え、スイカ割り用の棒を手に、指定エリア内にあるプールで遊んでいたハルドラに近づき、声を掛ける。
「おいしそーなスイカだね〜」
釣られるようにプールサイド近くにまで水中を移動するハルドラ。狼のような大きめのうきわに乗りながら浮かぶハルドラに、ブレイドは首をかしげた。
「そのうきわ……」
「えへへ、可愛いでしょ〜」
「いや、そうじゃなくて。どっから持って来たんだよ」
「自前だよ〜」
自前? つい先程まで持っていなかったはずだと疑問に思うも、めんどくさいと感じてスルー。
「まあ、いいや。ってか、ハルドラ泳げないのか?」
「そうだよ〜」
「ふーん……」
このとき、ブレイドの脳内に一つの定理が過ぎる。
「(ハルドラ……緑狼王……狼……犬科……犬かき……泳げない……)なるほどな」
「今思ってること言ってみなよ。ホラ」
言うわけねーだろとブルーシートの上にスイカをセット。
「じゃあ、早速──」
「待った‼︎ せっかくだから目隠ししよ!」
ダメ出しを喰らったのでテイク2。
ハルドラが(謎に)持っていた布で目を隠すと、スイカから少し離れた場所からスタート。
「ああ〜! 目、開けてるでしょ〜! ズル〜イ〜!」
「仕方ねーだろ! 場所知ってるんだから!」
「う〜ん、それもそうか〜。あ、ちょっと左だよ」
「ここか。何当分すればいい?」
「4!」
「4だな。一度に斬ってやるぜ!」
目にも留まらぬ速さで十字にスイカを斬る。あまりの速さにスイカはワンテンポ遅れて見事に四つに割れた。
「割れたか?」
「割れたよ〜! おいしそー!」
やったとプールから上がると、目隠しを外したブレイドの足元にあるスイカを一欠片手に取った。
「いっただきま〜す」
うきわを椅子代わりに座り、大きく口を開けて頬張る。
甘〜いと美味しそうに食べるハルドラに自分も食べたくなり、ブレイドもスイカを前に口を開けた。
「……?」
後数センチ、と言うところでブレイドは食べるのを中断。二人の背後に生える草叢に目を向ける。
「あれは……マッシュか?」
「え?」
ブレイドの言葉通り、草叢から飛び出て来たマッシュ。木属性のニトロマッシュに、どうしたんだろうと不思議に思うも、すぐにハルドラが気づく。
「あ、スイカ食べたいんだよ〜。ね?」
そう話しかけると、ニトロマッシュは話せない代わりに全身を使って肯定する。
「スイカ食べたいんだって〜分けてあげなよ、ブレイドきゅん〜」
「……きゅんって何だ」
「ほら、ブレイドきゅんがスイカくれるからおいで〜」
「だからきゅんって何だよ!」
トコトコと歩いて来たニトロマッシュに、はいよとスイカの一欠片を手渡す。
嬉しそうに受け取ると、ブレイドの隣に座って食べ始めたので、ブレイドも遅れてスイカを頬張る。
「……てか、ハルドラキャラ変わってないか?」
「え〜、ダメ〜?」
「いや、意外だと思って。他は何て呼ぶんだ?」
「ミラクロア姐さん、アンガちん、アルタリアたん、ジェダりん、レベッカっち、ベルタっち、アランっち、ヴァニラっち、かな〜」
「……俺は?」
「ブレイドきゅん。」
「何故」
止めろよと怒るも、嫌だね〜と聞く気無し。
二人が話しているうちにニトロマッシュはスイカを食べ終わっており、ハルドラがどうしたの〜? と聞くと、手を大きく振っては訴える。
「ふんふん、ふーん、なるほどなるほど……」
「分かったのか?」
「全然。」
まるでギャグ漫画のように頭から草叢に突っ込むブレイド。
わーおと1ミリも表情を変えないまま呟くハルドラに、大丈夫? とオロオロしながらブレイドに駆け寄るニトロマッシュ。
少しして草叢から頭を引っこ抜いたブレイドは至る所に付いた葉っぱを取りつつ、ニトロマッシュにもう一度やってくれと言った。
「草叢に突っ込んだことはスルーなの?」
「うるさいだまれ」
一回目から学習し、二回目はジェスチャーをつけて伝えようとする。
「ふんふん、ふーん、なるほどなるほど……」
「分かった〜?」
「他のマッシュと来たのはいいが、はぐれてしまったらしい」
「ブレイドきゅん、マッシュ通訳家かなにかなの?」
伝わった事が嬉しいのか、ブレイドに抱きつくニトロマッシュに止めろ止めろと引き離そうとする。
「アハハ〜おもしろいね〜」
「笑ってないで助けろハルドラぁ‼︎」
「マッシュ、キミさ〜このままボク達と一緒にいようよ〜。見つかるかもしれないし〜」
「無視すんな!」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
*アランとアンガとダイビングと……?
「コドモも結構いるんだな。そう思わねぇ?」
「そ、そうですね! 思います!」
案内に従ってダイビング体験が出来るブースへと移動中の事。
あまり接点が無いアンガに緊張し、ガチガチになりながら答えるアラン。どうかバレませんようにと願うアランだったが、不意に声をかけられ大袈裟に肩を跳ね上がらせる。
「は、ハイ⁉︎ どうしましたかッ‼︎」
「さっき、アルタリアの水着チラチラ見てただろ? オレは知ってるぞ?」
「ちちち違いますよッ! そんなに見てないです!」
照れ隠しかぁ? と肘で体を突かれる。
否定するアランだったが、その頬は赤く染まっていた。
「ここだな?」
長いようで短い道のりを進み、ダイビング体験ブースへ到着。アンガの弄りから解放されたアランはホッと息を吐いた。
「そういえば……アンガ様、水は平気なんですか?」
「平気に決まってるだろーが。平気じゃなかったら風呂だって満足に入れねーだろ?」
「そうですね……(お風呂浸かるんだ……)」
「こう見えてもスキューバの免許も持ってるんだぜ?」
「……え⁉︎」
いつ、どこで、免許など取ったのだろうか……。謎は深まるばかりだ。
ドヤるアンガにアハハと流石に苦笑い。ダイビング体験専用のプールは一つしかなく更には狭いため、一人ずつの体験となり、先に体験へと向かうアンガを見送る。
「ん?」
終わるのを待っていると、ダイビング体験の受付に巨大キノコ……では無く。光属性のマッシュ、パラライズマッシュが係員に何かを訴えるようにぴょんぴょん跳ねているのを見つけた。
話せない代わりに身振り手振りで伝えようとするも、係員は頭に疑問符を浮かべるばかり。なんとなく放っておけず、受付へと近づく。
「どうしたんだ?」
パラライズマッシュの背丈と合わせるように屈み話しかける。
マッシュは困ったように目を歪めながら、このダイビング体験のポスターを指した。
「……ああ、そうか。やりたいんだな?」
そうそうと跳ねるパラライズマッシュだったが、マッシュだけではダメだろうと考えたアランは。
「コイツも体験したいみたいなんですが、一緒にしてもいいですか?」
受付にいた係員と交渉。何とかOKを貰うと同時に、アンガの体験が終わり、アランの番が呼ばれる。
「ありがとうございますっ! よし、行くぞ!」
小走りするアランの後ろを嬉しそうに付いていく。
体験用のシュノーケルとフィンを装着し、パラライズマッシュもマスクとアヒルを持ち(?)、プール底に広がる最新技術で映し出された水の世界をたっぷり体験したのだった。
「……ソイツ、どうしたんだ?」
体験が終わり、先に待っていたアンガのもとに向かうと開口一番にパラライズマッシュの事を聞かれる。
受付で困っていたところを助けたのだと説明すると、ふーんと生返事。
「他のマッシュはどうしたんだよ? 一人で来たわけじゃないだろ?」
あ、確かに。とアランも気づき、マッシュの様子を伺うも。
「……」
「……分かるか?」
「全く分かりません」
伝わらなかった……とシュンと落ち込むパラライズマッシュに、「良かったら一緒に居るか?」と提案。
「大方、迷子にでもなったんだろーしなぁ?」
「他のマッシュも見つかるかもしれませんしね」
何度か頷いたのを確認すると、小腹空いたからバーベキューエリアに行こうぜとなり、マッシュを引き連れて向かう。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
*ヴァニラとジェダルとタピオカと写真。
「(綺麗……)」
眼下に広がる夜ならではの美しい景色に目を奪われる。
プールに腰まで浸かりながら夜景を楽しんでいるヴァニラは、一望出来るというスポットに一人で居た。
風に揺れる一房の髪、紫色の水着が映える美しい彼女に、見惚れる男は後を絶たず。何処か近寄り難い雰囲気の彼女に、声をかけようかと悩む者が近くに集まっていた。
その内の一人が腹を括り、声をかけようと一歩前へ。
「ヴァニラ。」
それと同時にタピオカを持ったジェダルがプールサイドから話しかけ、気づいたヴァニラがジェダルの元へ水をかき分けながら進む。
彼氏(らしき男)か? とナンパしようとしていた男達からの視線が刺さり、何だと顔を向ける。顔を向けただけなのに男達は睨まれたと勘違いし、その場から退散していった。
「何だ……?」
「ジェダル様」
「ヴァニラ。ずっと入っていては冷えてしまう。少し休憩するぞ」
頷き、プールから上がったヴァニラと共に、備え付けのビーチベンチで隣同士に座る。
「良かったら飲むか?」
と、二つあったタピオカ内、一つをヴァニラに差し出す。物珍しそうに受け取るヴァニラに「タピオカと言うんだ」と説明。
「タピオカ……?」
「一気に飲むと咽せるからな。ゆっくり飲みなさい」
ストローでタピオカを飲むジェダルを見習い、ヴァニラも恐る恐る口にしたが、口の中に入って来た固形物に驚く。
「食べても平気だ」
一口噛んでみると、グミのような弾力がある感触に面白いと頬が綻ぶ。
夢中になって楽しむヴァニラの耳に、あっと小さく呟くジェダルの声が届いて来た。
「我とした事が……」
「?」
ジェダルは自分のタピオカをテーブルの上に置くと、懐からエレフォンを取り出してはカメラアプリを使い一枚パシャリ。
「ふむ。なかなか良い具合に決まったようだ」
画面を見ながら満足そうに頷くジェダルをじっと見つめる。
「……何だ貴様まで」
「ジェダル様、わたしに写真の上手な撮り方を教えて下さいませんか?」
ヴァニラも防水加工済みのエレフォンを取り出し、お願いしますと頼み込む。
それにジェダルは目を丸くしていたが、フッと微笑むと。
「……良かろう。我直々に伝授しようではないか」
「! ありがとうございます」
「まずはタピオカを楽しんでからにしよう。指導はそれからだ」
「はい。これ……とっても美味しいですね。ここにしかないのですか?」
「街にも複数専用店舗が存在する。今度行ってみると良い」
「そうします。……?」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
*ベルタとミラクロアと貝とプール。
「……」
「ミラクロア様?」
潮干狩り体験ブースまでの道のり。
何処か落ち着かない様子のミラクロアに気づき、大丈夫ですか? と声をかける。
「す、すまぬ。どうにも視線が気になってしまっての」
「視線?」
「さっきから強い視線を感じるのじゃ……」
──ハッ! もしやストーカーか⁉︎
何処に潜んでいると辺りを警戒するも、それは杞憂に過ぎず。単に男共がミラクロアの水着姿に浮かれているだけだった。
「(ミラクロア様は私が守らなければ……)」
殺気こもった視線を向けると、男達は慌てて逃げていく。
フンッと心の中で鼻を鳴らす一方、ミラクロアは自身の水着を見下ろしていた。
「……やはり、わらわには似合わないのかの……」
「そんな事ありません‼︎」
咄嗟に大きな声を出してしまい、しまったと後悔する。
ミラクロアは暫しの間目を丸くしていたが、本当に? と首を傾げた。
「本当です!」
「本当の本当に?」
「本当の本当のほんとーにです! 透き通る海中のような水着が、雪のように白い肌に映えていてとても綺麗です! ……隣に立つのが申し訳ないぐらいですよ」
乾いた笑みを浮かべるベルタに、ミラクロアは普段褒められてないからか赤くなる頬をツインテールの片割れで隠してしまう。
「……ふ、ふんっ。当然であろう。わらわは水を統べる者なのだからの」
照れ隠しでそんな事を口走るも、ベルタは嬉しそうに笑っていた。
「あっ、ここみたいですね」
横に長ーい水槽が置かれたエリアに到着。受付を済ませ、潮干狩りセットを手に。
「いざ……!」
水槽に敷き詰められた砂を専用の道具で掻き分ける。どんなのが採れるかなと心を弾ませる。
「これは……アサリかの?」
「……」
「こっちはハマグリじゃな」
「……」
「意外と簡単に採れるものなのじゃの〜」
「……」
お、か、し、い。
隣にいるミラクロア様は順調に採っているのに、自分は未だ0個。おかしい……おかしすぎる!
「……ベルタ? 採れないのか?」
ギクッと肩が跳ね上がる。
そっちはどうじゃ? と何となく察したミラクロアに勧められた場所の砂を掘り返すも見つからず。
果てには係員を巻き込んで捜索するも、“何故か”ベルタ“だけ”が採れなかった。
「私は……貝に……嫌われているのか……」
そう思ってしまうのも無理はない。
宜しければと係員が貝を用意するも、自分で採りたい欲の方が勝ってしまい断り続ける。
しかし、もう諦めた方がいいと感じ始めてしまっていると。
「……?」
片手に乗る温かくも柔らかい感触。
目をパチクリさせながら、自身の手の上に重なる手……ミラクロアに顔を向ける。
「ほれ、動かしてみるのじゃ」
「は、はい……」
恐る恐る動かしてみると、カツンと硬い何かに当たった感触。
そのまま上に持ち上げると、小さなアサリが一つだけあった。
「あ、アサリが……」
「良かったの」
優しく微笑むミラクロアに元気よく返事する。
その名の通りミラクロアの手を借りながら採り続け、上限である袋いっぱいに貝を詰め込んだ。
「これだけあれば十分じゃないのかの?」
「ですね。後は下処理が済むまで時間を潰して……」
潮干狩り体験には、採った貝を無料で下処理してくれるサービスもあり、バーベキューと共に貝を楽しめるようになっているらしい。
そのため、下処理が終わるまでの数分間。すぐに取りに行けるよう近くで時間を潰す事にした二人。
そこに聞こえて来た笑い声と水飛沫の音。楽しそうな雰囲気に、行ってみようとその場所へ。
「ここ……ウォータースライダーですね」
「ウォータースライダーじゃと?」
「私達も滑りましょうよ!」
初めてみるものだけに少しだけ躊躇う。
「そなただけで行ってくるとよい。あんなに速く滑るのは少し……」
「大丈夫ですよ、ミラクロア様。二人乗りの浮き輪もあるみたいですし、私に掴まっていて下さい」
珍しく積極的なベルタに、半ば引きずられる形で移動。二人乗りの浮き輪に乗り込み、ベルタの体に腕を回す。
「行きますよ? それっ!」
──バシャーン!
あっという間に滑りきり、プールに勢いよくダイブ。ぷはっと急いで水面から顔を出すと、頭に何か付いているのに気づき、ぺっと剥がす。
「『BERUTA』?」
「あ、それ私の帽子です!」
ありがとうございますと帽子に手を伸ばすベルタから、引き離すように距離を置く。
「え? うわっ⁉︎」
顔に向かってかけられる水。
フフンと得意げな表情のミラクロアに、やりましたね! と水をかけ返すも、ベルタの帽子を盾にされる。
「これぞ鉄壁防御なのじゃ〜」
「あー! 私の帽子持って逃げないで下さいよー!」
二人は心ゆくまでプールで遊んだ後、下処理が終わった貝を持ってバーベキューエリアに向かった。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
*レベッカとアルタリアとBBQ。
「おおっレベッカ! 待っておったぞ!」
受付で購入した“下ごしらえカット済み簡単バーベキューセット”を手に、機材の準備(ほとんどないが)をしていたアルタリアの元へ戻って来る。
「早速焼いていこうではないか」
「もう置いていいですよね?」
「いいのではないか?」
予め串に刺さっている肉を鉄網の上で焼いていく。
まだ焼けないかな〜とレベッカの周りをウロウロ練り歩くアルタリアに、受付で見たメニューの中にお肉セットがあった事を思い出す。
「そういえば、バーベキューメニューの中にお肉だけの追加セットがありましたよ」
「ほんとうか⁉︎ 我は肉に目がないのだ」
「(白獅子王……獅子……だからかな?)」
アルタリアの素顔に触れ、嬉しくなったレベッカは「もう少し強くしますね」と火のエレメントを掌に集中させる。
「火のエレメントで一気に焼くんだな⁉︎ さすがだなレベッカ!」
「火属性たるもの、このぐらいは朝飯前です!」
──ボンッ‼︎
「「あっ……」」
モクモクと天に昇る黒煙。
炭と化した肉(だったもの)を見つめ、無言。
「す、すいません……つい調子に乗ってしまって……」
「我が急かしたのもいけなかったな。……これはアンガに食わせよう」
せめてもの配慮として皿に盛り付けられた肉(だったもの)達。
視界から消すように端に寄せると、仕切り直して新しいのを焼く。
「なあ、レベッカ」
「ハイ」
「この麺はなにに使うのだ?」
と、レベッカが買ってきたバーベキューセットから麺を取り出す。レベッカも何だろうと首を傾げていたが、あっと声を上げる。
「多分、焼きそば用の麺ですよ。野菜セットもありますし」
「焼きそば……久しぶりに作ってみるか!」
「レベッカは肉を頼む!」と焼きそば一式を持ち出し、鉄板の上で豪快に炒め始める。
「……」
「すまない……作り方を間違えたようだ……」
失敗。
久しぶり、とは一体何年振りだっただろうか。鉄板の上にあったのは解れていない焦げた麺と野菜達。どう言い繕えばいいか分からず、レベッカは固まったまま……。
「……なんか焦げ臭くねーか?」
「こっちから臭って……」
そこにタイミング悪く、ダイビング体験を終えたアンガとアラン(+1マッシュ)が異臭に導かれる形でやって来た。
隠蔽工作する暇も無く、二人と鉢合わせてしまう。
「「……」」
「ちっ、違うぞ! 久しぶりで間違っただけだ!」
二人からの何とも言えない視線に、両手をブンブン振りながら「決して失敗した訳ではない!」と意地を張る。
「間違えた時点で失敗だろ」
「ぐぬぬ……」
「? どうした?」
グイッと一緒に来たパラライズマッシュに上着を引っ張られ、マッシュが指した方向に目を向ける。
「……なんだコレ?」
皿に盛り付けられられた暗黒物体。焦げ臭い臭いが鼻を強く刺激する。
「なんだ? あっ、岩か!」
「岩じゃないです……」
暗いオーラを出しながら肉を焼くレベッカの呟きにハッとし、狼狽える。
「お、オレ、ちょっと交渉しに行って来ますッ‼︎」
「待てアラン! なにを交渉する気なのだ⁉︎」
「ハッハッハッー! この焼き加減サイコーだな! すごく美味いぞ‼︎」
「正気に戻れアンガ! たしかに食わせようとしていたが、無理に食べることはないだろう‼︎」
アンガに黒焦げ肉を食べさせてしまった事に罪悪感を抱くも、後ろから聞こえる声が面白く、笑いを堪えるのに必死だった。
「う、美味かった……ぜ……?」
「アンガーーー‼︎」
「お肉焼けました! 今度は大丈夫です!」
「良くやったレベッカ! アンガの分は我が責任もって食べるとするぞ!」
「テメー! 勝手に殺すな! オレも食う‼︎」
「ただいま戻りました‼︎」
攻防戦を繰り広げる最中。何かを交渉しに行っていたアランが戻って来た。何をと訊ねる前に、アランが持っていた半透明の小袋……中に入っている白い粉に目がいく。
「アラン……返してきなさい。」
「それはダメ、絶対。」
「得るものより失うものの方が多いぞ。」
「な、何ですか……? オレは片栗粉を少し譲って貰えないか、聞いて来ただけですよ」
「かた」
「く」
「りこ」
戸惑いつつコクリと頷く。よく見れば袋に片栗粉と書いてあり、勘違いか〜と安堵した。
「……⁇」
「気にするな。それより……片栗粉なんて、なにに使うのだ?」
「あんかけ焼きそばを作れないかと……片栗粉さえあれば何とかなると思いまして。ちょっと薄味になってしまうかもしれませんけど……。あんかけ焼きそばって、少し焦がした方が美味しいですもんね」
「アラン……!」
アンガとレベッカは思った──。
遠回しに“オマエ焼きそば失敗しただろう”と言われている事に気付いてないのか、と──。
楽しそうな様子の二人にどうでも良くなると、肉くれと手を差し出す。
「どうぞ。ところで……このマッシュはどうしたのですか?」
「んあ? あー……ダイビング体験のとこで一匹だったのをアランが拾ったんだよ。迷子らしいから一緒にいるとこだ」
なるほどと相槌を打ちながら、ちゃっかり貰っているパラライズマッシュに目を向ける。
「見つかるといいわね。……迷子だったら」
「マッシュ通訳家でもいればいいんだけどよー」
「居ませんよ。」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
──時は過ぎ。
レベッカとアンガ、アランにアルタリアの四人がいるバーベキューエリアに他の三組も合流。レベッカが焼いたお肉と、アランがアレンジした焼きそばに、ベルタ達が採って来た貝達も加え、バーベキューを満喫する。
「良かったね〜オトモダチが見つかって〜」
ハルドラの視線の先にはブレイド達が出会ったニトロマッシュと、アラン達が出会ったパラライズマッシュが、仲良く抱き合っては小躍りしていた。
「お、マッシュ族伝統の“再開のダンス”か」
「久しぶりに見たな」
「前に見たときよりも腰のキレが違うの」
「うむ。キレッキレだな」
「……オマエらこの会話についていける?」
全然とアランを除いた四人の冒険者がシンクロする。
「ハルドラよ。よくマッシュ達が迷子だと分かったな」
「ボクじゃないよ〜マッシュ通訳家のブレイドきゅんのおかげ〜」
「ホラみろレベッカ! マッシュ通訳家いるじゃねーか!」
「ソウデスネ……」
「ブレイド、オマエ……女だったのか……」
「行け! マッシュ共!」
「けしかけんな。冗談だよ」
ブレイドきゅん〜とふざけるハルドラを、ミラクロアが呼んだ。
「ミラクロア姐さん〜? ソンナに畏まってどうしたの〜?」
「……以前から思っていたのじゃが、その……なぜわらわだけ呼び方が変わらぬのだ?」
思わず素っ頓狂な声が漏れる。
「なぜって言われても〜……」
「ハルドラ。ミラクロアも別の愛称で呼ばれたいだけなのだ」
「ち、違っ」
「う〜ん……ミラクロアは普段もプライベートも姐さんって感じがするからな〜。……あっ、こんなのはどう?」
「い、一応聞いといてやらん事もないのじゃ」
「ミラクロア『ちゃん』!」
そのとき。その場の空気がミラクロアの魔力で凍った気がしたと、のちにベルタは語った。
「ミラクロア……ちゃん?」
「うん。……アレ⁇」
ボク変なこと言った⁇ と疑問符を頭に浮かべるハルドラに、アンガとアルタリアが吹き出して爆笑。
いよいよ堪忍袋の尾が切れたミラクロアに集結しつつある水のエレメント。
「アンガ、それにアルタリアよ。わらわの氷牢の中で昇天するとよいッ‼︎」
「あぁ? 有利属性だからってナメんじゃねーぞ?」
「汝の氷など、我が光で打ち破ってくれる!」
「……ハルドラ。貴様のせいだぞ。止めないか」
「んん〜! 焼きもろこしおいし〜! ジェダりんも食べる〜?」
「その呼び方止めろ。」
なんとかブレイド以外の四人が怒りを沈めた事で、ホテルが氷漬けにされる事は無かった。
「ん?」
数分後。何事も無く談笑しているモルス達の近くで焼きもろこしを食べていたブレイドに、マッシュ達が話しかけて来た。
「ふんふん、ふーん、なるほどなるほど……」
「(なにがなるほどなのかサッパリ分かんねぇ……)」
ブレイドの隣に座るアランが何か言いたげな眼差しで見つめる。
「仕方ねぇな。やればいいんだろ」
「? 何を?」
「すぐに分かる。さっさと準備するぞー」
見守る事数秒。ローテーブルに置かれたおもちゃのマイク。その前に座るマッシュとブレイド。はて、この光景は何処で……。
「えー、この度は迷子になってご迷惑をおかけして誠に申し訳ありません」
そして謎に始まったマッシュと通訳家ブレイドによる会見。
「ナイトプールと言う非日常的な場所にハイになってしまい……」
「フラッシュ! フラッシュだ!」
「ブレイドきゅんの称号を『スイカ割りの達人』から『マッシュ通訳家』に変更!」
「動画も撮らねば!」
写真係のジェダルと、動画係のミラクロアは淡々と撮影する。
“これをおかしいって思うオレがおかしいのか?”と頭を抱え項垂れるアランの両肩に、諦めろと言いたげにレベッカとベルタの手がそれぞれ置かれた(因みにヴァニラは黙々とお肉を頬張っていた)。
そんな中。
「……騒がしい」
「え? うるさいの苦手か?」
そうじゃないとヴァニラは首を振り。
「ここじゃなくて向こうのほうから叫び声が」
ふざけていた者を含め、一同耳を澄ませる。
叫び声、それも恐怖に満ち溢れた声が聞こえ、一同は叫び声の元へ急いだ。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
*ライバルホテルの工作員、やり過ぎ問題。
耳を貫く悲鳴。我先にと逃げ惑う客達の合間を縫うように移動。
「皆の者、怪我はないか?」
やっとの事で人の波から抜け出すと、アルタリアが全員居るか確認。が、ヴァニラとジェダルの二名だけ姿が見えない。
「はぐれたのでしょうか……?」
「そのうち戻って来るんじゃねーの?」
それよりと人が居なくなり、静かになったプールを見渡す。
「何もないな」
「……! いや、あそこを見るのじゃ!」
ブクブクと泡吹く水面。一部だけだったのが一瞬にしてプール全体にまで広がると。
『ッ……⁉︎』
水中から勢いよく飛び出る複数の影。
プールに“居るはずの無い生物”に、仰天する。
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎‼︎‼︎」
「落ち着けはるっ、ぐはあ⁉︎」
ビチビチと無限に湧き出て来る生物。その姿に気持ち悪いと顔が歪む。
「アレは……『海洋生物神秘論』第138項目に書かれていた『キャニー』⁉︎」
「よく覚えているね……。で、キャニーって?」
「ああ。非常に凶暴な性格で、自慢のハサミでなんでも切り裂いてしまうらしい。ちなみに、亜種と希少種もあって、キャニーから取れる『キャニミソ』は希少価値が高く、絶品食材らしいぞ」
「うん。要らない情報までありがと」
「しかし……そのキャニーがなぜ大量に、それもこんな場所で?」
「いいから早く倒そうよ〜! ボクもうむっ」
それまで動かずにいたキャニー達が一斉に宙に飛び、一同に襲い掛かって来た。
その光景に、ブレイドに突進していたハルドラはひっと小さく悲鳴を上げると。
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理いいいいい‼︎ あっアルボスー‼︎‼︎」
パニック状態に陥ったハルドラが、木属性の精霊アルボスの力が宿った魔法陣を召喚。キャニーの群れの一部を吹き飛ばした。
「吹っ飛ばせるみたいだな」
「えっ、ホント? それならいいや」
ケロっと元に戻ったハルドラにキャニー達は舌打ち(をした気がする)。
「アルタリア様……」
「アラン。……仕方あるまい。ここは我らだけで殲滅するとしようぞ」
「そうじゃな。ただし、普段より威力を落として戦うのじゃぞ」
「チッ、お楽しみはまた今度ってわけか」
ここまで付いて来たマッシュ達に隠れているよう指示。
「遂に……この新たに手に入れた疾風剣を使う時が来たか……!」
「いやいや。それスイカ割り用の棒だろ。まだ返してなかったのか」
「行くぞッ! 【夢幻疾風剣】!」
「残影剣の使い手は⁇」
ただのスイカ割り用の棒に風を纏わせて威力を上げ、スイカ割りをするように棒を振り落とす。一匹のキャニーは叩かれ、周りの敵は風によって吹き飛ばされる。
「ブレイドの技名おもしろい! ボクも新しいのにしよ〜!」
「オレも! 【不滅の炎in海】……な気がするけどinナイトプール!」
「わらわも【ビーチエリクシール】な気もするが、プールエリクシール!」
「【浜辺の風】にしなくちゃいけない気がするけどプールサイドの風!」
炎が、氷が、風がキャニーの群れを襲う。
「なかなか面白そうだな。我も真似して──【ライジングサン】!」
光の速さで軍団を駆け抜けていく閃光。
いいのかなぁ……と先の事を考えて不安になっていたアランだったが。
「焼きつくす! 【メガヒートブラスト焼き】!」
「レベッカが焼いたのを……【メガシェルグレイシア】で冷やすッ!」
「ナイスベルタ! で、ここを切ればいいかな?」
「一応、蟹だからそうじゃないか?」
戦闘しながら『キャニミソ』狩りをしている逞しい二人を見つけ、まあいいかと切り替えた。
「【潜光剣】!」
光のエレメントで生成した剣を使い、光の渦にキャニー達を巻き込みながら斬り裂く。
おお〜とアルタリアに拍手を送られ、照れる。
「アレ? オマエら……」
すると、隠れていたはずのマッシュ達が、はぐれた仲間達を連れて現れた。
「マッシュエンペラーがここに連れて来たのだな」
「良かったな。合流出来て」
「……アランよ。マッシュ達も手伝いたいようだぞ?」
「そうなのか?」
そうそうと言いたげに跳ねるマッシュ達。
「わかった。無理はするなよ」
マッシュエンペラーの指揮の下、キャニーの群れに勇敢に突撃していくマッシュ達。
「あっちはマッシュエンペラーが居れば大丈夫であろう」
「そうですね。ですが……ジェダル様とヴァニラはどこに……」
「彼らなら今頃、犯人を捕まえているところであろうな」
「……え⁉︎」
「クソッ、なんだアイツら‼︎」
「客に扮した用心棒がいるなんて聞いてないぞ‼︎」
「とにかく逃げるぞ‼︎」
暗く、冷たい地下を走り抜ける三人組の男。
その男達よりも速いスピードで駆け抜け、男達の前方に回り込む。
急ブレーキをかけて止まり、逃げようと振り返るも行手を塞がれる。
前方に立ったのはヴァニラ、後方を塞いだのはジェダル。
「あなたたちがこのホテルの評判を落とそうとしていたことは、すでにホテル側も知ってる」
「素直に降参した方が身の為だ」
二人は偶然一同から離れたわけではなく、自らの意志で離れ、犯人を追うために別行動を取っていた。
始めに怪しいと感じたのは、バーベキューエリアに戻ろうとした際、近くを通り過ぎた三人組の男達の行動に違和感を感じた事。一応警戒しておこうとその場は見逃し、騒動が起きたタイミングでホテルの関係者と接触。話を聞いてライバルホテルの妨害だと判断すると、三人組を追った。
「前々から業務を妨害していたようだけど、それも今日で終わりね」
「我らと共に来てもらう」
「……分かったよ。
なんて言うと思ったか‼︎ このクソ色白男ッ‼︎」
「だろうな。それと我は陽の光が苦手なだけだ。ヴァニラ、そっちは任せる」
「……分かりました」
隠し持っていたナイフを手に、ジェダルに一人、ヴァニラの方に二人が一斉に襲いかかる。
「どうしてそこまで執着する? 金か。」
「あぁそうだよ! 無事成功したら大金を貰うことになってんだよ!」
「欲に卑しい者よ……、いや……それが本能と言うべきか?」
飄々とした様子で危なげなく躱すジェダルにキレ、物騒な言葉を吐き捨てながらナイフを突き立てる。
「……⁉︎」
ガシッと手首を掴まれ、反射的に引き離そうと動かすもびくともせず。
ジェダルは手首を掴んだまま自身の方に引き寄せて男のバランスを崩し、そのまま腹部に向けて蹴りを入れる。呻き怯んだ隙に手首を掴んだまま男の背に回り、もう片方の手首も掴んで捕らえた。
「いででででででででぇぇぇ⁉︎ 離せっ痛い!」
「我慢しろ。あと煩い」
「知るかッ!」
仲間の一人がやられたのに気づき、後の二人がヴァニラからジェダルの元に走る。
「……」
地を蹴り、先回りする。
男達は互いに頷き合うと、左右分かれてヴァニラの横を通り過ぎようとする。どちらかが攻撃されても、両手が塞がって何も出来ないジェダルを斬り付けられると判断したからだ。
しかしヴァニラはそこから動かず。男達はヴァニラの横を通り過ぎる。
何だと警戒するも、両側からジェダルを挟み撃ち。
「甘いな。【トロピカルサマーマジック】」
「その甘ったるい名前はなんだよ‼︎」
黒い光が二人の男の前で煌めく。
咄嗟に防御体制を取るも、痛みも何も無いことに肩透かしだとナイフを振り上げた。
「……だから甘いと言ったんだ」
「分身……」
意味を理解する前にヴァニラの声が耳に届く。
「【分身瞬影刃】。」
二人に“増えた”ヴァニラが、刃に見立てた手で、首筋にダメージを与えた。
男達は二人同時に意識を手放し、地面に倒れる。
「ジェダル様。意識を奪って良かったのですか」
「一人は捕らえたからな。後はどうでも良かった」
「フンッ! 正義の味方様が言うような台詞じゃないね‼︎」
「正義の味方では無いが……運が悪かったとしか言えんな」
「うがああああああああ‼︎」
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「あっ、ヴァニラっち〜ジェダりん〜」
「その呼び方止めろ。」
地下での戦闘を終え、犯人達をホテル側に引き渡した後。地上で二人を待っていた様子のハルドラと合流した。
あれだけ大きな騒動となっていた筈なのに、すでにちらほらと客が戻りつつある。
「犯人は捕まったんだね〜お疲れさま〜」
「ありがとうございます。ハルドラ様」
「ハルドラ。ここは平気なのか」
「うん。キャニー集団はやっつけたし、キャニミソが大量に取れたおかげでお客さんも戻って来たんだよ〜」
キャニー⁇ と聞き慣れない単語に首を傾げると「カニさんみたいな敵だよ〜」と説明された。
「キャニーから取れるキャニミソは高級食材でおいしいんだって〜。向こうでブレイド達が捌いてるから食べに行こ〜よ〜!」
ノリノリな様子のハルドラに連れられ、ちゃっかりと商売している仲間達と再会。
衝撃的な光景(キャニミソを取る瞬間)を目撃してしまったが、時間ギリギリまでナイトプールを満喫。ホテルから犯人確保及びキャニー退治の御礼にと、ホテルに無料で宿泊して次の日に仕事へと向かったのだった。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
※前日談
─五戦神モルス側─
ここは『ミラージュ・タワー』最上階。エレメンタル大陸を管理する、五人の要人達が意見を交わし合う会議室。開放的な空間に、陽の光が当たりやすいようにデザインされている。
部屋の中央。無駄に大きい机に並べられた五つの椅子。それぞれに腰をかけ、モルス達は今日も会議を開いていた。
「つ〜か〜れ〜た〜」
だがしかし、ハルドラは机にぐでーんとだらけており、隣(と言っても距離はあるが)の席に座っているアルタリアは、ガッツリと寝ていた。
「貴様らふざけるのも大概にしろ。会議を始められん」
「そうは言ってもさ〜最近毎日会議だよ〜? さすがに疲れちゃうよ〜」
「そうじゃな。仕事が立て込んできておる」
ミラクロアの言葉に、ジェダルは眉間に皺を寄せた。
「……だが、こなさなければ減るものも減らないだろう」
「そうだけどよ? 先が見えないんじゃヤル気も起きねーしよ?」
続けてアンガも言うと、ジェダルは諦めたのか口を閉ざした。
「あ〜あ、気分転換しにどっか行きたいな〜」
「うむ。バカンスしに行きたいのじゃ」
「まあ、夢のまた夢だろうけどよ?」
「……」
この忙しい最中では、数日どころか一日すら休暇は取れないだろう。アンガの言葉通り、夢のまた夢……。
「諦めるのはまだ早いぞ。皆の者」
そうアルタリアは瞼を開きながら、懐から一枚のゴールドなチケットを取り出した。
「それは……?」
「高級ホテルに特設されたナイトプールへの入場券だ。これ一枚で十人まで入れるぞ。夜だけなら、今の状況でも時間は作れよう」
ニヤリと口角を上げるアルタリア。次の瞬間、希望に満ち溢れる他の四人。
「すっご〜い! さっすが、アルタリア! ブレイド達誘って行こ〜!」
「賛成じゃ」
「ジェダルも文句ねーよな?」
「……夜なら付き合ってやらんこともない」
「決まりだな。細かいスケジュールを話し合おうではないか、会議の前に」
「……貴様。初めからそれが目的だったな?」
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─五戦神の戦士側─
夜も更けてきた頃。『ミラージュ・タワー』から少し離れた場所に佇む宿舎では……住人である五人が集まっていた。
四人を集めたアランは、わざとらしく咳を一つ。
「えー、集まってもらったのは他でもない。今度、アルタリア様達と一緒にナイトプールに行くことになったのは知ってるな? それに伴って、確認したいことが……」
「はい」
「はいどうぞヴァニラ」
「『プール』ってなに?」
小首を傾げるヴァニラに、アラン困惑。
「……ナイトは?」
「夜」
「ナイトプールは?」
「夜のプール?」
「何聞いてんだお前」
「プールって言うのは、人が入れる大きさの水槽みたいなものね。温泉のお湯を水に変えたようなイメージ。泳いだりして遊ぶのよ」
アランと選手交代したレベッカが説明。
「じゃあ、『ナイトプール』は?」
「それは俺も知りたい」
「私もイマイチ……」
「オレも何となくしか……」
「意外と知らないものなのね」
アランが知らない事実には驚いたが、本には載っていないだろうし、無理もないか。
「『ナイトプール』はその名の通り、夜に開かれるものよ。ただ、ナイトプールは泳ぐことよりも景色を見たり、食事を楽しんだり、写真を撮るのがメインね。プールはあっても、水に浸かる感覚かしら。大人向けのプールってイメージね」
へぇ〜と理解した様子の四人。
「それで……アランが聞きたかったことは、水着のことでしょ?」
「持ってなかったら買いに行く必要があるからな」
「そうね。この中で水着持ってないって言う人、手挙げて」
全員挙手。
「……買いに行きましょ」
「異議なし!」
次の日──……。
(おっ、このデザインいいな。コレにしよう)
はじまりの地にあるデパート内、水着売場にて悩んでいたアランは、薄い黄色の生地に光属性らしい絵柄の水着に決め、先に決めていた上着と共に早速購入。
「ブレイド、まだ悩んでいるのか?」
袋を手に、同じく水着選びに来たブレイドと合流。ブレイドはいいや、と否定すると。
「これにしようと思って」
「……正気か?」
ブレイドが手にしていたのは深緑色の生地にスイカ柄の水着。センス無かったか? とアランは憐れむように目を細める。
「だってこれ滅茶苦茶安いぜ? 一回か二回しか履かないなら高いもん買わなくていいだろ」
「……いや、まあその通りだがもう少し考えて……」
「買って来た」
「早っ!?」
決めるのは早いブレイド。
あ〜……と頭を抱えるも、買ってしまったなら仕方ない。ブレイドがカッコ良く着こなしてくれることに期待するしかないだろう。
……いや無理だな。どう足掻いても無駄な気がする。
──そして数日後……。
『ナイトプールの甘い罠』に続くのだった。
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