Five Elemental Story 〜厄災のリベラシオン〜

終幕 Promise to me


 ──side Ray


 ここら一帯に回り巡っていた魔力が消え、大樹『再来の象徴ユグドラシル』は一気に枯れ果て、次々と樹の幹が朽ちては、僕の足場を無くしてゆく。

「ああ! 待ってるからな!」
「来なかったらぶん殴るぞ!」

 ──背後から、アラン君とブレイド君の声が聞こえる。
 『再来の象徴ユグドラシル』から脱出を図る彼らとは違って、此処に残ると選択したのは他でもない“僕”の意思。それを尊重してくれた彼らの言葉に、僕の心は温かくなる。
 ……ああ。そうか。
 人はこの温かさを……、『勇気』って呼ぶんだね。

「……バトラム」

 呼んだのは《精霊剣バトラム》。破壊を司るアストラルさんの剣。言葉を交わさずとも、バトラムは目の前に積み上がる樹の残骸を一振りの斬撃で打ち払う。
 そうして現れたのは、アラン君が持つ《白き鍵》の力によって変わり果てた姿のタルタロスを大事そうに抱え、王座で眠りゆくラフェルト。さっきまで敵対していたとは思えないほど、彼の寝顔は優しかった。
 『勇気』を胸に、一歩ずつ歩み寄る。

『お前は……先程の少年か。名はなんという?』

 タルタロスの目玉に僕の姿が映る。
 僕は胸元をぐっと握り締め、答えた。

「レイ」
『レイ……お前は何故、ここへ来た』
「助けたいから」

 迷いなく告げた僕に、タルタロスの瞳孔が驚愕に細まる。
 それはそうだよね。僕だって、皆から怒られる覚悟で此処に立っているんだもん。
 でも。僕は。

「こう見えて、僕って結構我儘なんだ。だから、目の前で誰かが死んでいくのを見過ごせない」

 それに。

「僕は君達を……悪い人だと思うけど、『悪役』として憎めない。君達の強い想いは、『英雄』と変わらないって思えたから」

 『悪役』というのは世間の爪弾きもの。世界中の人々から恐れられ、憎まれながらも、自らの意思を貫き、より困難な道をゆく者だと思う。それこそ、『英雄』と謳われる者達と何も変わらない。

『……ありがとう』

 今度は僕が驚愕に目を見開く番だった。タルタロスの言葉に、自然と笑みが溢れる──が、時間は僕らの会話を許してはくれないらしい。
 大樹を支える大きな幹のひとつが、僕のすぐ後ろに落ちてきた。それを皮切りに、ひとつ、またひとつと落下。仄暗い空間に陽の光が差し込む。もう猶予はない。

「早く外に──、っ⁉︎」

 僕は確かにラフェルトの腕を掴んだはずが……どういうわけか“すり抜けた”。何度も、何度も手を伸ばすも、僕の掌は虚空を掴むだけで。

『……ラフェルトこの子の肉体は今、消滅しようとしている。お前達との戦いで随分と魔力を消費してしまった。……肉体を維持できぬほど』
「そ、そんな……!」

 彼はこのまま独りぼっちで死んでしまうのか……?
 大切なタルタロス友達との約束も果たせないまま、独りで……。
 この光景を、ラフェルトを憎んでいる誰かが見ているのなら、「大罪人に相応しい末路だ」と嘲笑うのだろう。
 だけど……!

『……ひとつだけ、私も、ラフェルトも救う方法がある』
「!」
『本当はこのまま、彼と共に海の奥深くへ沈む予定だったが……。レイ、お前になら託せるだろう』

 と、タルタロスの言葉に応えるようにラフェルトの中心から、漆黒のオーラを纏う《黒き鍵》が鈍く光を放つ。
 僕は一瞬、『世界の再来ラグナロク』のことが頭に過ぎる。でも、世界を消滅させるようなほどの爆発的な魔力は感じなかった。

『これより私は《黒き鍵》と同化し、一時的にラフェルトの魔力を助長させる』
「それが、二人を救う方法なの……?」
『……』

 タルタロスは、僕が抱いた疑問に気付いたのだろう。限られた時間の中で、言葉を選んでいるように思えた。

『……私の意識は封印される。自力で目覚めることはない。だが、幾千、幾万、幾億の時を経て、《黒き鍵》に充分な魔力が集まったのなら、もしかしたら……』
「……そっか」

 気が遠くなる年月を、ラフェルト独りにさせてしまうのが怖いのだろうか。
 僕が今、手伝えることは何もない。
 けれど──『事実』は伝えられる。

「大丈夫。ラフェルトは、独りにならないよ」
『……何故だ』
「彼が『大罪人』である限り、正義は常について回ってくるものだから」

 タルタロスは僕の言葉に、少しだけ笑ってくれた。
 そうして《黒き鍵》と融合を始める。

『……レイ。どうか、約束してほしい。こんな私達に手を差し伸べてくれた“君”に』
「約束?」
『ああ。……ラフェルトのことを理解してやってほしい。同情や、慰めなんかは必要ない。ただ彼が、どうして彼なのかを、君だけには理解してほしいんだ』

 僕は、ラフェルトと引き換えに消えつつあるタルタロスをそっと触れる。

「分かった。理解してあげる。その上で、ラフェルトの前に立ちはだかる」

 きっと僕らの思考は混ざり合わない。
 だから彼に対して僕は、どんな手を尽くしても邪魔な存在として堂々と対立することしかできない。
 タルタロスは、満足げに目を細めた。

『ああ。それでいい……、いつかまた』

 タルタロスが《黒き鍵》に吸い込まれていく。ドクンッと波打つように、ラフェルトの体に波紋が走る。

「うっ……」

 さあ、ここからはじめよう。

「おはよう、ラフェルト」

 君と僕が紡ぐ、絶望と希望の輪廻を。

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