Five Elemental Story
5話 初依頼編【前編】
はじまりの地、ミラージュ・タワー。
今日も多くの冒険者達で賑わう広間を通り過ぎた先、受付に並ぶ三人の姿があった。
「はいっ! これがキミ達の初任務だよ〜!」
一枚の紙を受け取り、目を通していく。
「しばらくの間はボク達が依頼を選別して持ってくるから、新人サン達は与えられた依頼をこなす事を目標にして頑張ってね!」
「分かりました」
依頼の種類は主に二つある。
一つ目は、ミラージュ・タワーの審査が入る正式なもの。審査が入る事により、自身の身の丈に合った依頼を受けやすくなり、回数を重ねる事で名誉にも繋がる。依頼は塔内にある掲示板に貼り付けられていたり、先程のように係人から直接渡されたりもする。
二つ目は、ミラージュ・タワー非公認の依頼。こちらは依頼人が冒険者個別にアポをとり、審査無しでも依頼を出せるもの。審査に通しては不味いものや、審査に掛かる時間を短縮したい人から出される事が多い。依頼内容が高度な場合が殆どだが、その分破格の報酬を得る事が出来る。
三人のように結成してから日が浅い部隊は原則として正式な依頼を受けることになっている。
受付から離れ、他の冒険者と当たらない場所で依頼を確認する。
「『英知の書庫』の管理人……リベリアさん⁉︎」
「有名なのか?」
「『英知の書庫』には大陸で発行された本が全部置いてあるからな。これによると……依頼内容は本の整理か」
なんだ、雑用かと肩透かしを食らったように息を吐くブレイドに仕方ねぇよと苦笑い。
「まだ小さいし、有名じゃないからな。……とりあえず行くか」
『ミラージュ・タワー』から書庫へと向かいながら、アランは部隊の仕組みを教える。
「冒険者には誰にもなれるけど、部隊は試験を合格しないと入れないし作れない。部隊は部隊で受けれる依頼も違ってくる。もっと大きな依頼が舞い込んでくるのは、結成してから数年後……それか、アリーナ大会で優勝するか、だな」
「……ん? アリーナってあのアリーナだろ? 優勝するだけでいいのか?」
「そんな単純じゃないぞ。普段開催しているアリーナは個人だが、不定期で部隊で参加するアリーナバトルがあるんだ。そっちで優勝出来たら……って話だな」
「二人とも、『英知の書庫』が見えてきたわよ」
ほらとレベッカが指す先──ドーム型の屋根に古びた窓が並ぶ建物『英知の書庫』が三人の目に映る。
人が行き交う合間を縫い、書庫の中へ。吹き抜けの天井、色とりどりに彩られたステンドグラス、まるで物語の一部が飛び出てきた幻想的な空間に、凄いと思わず声を漏らす。
「第14小隊の方ですか。」
初めての場所に本来の目的を忘れそうになっていると、凛とした声が耳に届く。
声の方向に体を向けると、パステルイエローの髪に角帽、ブラウンのコートを羽織り、赤い縁の眼鏡を掛けた女性が立っていた。
「そ、そうです」
「はじめまして。私はここ『英知の書庫』の管理人リベリアと申します。今回は依頼を受けていただき、ありがとうございます」
「来ていただいたばかりで申し訳ありませんが、時間も惜しいので早速取り掛かっていただきます」と三人をリベリア達関係者のみ入れる地下へ案内する。
「こちらです」
辿り着いた広間には幾つもの本の山が。地上の華やかさとは真逆の雰囲気に、声には出さなかったがうげ……と気持ちが沈む。
「ここにある本を、それぞれジャンルごとに振り分けるのが仕事となります。あちらの方にジャンル別に置いていただければ大丈夫ですので」
リベリアの宜しくお願いしますの一言を合図に三人はそれぞれ別行動に移る。リベリアは既にジャンル別に振り分けられた本の背表紙を確認し、記録している。
「レベッカ、運ぶのはオレがやるよ」
「ありがとう。でもワタシ、腕力は強い方だから気にしないで」
と言いながら片手で本の山を持ち上げるレベッカに、アランはそ、そうか……と苦笑い。
一方でブレイドは、本のタイトルや内容を見ながらジャンルに振り分けていく作業に苦戦していた。
「『狂おしき愛の叫び』は随筆……『大陸ガイド』はこっち……『淵源樹の妖精王』と『天華の庭園と眠り姫』はホラーっと……」
「ホラーでは無くファンタジーです」
「うおっ‼︎」
地に座るブレイドの後ろからリベリアが指摘する。盛大に肩を跳ね上がらせ驚くブレイドに、やれやれと言いたそうに頭に手を添える。
「どこをどう解釈したらホラーになるのですか……」
「しょ、しょうがないだろ……じゃない、です。知らないんです」
「……知らない? 『淵源樹の妖精王』はともかく『天華の庭園と眠り姫』を?」
戸惑いながらも頷くと、リベリアの黒い背景に雷が落ちる。
「なんですって……⁉︎ 『天華の庭園と眠り姫』は一般常識中の常識。これを機に読んでください!」
「いや、でも俺読むの苦手だし……どんな内容なんですか?」
「仕方ありませんね。では少しだけ……っ……」
「……?」
リベリアの表情が驚いたまま固まる。かと思えば直ぐに冷たいものに変わり、早く続けなさいと言い捨て持ち場に戻る。
「何なんだ……」
ストレスでも溜まってるのかと軽く考え、ブレイドは手を動かす。
「本日はお疲れ様でした。また宜しくお願いします」
──夕方。本の整理があらかた終わるとリベリアからここまでで平気ですと告げられ、無事依頼達成となった。リベリアと書庫の前で別れ、そのまま食堂へと足を向ける。
「疲れたぁ……戦いよりも疲れた気がするわ……」
「同感だな。ジャンル分けって難しいよな」
「腹減った……今日は腹一杯食べてやる」
何とか初依頼が達成でき、安堵しながらその夜はすぐに眠りに落ちていった。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
RRRRRRR
「ななな何だッ⁉︎」
翌朝。部屋中に鳴り響く音に飛び起きたブレイド。
ブレイドより先に起きていたアランは立ったまま、本部から支給されたエレパッドに目を向けていた。音の発信源はどうやらそこかららしい。
「おい!」
「本部からの連絡だ……少し静かにしてろ」
ピッと通話に出ると。
『こらあああああああああ‼︎‼︎』
先程の通知音とは比にならない程の声量に、一瞬だけアランの意識が途切れかけるも何とか繋ぐ。
ブレイドも耳を塞ぎ、音に気付いてやって来たレベッカが困惑する。
『第14小隊ッ‼︎ キミ達、なんてことをしてくれたのさ‼︎』
怒られる理由が分からず、互いに顔を見合わせる。
『とにかくッ‼︎ 今すぐに「英知の書庫」に向かうこと! イイね⁉︎』
ブチッと音と共に通話が終了する。しばらく呆然としていた三人だったが、我に返り、急いで支度を済ませ、書庫へと走る。
「……来ましたか」
静謐の中で佇むリベリア。
書庫の入り口で待っていたリベリアからの視線は冷たく、思わず怯んでしまいそうになる。
「昨晩。貴方達に案内した地下の保管室から禁書が一冊消えました」
「禁書……?」
「ええ。あらゆる世界の過去、未来が記された本……貴方が手にした『淵源樹の妖精王』もその一つ」
リベリアから疑いの眼差しが向けられる。それに「待ってください!」とレベッカが叫んだ。
「ワタシ達、禁書なんて盗ってないです!」
「口先だけなら何とでも言えます。……盗人 よ」
「っ……」
怒りの矛先がレベッカに向いていることに気づき、視線がレベッカに向けられる。
「貴女が昨晩、この辺を彷徨いていたという証言もあるのですが、何をしていたのですか」
「そ、それは……」
リベリアから顔を逸らし、俯くレベッカ。
やっぱりとリベリアは天に片手を翳すと、魔法陣が現れ、一冊の魔本を召喚する。
攻撃の気配を察し、アランが叫ぶ。
「リベリアさん! 何をするつもりですかっ!」
「言えないと言うなら……言わせるだけ!」
魔本のページを開き、三人に向けて手を振りかざす。
「うっ……!」
「ぐッ……!」
リベリアが生み出した強靭な風がアランとブレイドを襲う。二人の体は風に耐えきれずに大きく吹き飛ばされ、地面に強い衝撃と共に落下する。
「アラン! ブレイド!」
「貴女が昨晩何をしていたのか答えれば、貴女に対する疑いだって晴れると言うのに」
ハッとするレベッカだったが、その口から真実が語られることはない。
「……あくまで語るつもりはないのですね。仕方ありません。貴女が吐くまで、捕らえさせていただきます」
レベッカがその意味を理解する前にリベリアは意識を奪うと、力無く倒れるレベッカの体を魔力で浮かせ、丸い結界の中へ閉じ込める。
そのまま踵を返し、書庫へと戻るリベリアだったが、背後から小さく声が聞こえ、足を止める。
「そう易々と……やられてたまるかよ……!」
「待てブレイド!」
帯刀していた刀を抜くと同時に地を蹴り、覇気と共にリベリアの元へ。
リベリアは眉を顰めると手を振り払い、幾つもの魔本を召喚。開かれたページに刻まれた陣が浮かび上がり、リベリアの盾となるように浮かび上がる。
「邪魔だ! ──【夢幻残影剣】!」
木のエレメントで強化された一閃が陣ごと魔本を真っ二つに斬り裂く。粉々に砕け散る破片を抜け、地を踏み締める。
「無駄です」
パチンッと指を鳴らす音が聞こえ、視界の端に光を捉える。
その光は瞬時に視界全体を埋め、体全身に激痛と爆風が襲いかかる。
「ぐああああああああーーッ‼︎‼︎」
砕け散った魔法陣の欠片が爆ぜ、他の欠片にも引火し大爆発を引き起こす。
防御も何も出来ないままブレイドの体は投げ出され地に転がり、遅れて刀が近くに突き刺さる。
「おいブレイド! しっかりしろ!」
アランはブレイドに駆け寄り体を揺するも、ブレイドの瞳は硬く閉ざされている。服の至る箇所が焦げている様子からその威力が窺えた。
リベリアは再び魔本に手を翳すと、魔力を解放する。アランも剣を抜くと、リベリアの行動に目を光らせる。
「【クリエイトライブラリ】」
自身とブレイドに降り注ぐ光粒。しまったとアランは防御を取るも、光粒は予想とは違い、アランとブレイドの体を癒していく。
「今すぐ立ち去りなさい。この者が傷つくのを見たくなければ」
「くっ……」
手負いのブレイドを連れて戦うのは不可能。一度体制を整えた方が良いと判断したアランは、苦渋の決断を下し、ブレイドを背負って『英知の書庫』を後にした。
はじまりの地、ミラージュ・タワー。
今日も多くの冒険者達で賑わう広間を通り過ぎた先、受付に並ぶ三人の姿があった。
「はいっ! これがキミ達の初任務だよ〜!」
一枚の紙を受け取り、目を通していく。
「しばらくの間はボク達が依頼を選別して持ってくるから、新人サン達は与えられた依頼をこなす事を目標にして頑張ってね!」
「分かりました」
依頼の種類は主に二つある。
一つ目は、ミラージュ・タワーの審査が入る正式なもの。審査が入る事により、自身の身の丈に合った依頼を受けやすくなり、回数を重ねる事で名誉にも繋がる。依頼は塔内にある掲示板に貼り付けられていたり、先程のように係人から直接渡されたりもする。
二つ目は、ミラージュ・タワー非公認の依頼。こちらは依頼人が冒険者個別にアポをとり、審査無しでも依頼を出せるもの。審査に通しては不味いものや、審査に掛かる時間を短縮したい人から出される事が多い。依頼内容が高度な場合が殆どだが、その分破格の報酬を得る事が出来る。
三人のように結成してから日が浅い部隊は原則として正式な依頼を受けることになっている。
受付から離れ、他の冒険者と当たらない場所で依頼を確認する。
「『英知の書庫』の管理人……リベリアさん⁉︎」
「有名なのか?」
「『英知の書庫』には大陸で発行された本が全部置いてあるからな。これによると……依頼内容は本の整理か」
なんだ、雑用かと肩透かしを食らったように息を吐くブレイドに仕方ねぇよと苦笑い。
「まだ小さいし、有名じゃないからな。……とりあえず行くか」
『ミラージュ・タワー』から書庫へと向かいながら、アランは部隊の仕組みを教える。
「冒険者には誰にもなれるけど、部隊は試験を合格しないと入れないし作れない。部隊は部隊で受けれる依頼も違ってくる。もっと大きな依頼が舞い込んでくるのは、結成してから数年後……それか、アリーナ大会で優勝するか、だな」
「……ん? アリーナってあのアリーナだろ? 優勝するだけでいいのか?」
「そんな単純じゃないぞ。普段開催しているアリーナは個人だが、不定期で部隊で参加するアリーナバトルがあるんだ。そっちで優勝出来たら……って話だな」
「二人とも、『英知の書庫』が見えてきたわよ」
ほらとレベッカが指す先──ドーム型の屋根に古びた窓が並ぶ建物『英知の書庫』が三人の目に映る。
人が行き交う合間を縫い、書庫の中へ。吹き抜けの天井、色とりどりに彩られたステンドグラス、まるで物語の一部が飛び出てきた幻想的な空間に、凄いと思わず声を漏らす。
「第14小隊の方ですか。」
初めての場所に本来の目的を忘れそうになっていると、凛とした声が耳に届く。
声の方向に体を向けると、パステルイエローの髪に角帽、ブラウンのコートを羽織り、赤い縁の眼鏡を掛けた女性が立っていた。
「そ、そうです」
「はじめまして。私はここ『英知の書庫』の管理人リベリアと申します。今回は依頼を受けていただき、ありがとうございます」
「来ていただいたばかりで申し訳ありませんが、時間も惜しいので早速取り掛かっていただきます」と三人をリベリア達関係者のみ入れる地下へ案内する。
「こちらです」
辿り着いた広間には幾つもの本の山が。地上の華やかさとは真逆の雰囲気に、声には出さなかったがうげ……と気持ちが沈む。
「ここにある本を、それぞれジャンルごとに振り分けるのが仕事となります。あちらの方にジャンル別に置いていただければ大丈夫ですので」
リベリアの宜しくお願いしますの一言を合図に三人はそれぞれ別行動に移る。リベリアは既にジャンル別に振り分けられた本の背表紙を確認し、記録している。
「レベッカ、運ぶのはオレがやるよ」
「ありがとう。でもワタシ、腕力は強い方だから気にしないで」
と言いながら片手で本の山を持ち上げるレベッカに、アランはそ、そうか……と苦笑い。
一方でブレイドは、本のタイトルや内容を見ながらジャンルに振り分けていく作業に苦戦していた。
「『狂おしき愛の叫び』は随筆……『大陸ガイド』はこっち……『淵源樹の妖精王』と『天華の庭園と眠り姫』はホラーっと……」
「ホラーでは無くファンタジーです」
「うおっ‼︎」
地に座るブレイドの後ろからリベリアが指摘する。盛大に肩を跳ね上がらせ驚くブレイドに、やれやれと言いたそうに頭に手を添える。
「どこをどう解釈したらホラーになるのですか……」
「しょ、しょうがないだろ……じゃない、です。知らないんです」
「……知らない? 『淵源樹の妖精王』はともかく『天華の庭園と眠り姫』を?」
戸惑いながらも頷くと、リベリアの黒い背景に雷が落ちる。
「なんですって……⁉︎ 『天華の庭園と眠り姫』は一般常識中の常識。これを機に読んでください!」
「いや、でも俺読むの苦手だし……どんな内容なんですか?」
「仕方ありませんね。では少しだけ……っ……」
「……?」
リベリアの表情が驚いたまま固まる。かと思えば直ぐに冷たいものに変わり、早く続けなさいと言い捨て持ち場に戻る。
「何なんだ……」
ストレスでも溜まってるのかと軽く考え、ブレイドは手を動かす。
「本日はお疲れ様でした。また宜しくお願いします」
──夕方。本の整理があらかた終わるとリベリアからここまでで平気ですと告げられ、無事依頼達成となった。リベリアと書庫の前で別れ、そのまま食堂へと足を向ける。
「疲れたぁ……戦いよりも疲れた気がするわ……」
「同感だな。ジャンル分けって難しいよな」
「腹減った……今日は腹一杯食べてやる」
何とか初依頼が達成でき、安堵しながらその夜はすぐに眠りに落ちていった。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
RRRRRRR
「ななな何だッ⁉︎」
翌朝。部屋中に鳴り響く音に飛び起きたブレイド。
ブレイドより先に起きていたアランは立ったまま、本部から支給されたエレパッドに目を向けていた。音の発信源はどうやらそこかららしい。
「おい!」
「本部からの連絡だ……少し静かにしてろ」
ピッと通話に出ると。
『こらあああああああああ‼︎‼︎』
先程の通知音とは比にならない程の声量に、一瞬だけアランの意識が途切れかけるも何とか繋ぐ。
ブレイドも耳を塞ぎ、音に気付いてやって来たレベッカが困惑する。
『第14小隊ッ‼︎ キミ達、なんてことをしてくれたのさ‼︎』
怒られる理由が分からず、互いに顔を見合わせる。
『とにかくッ‼︎ 今すぐに「英知の書庫」に向かうこと! イイね⁉︎』
ブチッと音と共に通話が終了する。しばらく呆然としていた三人だったが、我に返り、急いで支度を済ませ、書庫へと走る。
「……来ましたか」
静謐の中で佇むリベリア。
書庫の入り口で待っていたリベリアからの視線は冷たく、思わず怯んでしまいそうになる。
「昨晩。貴方達に案内した地下の保管室から禁書が一冊消えました」
「禁書……?」
「ええ。あらゆる世界の過去、未来が記された本……貴方が手にした『淵源樹の妖精王』もその一つ」
リベリアから疑いの眼差しが向けられる。それに「待ってください!」とレベッカが叫んだ。
「ワタシ達、禁書なんて盗ってないです!」
「口先だけなら何とでも言えます。……
「っ……」
怒りの矛先がレベッカに向いていることに気づき、視線がレベッカに向けられる。
「貴女が昨晩、この辺を彷徨いていたという証言もあるのですが、何をしていたのですか」
「そ、それは……」
リベリアから顔を逸らし、俯くレベッカ。
やっぱりとリベリアは天に片手を翳すと、魔法陣が現れ、一冊の魔本を召喚する。
攻撃の気配を察し、アランが叫ぶ。
「リベリアさん! 何をするつもりですかっ!」
「言えないと言うなら……言わせるだけ!」
魔本のページを開き、三人に向けて手を振りかざす。
「うっ……!」
「ぐッ……!」
リベリアが生み出した強靭な風がアランとブレイドを襲う。二人の体は風に耐えきれずに大きく吹き飛ばされ、地面に強い衝撃と共に落下する。
「アラン! ブレイド!」
「貴女が昨晩何をしていたのか答えれば、貴女に対する疑いだって晴れると言うのに」
ハッとするレベッカだったが、その口から真実が語られることはない。
「……あくまで語るつもりはないのですね。仕方ありません。貴女が吐くまで、捕らえさせていただきます」
レベッカがその意味を理解する前にリベリアは意識を奪うと、力無く倒れるレベッカの体を魔力で浮かせ、丸い結界の中へ閉じ込める。
そのまま踵を返し、書庫へと戻るリベリアだったが、背後から小さく声が聞こえ、足を止める。
「そう易々と……やられてたまるかよ……!」
「待てブレイド!」
帯刀していた刀を抜くと同時に地を蹴り、覇気と共にリベリアの元へ。
リベリアは眉を顰めると手を振り払い、幾つもの魔本を召喚。開かれたページに刻まれた陣が浮かび上がり、リベリアの盾となるように浮かび上がる。
「邪魔だ! ──【夢幻残影剣】!」
木のエレメントで強化された一閃が陣ごと魔本を真っ二つに斬り裂く。粉々に砕け散る破片を抜け、地を踏み締める。
「無駄です」
パチンッと指を鳴らす音が聞こえ、視界の端に光を捉える。
その光は瞬時に視界全体を埋め、体全身に激痛と爆風が襲いかかる。
「ぐああああああああーーッ‼︎‼︎」
砕け散った魔法陣の欠片が爆ぜ、他の欠片にも引火し大爆発を引き起こす。
防御も何も出来ないままブレイドの体は投げ出され地に転がり、遅れて刀が近くに突き刺さる。
「おいブレイド! しっかりしろ!」
アランはブレイドに駆け寄り体を揺するも、ブレイドの瞳は硬く閉ざされている。服の至る箇所が焦げている様子からその威力が窺えた。
リベリアは再び魔本に手を翳すと、魔力を解放する。アランも剣を抜くと、リベリアの行動に目を光らせる。
「【クリエイトライブラリ】」
自身とブレイドに降り注ぐ光粒。しまったとアランは防御を取るも、光粒は予想とは違い、アランとブレイドの体を癒していく。
「今すぐ立ち去りなさい。この者が傷つくのを見たくなければ」
「くっ……」
手負いのブレイドを連れて戦うのは不可能。一度体制を整えた方が良いと判断したアランは、苦渋の決断を下し、ブレイドを背負って『英知の書庫』を後にした。