Five Elemental Story
4話 Past stroy of Blade
──それは、今から数年前に遡る……。
エレメンタル大陸、森林の地。
木のエレメントが土に宿るその地は、植物が育ちやすい事から由来している。
人の手も必要最低限しか加えられておらず、自然に囲まれながら日々を過ごしていく。
そんな森の中を──小さな二つの影が駆けていく。
子供達は森の拓けた場所に建つ塔に近づくと、窓から中をこっそりと覗いた。
『ーーーーーーーーーーーー』
塔の中で行われている儀式。それは生まれ持つエレメントの種類を鑑定するもの、“識別の儀”と呼ばれている。
今まさに、木のエレメントの結晶が子供の中に溶け込んでは見えなくなった。
その様子に目を奪われていた二人だったが、儀式が終わったことに気づき、こっそりと塔から離れ、草むらに身を潜めた。
「ねえねえ、お兄ちゃん。わたし達の体にも、あんな風に木のエレメントが入っていくのかなぁ?」
声を抑えながら、少女がもう一人の少年に話しかける。少女の兄は「あたりまえだろ」とこれまたヒソヒソと答えた。
「そうだといいな……。わたし、かみの毛へんな色だから……もしかしてちがうんじゃないかって思うの」
「“エレメントは生まれた大陸によって左右される”。って、おとな達も言ってた。おれ達は森林の地で生まれたんだ。木のエレメントだよ」
少年は妹の髪を優しく撫でると、少女はえへへと笑顔になる。
「もしも……木のエレメントじゃなかったとしても、だ。おれ達はずっと一緒さ」
「ずっと……?」
「ああ。」
「じゃあ、ゆびきりげんまんしよっ」
「もちろん」
「「ゆーびきりげんまーんうそついたらはりせんぼんのーばすっ、ゆびきった!」」
少年と少女の笑い声が辺りに響き渡る。
直後、大人達に見つかり、二人はしぶしぶ家へと帰った。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
そして月日は流れ──。
ついに二人は、“識別の儀”を受けた。
少年は木のエレメントを、少女は……。
この地では発生しないはずの、闇のエレメントを持っていた。
儀式の最中でありながらも、少年は少女とその場で引き離され、少年は大人達に囲まれた。
「どうしてヴァニラと一緒に居させてくれないんだ!」
「いいかい、ブレイド。ヴァニラは僕等とは違うエレメントを持っていた。それは、この地に悪い影響を与えるんだ」
「わる、い……? ヴァニラが……?」
「違う、ヴァニラが悪いわけじゃないんだ。ただ、この地に対応しないエレメントを持つと、みんなにも、ヴァニラ自身にも悪い影響が出る。だから……」
紡がれた言葉に、ブレイドの頭は真っ白になる。
先程の光景が脳裏に蘇る。今にも泣きそうな妹、ヴァニラ。たった一人の家族と引き離される。それだけは許せなかった。
「ヴァニラ!」
「──ダメだ! ブレイド!」
「はなせっ、はなせよぉ‼︎」
ヴァニラの元に向かおうと走り出すブレイドを二人がかりで取り押さえる。その力の差は歴然。振り解くこともできず、ブレイドは地下に作られた牢の中に入れられてしまった。
「ここで大人しくしてろ。落ち着いたらまた来るからな」
「いやだ! お願いだから妹を……ヴァニラを連れて行かないでくれ!」
悲痛な叫びも届かず。誰もいなくなった地下牢に、幼子の泣き声だけが響いていた。
一夜明け。ブレイドは地下牢から出された。
真っ先に自分の元に来るはずの妹の姿は無く。沢山の大人達から口々にかけられる慰めの言葉。
ブレイドからは人の姿をした悪魔にしか見えなくなっていた。
瞳から光が消え、大人達から離れるように森の中で一人うずくまる。
やがて、ブレイドの心情を表したかのように雨雲が空を覆い、冷たい雨が降り注ぐ。
「……」
そんなブレイドの隣に、一人の少女が何も言わずに座る。
少女は自身が持ってきた傘の半分をブレイドの側に寄せ、ただ真っ直ぐと前を見ていた。
「……ごめんなさい。わたし……こわくて……何も、できなかった……」
「……ミリアムのせいじゃない」
ブレイドは俯いたまま、そう答えてはより強く己を抱きしめた。
「……でも……ブレイドのせいでもないわ。ヴァニラのせいでもない……」
「……ミリアム。おれ……ろうやの中で、ずっと考えてたんだ」
「うん……」とミリアムはブレイドの言葉に耳を傾けた。
「……強くなりたい。
強くなって、ヴァニラを迎えに行きたい……! 約束したんだ、ヴァニラと……『ずっと一緒に居る』って。だから……」
強くなりたいっ……!
自分の無力さ、そして世界の闇を知った。
そう言った後に小さく嗚咽するブレイドに、ミリアムは拳を強く握りしめた。自分だけは、泣いてはいけないと。
「わたしも……一緒に強くなるっ……!」
「ミリアム……」
「ヴァニラもブレイドも……わたしにとっては大切な人。想いは一緒だから……!」
ブレイドは涙でぐしゃぐしゃになりながらも、ミリアムの方に顔を向け、ありがとうと口にした。
──その日、大人達の監視下からひっそりと抜け出した二人は、人里離れた地で野宿しながら剣の腕を磨き続けた。
必ず、あの子を迎えにいくために。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「……。」
風に揺れる一房の髪。
アメジストのような瞳に眼下に広がる街の風景が映る。
「……いいのか? 部屋に戻らなくて。場所は知っているのだろ?」
屋上の縁に座る人物。その後ろから、灰色の髪を持つ男が問いかける。
「別にいい。アッシュといたいから」
「……そうか」
「次は何をするの?」と訊ねられ、アッシュと呼ばれた男はある建物に目をつけると。
「『究極融合の書』を手に入れる」
建物の中から、怪しげな光が漏れ出した。
──それは、今から数年前に遡る……。
エレメンタル大陸、森林の地。
木のエレメントが土に宿るその地は、植物が育ちやすい事から由来している。
人の手も必要最低限しか加えられておらず、自然に囲まれながら日々を過ごしていく。
そんな森の中を──小さな二つの影が駆けていく。
子供達は森の拓けた場所に建つ塔に近づくと、窓から中をこっそりと覗いた。
『ーーーーーーーーーーーー』
塔の中で行われている儀式。それは生まれ持つエレメントの種類を鑑定するもの、“識別の儀”と呼ばれている。
今まさに、木のエレメントの結晶が子供の中に溶け込んでは見えなくなった。
その様子に目を奪われていた二人だったが、儀式が終わったことに気づき、こっそりと塔から離れ、草むらに身を潜めた。
「ねえねえ、お兄ちゃん。わたし達の体にも、あんな風に木のエレメントが入っていくのかなぁ?」
声を抑えながら、少女がもう一人の少年に話しかける。少女の兄は「あたりまえだろ」とこれまたヒソヒソと答えた。
「そうだといいな……。わたし、かみの毛へんな色だから……もしかしてちがうんじゃないかって思うの」
「“エレメントは生まれた大陸によって左右される”。って、おとな達も言ってた。おれ達は森林の地で生まれたんだ。木のエレメントだよ」
少年は妹の髪を優しく撫でると、少女はえへへと笑顔になる。
「もしも……木のエレメントじゃなかったとしても、だ。おれ達はずっと一緒さ」
「ずっと……?」
「ああ。」
「じゃあ、ゆびきりげんまんしよっ」
「もちろん」
「「ゆーびきりげんまーんうそついたらはりせんぼんのーばすっ、ゆびきった!」」
少年と少女の笑い声が辺りに響き渡る。
直後、大人達に見つかり、二人はしぶしぶ家へと帰った。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
そして月日は流れ──。
ついに二人は、“識別の儀”を受けた。
少年は木のエレメントを、少女は……。
この地では発生しないはずの、闇のエレメントを持っていた。
儀式の最中でありながらも、少年は少女とその場で引き離され、少年は大人達に囲まれた。
「どうしてヴァニラと一緒に居させてくれないんだ!」
「いいかい、ブレイド。ヴァニラは僕等とは違うエレメントを持っていた。それは、この地に悪い影響を与えるんだ」
「わる、い……? ヴァニラが……?」
「違う、ヴァニラが悪いわけじゃないんだ。ただ、この地に対応しないエレメントを持つと、みんなにも、ヴァニラ自身にも悪い影響が出る。だから……」
紡がれた言葉に、ブレイドの頭は真っ白になる。
先程の光景が脳裏に蘇る。今にも泣きそうな妹、ヴァニラ。たった一人の家族と引き離される。それだけは許せなかった。
「ヴァニラ!」
「──ダメだ! ブレイド!」
「はなせっ、はなせよぉ‼︎」
ヴァニラの元に向かおうと走り出すブレイドを二人がかりで取り押さえる。その力の差は歴然。振り解くこともできず、ブレイドは地下に作られた牢の中に入れられてしまった。
「ここで大人しくしてろ。落ち着いたらまた来るからな」
「いやだ! お願いだから妹を……ヴァニラを連れて行かないでくれ!」
悲痛な叫びも届かず。誰もいなくなった地下牢に、幼子の泣き声だけが響いていた。
一夜明け。ブレイドは地下牢から出された。
真っ先に自分の元に来るはずの妹の姿は無く。沢山の大人達から口々にかけられる慰めの言葉。
ブレイドからは人の姿をした悪魔にしか見えなくなっていた。
瞳から光が消え、大人達から離れるように森の中で一人うずくまる。
やがて、ブレイドの心情を表したかのように雨雲が空を覆い、冷たい雨が降り注ぐ。
「……」
そんなブレイドの隣に、一人の少女が何も言わずに座る。
少女は自身が持ってきた傘の半分をブレイドの側に寄せ、ただ真っ直ぐと前を見ていた。
「……ごめんなさい。わたし……こわくて……何も、できなかった……」
「……ミリアムのせいじゃない」
ブレイドは俯いたまま、そう答えてはより強く己を抱きしめた。
「……でも……ブレイドのせいでもないわ。ヴァニラのせいでもない……」
「……ミリアム。おれ……ろうやの中で、ずっと考えてたんだ」
「うん……」とミリアムはブレイドの言葉に耳を傾けた。
「……強くなりたい。
強くなって、ヴァニラを迎えに行きたい……! 約束したんだ、ヴァニラと……『ずっと一緒に居る』って。だから……」
強くなりたいっ……!
自分の無力さ、そして世界の闇を知った。
そう言った後に小さく嗚咽するブレイドに、ミリアムは拳を強く握りしめた。自分だけは、泣いてはいけないと。
「わたしも……一緒に強くなるっ……!」
「ミリアム……」
「ヴァニラもブレイドも……わたしにとっては大切な人。想いは一緒だから……!」
ブレイドは涙でぐしゃぐしゃになりながらも、ミリアムの方に顔を向け、ありがとうと口にした。
──その日、大人達の監視下からひっそりと抜け出した二人は、人里離れた地で野宿しながら剣の腕を磨き続けた。
必ず、あの子を迎えにいくために。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「……。」
風に揺れる一房の髪。
アメジストのような瞳に眼下に広がる街の風景が映る。
「……いいのか? 部屋に戻らなくて。場所は知っているのだろ?」
屋上の縁に座る人物。その後ろから、灰色の髪を持つ男が問いかける。
「別にいい。アッシュといたいから」
「……そうか」
「次は何をするの?」と訊ねられ、アッシュと呼ばれた男はある建物に目をつけると。
「『究極融合の書』を手に入れる」
建物の中から、怪しげな光が漏れ出した。