Five Elemental Story
最終話 五人の勇者が紡ぐ未来
10人全員の治療が完了し、表彰式が執り行われた。
『前へ』
「ハイ」
特設ステージにて。五人の中心に立つアランに、優勝トロフィーが白獅子王から授与される。拍手とシャッター音が鳴り響く中、様々な想いが籠ったそれを手にする。
『続きまして──』
トロフィー授与が終わると、いよいよ彼らによるスピードとなった。係員からマイクを受け取ったヴァニラがブレイドに渡そうとするも。
「は、始めに誰か挨拶してくれ……俺そういうの苦手だから……」
「確かに得意には見えないな。レベッ」
「アラン、ワタシがトロフィー持っているから始めだけ挨拶して? 得意でしょ?」
「得意じゃないけど……わかったよ」
「助かる」
トロフィーをレベッカに渡し、マイクを受け取る。
一言二言挨拶をした後、アランはブレイドにバトンタッチした。
「思ってること、全部言えよ?」
「ああ。ありがとな」
短く交わし、ブレイドは一歩前へ。
すぅっと深呼吸を一つ。
「……突然ですが、この場を借りて伝えたい事があります」
しんと会場が静まり返る。
数え切れないほどの視線を受けながら、真っ直ぐとした瞳を。
「この大陸では、未だにエレメントによる差別があります。俺の妹も、違うエレメントだと識別されて住んでいた場所を追われました」
どよめくような声は聞こえなかった。
誰もがじっと、ブレイドの話に耳を傾ける。
「今はこうして妹と共に居ることが出来る。けどそれは運が良かっただけ。きっと、こうしている間にも同じ事が起きている筈……」
でも、
「でも知って欲しいんだ。俺達がこの大会で証明したように、有利不利の壁を超えて一つになれる事を。違うエレメントだからって、周囲に影響は無いって事を!」
後半に連れて声が大きくなる。ブレイドは今一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、紡ぐ。
「そう言われ始めたのは理由があると思う。それを蹴ってまで押し通すつもりは無い……だが考えて欲しい。追い出される方の気持ちを少しでも。そして……差し伸べられるなら、手を差し伸べて欲しい……」
震える肩に、温かい手が触れる。
ありがとう、と小さく呟く。
「少しずつでいい……。今ここから、属性の差別がこの大陸から無くなる事を。ただ願ってます」
訪れる静寂に、誰かの拍手がパチパチと響く。
それを引き金にまた一人、二人と連鎖していき……会場を包み込むほどの喝采を送られた。
──のちに、この出来事は“変革のはじまり”と謳われ、彼らもまた先導者と呼ばれるようになる。
しかしこの時の彼らは、そんな風になるとは微塵も思っていないのだろう。
拍手喝采の中、五人は互いの手を繋いだ。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
表彰式を無事に終えた五人が案内されたのは、最上階にある空間。風が吹き抜け、光に満ち溢れた空間に、聞き慣れた声が響く。
「これより、命名式を執り行う。『第14小隊』の諸君。我らの前へ」
待っていたのは五戦神並びにモルスの五人。言われるまま五人は各々が宿すエレメントと同じモルスの前に並ぶ。
「始める前に……質問があれば受けつけよう」
「はい」
挙手したヴァニラは例の如く。
「命名式ってなんですか?」
言うと思った……、と何人思っただろうか。
「貴様は一体何を学んだのだアッシュ から」
「金銭教育と食育は完璧だぞ」
「だからヴァニラって好き嫌いないのね……」
「うん。ほかには……」
「後にしろ」
咳払いを一つ。
「命名式とは本来出生児に対して行うものじゃが、そなたら冒険者にとっては通り名を与えられる儀式のことじゃ」
ミラクロアの解説にえっと声を洩らす四人。
「部隊名ではないのですか?」
「そっちもやるよ〜。でも先に二つ名の方かな?」
「この一週間、考えに考え抜いて出した名前なんだぜ?」
「そうだな。ではそろそろ始めるとしよう」
アルタリアの一言で、五人の間に緊張が走る。
「……ヴァニラ」
「はい」
「貴様はこの大陸で蠢く闇の被害者であり、同時に加害者でもある。今なお、闇を望む己には月の光ですら差し込む事はないだろう。だが、影に潜む者だからこそ理解出来る事はあるだろう。己の言霊に心震える者もいよう。……彼 の者がそうであったように。
我、“黒魔王”ジェダル・モルスの名のもとに与えし名は……『月影の勇者』。月影と共に在れ、ヴァニラ」
「……ありがとうございます。ジェダル様」
「ベルタ」
「は、はいっ」
「わらわは、そなたと初めて出会った日のことを、遠く離れた情景を必死に掴もうとしていたあの頃を、よく覚えておる。それから、そなたは信じる者と共に歩んできた。例え何度深き底へ落とされようとも、這い上がるその意志は決して溶けることはなく、その存在を保つ氷河のようじゃ。
我、“蒼氷王“ミラクロア・モルスの名のもとに与えし名は……『氷河の勇者』。これからも、その心を忘れぬようにするのじゃぞ。ベルタ」
「はい。ありがとうございます、ミラクロア様」
「レベッカ」
「ハイ」
「初めて会ったとき……正直最悪だったよな? オレのせいで長く苦しめてしまったのに、テメーは責めもしなかったな。……その熱い想いは道を切り拓くための炎となって障害を焼き尽くし、仲間を照らす炎だ。それはマグマよりも熱い灼熱となるだろうよ。
我、“赤炎王”アンガ・モルスの名のもとに与えし名は……『灼熱の勇者』。テメーの想いは熱すぎて火傷しそうになるぜ? レベッカ」
「フフッ。ありがとうございます、アンガ様」
「ブレイド」
「ああ」
「さっきのスピーチとても良かったよ。キミが言った通り、きっとこの大陸は変わっていく。ブレイドが放った言葉は、多くの人達の心を動かすきっかけとなった。これからも、キミの言葉は風となって誰かの心の中で息吹く。その人が前へ進めるように、背中を押す疾風となって。
我、“緑狼王”ハルドラ・モルスの名のもとに与えし名は……『疾風の勇者』。今のキミにぴったりじゃない? ブレイド」
「ああ。……ありがとな、ハルドラ」
「アラン」
「ハイ」
「“あの日”から今日まで……汝は努力を怠らず、ただ真っ直ぐと己が道を進んで来た。学んだことを全て生かし、自分と仲間の為に剣を振るう。そんな汝の光り輝く意志は翼となり、この青く澄み渡る天空へどこまでも高く飛ぶことも出来よう。
我、“白獅子王”アルタリア・モルスの名のもとに与えし名は……『天空の勇者』。……大きくなったな、アラン」
「っ……ありがとうございます、アルタリア様」
一人一人の異名が告げられ、続けて部隊名に移る。
「モルスを代表し、我アルタリアが『第14小隊』に与えし新たな名を告げん。
本日をもって、『第14小隊』は
『戦神 の勇者隊』と改名する。
我ら五戦神と関わりが深い汝らを象徴するに相応しい名だと思う。この名に恥じぬよう、これからも精進するように」
はい、と五人の声が揃う。
「では以上をもって命名式を終わ──」
「ブレイドーー!」
「ぐほっ」
「最後まで待て、ハルドラ」
抱き付きという名のタックルを受け、大きく仰反るも何とか耐える。
「お、おい……」
「良かったね」
改めて言われ、ブレイドはそっと目を伏せた。
「それで……これからどうするつもりなの?」
少し離れたハルドラに訊かれ、ブレイドはアランを見遣る。
「もう決めているんだよな」
「ああ。……俺、少しの間部隊を離れて旅に出ようと思ってる」
どこか寂しげに答えるブレイドだったが、そこに迷いはなかった。
「い……いつから行くつもりなんだ……?」
「準備が出来たらだな。ここ一週間忙しくて何も出来なかったし」
「そ、そうか……」
驚きが隠せないといった様子に、ブレイドは少し視線を落とす。
「……悪い。勝手に決めて……」
一歩二歩と近付いたベルタは、その頭に手刀を入れた。
「いっ……何すんだよ!」
「貴様が謝るとは思わなかったからな。ついうっかり」
「は!?」
半ギレするブレイドを、今度はレベッカがまあまあと嗜めながら。
「帰ってくるのでしょう?」
「当たり前だ」
その返しに、レベッカは安堵したように微笑んだあと。
「あんまり遅いと、アランがヴァニラと付き合っちゃうかもよ?」
「「は!?」」「声デカ」
「オレを巻き込むなレベッカ!!」
「……誠か」
「ちょっ……違いますよジェダル様!」
「許さねぇぞアラン……お前……いつの間に披露宴会場の予約したんだよ!!」
「してねえし! 飛躍し過ぎだろ!!」
「何故そうなる」
「そ、そうなのかアラン……」
「アルタリア様まで……」
一瞬にして修羅場と化した光景に、やっちゃったとレベッカ空笑い。ヴァニラはブレイドの側により、服の裾を掴む。
「……ねぇ」
「どうしたんだよ。ヴァニラ」
「ずっと待ってるから。……“兄さん”」
はわわわわ。
「ヴァニラがブレイドを兄呼びした……!?」
「お赤飯炊かなきゃ!」
「……、ぐはっ」
「アンガよ。ブレイドを復活させるのじゃ」
「トドメじゃねーか」
「……」
一歩引いたところで一人、ただじっと見つめていたハルドラの頬を風が撫でる。
小さく笑うと、輪の中に飛び込んだ。
「ねぇねぇ! そろそろ行かないとじゃない〜?」
「行くって……?」
ポカンとする五人を置いて、ハルドラはフードを深く被りながらにっこり。
「お祝いのパーティーにだよ!」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
“はじまりの地”、『戦神の勇者隊』拠点兼宿舎。
──パンパンパンッ!
「!?」
扉を開けた途端に鳴り響くクラッカー音。帰って来た五人を出迎えたのは、彼らと縁ある人物達であった。
『ほら、早く中に中にっ』
呆然とする五人を緑狼王が急かす。
宿舎一階は即席のパーティー会場となっていた。
「主役も到着したことだし、乾杯するか」
会場にいる誰もが各々グラスを手に、掲げる。
「乾杯!」
『乾杯!』
グラスをかちんと当てる音が至る所から聞こえる。
ちょっとしたパーティーの始まりだ。
「レベッカさん。優勝おめでとうございます。これ……」
「ありがとうございます! キレイな花束ですね」
良かったです、と微笑むのは管理人リベリア。書庫のこともあり会場へは行けなかったようだが、こうしてお祝いへは駆けつけることは出来たようだ。
「駆け出しの頃がすごく昔に感じるな」
そうテラは懐かしむように呟いた。
「つい最近の話なのにね」
新部隊結成試験からまだ一年も経っていない。
苦笑にも似たレベッカの笑みを前に、リベリアも初めて会った日のことを思い出す。
「……テラ兄」
「ん?」
「ワタシを外に連れ出してくれてありがとう」
テラは目を見開いた後、優しく頭に手を添えて。
「どういたしまして」
“あの頃”と変わらぬ笑顔を見せたのだった。
「改めて優勝おめでとう」
「これから忙しくなりますね。レベッカさん」
「フフッ、そうですね」
「兄さん」
「……」
端の方で佇んでいたバラバスのもとに、ベルタは料理が盛り付けられた皿を持って話しかけた。
「これ……兄さんが作ったものですよね?」
「……アイザックが手伝えと言ったから仕方なくだ」
明後日の方向にそっぽ向くバラバスを気に留めず、ベルタは料理を一口。
「……美味いか」
「はいっ」
「そうか」
安堵したのか、バラバスの頬がほんの僅かに緩む様子を見逃さなかった。
「……今、安心し」
「してない」
即答。
少し気を落としながらも料理を完食。
「……ベルタ」
「はい」
「……良かったな。優勝出来て」
「ありがとうございます」
バラバスは明後日の方向からベルタに視線を。
「……一つだけ。私に出来る事なら何でもする」
所謂優勝した褒美とやらか。ベルタは目を丸くしてパチクリ。やがて、少し食い気味に。
「で、ではっ、今度一緒にモンスター退治に行きませんか!?」
「……いいだろう」
ぱあっと笑顔でやったと小さくガッツポーズするベルタを横目に、バラバスは肩をすくめた。
氷兄妹の溝が埋まる日は、まだまだ先のようだ。
「優勝おめでとう、ブレイド」
「ありがとな」
かちんとミリアムのグラスを合わせる。
「今度こそ勝てると思ったのに……」
「俺の二勝だな」
「言ってなさい。次は勝ってやるんだから」
「望むところだ」
ミリアムは黄昏を迎えし窓の外を見遣る。
「……見ていてくれたかしら。あの空の向こうで」
ブレイドも隣に並び、茜色に染まる空を見つめる。
「……ああ。きっとな」
少しして、ミリアムはぱっと顔を上げると。
「ねぇ、今度一緒に会いにいかない? 暫く行ってないわよね」
「そうだな。寂しくて祟られても困るし」
「じゃあお酒持っていかなきゃね」
あの人が大好きだった物を持ち寄って。
「ちゃんと、報告しないとな」
戦う術を教えてくれたあの人に、有りったけの感謝を──。
「あと、ヴァニラが残影剣を習得していた事もね。いつの間に教えてたのよ」
「頼まれてな。別に怒られねぇだろ」
「それもそうね」
拠点外。人知れず拠点を後にする影を追う。
「アッシュ」
足を止めたアッシュは立ち止まり、振り返る。
「バレてしまったか」
「また……旅に出るの?」
ああと頷く。
「じっとしているのは性分でないのでな」
彼らしいとヴァニラは思う。
「……あ、アッシュ。これ」
そう懐から取り出したのは、この前の戦いでアッシュから預かったバンダナだった。
ヴァニラからバンダナを受け取ると、慣れた手付きで額に巻く。
「……アッシュ。旅に出る前に一つだけいい?」
「何だ?」
「今度、ブレイドが旅に出るの」
予想だにしない言葉に、驚愕の表情に変わる。
「だから……もし旅先で会ったら、手を貸してほしいの」
アッシュは柔らかく微笑んだ。
「分かった。約束しよう」
「うん……!」
「じゃあな」
ヴァニラに背中を向け、何処かへと歩き出す。
その背中が見えなくなるまで、ヴァニラは見守っていた。
「……ありがとう。アッシュ」
「アラン! 良くやったな!」
「いって!?」
バシーンッと勢いよく叩かれる背中。ヒリヒリと痛みを我慢しつつ、ありがとうございますとエステラに返す。
「俺からも祝いの一発くれてやろうか?」
「要らん。殺る気に満ち溢れんな」
チッとアイザック舌打ち。
「アラン。夜道には気をつけた方がいいぞ?」
「気をつけます……」
「しねーよ」
エステラはおつまみを口に放り込み。
「しかしまあ……弟子の二人共大会で優勝とはな。アタシも鼻が高いぞ」
「師匠のご指導あってのことです」
「少なくとも体力は付いたな」
「相変わらずアンタは可愛くないね」
フンと鼻を鳴らす。……と、パタパタと近づく足音。
「にぃに!」
アランの背中に飛び込んだアリスに引かれ、大きく仰け反るも何とか戻して。おお〜とエステラは拍手を送る。
「見せ物じゃないんですけど……」
「にぃに、優勝おめでと! すっごくかっこよかったよ!」
「ありがとな」
アリスは床に着地すると、今度はアイザックに。
「お兄さんもかっこよかったよ!」
「そっ、そうかよ」
「うん!」
エステラは笑いを堪え、アランは白けた視線を。
「もちろん、にぃにの次にだけどね」
「……聞こえてないな」
「坊ちゃん」
またもや背後から声を掛けられる。
「おめでとうございます」
「ありがとう。ジイジ……遠いところ悪かったな」
「坊ちゃんの御活躍を拝見する事ができ、とても嬉しゅう御座いました」
「そう言われると照れるな……」
いつの間にかアリスを交えて三人で話している光景に、思わず笑みを溢す。
「……アラン様」
「なんだ?」
「良き御友人方に恵まれましたね」
「……ああ」
未だ余韻が冷めぬ中、盛り上がる一同の耳に手を叩く音が届く。
『中断してすまない。ここで、三つの重大な発表をさせてもらう』
何だ何だとどよめく。
『まず一つ目じゃが、此処におる「闇黒騎士隊」についてじゃ』
「アタシ達にか?」
解散、の二文字が脳裏に過ぎるもそんなわけないと振り払う。
『そうじゃ。そなたらの部隊名「闇黒騎士隊」を、新しく改名することとなった』
「……何故?」
「私達の“ダークナイト”の異名に合っている気がしますけど……」
『通り名は合っておるのじゃが、そなたらは竜騎兵 であろう? ややこしいとの意見があってな』
「一体誰からそんな意見が……」
『オレ達からだ』
おまえらかよ。
「それで……新しい部隊名とは?」
『そなたら「闇黒騎士隊」の新しい名は……「守護竜騎隊」じゃ』
さっきとはえらく軽い気が……。
告げられた五人は、誰一人として嫌な顔はせず。
「クオラシエル達を使役するアタシ達にピッタリではあるな」
「拗ねてたものね〜。あの子達」
(拗ねるのか……)
続けて、重大発表二つ目。
『此処へ来る前、大会で優勝を果たした五人に各々の異名と部隊名を授けた。これについては後程正式に発表する予定だ』
白獅子王はアラン達に目を向けて。
『そして、優勝した褒美として汝らには新しく拠点が与えられる』
「ええっ!?」
『そう大会の知らせにも書いたのだが……』
「すいません……」
まあ良い、と咳払いを一つ。
『して、だ。希望があれば申すと良い』
「……」
『……なぜ黙るのだ?』
視線、交えて。
「いや……その……」
「ここ……ボロいですけど、移動はしやすかったので……」
徒歩10〜20分圏内に繁華街。辺りには建物一つ無く、日当たりは最高。近所迷惑とは無縁。ただしボロい。
『たしかにそうだと思うが……』
「鍵が鍵の役割をしていないのに良いのですか?」
「鍵閉めたのに何で入ってんだと思ってたがまたか……」
さらに付け加えると窓ガラスも一度全破砕。階段も壊れた。
『……なら、作り直すのは』
ボソッと黒魔王が呟いた言葉を、瞬時に理解。
『つまり、その費用をここに回せば良いとのことだな?』
そうだと頷く。
『では、そのような話で通して良いか?』
「ハイ。ありがとうございます」
『うむ』
最後に、重大発表三つ目。
『これは、ボク達もついさっき聞いた話なんだけどね〜……』
と、緑狼王はブレイドの肩に手を添えながら、部隊を少しの間離れる話を語った。
こうして、優勝をお祝いするパーティーは終わりを告げた──……
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
あれから数日後の明くる日。
バタバタと、『戦神の勇者隊』拠点を忙しなく響く足音。
「部屋の確認は終わったわ」
「一階もオレとヴァニラが確認したぞ」
「うん。忘れ物は落ちてなかった」
「ブレイド! 廊下の隅に埃溜まったままだぞ!」
──本日をもって。五人はこの拠点を一時的に退去する。
「ちょっとぐらい見逃せよ。今荷物の最終確認しているんだからな」
そして……今日はブレイドが旅に出る日でもあった。
箱にまとめた荷物を外に詰め終わり、改めて中を見渡す。
「……初めて来たときは、こんな感じだったな」
出会って間もないあの日。
ここから、彼らの全ては始まったのかもしれない。
「ボロいボロいとは言っていたが……いざ壊されるとなると、寂しいものだな」
「ええ……できればこのままが良かったけど、雨漏りもし始めちゃダメね……」
「今日、晴れてよかったね」
巡る巡る思い出を胸に、一人一人扉をくぐる。
「記念に、みんなで一枚撮らない?」
最後に出たブレイドが扉を閉めた後、レベッカはエレフォンを手に提案。勿論と頷く四人。
「……これでよし、と。行くわよー!」
立て掛けたエレフォンの画面をタップ。タイマーに追われながら、レベッカは四人のもとへ。
「「「「「せーのっ!」」」」」
パシャ。
「じゃあ……そろそろ行くな」
必要最低限の荷物を手に、ブレイドは一歩前へ。
「もしかしたら、どっかでばったり会うかもな」
「かもしれないわね」
誰もが寂しげな表情を浮かべるも、言葉にすることは無かった。
「次来た時は……変わり過ぎて迷うかもしれないな」
「看板でも立てといてやろう」
暫くの間。五人が揃うことはない。
「俺の荷物、箱から出しといてくれよ」
「自分でやれよな」
エレフォンで連絡を取り合うこともない。……帰りたくなってしまうから。
「……帰ってきたらまた、呼んでくれるか?」
「うん。ブレイド」
視線を一度落とし、顔を上げる。
「──行ってくるな!」
片手を振り、一歩二歩と仲間達から離れる。
「行ってらっしゃい!」
燦々と輝く太陽に祝福され、一人の勇者が旅立った。
それはきっと先の見えない長い旅路となるだろう。
それでも……。
見つけたこの道を、進むと決めた。
──これは、いつもとは何かが違う世界で、五人の冒険者達が勇者と呼ばれるまでの、物語──
彼らの物語は、まだ始まったばかり──……
Five Elemental Story
第1部完結。
「ふぅ〜……やっと着いたぁ〜……。もう船旅は暫くしたくないなぁ〜……」
キャリーケースを片手に、一人の青年がエレメンタル大陸へ上陸する。
「ここがエレメンタル大陸……オラトリオ大陸とはまた違う雰囲気だな〜。あ、一枚撮っとこ」
ズボンに付けたケースからカメラを取り出し構える。
「……うんっ。良い写真が撮れたっ。さて、『ミラージュ・タワー』に行かなくちゃ」
10人全員の治療が完了し、表彰式が執り行われた。
『前へ』
「ハイ」
特設ステージにて。五人の中心に立つアランに、優勝トロフィーが白獅子王から授与される。拍手とシャッター音が鳴り響く中、様々な想いが籠ったそれを手にする。
『続きまして──』
トロフィー授与が終わると、いよいよ彼らによるスピードとなった。係員からマイクを受け取ったヴァニラがブレイドに渡そうとするも。
「は、始めに誰か挨拶してくれ……俺そういうの苦手だから……」
「確かに得意には見えないな。レベッ」
「アラン、ワタシがトロフィー持っているから始めだけ挨拶して? 得意でしょ?」
「得意じゃないけど……わかったよ」
「助かる」
トロフィーをレベッカに渡し、マイクを受け取る。
一言二言挨拶をした後、アランはブレイドにバトンタッチした。
「思ってること、全部言えよ?」
「ああ。ありがとな」
短く交わし、ブレイドは一歩前へ。
すぅっと深呼吸を一つ。
「……突然ですが、この場を借りて伝えたい事があります」
しんと会場が静まり返る。
数え切れないほどの視線を受けながら、真っ直ぐとした瞳を。
「この大陸では、未だにエレメントによる差別があります。俺の妹も、違うエレメントだと識別されて住んでいた場所を追われました」
どよめくような声は聞こえなかった。
誰もがじっと、ブレイドの話に耳を傾ける。
「今はこうして妹と共に居ることが出来る。けどそれは運が良かっただけ。きっと、こうしている間にも同じ事が起きている筈……」
でも、
「でも知って欲しいんだ。俺達がこの大会で証明したように、有利不利の壁を超えて一つになれる事を。違うエレメントだからって、周囲に影響は無いって事を!」
後半に連れて声が大きくなる。ブレイドは今一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、紡ぐ。
「そう言われ始めたのは理由があると思う。それを蹴ってまで押し通すつもりは無い……だが考えて欲しい。追い出される方の気持ちを少しでも。そして……差し伸べられるなら、手を差し伸べて欲しい……」
震える肩に、温かい手が触れる。
ありがとう、と小さく呟く。
「少しずつでいい……。今ここから、属性の差別がこの大陸から無くなる事を。ただ願ってます」
訪れる静寂に、誰かの拍手がパチパチと響く。
それを引き金にまた一人、二人と連鎖していき……会場を包み込むほどの喝采を送られた。
──のちに、この出来事は“変革のはじまり”と謳われ、彼らもまた先導者と呼ばれるようになる。
しかしこの時の彼らは、そんな風になるとは微塵も思っていないのだろう。
拍手喝采の中、五人は互いの手を繋いだ。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
表彰式を無事に終えた五人が案内されたのは、最上階にある空間。風が吹き抜け、光に満ち溢れた空間に、聞き慣れた声が響く。
「これより、命名式を執り行う。『第14小隊』の諸君。我らの前へ」
待っていたのは五戦神並びにモルスの五人。言われるまま五人は各々が宿すエレメントと同じモルスの前に並ぶ。
「始める前に……質問があれば受けつけよう」
「はい」
挙手したヴァニラは例の如く。
「命名式ってなんですか?」
言うと思った……、と何人思っただろうか。
「貴様は一体何を学んだのだ
「金銭教育と食育は完璧だぞ」
「だからヴァニラって好き嫌いないのね……」
「うん。ほかには……」
「後にしろ」
咳払いを一つ。
「命名式とは本来出生児に対して行うものじゃが、そなたら冒険者にとっては通り名を与えられる儀式のことじゃ」
ミラクロアの解説にえっと声を洩らす四人。
「部隊名ではないのですか?」
「そっちもやるよ〜。でも先に二つ名の方かな?」
「この一週間、考えに考え抜いて出した名前なんだぜ?」
「そうだな。ではそろそろ始めるとしよう」
アルタリアの一言で、五人の間に緊張が走る。
「……ヴァニラ」
「はい」
「貴様はこの大陸で蠢く闇の被害者であり、同時に加害者でもある。今なお、闇を望む己には月の光ですら差し込む事はないだろう。だが、影に潜む者だからこそ理解出来る事はあるだろう。己の言霊に心震える者もいよう。……
我、“黒魔王”ジェダル・モルスの名のもとに与えし名は……『月影の勇者』。月影と共に在れ、ヴァニラ」
「……ありがとうございます。ジェダル様」
「ベルタ」
「は、はいっ」
「わらわは、そなたと初めて出会った日のことを、遠く離れた情景を必死に掴もうとしていたあの頃を、よく覚えておる。それから、そなたは信じる者と共に歩んできた。例え何度深き底へ落とされようとも、這い上がるその意志は決して溶けることはなく、その存在を保つ氷河のようじゃ。
我、“蒼氷王“ミラクロア・モルスの名のもとに与えし名は……『氷河の勇者』。これからも、その心を忘れぬようにするのじゃぞ。ベルタ」
「はい。ありがとうございます、ミラクロア様」
「レベッカ」
「ハイ」
「初めて会ったとき……正直最悪だったよな? オレのせいで長く苦しめてしまったのに、テメーは責めもしなかったな。……その熱い想いは道を切り拓くための炎となって障害を焼き尽くし、仲間を照らす炎だ。それはマグマよりも熱い灼熱となるだろうよ。
我、“赤炎王”アンガ・モルスの名のもとに与えし名は……『灼熱の勇者』。テメーの想いは熱すぎて火傷しそうになるぜ? レベッカ」
「フフッ。ありがとうございます、アンガ様」
「ブレイド」
「ああ」
「さっきのスピーチとても良かったよ。キミが言った通り、きっとこの大陸は変わっていく。ブレイドが放った言葉は、多くの人達の心を動かすきっかけとなった。これからも、キミの言葉は風となって誰かの心の中で息吹く。その人が前へ進めるように、背中を押す疾風となって。
我、“緑狼王”ハルドラ・モルスの名のもとに与えし名は……『疾風の勇者』。今のキミにぴったりじゃない? ブレイド」
「ああ。……ありがとな、ハルドラ」
「アラン」
「ハイ」
「“あの日”から今日まで……汝は努力を怠らず、ただ真っ直ぐと己が道を進んで来た。学んだことを全て生かし、自分と仲間の為に剣を振るう。そんな汝の光り輝く意志は翼となり、この青く澄み渡る天空へどこまでも高く飛ぶことも出来よう。
我、“白獅子王”アルタリア・モルスの名のもとに与えし名は……『天空の勇者』。……大きくなったな、アラン」
「っ……ありがとうございます、アルタリア様」
一人一人の異名が告げられ、続けて部隊名に移る。
「モルスを代表し、我アルタリアが『第14小隊』に与えし新たな名を告げん。
本日をもって、『第14小隊』は
『
我ら五戦神と関わりが深い汝らを象徴するに相応しい名だと思う。この名に恥じぬよう、これからも精進するように」
はい、と五人の声が揃う。
「では以上をもって命名式を終わ──」
「ブレイドーー!」
「ぐほっ」
「最後まで待て、ハルドラ」
抱き付きという名のタックルを受け、大きく仰反るも何とか耐える。
「お、おい……」
「良かったね」
改めて言われ、ブレイドはそっと目を伏せた。
「それで……これからどうするつもりなの?」
少し離れたハルドラに訊かれ、ブレイドはアランを見遣る。
「もう決めているんだよな」
「ああ。……俺、少しの間部隊を離れて旅に出ようと思ってる」
どこか寂しげに答えるブレイドだったが、そこに迷いはなかった。
「い……いつから行くつもりなんだ……?」
「準備が出来たらだな。ここ一週間忙しくて何も出来なかったし」
「そ、そうか……」
驚きが隠せないといった様子に、ブレイドは少し視線を落とす。
「……悪い。勝手に決めて……」
一歩二歩と近付いたベルタは、その頭に手刀を入れた。
「いっ……何すんだよ!」
「貴様が謝るとは思わなかったからな。ついうっかり」
「は!?」
半ギレするブレイドを、今度はレベッカがまあまあと嗜めながら。
「帰ってくるのでしょう?」
「当たり前だ」
その返しに、レベッカは安堵したように微笑んだあと。
「あんまり遅いと、アランがヴァニラと付き合っちゃうかもよ?」
「「は!?」」「声デカ」
「オレを巻き込むなレベッカ!!」
「……誠か」
「ちょっ……違いますよジェダル様!」
「許さねぇぞアラン……お前……いつの間に披露宴会場の予約したんだよ!!」
「してねえし! 飛躍し過ぎだろ!!」
「何故そうなる」
「そ、そうなのかアラン……」
「アルタリア様まで……」
一瞬にして修羅場と化した光景に、やっちゃったとレベッカ空笑い。ヴァニラはブレイドの側により、服の裾を掴む。
「……ねぇ」
「どうしたんだよ。ヴァニラ」
「ずっと待ってるから。……“兄さん”」
はわわわわ。
「ヴァニラがブレイドを兄呼びした……!?」
「お赤飯炊かなきゃ!」
「……、ぐはっ」
「アンガよ。ブレイドを復活させるのじゃ」
「トドメじゃねーか」
「……」
一歩引いたところで一人、ただじっと見つめていたハルドラの頬を風が撫でる。
小さく笑うと、輪の中に飛び込んだ。
「ねぇねぇ! そろそろ行かないとじゃない〜?」
「行くって……?」
ポカンとする五人を置いて、ハルドラはフードを深く被りながらにっこり。
「お祝いのパーティーにだよ!」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
“はじまりの地”、『戦神の勇者隊』拠点兼宿舎。
──パンパンパンッ!
「!?」
扉を開けた途端に鳴り響くクラッカー音。帰って来た五人を出迎えたのは、彼らと縁ある人物達であった。
『ほら、早く中に中にっ』
呆然とする五人を緑狼王が急かす。
宿舎一階は即席のパーティー会場となっていた。
「主役も到着したことだし、乾杯するか」
会場にいる誰もが各々グラスを手に、掲げる。
「乾杯!」
『乾杯!』
グラスをかちんと当てる音が至る所から聞こえる。
ちょっとしたパーティーの始まりだ。
「レベッカさん。優勝おめでとうございます。これ……」
「ありがとうございます! キレイな花束ですね」
良かったです、と微笑むのは管理人リベリア。書庫のこともあり会場へは行けなかったようだが、こうしてお祝いへは駆けつけることは出来たようだ。
「駆け出しの頃がすごく昔に感じるな」
そうテラは懐かしむように呟いた。
「つい最近の話なのにね」
新部隊結成試験からまだ一年も経っていない。
苦笑にも似たレベッカの笑みを前に、リベリアも初めて会った日のことを思い出す。
「……テラ兄」
「ん?」
「ワタシを外に連れ出してくれてありがとう」
テラは目を見開いた後、優しく頭に手を添えて。
「どういたしまして」
“あの頃”と変わらぬ笑顔を見せたのだった。
「改めて優勝おめでとう」
「これから忙しくなりますね。レベッカさん」
「フフッ、そうですね」
「兄さん」
「……」
端の方で佇んでいたバラバスのもとに、ベルタは料理が盛り付けられた皿を持って話しかけた。
「これ……兄さんが作ったものですよね?」
「……アイザックが手伝えと言ったから仕方なくだ」
明後日の方向にそっぽ向くバラバスを気に留めず、ベルタは料理を一口。
「……美味いか」
「はいっ」
「そうか」
安堵したのか、バラバスの頬がほんの僅かに緩む様子を見逃さなかった。
「……今、安心し」
「してない」
即答。
少し気を落としながらも料理を完食。
「……ベルタ」
「はい」
「……良かったな。優勝出来て」
「ありがとうございます」
バラバスは明後日の方向からベルタに視線を。
「……一つだけ。私に出来る事なら何でもする」
所謂優勝した褒美とやらか。ベルタは目を丸くしてパチクリ。やがて、少し食い気味に。
「で、ではっ、今度一緒にモンスター退治に行きませんか!?」
「……いいだろう」
ぱあっと笑顔でやったと小さくガッツポーズするベルタを横目に、バラバスは肩をすくめた。
氷兄妹の溝が埋まる日は、まだまだ先のようだ。
「優勝おめでとう、ブレイド」
「ありがとな」
かちんとミリアムのグラスを合わせる。
「今度こそ勝てると思ったのに……」
「俺の二勝だな」
「言ってなさい。次は勝ってやるんだから」
「望むところだ」
ミリアムは黄昏を迎えし窓の外を見遣る。
「……見ていてくれたかしら。あの空の向こうで」
ブレイドも隣に並び、茜色に染まる空を見つめる。
「……ああ。きっとな」
少しして、ミリアムはぱっと顔を上げると。
「ねぇ、今度一緒に会いにいかない? 暫く行ってないわよね」
「そうだな。寂しくて祟られても困るし」
「じゃあお酒持っていかなきゃね」
あの人が大好きだった物を持ち寄って。
「ちゃんと、報告しないとな」
戦う術を教えてくれたあの人に、有りったけの感謝を──。
「あと、ヴァニラが残影剣を習得していた事もね。いつの間に教えてたのよ」
「頼まれてな。別に怒られねぇだろ」
「それもそうね」
拠点外。人知れず拠点を後にする影を追う。
「アッシュ」
足を止めたアッシュは立ち止まり、振り返る。
「バレてしまったか」
「また……旅に出るの?」
ああと頷く。
「じっとしているのは性分でないのでな」
彼らしいとヴァニラは思う。
「……あ、アッシュ。これ」
そう懐から取り出したのは、この前の戦いでアッシュから預かったバンダナだった。
ヴァニラからバンダナを受け取ると、慣れた手付きで額に巻く。
「……アッシュ。旅に出る前に一つだけいい?」
「何だ?」
「今度、ブレイドが旅に出るの」
予想だにしない言葉に、驚愕の表情に変わる。
「だから……もし旅先で会ったら、手を貸してほしいの」
アッシュは柔らかく微笑んだ。
「分かった。約束しよう」
「うん……!」
「じゃあな」
ヴァニラに背中を向け、何処かへと歩き出す。
その背中が見えなくなるまで、ヴァニラは見守っていた。
「……ありがとう。アッシュ」
「アラン! 良くやったな!」
「いって!?」
バシーンッと勢いよく叩かれる背中。ヒリヒリと痛みを我慢しつつ、ありがとうございますとエステラに返す。
「俺からも祝いの一発くれてやろうか?」
「要らん。殺る気に満ち溢れんな」
チッとアイザック舌打ち。
「アラン。夜道には気をつけた方がいいぞ?」
「気をつけます……」
「しねーよ」
エステラはおつまみを口に放り込み。
「しかしまあ……弟子の二人共大会で優勝とはな。アタシも鼻が高いぞ」
「師匠のご指導あってのことです」
「少なくとも体力は付いたな」
「相変わらずアンタは可愛くないね」
フンと鼻を鳴らす。……と、パタパタと近づく足音。
「にぃに!」
アランの背中に飛び込んだアリスに引かれ、大きく仰け反るも何とか戻して。おお〜とエステラは拍手を送る。
「見せ物じゃないんですけど……」
「にぃに、優勝おめでと! すっごくかっこよかったよ!」
「ありがとな」
アリスは床に着地すると、今度はアイザックに。
「お兄さんもかっこよかったよ!」
「そっ、そうかよ」
「うん!」
エステラは笑いを堪え、アランは白けた視線を。
「もちろん、にぃにの次にだけどね」
「……聞こえてないな」
「坊ちゃん」
またもや背後から声を掛けられる。
「おめでとうございます」
「ありがとう。ジイジ……遠いところ悪かったな」
「坊ちゃんの御活躍を拝見する事ができ、とても嬉しゅう御座いました」
「そう言われると照れるな……」
いつの間にかアリスを交えて三人で話している光景に、思わず笑みを溢す。
「……アラン様」
「なんだ?」
「良き御友人方に恵まれましたね」
「……ああ」
未だ余韻が冷めぬ中、盛り上がる一同の耳に手を叩く音が届く。
『中断してすまない。ここで、三つの重大な発表をさせてもらう』
何だ何だとどよめく。
『まず一つ目じゃが、此処におる「闇黒騎士隊」についてじゃ』
「アタシ達にか?」
解散、の二文字が脳裏に過ぎるもそんなわけないと振り払う。
『そうじゃ。そなたらの部隊名「闇黒騎士隊」を、新しく改名することとなった』
「……何故?」
「私達の“ダークナイト”の異名に合っている気がしますけど……」
『通り名は合っておるのじゃが、そなたらは
「一体誰からそんな意見が……」
『オレ達からだ』
おまえらかよ。
「それで……新しい部隊名とは?」
『そなたら「闇黒騎士隊」の新しい名は……「守護竜騎隊」じゃ』
さっきとはえらく軽い気が……。
告げられた五人は、誰一人として嫌な顔はせず。
「クオラシエル達を使役するアタシ達にピッタリではあるな」
「拗ねてたものね〜。あの子達」
(拗ねるのか……)
続けて、重大発表二つ目。
『此処へ来る前、大会で優勝を果たした五人に各々の異名と部隊名を授けた。これについては後程正式に発表する予定だ』
白獅子王はアラン達に目を向けて。
『そして、優勝した褒美として汝らには新しく拠点が与えられる』
「ええっ!?」
『そう大会の知らせにも書いたのだが……』
「すいません……」
まあ良い、と咳払いを一つ。
『して、だ。希望があれば申すと良い』
「……」
『……なぜ黙るのだ?』
視線、交えて。
「いや……その……」
「ここ……ボロいですけど、移動はしやすかったので……」
徒歩10〜20分圏内に繁華街。辺りには建物一つ無く、日当たりは最高。近所迷惑とは無縁。ただしボロい。
『たしかにそうだと思うが……』
「鍵が鍵の役割をしていないのに良いのですか?」
「鍵閉めたのに何で入ってんだと思ってたがまたか……」
さらに付け加えると窓ガラスも一度全破砕。階段も壊れた。
『……なら、作り直すのは』
ボソッと黒魔王が呟いた言葉を、瞬時に理解。
『つまり、その費用をここに回せば良いとのことだな?』
そうだと頷く。
『では、そのような話で通して良いか?』
「ハイ。ありがとうございます」
『うむ』
最後に、重大発表三つ目。
『これは、ボク達もついさっき聞いた話なんだけどね〜……』
と、緑狼王はブレイドの肩に手を添えながら、部隊を少しの間離れる話を語った。
こうして、優勝をお祝いするパーティーは終わりを告げた──……
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
あれから数日後の明くる日。
バタバタと、『戦神の勇者隊』拠点を忙しなく響く足音。
「部屋の確認は終わったわ」
「一階もオレとヴァニラが確認したぞ」
「うん。忘れ物は落ちてなかった」
「ブレイド! 廊下の隅に埃溜まったままだぞ!」
──本日をもって。五人はこの拠点を一時的に退去する。
「ちょっとぐらい見逃せよ。今荷物の最終確認しているんだからな」
そして……今日はブレイドが旅に出る日でもあった。
箱にまとめた荷物を外に詰め終わり、改めて中を見渡す。
「……初めて来たときは、こんな感じだったな」
出会って間もないあの日。
ここから、彼らの全ては始まったのかもしれない。
「ボロいボロいとは言っていたが……いざ壊されるとなると、寂しいものだな」
「ええ……できればこのままが良かったけど、雨漏りもし始めちゃダメね……」
「今日、晴れてよかったね」
巡る巡る思い出を胸に、一人一人扉をくぐる。
「記念に、みんなで一枚撮らない?」
最後に出たブレイドが扉を閉めた後、レベッカはエレフォンを手に提案。勿論と頷く四人。
「……これでよし、と。行くわよー!」
立て掛けたエレフォンの画面をタップ。タイマーに追われながら、レベッカは四人のもとへ。
「「「「「せーのっ!」」」」」
パシャ。
「じゃあ……そろそろ行くな」
必要最低限の荷物を手に、ブレイドは一歩前へ。
「もしかしたら、どっかでばったり会うかもな」
「かもしれないわね」
誰もが寂しげな表情を浮かべるも、言葉にすることは無かった。
「次来た時は……変わり過ぎて迷うかもしれないな」
「看板でも立てといてやろう」
暫くの間。五人が揃うことはない。
「俺の荷物、箱から出しといてくれよ」
「自分でやれよな」
エレフォンで連絡を取り合うこともない。……帰りたくなってしまうから。
「……帰ってきたらまた、呼んでくれるか?」
「うん。ブレイド」
視線を一度落とし、顔を上げる。
「──行ってくるな!」
片手を振り、一歩二歩と仲間達から離れる。
「行ってらっしゃい!」
燦々と輝く太陽に祝福され、一人の勇者が旅立った。
それはきっと先の見えない長い旅路となるだろう。
それでも……。
見つけたこの道を、進むと決めた。
──これは、いつもとは何かが違う世界で、五人の冒険者達が勇者と呼ばれるまでの、物語──
彼らの物語は、まだ始まったばかり──……
第1部完結。
「ふぅ〜……やっと着いたぁ〜……。もう船旅は暫くしたくないなぁ〜……」
キャリーケースを片手に、一人の青年がエレメンタル大陸へ上陸する。
「ここがエレメンタル大陸……オラトリオ大陸とはまた違う雰囲気だな〜。あ、一枚撮っとこ」
ズボンに付けたケースからカメラを取り出し構える。
「……うんっ。良い写真が撮れたっ。さて、『ミラージュ・タワー』に行かなくちゃ」
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