Five Elemental Story
29話 アリーナ大会編【後編】
「部隊を離れようと思ってるって……なんで……」
長い沈黙を経て、アランは意味を汲み取れないまま口だけを動かしていた。
ブレイドは後頭部を掻きながら、苦笑いを浮かべる。
「別に嫌いになったとか、嫌になったからとかじゃないんだ。正直今の生活は楽しいし、ずっと続いてほしいって思うぐらいに」
両手を頭の後ろで組み、上体を後ろに傾ける。
「……俺が部隊に入ったのは、ヴァニラの情報を集める為だ。ミリアムに無理やり試験を受けさせられたってのもあるけど、最後は自分で決めた。その目的が叶った後は、同じ奴がいなくなるようにってアリーナに出て……」
「……そうだな。オレ達はそのために頑張ってきた」
「でも、優勝しただけじゃ何も変わらないんじゃないかって。最近思うようになってな」
星々を見上げていた目を細める。
「やっぱり意識を変えるには直接会った方がいい。それには時間が必要になる。依頼の合間にやってる暇はないから……だからその……」
ここに来て口籠るブレイドに、アランは息を吐く。
「分かったよ。お前が先の先まで考えた結論だってことは」
アランも同様に寝転ぶ。
「ヴァニラ達や、ハルドラ様にはいつ言うつもりだ?」
「大会が終わってから。俺のことで余計な混乱を招きたくないし」
「それがいい。……でもハルドラ様に報告するときは、オレも一緒に行かせてほしい」
「いいけど……何かリーダーがする事でもあるのか?」
いや、と小さく首を横に振る。
「……部隊は、各属性から1人ずつ集められて結成されることが多いんだ。空白となった席に誰か入ることはないと思うが……まあ、念のために」
「念って……何で?」
「空けとくんだよ。オマエが帰ってこれるようにさ」
潤む視界を、瞼を下ろして蓋をする。
「……アラン」
「ん?」
「ありがとな」
「……ああ」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
一週間後──……
決勝戦当日。
「人いっぱいだね」
「決勝戦ですからねぇ。チケットも即完売だったようですよ」
「じゃあにぃにに感謝しないとねっ」
「はい」
人で埋め尽くされたアリーナ会場の観客席に、執事セバスチャンと義妹アリスが並んで着席。
「やぁ、二人も来ていたんだね」
短く片手を挙げながらゼロが二人に声を掛けた。そのままセバスチャンの隣に着席。
「おじさんも来てたの?」
「“お兄さん”の間違いだよ。どんな戦いになるか気になってね」
「下見の間違いでは?」
「応援だって」
「本当ですかな〜……?」
「あ、信じてないね」
そう微笑み合うも、両者共に目は笑っていない。
「応援って……どっちの応援?」
「もちろん『第14小隊』ですよね?」
「笑顔で圧をかけないでくれるかい? 強いて言うならどっちもかな」
「おや、中立は敵を作りやすいのですよ」
「中立というより、それぞれの出方によってかな」
「下見じゃないですか」
「応援だって」
仲睦まじく(?)言葉を交わし合う二人に、アリスは一人頬を膨らませた。
「……仲間はずれ」
アリーナ会場、関係者以外立入禁止エリア。
コンコンと二回ノック。扉の向こうから『どうぞー』との声。
「失礼します」
『第14小隊』のメンバー、アラン達五人が試合前に訪れたのは相手部隊の控室。扉を開けた先には見慣れた五人の姿。
「決勝戦 上がってくると思っていたぞ。アラン……いや『第14小隊』の戦士達」
決勝戦の相手……それは、彼らにとって最後を飾るに相応しい『闇黒騎士隊』だった。
「まさか貴方とアリーナでぶつかるなんて……少し前までは考えられなかったわね。ブレイド」
「そうだな。……でも、負けるつもりはない。な、ヴァニラ」
「うん。ミリアムと戦えるの楽しみにしてた」
「私もよ」
「兄さん。私はあの時、兄さんに遠く及びませんでした」
「……」
「ですが、今の私達なら超えられる自信しかありません」
「……随分と言うようになったな。なら示してみろ。私達に……観客にな」
「勿論です」
「フン、俺はお前なんかに負けねーからな」
「オレだってそのつもりだ」
「アンタ達、くれぐれも試合中に因縁発動してくれるなよ?」
「「するわけ……あっ。」」
「仲いいな」
「……良い仲間と出会ったな」
「ええ、本当に……。感謝してもしきれないわ。……テラ兄も、ありがとう」
「……そういうのは、終わってからにするもんじゃないのか?」
「フフッ、それもそうね」
やがて、試合開始数分前を知らせるアナウンスが流れた。
「ではまた、会場で会おう」
そう言って『闇黒騎士隊』は持ち場へと。彼らもまた、指定された入口へと向かう。
「緊張してきたわね……」
「おおお落ち着けレベッカ」
「お前が落ち着けよ」
「す、すまない……少し取り乱してしまった……」
「逆に肩の力が抜けてよかったわよ」
緊張するのも無理はない。この戦いによっては、今後のあり方が変わるのだから。
入口前。次なるアナウンスを前に、ふいにヴァニラが口を開く。
「ねえ、なにか気合いが入るようなことしない?」
「円陣を組むようなこと?」
「そう」
改めて思い返してみれば、彼らは一度たりともそのようなことをしてはいなかった。
「じゃあ何するか考えてくれ、アラン」
「は!? 今!?」
「今。」
他人任せかよ、と返しつつ思考を巡らせる。
「こういうのはどうだ?」
少しして、アランは握りしめた拳を前に突き出した。普通は掌を重ねるのではないかと疑問符が浮かぶ。
「……初めの頃は、それぞれの願いや考え方がぶつかってバラバラだっただろ。でも今は、それぞれの願いや考え方は変わらないまま一つになった。それを表すには、拳 がいいんじゃないかって思ったんだ。……どうだ?」
恐る恐る訊ねるも、四人はポカーン。失敗したか? と感じるアランの拳に、次々と仲間達の拳が。
「良いな、それ」
「うん。すごくいいと思う」
「気に入ったぞ」
「ええ。とっても」
円になり、それぞれの想いを乗せた拳を並べる。
「……よし、行くぞ!」
「「「「おおっーー!!」」」」
コツン、と。拳を突き合わせた。
『御来場の皆様、大変長らくお待たせ致しました! これより準決勝を勝ち上がった二部隊による決勝戦の幕開けです!!』
ワアアアアアッ──!
“はじまりの地”の果てにまで届きそうな歓声の嵐が吹き荒れる。
「……」
今しがた会場にやって来たアッシュは、観客席の端の壁に靠れ、ステージへと視線を。
両部隊が配置につくと同時、観客席を結界が覆う。それぞれが武器を呼び出し、試合開始のカウントダウンが刻まれる。
「アラン」
右側から投げかけられる。
「右は任せろ」
左側から、ハッキリと答える。
「ああ。……左は任せろ、ブレイド」
ビッーー!!
決勝戦が、始まった。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
試合開始直後。アラン達五人は究極進化を果たし、彼らにぶつかっていく。
その裏では──……
「ハルドラ様、あまり身を出されますと怪しまれます」
側近のアルボスに嗜められ、ハルドラは渋々席に腰を落とす。
ハルドラ達……モルス達は、主徴であるフードを深く被ったまま特設の観覧席にて試合の行く末を見守っていた。傍にはそれぞれの側近も控えており、周囲には彼ら以外居ない。
「分かってるけどさぁ〜……決勝戦が終わるまで接触しちゃいけなかったから余計に気になっちゃうんだよ〜!」
「その気持ちは分からなくもない」
「でしょ! あ〜、早く終わってくれないかな〜……」
頭を抱えるハルドラを優しくアルタリアは慰める。オイオイとアンガジト目。
「早く終わったら決勝戦の意味ねーよ?」
「うむ。アンガの言う通りじゃ」
「彼 の者達が紡ぐ輪舞を黙って見ていろ」
「……テメーらは演劇でも観てるのかよ?」
オペラグラスを覗き込む二人。言っておくが、そんなもんなくても見える。
「頑張ってね……」
「ぐっ……!」
四肢から上がる悲鳴に、呻き声が洩れる。
「どうしたアラン。来ないのか?」
ギリギリと剣に力を込めながら、エステラは余裕綽々と笑みを浮かべる。
アランは軽く剣を弾き、腰を落として下から斜め上へ振るう。エステラは剣で軌道をズラし、高く振りかぶる。
「【ドラグナーレイド】!」
近距離で放たれた光の一撃を、紙一重で躱す。すかさず振るわれた二撃目。それを受け止めたのはアランではなくヴァニラ。それも……。
(分身! 次は……後ろか!)
即座に剣を背後へ。予想は的中し、金属音が響き渡る。
「見事な分身だな。一瞬本物かと思ったぞ」
「ありがとう」
アランと入れ替わったヴァニラは、素早さを生かして四方から攻める。エステラは一つ一つを確実に対処しながら、隙あらば攻撃を。
「【閃光剣・双】!」
十字に交わる閃光の僅かな合間を縫い、反撃。
「【鋭刃】」
キィン、と軽々受け止められる。攻撃の弱さに違和感。すぐに意図を察する。
(アタシ達に、究極進化させるつもりか……)
だが、彼らにも彼らなりの考えがある。
大剣を構えるエステラに、ヴァニラも双刃の柄を握り直す。
目にも追えぬ速さで飛び回る二つの影。
二振りの刀を、一振りの刀で受け流してゆく。
「こうして戦うのは久しぶり、ね!」
語尾を強めると同時に回し蹴り。体を逸らし回避すると、脇目掛けて一突き。当然ながら避けられる。
「あの時は俺が勝ったけどな!」
「“あの時”はでしょう? 今は違うわ!」
距離を置き、腰を落とすミリアム。
ブレイドは直感に従ってスキルを発動。
「【夢幻残影神剣】!」
「【ミラージュデス】!」
刹那にも満たぬ時の中で繰り出される連撃。先にスキルを発動させたブレイドでも完全に避け切ることは出来ず、肌に幾つもの赤い線が。
「今なら、貴方に負けないわよ」
「……もしかしてちょっと根に持ってたり」
「してないから」
「してんじゃねぇか……」
「【ブリリアントグレイシア】!」
「【アイスバーグクラッシュ】」
妹と兄、それぞれから放たれる氷河が衝突する。
以前とは桁違いのエレメント。僅かながらにベルタの方が劣り、彼女に届く前で進行停止。
ベルタは氷河を足場に高く跳躍。バラバスの頭上を取ると、斧を振り落とす。
「はああああっ!」
斧は地面に直撃。斧を中心に広がる氷が、バラバスの足元へ迫る。
「……!」
まさか、とバラバスは全力で横へと回避。ベルタが生み出した氷が、バラバスの横を氷柱となって降り注ぐ。
ベルタと目が合ったバラバスは、不敵に笑みをこぼした。
甲高い金属音が響く。一つは砲台に付いた刃から、一つは大刃から。
ギリギリと鍔迫り合いになるも、圧倒的に不利となってしまう。
「【メガヒートブラスト】!」
零距離からの攻撃に、テラはレベッカから離れざるを得なかった。
「腕力も強くなったな」
「ええ……でもこっちもよ! 【ファイナルバースト】!」
砲口に集束させた火のエレメントを一気に発射する。
「受けて立つ! 【バーストストライク】!」
テラも掌に集束させた火のエレメントを火弾とし、レベッカの【ファイナルバースト】にぶつける。
威力は同等。テラは歯を見せて笑う。
(そろそろ頃合いか……?)
ヴァニラにバトンタッチした後、アランはまるで待っていましたと言わんばかりに立ち塞がるアイザックと激突していた。
「俺を前にして考え事とはいい御身分だなぁ!」
「オマエみたいにただ剣を振っているだけで済めば楽なんだけどな!」
ビキッ。アイザックのこめかみに青筋が浮かぶ。
「テメェだけは俺がぶっ飛ばす!!」
直後に放たれた攻撃の威力は明らかにおかしかった。究極進化しているアランの肌をビリビリと襲う。
アランは素早く光のエレメントで形成した剣をアイザックの足元に足止めとして、そして空へと高く投げる。
それを合図に、彼らは唱えた。
我望みしは恩恵の解放。解けし時こそ進化を遂げよ。
「……ようやくか」
視線をエステラに投げると、小さく頷いたのが見えた。
許可を得て、『闇黒騎士隊』もまた究極進化を遂げる。
「あの姿は一体……」
観客席で見守っていたセバスチャンがぽつりと溢す。隣ではアリスが「かっこいい〜!」と目をキラキラさせていた。
「……加護の力か」
「……」
ゼロが洩らした言葉を追求する真似はしなかった。聞いたところではぐらかされるのが関の山。
「ねぇ、さっきの話だけど僕『第14小隊』を応援しようかなぁ」
「おや、手のひら返しですか? それ程あの力は強いのでしょうか」
うーんと肯定とも否定とも取れない曖昧な態度のまま。
「というより、結末が読めたってところかな」
「と言いますと?」
「僕の予想が正しければ、彼らはあの姿で決着を付ける気はないよ」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「光よ、集え!」
“閃光剣”に光を集束させる。同様にブレイドも、“影切丸”に風を纏わせ、
「【アルタリアブリッツ】!」
「【ハルドラガスト】!」
眩い閃光に目が眩み、吹き荒れる疾風に身動きが取れなくなる。
「ベルタ! 今のうちに行くわよ!」
「ああ! いつでも来い!」
「【アンガブレイズスラッシュ】!」
「【ミラクロアグレイシア】!」
準決勝でも披露した連携を再び。彼らの何倍とある大きさの火弾を、丸ごと強固な氷牢へ閉じ込める。
「【エンドオブジェダル】」
間入れず、ヴァニラが闇のエレメントで形成した槍を等間隔にばら撒く。
全てが終わるまで30秒足らず。光と風が弱まり、周囲の異様な光景が目に入る。
だが、彼らとて戦士歴が浅いわけではない。冷静に、自分達が叩くべき存在へと視線を──
しかし、五人は加護の力を自ら“解いた”。
わざわざ強い力を手放し、もとの究極進化状態へと退化したことに驚愕する。
(自分達で退化するなど“想定外”だ……。が、やるべきことはなにも変わらない!)
「アイザック!!」
小さく舌を鳴らし、エステラと合わせる。
「闇を纏いし神殺しの刃──」
「光を纏いし魔殺しの双刃──」
「【闇黒閃光剣】!」
「【閃光剣双刃】!」
光と闇。別方向から放たれた強烈な攻撃に挟まれたアランは、その場から一歩も動かず直撃。
「……エステラ」
「言いたいことは分かっている。だが、アレが直撃した時点で【底力】は発動しないはず……」
二人分のスキル3。アランが持つ【底力】が発動しないほどのダメージ……つまり気絶するほどのダメージを与えたつもりだった。
生じた煙で遮られる視界。アイザックの目に映り込んだのは、刀を構えたまま自身に向かって疾走するブレイドの姿。
アイザックは煙を吹き飛ばし、ブレイドの刀を剣で受け止める。軽く弾くと、ブレイドは宙返りしながら高く跳躍。ブレイドによって遮られていた直線上に、宿敵の姿を見つける。
(アラン……!? あの一撃を耐えたのか!?)
僅かにも混乱する間。アランが横に構えた“閃光剣”を、ブレイドはあろうことか足場にした。
疾風の力を、今度は足元に集束させる。
その反動に耐えたアランの剣を蹴り、ブレイドは一直線にアイザックに接近。即座に防御体制を取ったアイザックの剣を弾き飛ばした。
「行け!!」
【底力】によって大幅に強化されたスキルが解き放たれる。
「【閃光剣・双】!!」
次の瞬間──アイザックの体はステージの壁に埋もれていた。
(なかなかやるじゃない。でも……!)
【底力】が発動しているということは、体力が残り少ないことと同じ。一人脱落した『闇黒騎士隊』にとっては、向こうも同様に降りてもらいたいこと。狙わないわけが無かった。
が、その刃によって阻まれる。
「ヴァニラ……!」
ミリアムの速さに追いついたヴァニラが刀を代わりに受け止める。
「アラン!」
「助かる!」
ヴァニラとブレイド、そしてレベッカが足止めしている間に、アランと合流したベルタは治癒効果を含んだ氷を生成。体力の半分以上を回復した。
ミリアムとの打ち合いを、ヴァニラは小刃を中心として戦っていた。同じスピード型でも速さはミリアム の方が上。
「分身……!」
ならば数で。ヴァニラは複数体の分身を作り出し、ミリアムへ。対してミリアムはすっと目の色を変えると、
「それを待っていたわ! 【ミラージュデス】!」
緑の閃光が分身達を一瞬にして消滅させる。分身達を作り出した今のヴァニラに残っているエレメントは僅か、自身の一撃を避ける術はない。
「もらっ……」
だが、本当にそれを待っていたのはヴァニラの方だった。
「【残影剣】」
振り落とした刀を、するりと躱したヴァニラ。そのままミリアムの背中に回ると、回し蹴り。先程作り出した闇の槍に激突させ、その衝撃で槍が爆発。それが引き金となり、他の槍に誘爆する。
ヂッ!
(不味い……!)
「エステラ! テラ!」
爆発によって削られた氷牢の中に閉じ込められた火弾が一気に膨れ上がる。
「【アイスバーグクラッシュ】!」
即座にバラバスのもとへ滑り込んだ二人を囲うように、氷塊を形成。爆風と衝撃から身を守る盾となる。
が、ピキピキと氷塊に入る亀裂。トドメとばかりに、氷牢の欠片が氷塊に直撃。火に飲み込まれた。
「かはっ……」
「平気か……?」
「アタシはな……だが、今の衝撃でテラが脱落した」
「どうやら向こうも、限界のようだな……」
ボロボロになったエステラの手を取り、助け起こす。彼らから少し離れた場所では、あの爆発を何とか耐え切った五人の姿。
「すまない……これ以上の回復は難しいようだ……」
「十分よ。回復手段が無いまま戦ったあのときと比べたら……」
「そうだな……いけるか?」
「当たり前だ。こんな事、今までに何回あったと思ってんだよ」
「うん。強ければ強いほど燃えてくる」
足並み揃う五人の戦士。
もう、出会ったばかりの彼らではない。
「……嬉しそうだな」
「当然だろう? 愛する弟子がこんなにも成長したのだからな。そういうバラバスこそ、嬉しそうだが?」
「……気の所為だろ」
再び武器を構え直す両者。
時間切れ となるその前に、決着を。
「行くぞブレイド!」
「おう!」
「ヴァニラ!」
「うん、合わせる!」
アランはブレイドと共にエステラを、ベルタはヴァニラと共にバラバスへと駆け出す。
「全力で来い! アラン!!」
「はい!!」
斜め上から下へ振り落とした初撃は、斜め下から上へ振り上げられた剣に弾かれる。そのまま鍔迫り合いになるも、エステラは剣を弾いて薙ぎ払い。死角を狙っていたブレイドの刀を軽く弾く。
「行きます! 【バリアントグレイシア】!」
「【奇襲鋭刃】!」
ベルタのスキルで遮断された視界を突き、一瞬だけ姿を消したヴァニラが死角から飛び込む。バラバスはギリギリで回避すると、斧で大きく薙ぎ払い。避けようと二人が自身から離れた隙に。
「エステラ! 【アイスバーグクラッシュ】!」
「【閃光剣双刃】!」
バラバスはアラン達に、エステラはベルタ達に向けてスキルを放つ。
「【風の障壁】!」
「【ファイナルバースト】!」
アランの前に立つブレイドがバラバスの攻撃を防ぎ、エステラの攻撃は待機していたレベッカによって打ち消された。
今しかない──!
「アラン!」
「ベルタ!」
「「「行け/行って!!」」」
三人に背中を押され、ありったけのエレメントを一撃に込める。
「【閃光剣・双】!」
「【ブリリアントグレイシア】!」
ビッーー!!
試合終了のブザー。
『決勝戦を制したのは……「第14小隊」だあああああああああああ!!』
湧き上がる歓声を全身で受ける。
全力を出し切った五人は、互いに健闘を讃えあった。
「部隊を離れようと思ってるって……なんで……」
長い沈黙を経て、アランは意味を汲み取れないまま口だけを動かしていた。
ブレイドは後頭部を掻きながら、苦笑いを浮かべる。
「別に嫌いになったとか、嫌になったからとかじゃないんだ。正直今の生活は楽しいし、ずっと続いてほしいって思うぐらいに」
両手を頭の後ろで組み、上体を後ろに傾ける。
「……俺が部隊に入ったのは、ヴァニラの情報を集める為だ。ミリアムに無理やり試験を受けさせられたってのもあるけど、最後は自分で決めた。その目的が叶った後は、同じ奴がいなくなるようにってアリーナに出て……」
「……そうだな。オレ達はそのために頑張ってきた」
「でも、優勝しただけじゃ何も変わらないんじゃないかって。最近思うようになってな」
星々を見上げていた目を細める。
「やっぱり意識を変えるには直接会った方がいい。それには時間が必要になる。依頼の合間にやってる暇はないから……だからその……」
ここに来て口籠るブレイドに、アランは息を吐く。
「分かったよ。お前が先の先まで考えた結論だってことは」
アランも同様に寝転ぶ。
「ヴァニラ達や、ハルドラ様にはいつ言うつもりだ?」
「大会が終わってから。俺のことで余計な混乱を招きたくないし」
「それがいい。……でもハルドラ様に報告するときは、オレも一緒に行かせてほしい」
「いいけど……何かリーダーがする事でもあるのか?」
いや、と小さく首を横に振る。
「……部隊は、各属性から1人ずつ集められて結成されることが多いんだ。空白となった席に誰か入ることはないと思うが……まあ、念のために」
「念って……何で?」
「空けとくんだよ。オマエが帰ってこれるようにさ」
潤む視界を、瞼を下ろして蓋をする。
「……アラン」
「ん?」
「ありがとな」
「……ああ」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
一週間後──……
決勝戦当日。
「人いっぱいだね」
「決勝戦ですからねぇ。チケットも即完売だったようですよ」
「じゃあにぃにに感謝しないとねっ」
「はい」
人で埋め尽くされたアリーナ会場の観客席に、執事セバスチャンと義妹アリスが並んで着席。
「やぁ、二人も来ていたんだね」
短く片手を挙げながらゼロが二人に声を掛けた。そのままセバスチャンの隣に着席。
「おじさんも来てたの?」
「“お兄さん”の間違いだよ。どんな戦いになるか気になってね」
「下見の間違いでは?」
「応援だって」
「本当ですかな〜……?」
「あ、信じてないね」
そう微笑み合うも、両者共に目は笑っていない。
「応援って……どっちの応援?」
「もちろん『第14小隊』ですよね?」
「笑顔で圧をかけないでくれるかい? 強いて言うならどっちもかな」
「おや、中立は敵を作りやすいのですよ」
「中立というより、それぞれの出方によってかな」
「下見じゃないですか」
「応援だって」
仲睦まじく(?)言葉を交わし合う二人に、アリスは一人頬を膨らませた。
「……仲間はずれ」
アリーナ会場、関係者以外立入禁止エリア。
コンコンと二回ノック。扉の向こうから『どうぞー』との声。
「失礼します」
『第14小隊』のメンバー、アラン達五人が試合前に訪れたのは相手部隊の控室。扉を開けた先には見慣れた五人の姿。
「
決勝戦の相手……それは、彼らにとって最後を飾るに相応しい『闇黒騎士隊』だった。
「まさか貴方とアリーナでぶつかるなんて……少し前までは考えられなかったわね。ブレイド」
「そうだな。……でも、負けるつもりはない。な、ヴァニラ」
「うん。ミリアムと戦えるの楽しみにしてた」
「私もよ」
「兄さん。私はあの時、兄さんに遠く及びませんでした」
「……」
「ですが、今の私達なら超えられる自信しかありません」
「……随分と言うようになったな。なら示してみろ。私達に……観客にな」
「勿論です」
「フン、俺はお前なんかに負けねーからな」
「オレだってそのつもりだ」
「アンタ達、くれぐれも試合中に因縁発動してくれるなよ?」
「「するわけ……あっ。」」
「仲いいな」
「……良い仲間と出会ったな」
「ええ、本当に……。感謝してもしきれないわ。……テラ兄も、ありがとう」
「……そういうのは、終わってからにするもんじゃないのか?」
「フフッ、それもそうね」
やがて、試合開始数分前を知らせるアナウンスが流れた。
「ではまた、会場で会おう」
そう言って『闇黒騎士隊』は持ち場へと。彼らもまた、指定された入口へと向かう。
「緊張してきたわね……」
「おおお落ち着けレベッカ」
「お前が落ち着けよ」
「す、すまない……少し取り乱してしまった……」
「逆に肩の力が抜けてよかったわよ」
緊張するのも無理はない。この戦いによっては、今後のあり方が変わるのだから。
入口前。次なるアナウンスを前に、ふいにヴァニラが口を開く。
「ねえ、なにか気合いが入るようなことしない?」
「円陣を組むようなこと?」
「そう」
改めて思い返してみれば、彼らは一度たりともそのようなことをしてはいなかった。
「じゃあ何するか考えてくれ、アラン」
「は!? 今!?」
「今。」
他人任せかよ、と返しつつ思考を巡らせる。
「こういうのはどうだ?」
少しして、アランは握りしめた拳を前に突き出した。普通は掌を重ねるのではないかと疑問符が浮かぶ。
「……初めの頃は、それぞれの願いや考え方がぶつかってバラバラだっただろ。でも今は、それぞれの願いや考え方は変わらないまま一つになった。それを表すには、
恐る恐る訊ねるも、四人はポカーン。失敗したか? と感じるアランの拳に、次々と仲間達の拳が。
「良いな、それ」
「うん。すごくいいと思う」
「気に入ったぞ」
「ええ。とっても」
円になり、それぞれの想いを乗せた拳を並べる。
「……よし、行くぞ!」
「「「「おおっーー!!」」」」
コツン、と。拳を突き合わせた。
『御来場の皆様、大変長らくお待たせ致しました! これより準決勝を勝ち上がった二部隊による決勝戦の幕開けです!!』
ワアアアアアッ──!
“はじまりの地”の果てにまで届きそうな歓声の嵐が吹き荒れる。
「……」
今しがた会場にやって来たアッシュは、観客席の端の壁に靠れ、ステージへと視線を。
両部隊が配置につくと同時、観客席を結界が覆う。それぞれが武器を呼び出し、試合開始のカウントダウンが刻まれる。
「アラン」
右側から投げかけられる。
「右は任せろ」
左側から、ハッキリと答える。
「ああ。……左は任せろ、ブレイド」
ビッーー!!
決勝戦が、始まった。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
試合開始直後。アラン達五人は究極進化を果たし、彼らにぶつかっていく。
その裏では──……
「ハルドラ様、あまり身を出されますと怪しまれます」
側近のアルボスに嗜められ、ハルドラは渋々席に腰を落とす。
ハルドラ達……モルス達は、主徴であるフードを深く被ったまま特設の観覧席にて試合の行く末を見守っていた。傍にはそれぞれの側近も控えており、周囲には彼ら以外居ない。
「分かってるけどさぁ〜……決勝戦が終わるまで接触しちゃいけなかったから余計に気になっちゃうんだよ〜!」
「その気持ちは分からなくもない」
「でしょ! あ〜、早く終わってくれないかな〜……」
頭を抱えるハルドラを優しくアルタリアは慰める。オイオイとアンガジト目。
「早く終わったら決勝戦の意味ねーよ?」
「うむ。アンガの言う通りじゃ」
「
「……テメーらは演劇でも観てるのかよ?」
オペラグラスを覗き込む二人。言っておくが、そんなもんなくても見える。
「頑張ってね……」
「ぐっ……!」
四肢から上がる悲鳴に、呻き声が洩れる。
「どうしたアラン。来ないのか?」
ギリギリと剣に力を込めながら、エステラは余裕綽々と笑みを浮かべる。
アランは軽く剣を弾き、腰を落として下から斜め上へ振るう。エステラは剣で軌道をズラし、高く振りかぶる。
「【ドラグナーレイド】!」
近距離で放たれた光の一撃を、紙一重で躱す。すかさず振るわれた二撃目。それを受け止めたのはアランではなくヴァニラ。それも……。
(分身! 次は……後ろか!)
即座に剣を背後へ。予想は的中し、金属音が響き渡る。
「見事な分身だな。一瞬本物かと思ったぞ」
「ありがとう」
アランと入れ替わったヴァニラは、素早さを生かして四方から攻める。エステラは一つ一つを確実に対処しながら、隙あらば攻撃を。
「【閃光剣・双】!」
十字に交わる閃光の僅かな合間を縫い、反撃。
「【鋭刃】」
キィン、と軽々受け止められる。攻撃の弱さに違和感。すぐに意図を察する。
(アタシ達に、究極進化させるつもりか……)
だが、彼らにも彼らなりの考えがある。
大剣を構えるエステラに、ヴァニラも双刃の柄を握り直す。
目にも追えぬ速さで飛び回る二つの影。
二振りの刀を、一振りの刀で受け流してゆく。
「こうして戦うのは久しぶり、ね!」
語尾を強めると同時に回し蹴り。体を逸らし回避すると、脇目掛けて一突き。当然ながら避けられる。
「あの時は俺が勝ったけどな!」
「“あの時”はでしょう? 今は違うわ!」
距離を置き、腰を落とすミリアム。
ブレイドは直感に従ってスキルを発動。
「【夢幻残影神剣】!」
「【ミラージュデス】!」
刹那にも満たぬ時の中で繰り出される連撃。先にスキルを発動させたブレイドでも完全に避け切ることは出来ず、肌に幾つもの赤い線が。
「今なら、貴方に負けないわよ」
「……もしかしてちょっと根に持ってたり」
「してないから」
「してんじゃねぇか……」
「【ブリリアントグレイシア】!」
「【アイスバーグクラッシュ】」
妹と兄、それぞれから放たれる氷河が衝突する。
以前とは桁違いのエレメント。僅かながらにベルタの方が劣り、彼女に届く前で進行停止。
ベルタは氷河を足場に高く跳躍。バラバスの頭上を取ると、斧を振り落とす。
「はああああっ!」
斧は地面に直撃。斧を中心に広がる氷が、バラバスの足元へ迫る。
「……!」
まさか、とバラバスは全力で横へと回避。ベルタが生み出した氷が、バラバスの横を氷柱となって降り注ぐ。
ベルタと目が合ったバラバスは、不敵に笑みをこぼした。
甲高い金属音が響く。一つは砲台に付いた刃から、一つは大刃から。
ギリギリと鍔迫り合いになるも、圧倒的に不利となってしまう。
「【メガヒートブラスト】!」
零距離からの攻撃に、テラはレベッカから離れざるを得なかった。
「腕力も強くなったな」
「ええ……でもこっちもよ! 【ファイナルバースト】!」
砲口に集束させた火のエレメントを一気に発射する。
「受けて立つ! 【バーストストライク】!」
テラも掌に集束させた火のエレメントを火弾とし、レベッカの【ファイナルバースト】にぶつける。
威力は同等。テラは歯を見せて笑う。
(そろそろ頃合いか……?)
ヴァニラにバトンタッチした後、アランはまるで待っていましたと言わんばかりに立ち塞がるアイザックと激突していた。
「俺を前にして考え事とはいい御身分だなぁ!」
「オマエみたいにただ剣を振っているだけで済めば楽なんだけどな!」
ビキッ。アイザックのこめかみに青筋が浮かぶ。
「テメェだけは俺がぶっ飛ばす!!」
直後に放たれた攻撃の威力は明らかにおかしかった。究極進化しているアランの肌をビリビリと襲う。
アランは素早く光のエレメントで形成した剣をアイザックの足元に足止めとして、そして空へと高く投げる。
それを合図に、彼らは唱えた。
我望みしは恩恵の解放。解けし時こそ進化を遂げよ。
「……ようやくか」
視線をエステラに投げると、小さく頷いたのが見えた。
許可を得て、『闇黒騎士隊』もまた究極進化を遂げる。
「あの姿は一体……」
観客席で見守っていたセバスチャンがぽつりと溢す。隣ではアリスが「かっこいい〜!」と目をキラキラさせていた。
「……加護の力か」
「……」
ゼロが洩らした言葉を追求する真似はしなかった。聞いたところではぐらかされるのが関の山。
「ねぇ、さっきの話だけど僕『第14小隊』を応援しようかなぁ」
「おや、手のひら返しですか? それ程あの力は強いのでしょうか」
うーんと肯定とも否定とも取れない曖昧な態度のまま。
「というより、結末が読めたってところかな」
「と言いますと?」
「僕の予想が正しければ、彼らはあの姿で決着を付ける気はないよ」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「光よ、集え!」
“閃光剣”に光を集束させる。同様にブレイドも、“影切丸”に風を纏わせ、
「【アルタリアブリッツ】!」
「【ハルドラガスト】!」
眩い閃光に目が眩み、吹き荒れる疾風に身動きが取れなくなる。
「ベルタ! 今のうちに行くわよ!」
「ああ! いつでも来い!」
「【アンガブレイズスラッシュ】!」
「【ミラクロアグレイシア】!」
準決勝でも披露した連携を再び。彼らの何倍とある大きさの火弾を、丸ごと強固な氷牢へ閉じ込める。
「【エンドオブジェダル】」
間入れず、ヴァニラが闇のエレメントで形成した槍を等間隔にばら撒く。
全てが終わるまで30秒足らず。光と風が弱まり、周囲の異様な光景が目に入る。
だが、彼らとて戦士歴が浅いわけではない。冷静に、自分達が叩くべき存在へと視線を──
しかし、五人は加護の力を自ら“解いた”。
わざわざ強い力を手放し、もとの究極進化状態へと退化したことに驚愕する。
(自分達で退化するなど“想定外”だ……。が、やるべきことはなにも変わらない!)
「アイザック!!」
小さく舌を鳴らし、エステラと合わせる。
「闇を纏いし神殺しの刃──」
「光を纏いし魔殺しの双刃──」
「【闇黒閃光剣】!」
「【閃光剣双刃】!」
光と闇。別方向から放たれた強烈な攻撃に挟まれたアランは、その場から一歩も動かず直撃。
「……エステラ」
「言いたいことは分かっている。だが、アレが直撃した時点で【底力】は発動しないはず……」
二人分のスキル3。アランが持つ【底力】が発動しないほどのダメージ……つまり気絶するほどのダメージを与えたつもりだった。
生じた煙で遮られる視界。アイザックの目に映り込んだのは、刀を構えたまま自身に向かって疾走するブレイドの姿。
アイザックは煙を吹き飛ばし、ブレイドの刀を剣で受け止める。軽く弾くと、ブレイドは宙返りしながら高く跳躍。ブレイドによって遮られていた直線上に、宿敵の姿を見つける。
(アラン……!? あの一撃を耐えたのか!?)
僅かにも混乱する間。アランが横に構えた“閃光剣”を、ブレイドはあろうことか足場にした。
疾風の力を、今度は足元に集束させる。
その反動に耐えたアランの剣を蹴り、ブレイドは一直線にアイザックに接近。即座に防御体制を取ったアイザックの剣を弾き飛ばした。
「行け!!」
【底力】によって大幅に強化されたスキルが解き放たれる。
「【閃光剣・双】!!」
次の瞬間──アイザックの体はステージの壁に埋もれていた。
(なかなかやるじゃない。でも……!)
【底力】が発動しているということは、体力が残り少ないことと同じ。一人脱落した『闇黒騎士隊』にとっては、向こうも同様に降りてもらいたいこと。狙わないわけが無かった。
が、その刃によって阻まれる。
「ヴァニラ……!」
ミリアムの速さに追いついたヴァニラが刀を代わりに受け止める。
「アラン!」
「助かる!」
ヴァニラとブレイド、そしてレベッカが足止めしている間に、アランと合流したベルタは治癒効果を含んだ氷を生成。体力の半分以上を回復した。
ミリアムとの打ち合いを、ヴァニラは小刃を中心として戦っていた。同じスピード型でも速さは
「分身……!」
ならば数で。ヴァニラは複数体の分身を作り出し、ミリアムへ。対してミリアムはすっと目の色を変えると、
「それを待っていたわ! 【ミラージュデス】!」
緑の閃光が分身達を一瞬にして消滅させる。分身達を作り出した今のヴァニラに残っているエレメントは僅か、自身の一撃を避ける術はない。
「もらっ……」
だが、本当にそれを待っていたのはヴァニラの方だった。
「【残影剣】」
振り落とした刀を、するりと躱したヴァニラ。そのままミリアムの背中に回ると、回し蹴り。先程作り出した闇の槍に激突させ、その衝撃で槍が爆発。それが引き金となり、他の槍に誘爆する。
ヂッ!
(不味い……!)
「エステラ! テラ!」
爆発によって削られた氷牢の中に閉じ込められた火弾が一気に膨れ上がる。
「【アイスバーグクラッシュ】!」
即座にバラバスのもとへ滑り込んだ二人を囲うように、氷塊を形成。爆風と衝撃から身を守る盾となる。
が、ピキピキと氷塊に入る亀裂。トドメとばかりに、氷牢の欠片が氷塊に直撃。火に飲み込まれた。
「かはっ……」
「平気か……?」
「アタシはな……だが、今の衝撃でテラが脱落した」
「どうやら向こうも、限界のようだな……」
ボロボロになったエステラの手を取り、助け起こす。彼らから少し離れた場所では、あの爆発を何とか耐え切った五人の姿。
「すまない……これ以上の回復は難しいようだ……」
「十分よ。回復手段が無いまま戦ったあのときと比べたら……」
「そうだな……いけるか?」
「当たり前だ。こんな事、今までに何回あったと思ってんだよ」
「うん。強ければ強いほど燃えてくる」
足並み揃う五人の戦士。
もう、出会ったばかりの彼らではない。
「……嬉しそうだな」
「当然だろう? 愛する弟子がこんなにも成長したのだからな。そういうバラバスこそ、嬉しそうだが?」
「……気の所為だろ」
再び武器を構え直す両者。
「行くぞブレイド!」
「おう!」
「ヴァニラ!」
「うん、合わせる!」
アランはブレイドと共にエステラを、ベルタはヴァニラと共にバラバスへと駆け出す。
「全力で来い! アラン!!」
「はい!!」
斜め上から下へ振り落とした初撃は、斜め下から上へ振り上げられた剣に弾かれる。そのまま鍔迫り合いになるも、エステラは剣を弾いて薙ぎ払い。死角を狙っていたブレイドの刀を軽く弾く。
「行きます! 【バリアントグレイシア】!」
「【奇襲鋭刃】!」
ベルタのスキルで遮断された視界を突き、一瞬だけ姿を消したヴァニラが死角から飛び込む。バラバスはギリギリで回避すると、斧で大きく薙ぎ払い。避けようと二人が自身から離れた隙に。
「エステラ! 【アイスバーグクラッシュ】!」
「【閃光剣双刃】!」
バラバスはアラン達に、エステラはベルタ達に向けてスキルを放つ。
「【風の障壁】!」
「【ファイナルバースト】!」
アランの前に立つブレイドがバラバスの攻撃を防ぎ、エステラの攻撃は待機していたレベッカによって打ち消された。
今しかない──!
「アラン!」
「ベルタ!」
「「「行け/行って!!」」」
三人に背中を押され、ありったけのエレメントを一撃に込める。
「【閃光剣・双】!」
「【ブリリアントグレイシア】!」
ビッーー!!
試合終了のブザー。
『決勝戦を制したのは……「第14小隊」だあああああああああああ!!』
湧き上がる歓声を全身で受ける。
全力を出し切った五人は、互いに健闘を讃えあった。