Five Elemental Story

28話 アリーナ大会編【前編】


 パンパンッ──!

 晴天に向けて放たれる空砲の音と、集いし戦士達に実感が湧いてくる。


『これより、アリーナ大会開会式を開催いたします』


 来る今日。アリーナ大会の開会式が、“はじまりの地”にあるアリーナ会場にて行われた。

 開会式となる本日は観客を入れず、部隊のリーダーと副リーダーのみ会場に集合している。他のメンバーは各々の拠点で、中継映像を見ている。

 アナウンスが入ると同時。『モルス』の五人が会場裏から登場し、そのうちの一人──“白獅子王”が係員からマイクを受け取り話し始めた。

『皆の者。時間の合間を縫って参加してくれたこと、とても嬉しく思う。これから仕事に赴く者もいるだろうが、まずは我の話を聞いてほしい』

 部隊のリーダーと副リーダーが立ち並ぶ中、『第14小隊』の代表として出席しているアランとレベッカは緊張しながらも白獅子王の話に耳を傾ける。

『今回のアリーナ大会は、通常の個人戦とは違いチーム戦。己の実力が高ければ良いという訳ではない。メンバーとの“絆”が試される場だ。だが、絆が強ければ勝てる訳でもなく、敗れてしまうことも時にあるだろう。仮に敗北してしまっても、そこから得られるものもあるはずだと我々は思う。このアリーナ大会で皆が少しでも成長することを祈って、会式の言葉を終わろう』

 一同から拍手が送られる。

 白獅子王は片腕を上げると拍手が鎮まる。

『では次にルールを改めて説明させてもらう。資料については各々に配布したエレパッドに転送させて貰っている。後で出場メンバー達とも確認してほしい』

 側で待機している係員に目配せすると、一同の斜め上空に巨大なビジョンが出現する。

『始めに競技方法はトーナメント式だ。一度でも敗北した場合は即脱落となる。
次に参加人数は五人。それ以上も以下も認められないので気をつけるように。
次に勝敗についてだが、相手部隊を全員気絶させることが条件となる。どんな手段を用いても構わないが、予めステージに細工を施すこと、第三者の関与を疑われる行為など、此方が不正と判断した場合即失格。相手部隊の命を奪う行為は、例え未遂であっても逮捕の対象となるので心得ておくこと。また、設けた制限時間内に勝敗が付かなかった場合は、気絶していない人数か、ダメージ量で勝敗を判断する。この判断についてはこちらで正当に判断する。
最後に、開催期間は現時点では一ヶ月。試合は全てここアリーナ会場で行われ、四つに振り分けられたブロックずつの戦いとなる。各ブロックの一位が準決勝に進み、AB・CDの勝利部隊が決勝戦へ。準決勝から決勝戦までは一週間のスパンを設ける。ではこれより、各ブロックの部隊を発表する』

 全ての部隊名が読み上げられると、開会式は閉式。その場で解散となった。

「ワタシ達はBブロックね」

 未だ会場に残る二人は、ビジョンに映し出されたままのトーナメント表を共に見上げる。

「そうすると、準決勝ではAブロックの一位とぶつかるのか……おわっ」
「優勝狙いか? 初参加なのによくやるな」

 そう『闇黒騎士隊』リーダーのエステラが、アランの肩に腕を回しながら話しかけてきた。エステラと共に参加していたバラバスも三人の後ろでビジョンを見上げる。

「バラバスさん達はCブロックですよね」
「そうだな。当たるとすれば決勝戦か」
「バラバス〜、あまりプレッシャーはかけてやるなよ? アラン達は初参加なんだから」
「初参加であろうと、オレ達が狙うのは優勝だけです」

 エステラはアランの肩から腕を下ろすと、顎に手を添えながら。

「……ただ強さを証明したいってわけじゃなさそうだな。なにかあるのか?」

 アランはレベッカと視線を交えて頷く。

「ハイ。オレ達は“五人”で勝ち抜いてみせます」
「だから待っていてください。ワタシ達が、這い上がるのを」

 腕を組み、二人を見据えるエステラの口角は上がっていた。

「……楽しみにしていよう」


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


 開会式から数日──……

 五人は無事にBブロックの覇者となり、準決勝へ進む事となった。準決勝でぶつかるAブロックの覇者は……。

「きっと、君達だろうと思っていた」

 湧き上がる歓声。ステージ上で互いに向かい合う10人の戦士。

 そう微笑みかけるのは、『円卓の騎士隊』リーダーを務めるアーサー。以前交流したメンバーと同じ顔ぶれだった。

「これまでの試合……とても結成してから数ヶ月とは思えない戦いぶりだった。私達も負けていられないなと、控室で話していた」

 試合開始まで残りわずか。最後に、と五人に問いかける。

「君達はどうして優勝を目指しているのか。良ければ聞かせてくれないか?」
「それは……」

 自身の眼前に差し出された手に、答えようとしたアランは口を閉ざす。

「それは、俺達が優勝すれば分かること……です」

 ブレイドの言葉に、アーサーはそうだなと微笑む。

『長らくお待たせいたしました。これよりAブロック対Bブロック、Cブロック対Dブロックの準決勝を行います。出場部隊は配置についてください。繰り返します──』

「ではお互い、正々堂々と戦おう」
「ハイ」

 二部隊はそれぞれ決められた配置に歩いて向かう。その途中、不意にアーサーは笑みを溢した。

「……楽しみだな」





 ビーッ!

 バトル開始のブザー音が響き渡る。より一層湧き上がる歓声を受けながら、二つの部隊の戦士達はほぼ同時に究極進化を果たす。

 先に駆け出したのはランスロット。続けてガウェインが並び、レベッカに接近。“アロンダイト”と“ガラティン”の刃が、青く、赤く、光を放つ。

「【アヴァロンズアロンダイト】」
「【アヴァロンズガラティン】!」

 迫り来る青と赤の閃光を横に飛び避け、お返しとばかりに“バーストキャノン”を構え、発射。

「はああああっ!」

 ランスロットは剣の柄を両手で握り、高く振りかぶると火弾を縦に切り裂いた。衝撃で吹き荒れる砂埃に、映る一つのシルエット。

 “ここか……!?”

 跳躍したガウェインはレベッカが立っていた位置に剣を振り落とす。得た手応えはなく、即座に体制を整えて辺りを警戒する。

 ヒュッ。

 ハッとして顔を少しずらすと、顔スレスレに氷柱が通り過ぎてゆく。すぐさま後退し、ランスロットと合流。砂埃を一掃した。

「【ブリリアントグレイシア】!」



 ヒュンヒュンと飛び交う紫紺色の矢を、持ち前の速さで躱し続ける。

「……」

 まるで竪琴ハープのような金色の弓を構え、弦を弾くトリスタンの瞳に映るのは一人の青年。

 二本の矢を番えると、静かに告げる。

「【ツイストフォースアロー】」

 闇のエレメントを乗せて放たれる二本の矢。

 ブレイドは“影切丸”を握りしめ、二本とも弾く。そのまま接近戦に持ち込むブレイドを、トリスタンは弓で剣先を逸らしながら一定の距離を空ける。

 “やっぱりそう簡単にいかねぇか……”

 回し蹴りを回避するブレイドの耳に、仲間の声が聞こえてきた。

「ベルタ!」
「分かった! いつでも来い!」

 明らかに何か仕掛ける様子の二人を前に、ランスロットは剣を掲げて淡い光で自身を含める味方を包み込む。防御力が上がると同時、レベッカは“バーストキャノン”にエレメントを集中。

「【ファイナルバースト】!」

 砲口から火のエレメントが発射される。が、向かう先はランスロットでもガウェインでも、はたまた他の『円卓の騎士隊』メンバーでもなく。仲間であるベルタのもと。

「【ブリリアントグレイシア】!」

 ベルタは目前に迫る【ファイナルバースト】を、あろうことか自身の氷の中に閉じ込めた。

 火と水。相反する二つの力の合わせ技に、戦士だけでなく観客にも衝撃が走る。

 ──次の瞬間。トリスタンの前からブレイドが消えた。

 正確には、ブレイドは風を纏い、超全力疾走で舞台の壁に向かっていた。

「あああああああああっ!!」

 ベルタは“アブソリュートグレイシア”を横に構え、火弾が中で揺らめく氷塊を覇気と共に空へと“打った”。氷塊が飛ばされた先に、壁を蹴って高く跳躍するブレイド。氷塊の上に着地すると、重力に従って急降下する氷塊に刀を。

「【夢幻残影神剣】!」

 発動直後。ブレイドは勢いよく氷塊を蹴り付けた。


 ゴオォォォォンッッ──!!


 空中で砕け、雨の如く降り注ぐ氷塊。
 氷塊が無くなったことで火弾が大爆発。

 その威力は、モルスの力で守られた観客席を恐怖で震撼させるほど。


『は……判定が出ました……。「第14小隊」一人生存により、Aブロック対Bブロックの勝者は「第14小隊」!』


 先程までの静寂が嘘だったかのように、アリーナ全体から湧き上がる歓声。

 一人生き残ったブレイドは人知れず安堵し、救護班の手伝いに加わった。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


 ──はじまりの地、『第14小隊』拠点。

「ハァ〜〜〜〜〜……」

 帰宅して早々ソファーに飛び込み、長い長い溜め息を洩らすのはレベッカ。

「上手くいってよかったぁぁぁ……」
「練習では一回しか成功しなかったしな」
「火事場の馬鹿力ってやつだろ」

 『ムーンナイトプリズン』では、火の加減や氷の調整がうまくいかず、どちらかが消えてしまっていた。

「あれで勝てなかったら押し切れなかっただろうし、うまくいってよかった」
「決勝戦で使う予定の策も使わずに済んだしな。自滅した甲斐があったな……」
「痛かったけど」
「加減出来なくて悪かったな」
「するな」
「そういえば、CとDブロックの戦いってどうなったのかしら」

 会話片耳にアランは食事の準備をしようと冷蔵庫を開けた。

「……しまった。食材買ってくるの忘れてた」
「そういえば昨日、忙しくて買うの明日にしようって話してたわね……」
「じゃあ買って来る」

 と、立ち上がるブレイドに唖然。

「明日は雹か……?」
「失礼だな」
「というか、買ってこなくても頼めばいいじゃない」
「今流行りの出前だな」
「……流行りだったか?」

 何にしようかとエレパッドに集まる五人。すると、チャイム音が鳴り響いた。

「もう頼んだのか?」
「まだ頼んでないぞ」
「わたし出てくる」

 ひょいっと扉を引きながら、顔を覗かせる。

「どちらさま……あっ。」
「久しぶりだな。ヴァニラ」
「アッシュ……」

 そこに立っていたのは、ヴァニラの師であるアッシュだった。

「本当に……アッシュなの?」
「酷いな。死人みたいな扱いを受けるとは思っていなかったぞ」

 頭を数回優しく叩かれる。じわっと目尻に涙が溜まるが、気付かれる前に拭う。

「お前! 何しに来た!!」
「来て早々そんな言い草はないだろう」
「するわ! こちとら妹を殺されかけてんだぞ!!」
「ごもっともだ。だが、少しだけ私の話を聞いてくれないか」

 ヴァニラを除く四人は互いに顔を見合わせる。

「……分かった」



「では改めて名乗らせて貰おう。アッシュだ。君達の名前と顔は一通り把握しているから紹介は不要だ」
「はあ……」

 何で知っているんだろうと心の声が合わさる。

「まずはアリーナ大会決勝戦進出おめでとう。試合を見ていたが、自分達ごと相手を全滅させるとは……」
「来てたの?」
「見に行ってこいと言われたものでな。それはそうと、決勝戦に向けての策は考えているのだろうな。彼ら相手に、生半端な策は通用しないだろう」
「彼らって……」

 告げられた部隊と、彼らが思い返していた部隊名が密かに重なる。

「……今までのを見ている限り、何かしらの対策は打っているのだろう。ただ、より正確なものとするには指南役が必要かと思ってな」
「……は?」
「決勝戦までの期間限定で、私が臨時でコーチを務めよう」

 訪れる静寂。アッシュがコーヒーを一口含む音が静かに響く。

「ええええええええ」
「ありがとう、アッシュ」

 かくして、一週間だけの短い期間。アッシュは『第14小隊』を指南することに(強制)なった。





 満天の星々が夜空に煌めく時刻。

 拠点の近くに広がる草原に、ぽつんと座る人影。

「ブレイド。来たぞ」

 何処か遠い場所を見つめていたブレイドは、やって来たアランに「呼び出して悪いな」と声を掛ける。

「わざわざ外に呼び出すってことは、そんなに大事な話なのか?」

 隣に座るアランを一瞥。ああ、と小さく頷く。

「まだ……悩んでいるからな」

 変な胸騒ぎを覚えた。

「話って……なんだ?」

 さわさわと夜風が頬を撫でる。

「……俺、大会が終わったら……



部隊を、離れようと思ってる。」

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