第1.5部短編集


“エレメンタル大陸”に上陸後。レイはキャリーケースをゴロゴロ引きながらとある場所へ。

「ここ……かな?」

地図を広げ、目の前の光景と見比べる。表札には“もみじ荘”との文字が。名前の通り古風な……とは言い難い程ボロいアパートを前に、レイは肩を落とすどころか瞳をキラキラと輝かせていた。

(すっっごくボロい! でもこのぐらいのボロさなら大声でシャウトしても怒られなそう!)

基準がおかしい。

早速管理人さんに挨拶しなきゃ、と辺りを見渡していると。

「レイさんかのぅ。今日から入居する……」

年老いた男性に名を呼ばれ、元気よく返事をする。

「あ、はい! 管理人さん……ですよね?」
「そうじゃ」
「今日からお世話になります!」

と、90度に腰を曲げて頭を下げるレイに、管理人はひらひらと手を振って。

「お前さん以外に住んでおらんから気にせんでいいぞ」
「そうなんですか? てっきり管理人さんも住んでいるのかと……」
「昨日まで住んでいたのじゃが、これから旅に出ようと思ってな」
「へー……、ん?」

レイ、違和感に気づく。

「た、旅??」
「若い者の活躍を見ていると動きたくなってのぅ。ほい、これがお前さんの部屋と管理人室の鍵じゃ」
「え、え?」
「わしが帰ってくるまで、管理人は任せたぞー」
「はぁ!? いやちょっと待っ」

引き止める間も無く、管理人……いや老いた旅人は旅立っていった。

「……ここの人達って、旅に出るのは普通なのかな……」

そう間違った認識をし、レイは(強制的に)“もみじ荘”の管理人を任される。

(まあ……いっか。僕しか住んでいないなら楽だしね。それより荷物置いて『ミラージュ・タワー』に行かないと)

“エレメンタル大陸”で暮らすにあたり、手続き等々を済ませなければならない。キャリーケースを置き、肩掛けバックを持って出発。高い建物はそうそう無いので、地図を見なくとも辿り着けた。


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『ミラージュ・タワー』から帰宅後。レイは、自身の上司に当たる人物に電話する。

コール音が長く続いたが、やがてブチッと電話が繋がる。

「あ、もしも」
『何回もうっせんだよ!! 仕事中だバカ!!』

画面の向こうから飛んでくる怒号が耳を貫く。キーンと痛くなるも、ギリギリで踏ん張っては負けない声量で。

「じゃあ説明しといて下さいよ! なんで僕こんなに優遇されているんですか!?」

恐らく向こうも同じ状態になっているのだろう。思いっきり携帯を耳から離した音が聞こえる。

『てめぇがそこに行きたいつったから仕事として手配した』
「そこまでは聞いてますし有り難く思ってますよ」
『俺はそっちに部下が行くとしか言ってねぇ。なんだぁ? ご丁寧にもてなされたか?』
「その通りですし、なんか……警戒されてます……」

どうしたらいいでしょうかと助けを求める。

『知らね。だって俺、てめぇみたいにドMじゃねぇし』
「関係ないですし加速させたのは何処の誰だぁ!!」
『上司に向かってタメ口とはいい度胸だなぁ? ああ!?』
「すいません!!」

とにかく、と話を切り上げて。

『俺が出来るのはここまでだ。あとはてめぇでどうにかしろ』

ブチッと途切れる通話。向こうの忙しさが伺える。

遅れてレイも通話を切ると、溜め息を一つ。

「……僕生きていけるかな」

早速死にそうになるとは、この時は思いもしなかった。
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