第1部短編集


 それは、本編(21話)より少し前の出来事──……。

 “はじまりの地”に位置する『英知の書庫』には、極々一般的な文学書から危険な禁書まで、あらゆる書物が揃っており、大陸一とも言われているほど。

 そんな『英知の書庫』の管理人であるリベリアは、一時期体を悪魔パラサイダーに乗っ取られていたが、四人の冒険者によって救われた過去を持つ。それ以降、彼女は自身の過ちを許してくれた書庫の仲間達と共に、より一層業務に勤めていた。……が、再び揺らめく不穏な影。


「捕まえたぞ!!」


 を、書庫の古株でもあるプロスペローは捕まえ、つまみ上げる。ちなみに捕まっているのは、リベリアの敵でもあるパラサイダー。

「捕ま……ハァ……もう……ハァ……逃げ……ハァ……られ……ハァ……んぞ……ハァ……」
『ジジイノ癖ニ見栄張るからそうナるんだヨ』
「その憎たらしい口を閉じろ悪魔め!」

 怒鳴りつけるプロスペローに、パラサイダーは嘲笑うように声を上げる。

「何事ですか、プロスペロー」

 そこに、騒ぎを聞きつけたリベリアが合流。つまみ上げられているパラサイダーに気付き、目を細めた。

「お嬢! こいつ魔除けを潜り抜けて侵入して来たんですよ!」
『ジジイは黙っとケ。オレはソノ女ニ用があってキた』
「貴様! お嬢の体を支配するに飽き足らず、まだなにかしようと言うのか!」

 リベリアは静観していたが、やがて溜め息を口から吐き出して。

「……話を聞きましょう」
「お嬢! こやつの話なぞ聞く要素が何処にございますか!」
「私の為を想い、言っているのは分かりますが少し落ち着きなさい、プロスペロー。以前と比べ、その悪魔の力は弱まっていますが、貴方の手から抜け出すのは簡単な筈です。それをしないと言うことは、少なくとも敵意は無いと考えてよいかと。あ、そのまま捕まえてては下さいね。いざとなったら踏みつけて構いませんから」
『構わナくネーヨ』

 プロスペローは渋々と言ったように身を引き、リベリアはその場から動かずに用件を訊ねた。

「それで、私に用とは」
『遠回シニ言っても警戒サれるだけだシ直球ニ言うゼ? オレと手を組まナいか?』

 突然のことに、プロスペローもリベリアもポカーン。ハッとして意識を呼び戻すと、更に警戒心を強めながらなぜ? と問う。

「あれだけの事をして置いて何を今更。目的を答えなさい」
『目的ネェ……。敢エて言エば、オレが生きる為だナ』
「プロスペロー」
『待て待て! オレと手を組んだら、オレノ力を貸シてやる。欲シイだろ? 強イ力が』

 少しだけリベリアの心は揺れるも、プロスペローは鋭い目付きでパラサイダーを見据えて。

「そう言ってお嬢を騙す気ではないか」
『シナいシナい。ってかムリだ。もうこノ女は理解シちまってる。アノ姿も本当ノ自分だとナ。ソうナってシまったら乗っ取りたくても出来ナい』

 自分の心を見透かしたかのように話すパラサイダーに、リベリアは覚悟を決めた。

「分かりました。一時的に手を組みましょう」
「お嬢!」
『オオッ! 話が早くて助かる!』

 リベリアはにこりと微笑むと。

「今一度、貴方の名前を聞いても良いですか?」
『エ? パラサイダーだけど……』

 喜びのあまり、パラサイダーはポロッと名前を溢してしまった。しまったと気づくも時すでに遅く、リベリアは契約の書の陣を発動させており。

「契約完了です。パラサイダーが私やプロスペロー、この書庫に危害をもたらした際に特大の痛みが襲うようにしました。これでいかがですか? プロスペロー」
「流石お嬢でございますね!」
「ありがとうございます。では改めて頼みますよ? パラサイダー」

 悪魔は深く深く後悔した。

 いくら生きたいからってコイツに頼るのだけは間違っていたと。


 ──21話へと続く。
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