第1部短編集
「お、ミリアム。どこ行くんだ?」
“はじまりの地”にある『闇黒騎士隊』の拠点。少しだけ着飾ったミリアムを不思議に思い、エステラが声を掛けた。
ミリアムは大した用じゃないのよと手を振り。
「街に行ってくるわ。多分、夕方ぐらいまで空けるから」
「そうか。行ってらっしゃい」
エステラに見送られながら拠点を出発。電車に揺られること数分、部隊本部『ミラージュ・タワー』近くの駅に到着。
キョロキョロと忙しなく辺りを見渡していると、後ろから「ミリアム」と名を呼ばれ振り返る。
「遅い。待ちくたびれたぞ」
幼馴染の不満げな表情に、ミリアムは別にいいじゃないと笑って。
「貴方が良いお店があるって言ったから、わざわざ出向いてあげたのよ」
「ぐっ……」
痛いところを突かれたとブレイドの顔が歪む。
「それで? 私を満足させられるようなお店なのでしょうね?」
「文句は言わせねぇぞ?」
「随分と自信ありげなご様子で」
「お前に任せたら高い店に連れて行かれそうだからな。結構調べた」
「あら残念」
こっちだと歩き始めるブレイドの少し後ろに続く。
「……ねぇ、どこまで行くの?」
気付けば街の中心地から離れ、人がまだらな場所にまで来ていた。流石に疑問を抱き、前を歩くブレイドに話しかける。
「もう少しだ──」
「ブレイド〜!」
から。と言い切る前にミリアムの視界からブレイドが消える。驚き横を向くと、倒れないように何とか踏ん張るブレイドと……。
「ハルドラ様……?」
“緑狼王”と呼ばれるモルスの一柱、ハルドラがブレイドに抱きついていた。ミリアムに気付いたハルドラはあっと声を洩らし、離れろと強制的にブレイドに引き剥がされた。
「久しぶりミリアム〜! 元気だった〜?」
「ええ、まあ……」
「何だ。知り合いなのか」
「うん。ボクら知り合い〜」
そのまま話し始めそうだったので、その前にミリアムはストップをかけ。
「ハルドラ様はどうしてここへ? お出掛けですか?」
「う〜んとね〜」
「ハルドラ様!」
話そうとすると、またしても邪魔が入ってしまった。ハルドラの元に駆け寄ったのは、木属性らしき青年。見覚えのないミリアムは小首を傾げるも、ブレイドには心当たりがあった。
「突然走らないで下さい!」
「ごめんごめん。あ、アルボス。ブレイドには会ったことあると思うけどミリアムは無いよね。彼女はダークナイトの一人、ミリアムだよ」
急な紹介にミリアムも青年も戸惑いつつ、どうもと挨拶を交わして。
「お初にお目にかかります、ミリアム殿。私はハルドラ様の側近である、アルボスです」
「ご丁寧にどうも……。ブレイド、いつ会ったのよ」
「退院したときに挨拶した」
頬を寄せてコソコソと。アルボスは二人を気にする事なく、鋭い目付きでハルドラを。
「塔に戻りますよ、ハルドラ様」
「ええ〜! まだ視察しきれてないよ〜?」
「十分しましたよ。それに、視察とは遊び呆けることではありませんし」
「アルボスは真面目過ぎるんだよ〜!」
「ちょっと待った。視察って何だ?」
と、怪訝そうに訊ねるブレイドにミリアムを含めた三人は目を丸くして。
「え、視察ってなにか知らないの……?」
「知ってる。馬鹿にすんな。……そうじゃなくて、わざわざ視察してるのかって事」
そうだよ、とハルドラは笑顔で頷いた。
「書類や口達だけじゃ取りきれないものもあるしね。週に2、3回は誰かしたら街を回っているんだよ〜」
へぇ〜とブレイドとミリアムの声が合わさる。
「二人で行動して街を回ってるのか」
「ううん。ボクのときだけなんだよね〜? なんでだろ?」
「それはハルドラ様がサボらないよう見張るためです。……話は終わりましたよね。帰り」
「ねね、二人はなにしてるの〜?」
深い深い溜め息がアルボスから洩れるも、無視。
「ブレイドとケーキを食べに行くところです。この辺りにあるそうなので」
ケーキ、と聞いてハルドラの目が輝く。その反応に二人は目線を交えると、ハルドラに戻して。
「ハルドラ様もご一緒にどうですか? 休憩がてらに」
「いいの!? 行きた〜い!」
「ちょっ……!」
駄目ですよ、と止めようとするアルボスに、すかさずブレイドがそっと耳打ち。
「下手に止めようとすると暴れるぞ? だったら、一回好きにさせてみた方がいいと思わね? 落ち着くかもよ」
「それはそうかもしれないですけど……」
何を言っても無駄だと悟り、アルボスは渋々提案を受け入れた。
「お、あったあった」
ハルドラと(不本意な)アルボスも加わり、進むこと数分。パステルカラーの可愛い見た目をしたお店の前で、ブレイドは立ち止まった。看板には店名の『un gâteau』と文字が。店内には何人かお客がいるらしく、皆美味しそうにケーキを味わっている。カランカランと鈴を鳴らしながら扉を開き、入店。
「どうしたのアルボス?」
「い、いえ、何でも」
口ではそう言いつつも、店内の雰囲気に緊張してしまっていた。仕方ないと言えば仕方ない。接客をしている店員も含め、男は彼とブレイドしか居ないのだから。そのブレイドはと言うと、普段通りに振る舞っている。
「ここ、ケーキ・ビュッフェのお店なのね」
「食べ放題なら色々な味も楽しめるしいいだろ。人もそんな居ないし」
「お金も抑えられるし?」
「うるせ。さっさと取ってこい」
「はいはい。ハルドラ様、一緒に行きましょ?」
案内された席で待つ男二人。アルボスは(何故か)隣に座るブレイドにおずおずとした様子で声を。
「……あの」
「ん?」
「体の方はもう平気なんですか」
「平気じゃなかったら出歩いてないだろ」
「そうですね……」
再びの沈黙。気まずいと感じていると、今度はブレイドの方から。
「なぁ、お前さ」
「何ですか」
「
「……は?」
思わず素っ頓狂な声が口から洩れる。この人は何を言っているんだ、ハルドラ様をあいつ呼ばわりするとは、嫌いなわけない、などなどあらゆる想いが脳内を駆け巡るも。
「……どうして、そう思ったのですか」
ブレイドは片肘をテーブルに立て、頬を乗せながら。
「別に。冷たいなって思っただけだ」
「この性格は生まれつきです。私達、元素精霊はハルドラ様達と反対になるよう生み出されたので。一部は同じですが」
そう言われ、ブレイドは昔会ったルシオラのことを思い浮かべた。確かに、あの二人の性格は若干似ているものがある。アルボスは淡々と続けて。
「ですので、ハルドラ様に強く物申してしまうのは自然の摂理としか言いようがありません」
そんな摂理あってたまるか。
と言う言葉は胸の内にしまい込んで。
「じゃあ、好きなんだな」
「……お使いすべきお方だとは思ってます」
ふーんと相槌を打ちつつ、コップの水を一口。
「お待たせ〜二人とも行ってきていいよ〜」
お皿いっぱいに色とりどりのケーキを乗せた二人が席に戻って来た。ブレイドは席から立ち上がるも、アルボスは立とうとせず。
「早く行くぞ」
「私は……」
「食べないの? 仕方ないな〜。口の中につっっ」
「行きます」
「あ、ブレイド。貴方が好きそうなケーキがあそこの棚にあったわよ」
「ん。」