第1部短編集


「はあああああああっ!?」

 その日、第14小隊の拠点は大きな混乱に包まれていた──。

「えっ……え? ホントに言ってる? 嘘じゃない??」
「う、嘘じゃない……」

 これを、と戸惑うブレイドが差し出した紙を確認。

「マジだ……」
「こんなことってあるか……?」

 ブレイドが差し出したのは正真正銘本物の明細書。記載されていたのは、つい先日討伐した“モータル”から採取した花の買取額。えげつない額になっている。

「ど、どうするのよコレ……」
「と、取っておこうぜ。一応……」

 既にコインは銀行に預けているらしい。一人知らないアランは動揺していた。

「そんなに強かったのか……? その“モータル”とか言うモンスター……」
「強かった」
「強かったな」
「強かったわね」

 対峙したヴァニラ、ブレイド、レベッカが口々に。ベルタも「声だけだったが、強敵のオーラは感じたな」とコメント。

 アランは今一度、自分の体があることに安心した。

「あ、そういえば今日買い出し行ってないな」
「今日ぐらい外で食べねぇか? たまには良くね?」

 な? とブレイドに言われ、今日ぐらいならと首を立てに。

「何処に行くか……」
「食べたいのあるか?」
「はい。」

 挙手したのはヴァニラ。

「わたし、あそこに行きたい」

 あそこ……?





 時刻は、星々が夜空で瞬く夜──。

 『モルス』もとい『五戦神』の五名は、“はじまりの地”にある焼肉店を訪れていた。プライベートなので、いつものフードは脱ぎ捨て素顔で。

「ひっさしぶりにゆっくりできるね〜」
「ここ最近は立て続けに忙しかったからの」
「まともに食ってなかったしな?」
「メニュー見ないのか?」
「最後でいい」

 個室にて、メニューに目を通しながら次々と口にする。

 全員が決まると、店員を呼び注文。今日も疲れたね〜などと話しながら到着を待っていた。

「ん……?」
「どうしたハルドラ?」

 ピクッと耳を動かすハルドラ。捉えたのは隣の個室から微かに洩れる会話。

「盗み聞きは良くないぞ」
「なんかブレイドの声が聞こえて……」
「あ?」

 ハルドラの隣に座っていたアンガも、同様に壁に耳立てる。すぐにハッとして、ハルドラと視線を合わせた。

「ブレイドだけじゃねーぞ? 五人の声が聞こえるな?」

 いち早く反応したのはアルタリア。光の速さで壁越しの会話に耳を傾ける。

「アルタリア……」
「別に気になっているわけではないぞ。調査だ調査」
「見苦しいぞ」


 その頃、まさか盗み聞きをされているとは思っていない五人は──……。


「ヴァニラが来たかったのって、焼肉店だったのね」
「うん。前から気になってたの」
「こんなときでないと来ないからな」

 メニューを広げながらどれにしようかと悩む。その中でアランは、何故か固まってしまっていて。

「どうしたの?」
「コレって焼いてあるのが出てくるわけじゃないんだよな?」
「……もしかしてアラン。知らない?」

 アランは困惑しながらも小さく頷いた。



「っ……」
「落ち着けって」
「アルタリアの悶える基準ってなにか分からない」
「気にするでない」
「……」



「まあ、頼んだら分かるだろ」
「そうだな。もう呼んでいいかー?」
「いいよー」

 チャイムを鳴らし、店員を呼ぶ。同じタイミングで、モルス達が居る個室にも店員がお肉を持ってやって来た。

「わーいっ、おいしそ〜」
「うむ。実にそそられるな」
「お主らは肉食じゃのう」
「何を当たり前のことを言っているのだ」

 この時ばかりは壁から離れ、次々と運ばれてくるお肉に手をつける。

「ジェダルお腹空いてないの〜?」
「全然食べてねーじゃん」
「貴様等と同じにするな。我は我の好きなように……」
「ごちゃごちゃ言ってねーで食えよ?」
「……」
「怒るなって」

 これでもかと積まれる肉を前に、ジェダルは不愉快そうに顔を歪めた。



 一方では、届いたお肉を焼き始めていたのだが……。

「??」

 意外にもアランが悪戦苦闘しており、めんどくさがりながらもブレイドが説明。

「だーかーらー! トング(そいつ)で肉摘んで網の上に乗せろって言ってんだろ!」
「危ないじゃないか」
「だああああっ! 素直に俺の言う通りに焼け!」
「うるさいブレイド」

 人様の迷惑よと言われ、しぶしぶ口を閉ざすも。

「で、乗せていいのか?」
「いいつってんだろ……!」



「……さっきからすげーキレてる声がするな」
「アルタリアー? おーい、生きてるー?」
「返事がない。ただの屍のようだ。状態じゃな」
「蘇生でもしてやれ」
「無理。」(×3)



 そんなこんなでお肉を食べ進めること数分。机に溢れるだけ乗っていたお肉のお皿は全て空となり、壁一枚を挟んだ二つの個室では、それぞれ食後の休憩に入っていた。

「いっぱい食べたね〜」
「オメーらすげーな。食べながら器用に盗み聞きして……」
「盗み聞きではないぞ! 断じて!」
「そう言う貴様が一番耳を立てていただろう」
「違うぞ!? 汝こそ、聞いてないふりをして聞いていたではないか!」

 指摘されてもなお、知らんぷりを続けていたジェダルだったが、他三人からの視線を煩わしく思い。

「……貴様等も同罪であろう」
「おっ認めたね〜」
「煩い」

 と、ここでミラクロアのエレフォンが着信を知らせる。誰からか確認したミラクロアは、頭に手を添えて。

「誰からだ?」

 その問いにミラクロアは画面を見せる。そこには『ベルタ』の文字が。

「……。」
「よし、逃げるぞ」

 素早く身支度を整えて個室から飛び出す。直後、隣の個室の扉が勢いよく開き、顔を出す五人。


「……え。隣……」
「聞こえてたかな……話……」
「まさかとは思ったけどな……」
「聞こえてないのを祈る……」
「早く食べよ」
「食べる。」
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