第1部短編集
「サイズどう? 違和感ない?」
「平気。ぴったりだわ」
良かったよと胸を撫で下ろすレベッカに、ヴァニラはありがとうと返す。
森林の地での激闘にて重傷を負ったブレイド。現在は意識こそあるが、退院予定はまだ先。何日もいてはいけないと言われ、ヴァニラは初めて宿舎へと来たのだった。
しかし、幼き頃に森林の地から追い出されたヴァニラは師匠と共に放浪の旅へと出ていたため、戦闘服以外持っていなかったのだ。このままでいいと言うヴァニラを止め、「ワタシの貸してあげる」とレベッカが自身の予備を差し出した。
「ぴ、ぴったりか……。 ヴァニラもレベッカと同じぐらいか……」
「ベルタ?」
「い、いや、何でもないっ」
それより! とベルタは大きな声を上げ。
「ヴァニラの服を早急に用意しなくてはいけないな」
「わたしは別に……」
消極的な態度に、ベルタは首を横に振る。
「いいや、駄目だ。明日はちょうど休日だし、買いに行くぞ」
「でも……ブレイドの容態が気になるし……」
「じゃあ、尚更買いにいきましょうよ。面会時間は限られているし、ずっといるわけにはいかないでしょう? ブレイドだってアナタの楽しそうな様子を見たら、きっと喜ぶわ」
「ブレイドが喜ぶ……」
その言葉に、ヴァニラは服を買いに行く事を決め、頷く。
「あまりおしゃれとかに自信はないのだけれど」
「三人もいればどうにかなるわよ」
「わ、私も自信は無いのだが……。街に行くなら、他にも買っていかないか?」
「あと必要なのは……洗面器具かな? 一通りは揃えたいよね」
「そうだな。……。」
考え込むベルタに、どうかしたと訊ねる。
「……ヴァニラ」
「なに?」
「エレフォンを知ってるか。」
「……知らない。」
やっぱりかと苦笑いを浮かべる。
エレフォンはエレパッドよりも持ち運びやすいサイズとなっており、エレパッドと同様に光のスフィアが使われている。
「それも買えたら用意したいが……」
「うーん……ちょっと高いわよね」
「そのエレフォンってなに?」
「コレよ。」
レベッカは自身の赤いケースのエレフォンを取り出すと、ヴァニラの見える位置に立ち、起動させた。
「こんな感じで、画面をタップすると色々な機能が使えるの。カメラアプリで写真を撮ったり、ネットで知りたい情報を調べたり、メッセージアプリで遠くの知り合いと話したり出来るのよ」
「通信機とは違うの?」
「それは本部からの支給品だろ? だいぶ違うと思うぞ」
便利ね。と呟くヴァニラの瞳が輝いているようにも見える。
「さっき高いって言ってたけど幾らぐらいなの?」
「機種によって変わるかな……分割払いだと毎月払わないとだし……」
「……わたし、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎コイン持っているのだけれど足りる?」
「……!?」
衝撃の金額に二人の顔が驚いたまま固まる。何か変な事でも言ったかしらと当の本人は首を傾げた。
「たたたた足りる足りるどころか50台ぐらい買えるぞ」
「そ、そんなお金一体何処から……!?」
「仕事してたら貰ったの。使い道無かったら溜まる一方だったけど」
「明日使おう。ね!」
「ええ。明日銀行に寄らせて頂戴。全額下ろしてくるから」
「「それは絶対ダメ!!」」
「わかった」
何故か溢れ出た冷汗を拭うと、どの機種にしようかと調べ始める。
「最新のは……この辺ね。どれが良いかしら」
「二人のはどれ?」
「私はここの会社だな。レベッカのも確か同じだろう?」
「そうね。この会社なら使いやすいし……いいかもしれないわね」
「……色が無い」
「ワタシも本体には色は無いわ。こういったカバーを付けているのよ」
「街にはケースも沢山あるだろうし、気にいるものを見つけよう」
「……ありがとう。二人とも」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「……暇だな」
大空に輝く太陽の光が窓から差し込む。
未だ入院中のブレイドは、特別に用意された個室にて暇を持て余していた。
「最低でもあと二日はこのままか……」
「我慢しろ」
様子を見にきたアランがそう言いながら、ハイと綺麗に皮を剥いたりんごを渡す。
「夜中に脱走とかするんじゃないぞ」
「俺は猿かよ」
「今はウサギ……いや、ウサギに失礼だな」
「俺に失礼だよその言い方は」
アランと小言を交わしつつ、うさぎの形をしたりんごを食す。
そこに「失礼しまーす」とレベッカ達三人が入って来た。
「アラン、来てたのか」
「ああ。三人は買い物帰りか?」
「ええ。ヴァニラの必要なものを揃えにね」
これお土産と乱雑に詰め込まれたお菓子が置かれる。
「……凄いな」
「適当過ぎるだろ。幾らなんでも」
「文句があるなら没収──」
「文句じゃない。感想だ」
「なら良し。受け取るが良い」
「上から目線なのは気に入らないが……まあ、ありがとな」
食うか? と甘そうなお菓子を選んではアランに差し出す。ふざけてるのかとアランの反応に悪い悪いとわざとらしく謝る。
ヴァニラは会話が止まるタイミングを見計らい声をかけた。
「ブレイド。」
「何だ、ヴァニラ。って……その服買ったのか」
「二人に選んでもらったの。……ブレイド?」
目を丸くしたまま膠着する兄ブレイドに、もしかして似合っていないのかと不安になるも。
「……いや、楽しめてるようで良かったなと思ってな」
「……楽しいわ。とても。」
ヴァニラの硬い口角が柔らかく弧を描く。
そうかと返すブレイドも安堵の笑みを浮かべていた。
「その服似合ってるぞ」
「わたしも気に入っているの。それとエレフォンも買ったの」
「ええっ!? そうなのか!?」
「アラン、うるさい」
「あ、悪い」
「二人の連絡先も教えてくれる?」
「もちろん。なあ、ブレイド」
「ああ。でも……俺は退院してからだな」
「……待ち受けは全員で撮ったものにしたいの。だから、早く退院してね。ブレイド」
遠回しだが、早く良くなってと伝えると、ヴァニラは病室を後にしてしまった。
時刻は夕飯時を指しており、気付いたヴァニラは先に出たようだ。
「……一人で泣くなよ」
「な、泣かねぇよっ」
じゃあなと手を振る三人と別れる。
扉が閉まり、部屋に一人だけになると、ブレイドは嬉しそうに小さく笑った。
「脱走……したくなるな」