第1部短編集
9話、『英知の書庫』に出向く前(【初依頼編】のネタ有り)。
**読んでも読まなくても本編は楽しめます。今回は自設定、小ネタの話です。**
「ご馳走様でした」
空となった食器を前に手を合わせる。
「とても美味しかったです。ありがとうございました」
「それならよかったです」
食器を回収しながら、山吹色のエプロンを身に付けたアランは笑みを浮かべた。
「朝はいつも宿舎 で?」
「食費を節約するために、つい最近から……」
「そもそも食べるだけに出掛けるのは怠い」
「作ってるのはオレなんだけどな??」
料理担当のアランは朝、昼、晩と一人で食卓に料理を並べているのだから頭が上がらない。
「食堂は少し高めに料金設定してありますからね。自炊とは感心です」
照れ臭そうに頬を掻くアランに、これで暫くは作って貰えると思ったのが若干一名……。
「痛っ、何すんだよ!」
「嫌な声が聞こえたもんでな」
んだとぉ! とくだらない言い合いをしながら食器を洗う二人に、ベルタはすみませんと呆れながら謝る。
「朝からあの馬鹿二人が煩くって申し訳ないです」
「べ、ベルタってば言い方っ」
「お気になさらず。ところで……」
リベリアはブレイドに視線を移すと。
「ブレイドさんはいつになったらいらっしゃるのですか?」
「まだ数日しか経ってないだろうが!」
「画面の向こう では七週間程経っています」
「アウトです。リベリアさん」
仕方ありませんね、とリベリアは溜め息を一つ。どうやら今ここで始めるようだ。
「すみません。どなたか『天華の庭園と眠り姫』をお持ちではありませんか?」
「ワタシ持ってます! 持って来ますね」
「お願いします」
レベッカが自室に行っている間に、食器洗いを終えた二人もリベリアとベルタと共に着席。
「お待たせしましたっ。これで大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。ああ、ホワード氏が翻訳したものですね」
「翻訳……?」
リベリアはレベッカから本を借りると、ペラペラとページを捲っていく。
「『天華の庭園と眠り姫』の発祥は、ここ“エレメンタル大陸”とは海を挟んだ先にある“オラトリオ大陸”と呼称される地です。別大陸、それも遥か昔の作品のため、翻訳が必要なのです」
と、リベリアが見せたのは原作者のプロフィールが書かれた部分。
「原作者の名はフリージア。このお話は、フリージア目線から書かれた恋愛小説です。恋人の名はアリアーテ。お二人共、生きていたのは一万年以上も前だと言われています」
珍しく静聴している様子のブレイドを一瞥。次に初めの方のページを開く。
「始まりは、何の変哲もない日常から。小さな村で産まれた二人は、お互いが側にいるのが当たり前となり、いつしか愛し合うようになった。そんな幸せの最中、アリアーテが『天華の庭園』の管理者に選ばれます」
「『天華の庭園』って……タイトルの?」
リベリアが開いたページに描かれていたのは、一面に咲き誇る花。
「フリージアの記述では、古の時代に神々が生み出した庭園、だそうです。それもただの庭園ではなく、世界中の草花の命を宿しているがために庭園が無くなってしまえば緑が失われてしまう。アリアーテは、そんな庭園を管理する役割に選ばれたのです。それはとても誇らしいと同時に、役目を終えるまで庭園に続く神殿から出られなくなってしまうのです」
複数人の巫女に囲まれるアリアーテ。その姿は何処となく悲しげだ。
「交わした約束を胸に月日は流れ、いよいよ役目が終わる直前。神殿が、当時起こっていた戦の火に巻かれます。神殿内が混沌と化す中を、フリージアはアリアーテを求めて歩き。数年ぶりとなる再会を果たしました」
戦火に包まれながら、お互いの手を握りしめ合う二人。
「フリージアはアリアーテの手を引いて逃げようとしますが、アリアーテはそれを拒みます。庭園に続く道に火が迫っている。今すぐに庭園を閉じなければ、中で咲く花達が全て焼かれてしまう、と。しかし、それは自分と共に庭園を封印すると同じこと。当然フリージアは反対します。が、アリアーテはフリージアを突き放し、庭園と共に封印されたのです」
崩れ落ちた神殿の前に佇むフリージア。
「封印されたことで、庭園へと続く道は閉ざされました。それでもフリージアはもう一度彼女に会うため、何年も何年も封印を解く方法を探しますが見つからず。遂に、自力では動けない程年老いてしまいます。争いも無くなり、平和に近づきつつある世界。記憶が薄れつつある『天華の庭園』を忘れさせないため、フリージアは最後の力を振り絞りペンを執りました。いつの日か、アリアーテが目覚めるのを願って……」
静かに本を閉じる。前のめりになって聞いていたブレイドは、慌てて姿勢を戻した。
「『天華の庭園』は未だ発見には至らず、道があったという神殿も今や更地となっておりますが、文献には多数その存在が記されており、本当にあったのか分からないまま。それでも愛されているのは、フリージアが神に背きながらも恋人を想い続けたことに賛否両論あるからです。もし本当なら……アリアーテはどんな想いを抱くのでしょうね」
ありがとうございました、とリベリアはレベッカに本を返した。
「いかがでしたか? ブレイドさん」
「えっ、あぁっと……」
「無理にお答えいただかなくとも大丈夫です。その反応を見れば大凡は分かりますよ。気になるようであれば、ネットで調べて下さい。全文出て来ますから」
「えっ全文!?」
「はい。世界中の人に知ってほしいというフリージアの願いを汲み取り、無料で読むことができます」
それでいいのか、とツッコミたくなる。
「話はこの辺りにして、そろそろ向かいますか」
「大丈夫ですか? あれだけ長く話していたのに……」
「寧ろ気分が良いです。自分が好きなことの話をしたまでですので」
「リベリアさんのお気持ち、ひしひしと伝わってきました」
「ふふ、ありがとうございます。宜しければ今度、書庫の整理に来ていただけませんか? 休憩中にお話でも」
「楽しそうですね! ぜひお手伝いさせてください」
「え?」
9話、本編に続く。
**読んでも読まなくても本編は楽しめます。今回は自設定、小ネタの話です。**
「ご馳走様でした」
空となった食器を前に手を合わせる。
「とても美味しかったです。ありがとうございました」
「それならよかったです」
食器を回収しながら、山吹色のエプロンを身に付けたアランは笑みを浮かべた。
「朝はいつも
「食費を節約するために、つい最近から……」
「そもそも食べるだけに出掛けるのは怠い」
「作ってるのはオレなんだけどな??」
料理担当のアランは朝、昼、晩と一人で食卓に料理を並べているのだから頭が上がらない。
「食堂は少し高めに料金設定してありますからね。自炊とは感心です」
照れ臭そうに頬を掻くアランに、これで暫くは作って貰えると思ったのが若干一名……。
「痛っ、何すんだよ!」
「嫌な声が聞こえたもんでな」
んだとぉ! とくだらない言い合いをしながら食器を洗う二人に、ベルタはすみませんと呆れながら謝る。
「朝からあの馬鹿二人が煩くって申し訳ないです」
「べ、ベルタってば言い方っ」
「お気になさらず。ところで……」
リベリアはブレイドに視線を移すと。
「ブレイドさんはいつになったらいらっしゃるのですか?」
「まだ数日しか経ってないだろうが!」
「
「アウトです。リベリアさん」
仕方ありませんね、とリベリアは溜め息を一つ。どうやら今ここで始めるようだ。
「すみません。どなたか『天華の庭園と眠り姫』をお持ちではありませんか?」
「ワタシ持ってます! 持って来ますね」
「お願いします」
レベッカが自室に行っている間に、食器洗いを終えた二人もリベリアとベルタと共に着席。
「お待たせしましたっ。これで大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。ああ、ホワード氏が翻訳したものですね」
「翻訳……?」
リベリアはレベッカから本を借りると、ペラペラとページを捲っていく。
「『天華の庭園と眠り姫』の発祥は、ここ“エレメンタル大陸”とは海を挟んだ先にある“オラトリオ大陸”と呼称される地です。別大陸、それも遥か昔の作品のため、翻訳が必要なのです」
と、リベリアが見せたのは原作者のプロフィールが書かれた部分。
「原作者の名はフリージア。このお話は、フリージア目線から書かれた恋愛小説です。恋人の名はアリアーテ。お二人共、生きていたのは一万年以上も前だと言われています」
珍しく静聴している様子のブレイドを一瞥。次に初めの方のページを開く。
「始まりは、何の変哲もない日常から。小さな村で産まれた二人は、お互いが側にいるのが当たり前となり、いつしか愛し合うようになった。そんな幸せの最中、アリアーテが『天華の庭園』の管理者に選ばれます」
「『天華の庭園』って……タイトルの?」
リベリアが開いたページに描かれていたのは、一面に咲き誇る花。
「フリージアの記述では、古の時代に神々が生み出した庭園、だそうです。それもただの庭園ではなく、世界中の草花の命を宿しているがために庭園が無くなってしまえば緑が失われてしまう。アリアーテは、そんな庭園を管理する役割に選ばれたのです。それはとても誇らしいと同時に、役目を終えるまで庭園に続く神殿から出られなくなってしまうのです」
複数人の巫女に囲まれるアリアーテ。その姿は何処となく悲しげだ。
「交わした約束を胸に月日は流れ、いよいよ役目が終わる直前。神殿が、当時起こっていた戦の火に巻かれます。神殿内が混沌と化す中を、フリージアはアリアーテを求めて歩き。数年ぶりとなる再会を果たしました」
戦火に包まれながら、お互いの手を握りしめ合う二人。
「フリージアはアリアーテの手を引いて逃げようとしますが、アリアーテはそれを拒みます。庭園に続く道に火が迫っている。今すぐに庭園を閉じなければ、中で咲く花達が全て焼かれてしまう、と。しかし、それは自分と共に庭園を封印すると同じこと。当然フリージアは反対します。が、アリアーテはフリージアを突き放し、庭園と共に封印されたのです」
崩れ落ちた神殿の前に佇むフリージア。
「封印されたことで、庭園へと続く道は閉ざされました。それでもフリージアはもう一度彼女に会うため、何年も何年も封印を解く方法を探しますが見つからず。遂に、自力では動けない程年老いてしまいます。争いも無くなり、平和に近づきつつある世界。記憶が薄れつつある『天華の庭園』を忘れさせないため、フリージアは最後の力を振り絞りペンを執りました。いつの日か、アリアーテが目覚めるのを願って……」
静かに本を閉じる。前のめりになって聞いていたブレイドは、慌てて姿勢を戻した。
「『天華の庭園』は未だ発見には至らず、道があったという神殿も今や更地となっておりますが、文献には多数その存在が記されており、本当にあったのか分からないまま。それでも愛されているのは、フリージアが神に背きながらも恋人を想い続けたことに賛否両論あるからです。もし本当なら……アリアーテはどんな想いを抱くのでしょうね」
ありがとうございました、とリベリアはレベッカに本を返した。
「いかがでしたか? ブレイドさん」
「えっ、あぁっと……」
「無理にお答えいただかなくとも大丈夫です。その反応を見れば大凡は分かりますよ。気になるようであれば、ネットで調べて下さい。全文出て来ますから」
「えっ全文!?」
「はい。世界中の人に知ってほしいというフリージアの願いを汲み取り、無料で読むことができます」
それでいいのか、とツッコミたくなる。
「話はこの辺りにして、そろそろ向かいますか」
「大丈夫ですか? あれだけ長く話していたのに……」
「寧ろ気分が良いです。自分が好きなことの話をしたまでですので」
「リベリアさんのお気持ち、ひしひしと伝わってきました」
「ふふ、ありがとうございます。宜しければ今度、書庫の整理に来ていただけませんか? 休憩中にお話でも」
「楽しそうですね! ぜひお手伝いさせてください」
「え?」
9話、本編に続く。