第1部短編集



 はぁ、はぁ、と弱々しく繋ぐ呼吸。辛そうに顔を歪ませ、時々咳き込む。

 瞬く間に温くなってしまった布に冷水を浸し直し、再び額に。冷たいのが気持ち良かったのか少しだけ頬が緩んだ彼女に、ホッと息を吐く。


 ここは、はじまりの地にある宿舎。宿舎二階、住人である女子達が合同で使用している部屋の中。ベッドの上に横たわるベルタと、側に置いた椅子に座るレベッカ。

 世間一般でいう休日に、ベルタは度重なる戦闘による負荷に耐えきれず、風邪を引いてしまった。熱にうなされ、動けずにいる彼女を、同室であり唯一の女性でもあるレベッカが看病に付き添っている。

 因みに男達は、元々やる予定だった宿舎の掃除をしている。


「っは……レベッ、カ……すま……な……」
「無理してしゃべらなくて大丈夫よ。ベルタが言いたいこと、なんとなくだけど分かるから」

 ありがとう、と安堵したように微笑む。

 チラッと時計を確認、お昼近くなのに気づいたレベッカは椅子から立ち上がる。

「ワタシ、軽く食べれるものと薬持ってくるから、少しだけ待っていて?」

 垂らした髪を揺らしながら部屋の外へ。階段を降りていく音を遠くに聞きながら、ベルタは襲い来る倦怠感に瞼を閉じた。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


 ──レベッカが部屋を後にする少し前。宿舎一階で作業する男子達はというと。

「やべぇ俺天才かもしれない」
「安心しろ。天才はオマエじゃなくて考えた人だ人」

 ハンマー片手に完成した机を前にポツリと呟くブレイドに、呆れ気味に突っ込むアラン。

 ブレイドは店で購入した机のキットを組み立てた“だけ”なので、少なくとも天才ではない。

「ホラ、終わったなら椅子組み立てろ」
「えー」
「『えー』じゃない。なら変わるか?」
「組み立てするぞー」

 棒読みで片手を突き上げる。アランは頑張れと気持ちを込めないまま投げ掛けると、再び書類と睨めっこ。

 現在アランは『ミラージュ・タワー』に提出する用の書類をせっせっと作成している。流石士官学校主席だったからか、こういった書類には多少慣れている様子。

「ンー……」

 ペンを持っていない手で髪をくしゃり。どうすっかなぁ、と眉間にシワを寄せる。


 ピンポーン


「……ん?」
「ここってインターホンあったのか?」
「じゃないだろ。出れそうか?」
「無理。今椅子の脚でジャグリングしてるから」
「早く行ってこい」

 仕方ねぇな、と渋々立ち上がる。

「……あ?」

 扉を開けた先に居たのは……と、思ったが誰も居らず。在るのはポツンと取り残された一つの箱。

 怪しげな箱に警戒しながら近く。見た感じは普通の箱だが……?

「……『ベルタへ、お大事に』?」

 箱に添えられた一枚の紙。季節外れのサンタクロースか、と心の中で突っ込んで箱を回収。

「なにかあったのか?」

 扉が閉まると同時にアランが声をかける。

「箱があった。お大事に、ってベルタ宛に。誰からかは知らんが」
「……」
「おい、聞いてるのか」
「……聞いてる。怪しいもんじゃないから、開けてみろよ」
「誰からか知ってるのか?」
「まあ、予想ぐらいは……」

 ふぅんと返しつつ、組み立てたばかりの机の上に置いてオープン。

「果物にお粥に水に……ネギ?」
「あっ買い物に行って来てくれたの?」

 ひょいっとブレイドの背中から箱の中身を覗き込むレベッカ。

「いや違」
「ありがとう。早速使わせてもらうね」
「あー……」

 箱の中からお湯で温めるタイプのお粥や果物や何やらを攫っていったレベッカに改めて訂正する気も起きず。階段を上がっていったレベッカの姿を目で追うだけ。

「ブレイド。椅子」
「俺は椅子じゃない」
「ハイハイ。終わったら手伝うからやってくれ」

 ポケットの中で鳴るバイブ音。誰からだろう、とアランは取り出し画面を確認。

「……やっぱりな」

 小さくそう呟いては、ひそかにほくそ笑んだ。


  ──バラバスからの見舞い品。受け取って貰えたか?──
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