SSまとめ・2


 その日、彼は珍しくのんびりと過ごしているようであった。
 普段なら館の執事として、朝から晩まで忙しなく足を動かしているというのに。のんびりとしているのが悪い訳ではない。ただ似合わないだけなのだ。

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 庭に、中から持ち出したサイドテーブルと椅子を用意し、自ら淹れた紅茶を啜る。一連の動きは実に洗練されており、館の主人と見間違いそうであるが、彼こそ冒頭で挙げた老執事“セバスチャン”。心地良い風が彼の括られた髪を靡かせ、セバスチャンは目を細めた。


 時は、朝食時まで遡る──。
 いつもと変わらない朝食の風景。そんな中、少女アリスはどこか浮かない表情をしていた。

「どうしましたか?」

 もしかして、自分の料理が口に合わなかったのだろうか。そんな考えが脳裏を過ぎ、不安そうに眉を顰める。
 アリスはあのね、と少し間を置いて話し始める。

「今日は“きんろーかんしゃの日”なんだって。だからじぃじにのんびりしてもらいたかったんだけど……私なんにもできないなって……」

 セバスチャンは安堵すると共に、とても嬉しく感じた。アリスは世間的に見ても良い子の方。進んでお手伝いはするし、記憶が無い故にではあるが勉強も自ら行う。それらを、アリスは心から楽しんでいる。その姿を見るだけで十分なのだが、断るのも申し訳ない。

「……では、本日の午後はのんびりと過ごす事に致しますね」

 というか、別にセバスチャンは忙しい訳ではないのだ。休憩をしているのを見かけないだけで、すぐに終わらせられる仕事をゆっくりと熟しているだけであった。余裕を持つことで、アリスの様子を確認することが出来るから。そこは大人としてしっかりしなくてはいけない、と彼は思っている。
 アリスはぱっと表情を明るくすると。

「じゃあ午後の分は私がやるね!」

 セバスチャンは小さく笑みを溢し、宜しくお願い致しますと礼を口にする。


 さて、そんなこんなでセバスチャンはゆっくりしていた訳だが、本当に仕事を任せているのか些か疑問だ。
 そこに、ぱたぱたと籠を持って走るアリスの姿が視界に映る。気付いたアリスは手を振る代わりに素敵な笑顔を浮かべ、再び駆けてゆく。どうやら外に干してあった洗濯物を取り込んでいるよう。意外にもちゃんと任せている。甘やかしてそうであったが。
 と、セバスチャンの耳に電話のベル音が届く。そればかりはアリスに任せず、早足で館に戻り、アンティーク調な電話の受話器を取った。

『もしもし?』

「おお、坊ちゃん。このような時間に珍しいですな」

 電話の相手は、真の主人であるアランだった。
 セバスチャンだと分かると、アランは『ジイジか』と嬉しそうに呟く。

『今日は本部がお休みなんだ。だから依頼もなくてさ』
「そうでしたか。……そうそう坊ちゃん」
『……?』

 セバスチャンはアランに、アリスが自分の仕事をやってくれていることを話した。アランは今日が“勤労感謝の日”だというのは知っている為、特に突っ込むことは無く。
 しかし、話が終わるとアランはなにやら考え込んでいるようで。

『……一つ聞いていいか?』
「はい。何なりと」
『もしかして、アリスが熟せる範囲内の仕事しか残していないんじゃないか?』
「さあ、どうでしょうねぇ」
『さっきと言っていること違うぞ』

 何なりと、とは一体。
 アランとの電話を終えると、アリスが曲がり角から顔を覗かせた。頼んだ仕事は全て片付いたらしい。予想以上に速かった。
 セバスチャンの前にアリスが歩み寄る。

「じぃじ、いつもありがとう」

 差し出された一輪の花。
 きっと今日は、忘れられない思い出になる。


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 勤労感謝の日に公開したSSです。自設定のアリスとセバスチャンの話です。
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