SSまとめ・2
「ヴァニラさん! 今日もモンスター退治お疲れ様です!」
と、笑顔を浮かべる男に、『月影の勇者』ヴァニラはため息を漏らした。
事の発端は数日前に遡る──。
夕闇の大陸にて、いつもの如くモンスター退治を行っていたヴァニラは、モンスターに襲われていた一人の男を助けた。
男は戦士ではない一般人で深くヴァニラに感謝し、ヴァニラからしたらそこにモンスターが居たから倒しただけだった為に感謝されるような事ではないと思っていたのだが、一時的なものだと思い少し男の話に付き合うと街まで送っていった。
しかし、男の方はヴァニラともっと話したいと思い、ヴァニラのファンクラブ(非公認)に所属してはヴァニラに会いたいが為にわざとモンスターに襲われるなどの危険な行為が目立つようにもなり、今ではヴァニラが来そうな場所にて毎日出待ちしている始末。
初めこそヴァニラは気にしなかったが、段々と気にし始め、いつモンスターに襲われるか分からない場所にいられてはこちらとしても迷惑だと感じるようになったが、悪気があるわけではない為に強く言い出せずにいた。
結果として今日も、この男に付き合う事となってしまうのだ。
「あっ、ヴァニラさん! あそこにモンスターが!」
「え、ええ、そうね……。でもあれは──」
「俺が倒してきます! ヴァニラさんはここで待っていてください!」
「ちょっと!」
ヴァニラの制止する声は届かず、男は腰に刺していた剣を抜くと、そこにいたモンスターに対し剣を振り下ろした。
が、それはガキィンッと響いた金属音と共に現れた者によって阻止された。
「おいお前! 邪魔するなよ!」
「ジェダル様……」
激怒する男だったが、ヴァニラが呟いたその名にえ? と素っ頓狂な声を漏らす。
「ジェダル……ジェダル・モルスぅ⁉︎」
『モルス』又の名を『五戦神』は、ジェダルを含め、一般人には滅多にその姿を現さないと言われている。
闇属性の頂点に君臨するジェダル・モルスを前に、男は畏怖する。
「直ちに、この場から立ち去れ。さもなければ……」
「ごごごごめんなさーーーーい!!!」
「二度目はないと思え」
尻尾巻いて逃げ出す男の姿が見えなくなると、ジェダルは先程庇ったモンスター達に振り返っては「怪我はないか」と声をかける。
モンスターの中でも、戦うことが苦手で争いを好まない者がいる。男が襲ったのは、そんなモンスターの集団だった。
「ヴァニラよ」
別の場所に移動したモンスター達を見送った後、ジェダルは再びヴァニラに向き合うと軽くデコピンを一発お見舞いした。
「った」
「数日前からあの男に付き纏われていただろう。何故、我に相談しなかった」
自身の額を手で押さえながら、ヴァニラはジェダルの顔を見上げた。
「次からは我に言え。貴様一人で背負い込もうとするな」
「戻るぞ」と蜃気楼の塔へ向かって歩き出すジェダル。
「……ありがとうございます」
ヴァニラも少ししてジェダルの後を追い、共に塔へと帰っていった。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「んー……もう朝か……」
うーんと伸びをしながら、『灼熱の勇者』レベッカはベッドから起き上がる。
ふああとあくびを漏らし、覚束ない足取りで部屋中を歩き回っては支度をしていき、終わる頃には眠気も殆ど吹き飛んでいた。
「行ってきまーす」
携行食で軽く腹を満たすと、レベッカは早速火炎の大陸へと赴いた。
「何かがおかしい……」
レベッカはぽつりと自身が感じている違和感を口にした。
定期的にマグマが噴き出す火炎の大陸の中でも比較的安全な場所でお昼をとっていたレベッカの頭は、朝から感じている違和感でいっぱいだった。
いつの間にか所持していた携行食は無くなっており、あっと声が漏れる。
“気にしてても仕方ないか……”。
「よし、休憩終わり!」
気合いを入れ直し、午後も探索を続けた。
「アンガ様。ただいま戻りました」
日も半分ほど沈んだ頃。レベッカは蜃気楼の塔に戻り、炎属性の頂点に君臨するアンガ・モルスに簡潔に報告をした。
「ではこれで失礼します」
「待てレベッカ⁉︎」
「……?」
何故か慌てた様子で引き止められ、首を傾げる。
「どうしましたか?」
「どうしましたかって……もしかして気づいてねーの?」
「何がです?」
すると、アンガはふっと小さく笑ったかと思えば空間中に響き渡るほど笑い始めた。
「え、えっ?」
「れべっ、ふふっ、きずっ」
突然の事に困惑するレベッカに対し、アンガは精一杯説明しようとするが、笑いを堪えることができず上手く言葉にできない。
「ふ、ふー……。あー、笑った笑った」
少しして、深いため息をついた後。だいぶ落ち着いてきたアンガは腹を押さえながら、呼吸を整えた。
「あ、あのー……?」
もう大丈夫かとレベッカが話しかけると、アンガは少しだけ笑いながら答えた。
「レベッカ。オマエ、今日鏡見たか?」
「見ました……けど……」
顔を洗うときにいつも見ているはずだと、レベッカは今朝の風景を思い出す。
「部屋を出る直前は見たか?」
「見て……ないですね」
「だろ? 通りでおかしいと思ったぜ?」
ますます分からなくなり、頭に大量に疑問符が浮かぶレベッカに、アンガは自身の頭を指しながら。
「ゴーグル。いつもと違ってるぞ?」
ゴーグル?
レベッカは頭につけていたゴーグルを外し、確認すると。
「なっ……」
手元にあったのはゴーグルでも、プールや海で使用する水中ゴーグルだった。
わなわなと手が震えると同時に、今日一日気づかないで付けていた自分が恥ずかしい……。
レベッカの反応に再びツボだったのかアンガは笑い始め、レベッカは恥ずかしさから部屋に戻るとベッドの上で丸まってしまった。
コンコン。
「おーい、レベッカー。オレが悪かったから出てこいよぉ?」
その後。レベッカの部屋の前で謝り続けるアンガが目撃された。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「……はぁー」
プスプスと黒煙が上がる謎の物体を見つめ、深いため息。
『氷河の勇者』と名高いベルタが居たのは、水凍の大陸に位置する蜃気楼の塔内にあるキッチンだった。
キッチンには焦げ臭い匂いが充満しており、すっかり匂いに慣れてしまったベルタの近くには、黒くて丸い……ケーキのスポンジ(?)がごろごろと。
「上手くいかないなぁ……」
失敗作のスポンジを一掴みし、指で擦り合わせる。何故かざらざらとしており、これでは他人どころか自分でも食べれないとさらに落胆する。
「もう一回見直してみよっ」
ぐっと拳を握りしめると、レシピが書かれた本を手に取り朗読する。
「ベルタ……」
そんな彼女を、水属性の頂点に君臨するミラクロア・モルスが影から見守っていた。
キッチンから溢れる焦げ臭い匂いに気づき、火事でも起きたのかと様子を見にきたのだが……。失敗したスポンジから発生していたものとは思わなかった。
──まず、見ての通りお菓子作りが苦手なベルタがケーキ作りに励んでいるのは、ミラクロアがそう口にしたからだ。
“ケーキ……ケーキが食べたいのじゃ……”。
“ケーキですか?”
“そうじゃ。りんごケーキが恋しいの……。冬まで待たねばならぬがな……”。
我ながら本気ではないにしろ大変な事を言ってしまったと、ミラクロアはベルタから離れられずにいた。
次の一個を作り出す前に止めようかと悩んでいたとき。
「ミラクロア様にお出しする物なのだから妥協出来ない……! たとえ、何を犠牲にしたとしても作り上げてみせる!」
レシピを頭に叩き込んだベルタは、そう自分の士気を鼓舞すると何個目かの制作に取り掛かる。
「不味い……不味いのじゃ……このままではキッチンだけでなく塔まで危ないのじゃ……」
どうするどうする⁉︎ 慌てるあまり、考えがまとまらないミラクロアに残された猶予は僅か。早くどうにかしなければと唸る。
“そもそもの話はわらわがああ言ったからじゃ! ああ言わなければこんな事には……! ……ん?”。
何かを閃いたミラクロアは、何故か声の調子を整えると。
「みっ、ミラクロア様、クッキーが食べたいって言ってたねっ」
「そ、そうだねー」
「なに……?」
ミラクロアはあたかもキッチンの近くを通り過ぎる二人組を声で演じた。バレていないかと心配になったが、ベルタはその手を止めていた。
「……ミラクロア様はケーキではなくてクッキーをご希望なのか……。クッキーなら私も作れそうだ! よし、ケーキではなくクッキーをお出しするぞ!」
聞こえてきたベルタの声にホッとする。
“クッキーならまだ大丈夫……なはずじゃ”。
あまり長居してはいけないと、ミラクロアは不安と期待を抱きつつもその場から離れた。
その後、ミラクロアの予想通りのクッキーが出来たか、はたまた予想の斜め上をいくクッキーが出来たかは……二人のみぞ知る。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
はぁ、はぁ。
男の荒い息遣いは、獣達の唸り声にかき消される。
「俺も……ここまでか……」
男の逃げ道は後ろには無く、前にも光を受けて白く反射する複数の目に囲まれており、逃げ道は無い。
木に背中を預け、男は好きにしてくれと言いたげに目を閉じた。
──それは数時間前に遡る。
まだ太陽が顔を出していた時刻、『疾風の勇者』ブレイドが森林の大陸を散策していたとき。
「……何だこれ?」
地面に落ちていた“それ”を拾い上げ、まじまじと眺める。
しかし。“それ”が何なのか分からず、ブレイドは考えるのをやめると草むらの方に投げると、再び歩き出した。
……それが悲劇の始まりとは知らずに。
ガサガサッ。
「ん?」
歩いていたブレイドは草むらを掻き分けるような音に、足を止めた。
音は自身の方に近づいてきており、敵かと刀の柄に手を触れる。
「えっ……ぐはっ‼︎」
草むらから勢いよく飛び出してきた影はブレイドに突進攻撃を仕掛ける。その影に驚き、動きが鈍ったブレイドの鳩尾にクリーンヒット。ブレイドは大きく後方に吹き飛ばされた。
「いっ、てぇ……」
腹を押さえながら上半身を起こす。ブレイドが視界に捉えたのは、低く唸り続ける一匹の猪。どうやらブレイドに怒っているようだ。
「お、俺が何をしっ──」
言葉の途中で猪が再び突進してくるのを、ブレイドは横に転がって避ける。
突進を回避された猪はそのスピードを出来るだけ殺さないよう方向転換してはブレイドに向かっていき、訳もわからずブレイドは逃げることに。
「くそっ……! 何で増えるんだよッ」
猪との鬼ごっこが始まってから数分が経過した。
森林の大陸を物凄い勢いで走り抜けるブレイドの後ろには、始めの一匹以外にも集まった猪達が集団で追いかけていた。
“このままじゃ、無駄に体力を使うだけだ。何処かでやり過ごさないと……”。
目についたのは一回り大きめの幹を持つ木。ブレイドはさらにスピードを上げ、猪達との距離を離すと木に軽やかに登った。
「流石に上がってこれねぇだろ」
予想通り、猪達は木の下でブレイドが降りてくるのを今か今かと待ち構えている。
“よし。これで諦めてくれれば──”。
「ッ⁉︎」
笑みを浮かべたブレイドだったが、突如として体が大きく揺れる。
辺りを見渡すと他の木々も同様に揺れており、地震かと警戒したのだったが……。
「……嘘だろ」
下を向き、言葉を失う。
ブレイドが登っている木の幹に複数の猪達が突進していた。揺れていると思っていた他の木々にも、別の猪達が突進しているではないか。
“こんなに強かったら木が折れてしまう。そうなればハルドラに怒られるのは俺……いや、それだけは阻止せねば!”
意を決してブレイドは木から降りると、気付いて追いかけて来た猪達との鬼ごっこが再開。
時間は過ぎていき、気づけば太陽も沈み、月が昇る時刻となってしまい、冒頭に至る。
「ブレイド、起きてよブレイド」
「うん……?」
体を強く揺さぶられ、ブレイドは閉じていた目を開けた。
目の前には木属性の頂点に君臨するハルドラ・モルスがおり、自身の名を呼んでいたのはハルドラだと察した。
いつの間にか夜も明け、朝がやって来ている。
「あれ……いない……」
その場にはあんなにいた猪の一匹もおらず、諦めてくれたのかと安堵した。
「ブレイド。」
「何だ?」
「昨日の事についてちょーっとお話があるんだけど〜」
えっと体が強張る。昨日の猪との鬼ごっこはハルドラにバレているようで、しかもその影響は大陸全土に及んでいるようだ。
「いいよね〜?」
「……はい。」
滲み出る怒りのオーラに、ブレイドは口端をひくつかせながら頷いた。
きっと猪達もこのオーラに怯えて逃げたのだろうとブレイドは密かに思ったのだった。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「……今日はツイてないな」
と、『天空の勇者』アランは真下に広がる海を見つめながら呟いた。
アランがいるのは、光明の大陸と呼ばれる宙に浮く島の端っこ。バランスを崩し、海に落ちそうになったが何とか助かった。
「よっと」
軽い身のこなしで大陸に戻ってくる。周囲に誰もいない事を確認すると、ホッと息を吐く。
勇者と呼ばれるからには、こんな情けない姿を見られてはいけない。
しかし、そんなアランの思いとは裏腹に呪いでもかけられているんじゃないかと考えてしまうほど、調子が悪かった。
数歩歩けば躓き、数歩歩けば何かが起こり。
極め付けは──。
「おっ、と⁉︎」
何もない場所で躓き、ぐらりと視界が揺れる。
次の瞬間。バッシャーンッと大きく水飛沫を立て、光明の大陸にある噴水の中に落下。
「いってー……」
軽くぶつけた頭を摩りながら、全身が水に浸かってしまった現実にあーあとため息を漏らした。
「カッコ悪……」
「アラン。怪我はないか?」
「……。
うわああああああああッ⁉︎⁉︎」
「まるで化け物を見たかのように叫ぶのだな」
噴水の中で座るアランを見下ろす女性。
光属性の頂点に君臨するアルタリア・モルスの登場に、アランは我を忘れて大袈裟に肩を跳ね上がらせた。
「アアアアルタリア様! いいいいつからそこに⁉︎」
「アランが何もない場所で躓いたところからだな」
声こそ出さなかったが、アランは心の中で思いっきり叫んだ。
恥ずかしいと両手で顔を隠す彼に、アルタリアは仕方ないなと苦笑いを浮かべると、手を差し伸べた。
「ホラ。いつまでもそこにいては他の者に示しがつかないであろう?」
「す、すいません……」
手を取り、アルタリアに助けられながら噴水から上がる。
物凄い勢いで服に染み込んだ水が流れ出る中、少しでも軽くしようと服を絞った。
「……何やら浮かない様子だが、どうかしたのか?」
顎に手を添えながら首を傾げるアルタリアに、アランは少し言いづらそうに答えた。
「ええっと……何でか今日、調子が悪くてですね……」
「ほう。噴水に落ちた以外にもあったのだな?」
「恥ずかしながら……」
「我の他に、汝のその姿を見たものは?」
いいえと首を横に振る。確かに誰かとはすれ違ったりしたが、決まってアランが失敗するときは人がいなかった。
アランの返しに、アルタリアはニヤリと口角を上げると。
「我は今日とても調子がいいのだ! アランの運を吸いとってしまったかもしれぬな」
「まあ、アルタリア様が良ければいいのですが……。とても嬉しそうですね……」
思わず乾いた笑みを浮かべる。対してアルタリアは心底嬉しそうに笑っていた。
「アランのこんな姿を見たのは我だけだったという事が嬉しいのだ。今日はとても運がいいな」
予想外の返しに素っ頓狂な声が上がる。
「戻るぞ、アラン。他の誰かに見られてしまうだろう?」
「あ、ハイッ!」
アランはアルタリアの斜め後ろに並び、蜃気楼の塔へと戻っていった。
「あのー、アルタリア様……。この事は誰にも言わないでいただきたいのですが……」
「分かった。我と汝の間に留めておこう」
「ありがとうございます!」
──この数日後。他の五戦神達の間で暴露されるとは、このときのアランは微塵にも思っていなかった……。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
※【淵源樹の妖精王 後編】ネタあり。
※オリキャラは居ません。
「──って言う話をみんなでしていたんだよ〜」
対面に座るハルドラの話に、聞いていたブレイドは腹を抱えながら必死に笑いを堪え、アランは苦笑いを浮かべた。
「っふ、ふふっ、──っは、……あー、腹痛ぇ」
「笑いすぎだろ」
ようやく落ち着いたブレイドは深呼吸しては気持ちを落ち着かせる。
「ボクは見たかったけどな〜レベッカがゴーグルを間違えた姿。」
「ヴァニラ大丈夫か……? また絡まれそうだな……」
「うーん……平気だと思うよ。今回が初めてってわけじゃなさそうだし、ちゃんと対処出来る子だよ〜。そう言うアランだって女の子に話しかけられたりしてるでしょ〜?」
「え。あ……、ベルタのクッキーは成功したんですか?」
「明らかに話逸らしたね〜。そう言えば、その後の話は聞いてないな〜」
彼らが話していたのは、ここにいる二人を除く五戦士の小話。偶然にも話の一片を聞いてしまった二人は、後日ハルドラに詳細を教えてほしいと頼みに行っていた。
「キミが噴水に落ちた話も可愛らしくて良かったよ〜」
「えっ、そうなのか?」
「ハ、ハルドラ様」
油断していると呆気なくバラされ、ブレイドからの視線がキツイ。
「……ま」
「それ以上口にしたら」
「口にしたら何だ、戦うか?」
「いや、朝4時に起こしに行ってやる。オレの気まぐれでな」
「健康的でいいね〜」
「地味に嫌だな」
朝が苦手なブレイドからしたらアランの嫌がらせは相当効くらしく、余計な口を閉ざした。
「ブレイドは何をやらかしたんですか?」
「何で俺がやらかした前提なんだよ」
「してないのか?」
「ううん。思いっきりブレイドはやらかしたよ。ホンキで怒ったからね、ボク」
普段は温厚で滅多に怒る事がないハルドラをキレさせた出来事とは一体……。
思い出しただけで憂鬱なのか、ブレイドは頭を抱えた。
「ブレイドはね、一日中猪の群れに追いかけ回されていたんだよ〜。で、その追いかけっこの影響が凄くてね、森が少し荒れちゃったんだよ〜」
なるほど。それは怒るわなとアランは白い目をブレイドに向ける。
「し、仕方ないだろっ。あんなことになるなんて思わなかったし……」
「何か言った……?」
「ナンデモアリマセン」
一気に氷点下まで下がったハルドラのオーラにビビり、思わず片言になっては首を横に振る。
「じゃあ、ボクは行くね」
「ん? 今日何か用事あったか?」
「用事とかじゃないよ。ここから先はキミ達だけで話した方がいいと思ってね」
「……話す事あるか?」
「少しでも話題を作ろうとは思わないのか」
ハルドラは意味深な笑みを浮かべながら退室。
何なんだ……。と困惑する二人の前に、ハルドラと入れ替わりで現れた三つの影。その姿にあっと声がハモる。
「ブレイドッ……‼︎」
こっそりと話を聞いていたレベッカが怒りのあまり、“バーストキャノン”を手にしては炎の力をチャージする。狙いは、自身の話で爆笑していたブレイド。
「まっ、待て待てレベッカ‼︎ 部屋全体燃やす気か⁉︎」
「そこを退いてアラン……! 撃たないと気が済まないのよ……‼︎」
「やるなら外……火炎の大陸でやってくれ! ベルタもヴァニラも立ってないで止めてほしいんだが⁉︎」
「ブレイドが爆笑しているときに飛び出そうとしたレベッカを止めたのは誰だと思っているのだ」
「そうよ。それに兄さんが悪いわ。自業自得よ」
「いやだって面白かったし……。な? アラン」
「貴様ッ……全く反省していないようだな……!」
「煽るんじゃねーよ‼︎ レベッカ本気モードに入ったじゃねーかよ‼︎」
「もういい……このまま撃つッ……‼︎ 【バーストキャノン】!」
ドッガーーーンッ‼︎
「……ふぅ。スッキリした」
黒煙に満ち、焦げ臭い匂いが漂う中で、レベッカは爽やかな笑顔で流れ出る汗を拭った。
「お待たせ、二人共」
「ああ。ハルドラ様に挨拶して行こう」
「早く行きましょ。匂いが酷いわ」
ベルタのスキルによって無傷の三人はさっさと部屋から離れていく。
「……滅多刺しじゃなくて良かったな」
「やっぱりオマエに嫌がらせしに行くわ」