SSまとめ
説明しよう!
“花返しの日”とは、有名な御伽噺『天華の庭園と眠り姫』で登場するアリアーテの誕生日に、恋人でありのちの作者となるフリージアが花を返した日とされる。この事から、男性から女性に花などの贈り物を、花贈りの日のお返しとして渡す習慣が生まれた。何処ぞの世界では“ホワイトデー”とも言われているな!
あと少しで花返しの日を迎えようとしていたある日のこと。“火炎の地”にて討伐依頼をこなしていた『闇黒騎士隊』の二人──テラとバラバスは、共同で討伐に当たっていた。
「お返し……?」
ある程度討伐を終え、余裕が生まれた頃。テラはバラバスの言葉を怪訝そうに繰り返す。
「ああ。お前は何にした」
「レベッカにか?」
バラバスは真剣に頷く。珍しいなと思いつつも、そうだなぁと少し悩んで。
「俺はレベッカに本を贈るつもりだ。好きだからな」
そうか、とバラバスは僅かに目線を落とす。お返しをしたい相手は妹なのだろうが、好きなものをよく知らない様子。まあ、仕方ない。
……ちょっとばかし助言でもするか。
「悩んでるなら花なんてどうだ?」
「花……か?」
「もともとは花を贈り合う日だろ? なら間違いないって」
バラバスは腕を組み、顎に手を添えながら。
「……そうか。助言、感謝する」
「これぐらいどうってない。……それじゃあ、ぼちぼち」
「そうだな。再開しよう」
そして迎えた“花返しの日”当日──。
「お帰り、二人共」
「ただいまっ」
「うん」
呼び出されていたレベッカとヴァニラが拠点に帰って来た。ベルタはコーヒー(ミルク入り)を啜りながら出迎えて。
「アランとブレイドは?」
辺りを見渡した後にレベッカがそうベルタに聞くと、ベルタは首を横に振り、
「まだ戻って来てないぞ」
「長くなりそうね」
これはベルタに、とレベッカが紙袋を渡す。ありがとうと返すも、心当たりがないことに気づく。
「……誰から?」
「ミラクロア様よ。渡しておいてほしいって頼まれたの」
“花贈りの日”にも貰った気がする。自分も何か用意しとけば良かったかな、と紙袋の中に入っていたものを取り出す。
「……花?」
「キレイね。プリザーブフラワーってやつかしら」
四角い箱に納められた小さな花々。綺麗だと思うが、少しだけ違和感。
──何故だろう。何となくミラクロア様じゃない気がする。
「……」
「ベルタ?」
「あ、……すまない。どうかしたか?」
顔を覗き込んできたレベッカは見惚れていたのだと思い、良かったねと微笑む。
「ああ。レベッカの方は?」
「ワタシはアンガ様にお菓子の詰め合わせを貰ったわ。お菓子あげたからってお返しもお菓子なんて単調すぎると思わない?」
「そう言いつつ嬉しそうだが?」
「もう。からかわないでっ」
レベッカが頬を膨らませれば、ベルタはすまないと笑って。そこに席を外していたヴァニラが、二つのマグカップを手にして戻って来た。
「はい。ココアあったから淹れてきた」
「ありがとう」
マグカップを受け取りココアを一口。
「ヴァニラ」
「ん?」
「ジェダル様からは何を貰ったんだ?」
ヴァニラは答えるよりも実物をと思ったのか、マグカップを机に置き、貰った紙袋から一つの瓶を取り出す。
「たぶん飴? だと思う」
瓶に詰められていたのは光に反射して煌めく透明な飴。
「キレイな飴ね」
「“Crystal Drops”と言うお店の商品らしいな。飴専門店らしい」
「好き……なのかな」
「今度聞いてみたらどう?」
「そうする」
にこりと笑い、ヴァニラは瓶の蓋を開けると一粒手に取り、二人にもあげると差し出した。
「ありがとう」
「いただくわね。……ん!」
「美味しいなこれ」
「うん。ひんやりしててちょうどいい甘さ」
コロコロと口の中で飴を転がし味わう。
「アランでも食べれる?」
「食べれるとは思うわ」
「あの二人にもあげるつもりか? ヴァニラが貰ったものなのに……いいのか?」
「みんなで食べた方がおいしい」
瓶の蓋を閉めながら答えるヴァニラに、ベルタは小さく笑みを溢してレベッカと視線を合わせる。
「オイ、ジェダル。テメーなにをお返しに渡したんだ?」
「……“Crystal Drops”の飴だが」
「ハァ!? あの無駄に高い飴を!?」
「何か問題でもあるのか」
「気遅れするだろ! そんなの貰ったら! ……って、今から言ってもおせーけどよ?」
「……」
時同じく。“光明の地”に聳える蜃気楼の塔内。一人上層階へ招かれたアランは、とある部屋の前で深呼吸。二回、ノック音を響かせた。
「失礼します」
ドアノブを捻り、隙間から顔を覗かせた後に扉を開いて中へ。そこに、居ると言われた人物の姿は無く、部屋は無人。
「おかしいな……」
嘘でも言われたか? と下で会ったルシオラの顔を思い出す。いやでも嘘を言っているようには見えなかったし……。
「入りますねー……?」
控えめに言い、扉をパタン。初めて入る部屋を眺めていると、ガタッと物音。続いて、何かが床に落ちる音が聞こえて来た。それは、アランが居る部屋と隣接している扉の先から。
「アルタリア様……?」
と、僅かに開いていた扉を開く。
その部屋は所謂書斎と呼ばれるもので。棚にビッシリと並べられている本に、おおっと声に出さなくとも感動してしまう。
「アラン!? どうしてここにっ……、ルシオラに言われて来たな?」
アルタリアは人一人がやっと通れるぐらいの狭い通路の途中に居り、足元には幾つかの本が。さっきの物音はこれだったようだ。
「すみません。ルシオラ様に、アルタリア様はここにいるとお聞きして……。ご迷惑でしたか?」
「い、いや全然! これから休憩しようと思っていたところだ!」
シュンとしてしまったアランだったが、その言葉に良かったと笑みを浮かべると。己の背中で隠していたとある物をアルタリアの前に。
「“花贈りの日”のお返しです」
差し出されたのは、青い星のように見える花で作られた小さめな花束。
優しくアランの手から花束を受け取ると、ふっと笑みを溢して。
「ありがとう。とても綺麗な花だ」
……本当は、黄色の花束でも良かったのだが。どうしてか青い花を選んでしまった。あの時に渡した花が青色だったから?
見つめられていることに気付いたアルタリアは、意地悪く笑いながら小首を傾げる。
「アラン。そんなに花を持っている我が珍しいか?」
「ち、違います! そうじゃなくて……」
「……?」
顔を明後日の方向に逸らしていたアランだったが、やがて誤魔化すように屈むと本を拾い上げる。
「コレどこに置いときますかぁ!?」
「そ……この棚に……」
「わかりましたぁ!」
照れ隠しか、やたらと声量がでかい。一冊ずつ丁寧に戻していくアランの横顔を見つめ、微笑む。
「……大きくなったな。アラン」
「どうしましたか? 今なにか……」
「単なる独り言だ。それより、時間があるようなら我と一緒にお茶でもしないか?」
「……喜んで。アルタリア様」
「うむ。良い返事だ」
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ホワイトデーもSS。今回初登場した“Crystal Drops”は高級な飴専門店です。どえらく高いです。貴族御用達ですね。
アランがアルタリアに贈ったのは“ブルースター”の花束です。花言葉は「幸福な愛」。結婚式のブーケにも使われているそうです。